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仕事・スキル 介護士の常識 2024/07/01

#介護保険

介護保険の申請方法は?条件や必要なもの・認定を受けられなかった場合の対処法

文/中谷ミホ(介護福祉士、ケアマネジャー、社会福祉士) thumb.jpg

介護職は、介護保険サービスを提供する専門職であり、仕事の専門性を高めるには介護保険に対する理解が必須です。しかし、介護職として働いている方のなかには、「制度の内容が複雑で、理解するのが難しい」と感じている方も多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では、介護保険の基本的な知識として、介護保険の概要や申請方法、申請条件などをわかりやすく解説します。介護保険をきちんと理解すれば、利用者やその家族に対し適切なサポートができるようになるため、これから介護職を目指す方や介護職としてキャリアアップしたい方は、ぜひ参考にしてください。

1.介護保険とは

介護保険は、高齢者の介護にかかる負担を社会全体で支援するための保険制度として、2000年に施行されました。介護保険により、介護が必要な高齢者(要介護者)は、少ない負担で自立した日常生活を送ることができます。

介護保険では、要介護認定を受けた人が事業者から介護サービスを受けた場合、その費用の7〜9割を保険者である市町村と特別区(東京23区)が負担します。要介護認定を受けた人が、介護保険サービスを利用する際の自己負担割合は、原則としてかかった費用の1割です。ただし、一定以上の所得者は2割もしくは3割の負担となります。

なお、介護保険の財源は、被保険者が支払う介護保険料や税金(国・都道府県・市町村の公費)などで賄われています。2022年3月末時点で、介護保険を利用する人(要介護・要支援認定者)は約690万人となっており、介護保険は要介護者やその家族を支える制度として、重要な役割を果たしています。

介護保険がつくられた背景

介護保険制度が導入される前、介護が必要な高齢者を支えていたのは、主に老人福祉制度や医療保険制度によるサービスでした。

しかし、高齢者人口の増加や介護期間の長期化などにより、次第にそれらのサービスだけでは、介護が必要な高齢者を支えきれなくなりました。

<介護保険がつくられた主な背景>

  • 高齢化の進展に伴う高齢者人口の増加
  • 介護期間の長期化
  • 核家族化の進行
  • 介護する家族の高齢化

介護を必要とする要介護者が増えたにもかかわらず、核家族化などの影響で、家族内で介護を行うのが難しくなったこともその一因です。

そのため、高齢者を社会全体で支え合う仕組みづくりが求められるようになり、介護保険制度が創設されました。

措置制度から契約制度へ

介護保険制度が始まる前は、「措置制度」と呼ばれる仕組みでサービスが提供されていたため、利用者が自由にサービスの種類や施設などを選ぶことができませんでした。

また、サービスを提供するのも公的な施設や行政が委託した施設であったため、民間のような競争原理が働かず、サービスの質が向上しにくい一面がありました。

一方、介護保険制度が始まった2000年以降は、「契約制度」のもとでサービスが提供されているため、利用者がサービスの種類や事業者を選んで利用できるようになっています。

加えて、介護事業に民間企業やNPO法人など、多様な事業者が参入できるようになり、介護の世界にも競争原理が持ち込まれました。その結果、利用者の選択肢が広がり、介護サービスの質の向上も図られています。

介護保険の保険者と被保険者

介護保険には、介護保険制度を運営する「保険者」と、介護サービスを受ける「被保険者」がいます。

保険者は、基本的に全国の市町村と特別区(東京23区)ですが、いくつかの市町村が集まった「広域連合」が保険者となるケースもあります。保険者の役割は、次の通りです。

<保険者の主な役割>

  • 被保険者台帳の作成
  • 被保険者証の発行や更新などの事務
  • 介護保険料の徴収
  • 要介護認定
  • 介護保険の給付
  • 介護保険事業計画の策定 など

介護保険の被保険者は、日本国内に住所がある40歳以上のすべての方が対象で、年齢により次の2つの区分に分けられます。

  • 第1号被保険者:市町村内に住民登録のある65歳以上の人
  • 第2号被保険者:市町村内に住民登録のある40歳以上65歳未満の人で、医療保険(健康保険、国民健康保険など)に加入している人

ただし、以下に挙げる人は、介護保険の被保険者になれません。

  • 医療保険に加入していない40歳以上60歳未満の生活保護受給者
  • 障害者支援施設や救護施設などの介護保険適用除外施設に入所・入院している人

生活保護受給者は、第2号被保険者の要件である「医療保険制度への加入」を満たしていないため、被保険者になれません。

介護保険適用除外施設に入所している人が被保険者になれないのは、長期入所により介護サービスを受ける可能性が低いことや、すでにその施設で別の介護サービスを受けていることが理由です。

2.介護保険を申請できる条件とは

介護保険を申請できる条件は、第1号被保険者と第2号被保険者で異なります。以下で確認しましょう。

第1号被保険者

  • 対象者:65歳以上の方
  • 申請の条件:「原因を問わず」介護が必要となったとき

65歳以上の第1号被保険者の場合、要支援状態または要介護状態にあれば、その原因にかかわらず介護保険の申請が可能です。

要支援状態とは、家事や身支度などの日常生活に何らかの支援が必要な状態のこと。要介護状態とは、寝たきりや認知症などにより、常時介護を必要とする状態を指します。

第2号被保険者

  • 対象者:医療保険加入者である40歳以上65歳未満の方
  • 申請の条件:「老化に起因する特定疾病※1」が原因で介護が必要となったとき

40歳以上65歳未満の第2号被保険者が、介護保険を申請できるのは、国が定めた「老化に起因する特定疾病」に該当した場合に限られます。厚生労働省では、以下の16種類を特定疾病として定めています。

<老化に起因する特定疾病>

  • がん(末期)
  • 関節リウマチ
  • 筋萎縮性側索硬化症
  • 後縦靱帯骨化症
  • 骨折を伴う骨粗鬆症
  • 初老期における認知症
  • 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病
  • 脊髄小脳変性症
  • 脊柱管狭窄症
  • 早老症
  • 多系統萎縮症
  • 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症
  • 脳血管疾患
  • 閉塞性動脈硬化症
  • 慢性閉塞性肺疾患
  • 両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

第2号被保険者が介護保険の申請を行う際には、申請書に特定疾病の記載が必要となります。

3.介護保険の申請方法

介護保険の申請は、市町村の役所に設置された介護保険の担当窓口で行います。申請できるのは、被保険者本人もしくは代理人(家族、親族、成年後見人など)です。

本人や家族、親族の申請が難しい場合は、最寄りの地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、民生委員、介護保険施設などに代行してもらえます。

申請は書面だけでなく、マイナンバーを使ってオンラインで行うことも可能です。オンラインの場合は、国が運営するマイナポータル内の「ぴったりサービス」を利用して申請します。

4.介護保険の申請に必要なもの一覧

介護保険の申請に必要なものは、以下の通りです。

  • 要介護(要支援)認定申請書
  • 介護保険被保険者証(65歳以上の第1号被保険者の方)
  • 医療保険の被保険者証(40歳以上65歳未満の第2号被保険者の方)
  • 主治医の情報(主治医の指名、医療機関の名称・住所がわかるもの)
  • 申請者の身元確認書類
  • マイナンバーの確認ができるもの

要介護(要支援)認定申請書

申請書には、申請者、被保険者の氏名や住所、主治医の氏名、医療機関名などを記載する欄があります。

申請書は、地域包括支援センターや市町村の窓口で入手できるほか、市町村のホームページからダウンロードすることも可能です。申請書を自宅で印刷し、必要事項を記載した上で窓口に出向くと、手続きがスムーズに進むでしょう。

介護保険・医療保険の被保険者証

65歳以上の方は、申請書の提出時に介護保険被保険者証が必要です。介護保険被保険者証は、65歳の誕生月に市町村が交付し、自宅に郵送されます。

介護保険被保険者証を紛失した場合は、担当窓口に身分証明書(マイナンバーカードや医療保険証、運転免許証など)を持参すれば、すぐに再交付が可能です。

一方、40歳以上64歳未満の方は、介護保険被保険者証の交付を受けていないため、申請に医療保険の被保険者証が必要となります。

主治医の情報

主治医の情報が必要な理由は、市町村が申請者の主治医のいる医療機関に「主治医意見書の作成」を依頼するためです。

主治医意見書とは、申請者の主治医に、本人の診察の状況や心身の状態、介護に関する意見を確認する書類のことで、要介護度を判定する際の重要な資料となります。

なお、主治医がいない人は、市町村が指定する医師の診察を受けることになります。

介護保険申請から認定までの流れ

介護保険の申請から要介護(要支援)認定までは、以下の6つのステップで行われます。

1. 申請
本人や家族などが、居住している市町村の役所の担当窓口に行き、介護被保険者証(40歳〜65歳未満は医療保険の被保険者証)と申請書を提出します。

2. 認定調査
申請が受理されると、役所の担当者(調査員)が利用者を訪問して、本人と家族に聞き取り調査を行います。

3. 一次判定
一次判定はコンピュータを使った判定です。認定調査の結果である「調査票」をコンピュータに入力し、全国共通の基準で判定します。

4. 審査
介護認定審査会が、一次判定の結果と特記事項、主治医意見書に基づき審査を行います。

5. 二次判定
利用者の心身の状況や家族の状況などに基づいて、介護・支援の必要性とその程度を判定します。

6. 要介護(要支援)認定
介護保険を申請してから、30日以内に市町村が認定結果を郵送で通知します。

認定の結果通知書には、認定結果(介護度)だけでなく理由や認定の有効期間も記載されています。また、認定結果と有効期間が記載された介護保険被保険者証も一緒に送付されます。

「非該当(自立)」と認定された場合は、介護保険のサービスを利用できず、65歳以上の方には、申請時に提出した介護保険被保険者証が返送されます。

5.介護認定を受けられなかった場合の対処法

「日常生活の困りごとを少しでも改善したい」と、介護保険を申請したにもかかわらず、介護認定を受けられず、「非該当(自立)」と認定されてしまうケースがあります。しかし、このようなケースでは、認定結果に納得できない人も少なくありません。

以下に、介護認定を受けられなかった場合の2つの対処法を紹介しておきます。

対処法1:不服申し立て(審査請求)を行う

「非該当(自立)」の認定に納得できない場合は、まず市町村の役所窓口に出向き、非該当の結果に至った経緯を聞きましょう。説明を受けても納得できない場合は、介護保険第183条の規定に基づき、都道府県に設置されている介護保険審査会に「不服申し立て(審査請求)」を行えます。

介護保険審査会とは、保険者である市町村が行った要介護認定や介護保険料の徴収などに対する不服申し立てについて、審査・決済を行う第三者機関です。

ただし、不服申し立ては、認定の結果通知書を受け取ってから90日以内に行わなければなりません。期限を過ぎると受理されないため、注意が必要です。また、自治体によっては、審査結果が出るまでに数か月かかることもあります。

対処法2:再申請を行う

もう1つの対処法として、再申請を行う方法が挙げられます。

これは、「非該当(自立)」と判定された方が、「心身の状態と一致していない」と思える場合に、要介護認定の再調査を申請する方法です。再申請の手続きは、介護保険の新規申請と同じ流れになるので、1か月程度で認定結果が出ます。とはいえ、再申請を行っても、希望の介護度に認定される保証はありません。

なお、「非該当(自立)」と判定された場合でも、市町村が行う「介護予防・日常生活支援総合事業」によるサービスを利用できる場合があります。事業の名称や、受けられるサービスの種類は市町村によって異なるため、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。

まとめ

介護保険を利用するには、保険者である市町村への申請が必要です。ただし、「65歳以上の第1号被保険者」と「40歳以上65歳未満の第2号被保険者」では、申請できる条件が異なります。第1号被保険者は、原因を問わず介護が必要な場合に介護保険を申請できますが、第2号被保険者は、国が定めた「特定疾病」が原因で介護が必要となった場合に限られます。

介護保険を申請すると、認定調査や判定を経て30日以内に結果が通知されます。認定結果に納得できない場合は、不服申し立てや再申請を行うことも可能ですが、再申請を行っても希望の介護度に認定されるとは限りません。

ただし、「非該当(自立)」と判定された場合でも、市町村が行う「介護予防・日常生活支援総合事業」のサービスを利用できる場合があります。

このように、介護保険は介護が必要な高齢者の生活を支える大切な制度です。介護職は介護保険サービスにかかわる専門職として、介護保険の概要や申請方法、申請条件などの基本的な知識をしっかりと理解しておきましょう。

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中谷ミホ

介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士

福祉系短大を卒業後、介護職員、相談員、ケアマネジャーとして、障害者支援施設、介護老人保健施設などの介護現場で活躍。現在は介護業界での経験を生かしながら、ライターとして活動しており、介護・福祉に関わる記事を数多く手がける。保育士、福祉住環境コーディネーター3級も取得。

中谷ミホの執筆・監修記事

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