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仕事・スキル 介護施設・職場 2023/04/25

#認知症

バリデーション療法とは?認知症の方と接する姿勢やテクニックも

構成・文/介護のみらいラボ編集部 監修/渡辺有紀 thumbnail.jpg

高齢化が進む現在、日本では認知症の患者数が増加しており、認知症ケアの重要性も年々高まっています。そうしたなか、認知症の患者さんとコミュニケーションを取るための方法として、介護現場や認知症ケアの現場で注目されているのが「バリデーション療法」です。バリデーション療法とは、簡単に言うと「傾聴と共感によって症状改善や尊厳回復を目指すコミュニケーション技法」のことですが、「具体的にどのようなケア方法なのか知らない」という方も多いかもしれません。

当記事では、バリデーション療法の目的と効果、5つの基本態度、14のテクニックについて解説します。認知症の患者さんだけでなく、介護職の方にもメリットがある技法なので、介護業界で働く方はぜひご一読ください。

1.バリデーション療法とは?

バリデーション療法とは、認知症に効果的として世界中で評価されているコミュニケーション方法です。1963年にアメリカのソーシャルワーカー、ナオミ・フェイルによって考案されました。認知症に対するアプローチには、薬物療法に加えて非薬物療法がありますが、バリデーション療法は非薬物療法に含まれます。

非薬物療法は、認知症の進行予防に対するエビデンスが乏しいものの、近年は認知機能の改善や、QOL(生活の質)の向上のために薬物療法と組み合わせて行うケースが増えています。また、バリデーション療法は、回想法や運動療法など他の技法と合わせて、複合的に取り組まれることが多いケア方法でもあります。

(出典:日本老年医学会雑誌第57巻第1号「5.認知症に対する非薬物的療法とその エビデンス」

バリデーション療法の目的

認知症の高齢者に対しては、ご本人があまり感情的にならないよう配慮し、穏やかに過ごしてもらおうとする考え方もありますが、バリデーション療法では、「感情表出」を促すことを重視しています。

つまり、悲しみや怒り、恐れ、不安といったマイナスの感情を外に出してもらい、きちんと共感することでコミュニケーションを図ろうとするのが、バリデーション療法のアプローチ方法なのです。

その目的は、ご本人の人生における未解決の課題(やり残しや思い残し、過去に負った心の傷、大切な人との別れなど)に対する取り組みを支援すること。大きな喪失感を抱えた認知症の方の苦しい気持ちに理解を示し、支援することで、人生の意味や存在価値を確認できるように手助けするのです。

そして、バリデーション療法によって喪失感を埋めることができれば、さまざまな効果が期待できます。

バリデーション療法の効果

ここでは、バリデーション療法において期待される効果について解説します。

バリデーション療法の効果

・ストレスや不安が軽減される
BPSD(行動・心理症状)が緩和される。
・自尊心が回復し、生きる希望が持てるようになる
・他者との交流を図れるようになる


感情をあらわにすると、自身の中でくすぶっていた気持ちが整理されます。また、感情を周囲の人に受け止めてもらうことは、自信や尊厳の回復などにもつながります。

なお、バリデーション療法による効果が期待できるのは、認知症の方だけではありません。バリデーション療法は、お世話をするご家族や介護職員にも大きな効果をもたらすとされています。例えば、認知症の方の言動に共感、理解することは、お互いの信頼関係を深めることにつながります。信頼関係が深まれば、ご家族のフラストレーションが緩和されたり、介護職員が自分の仕事に自信が持てるようになったりもするでしょう。

2.バリデーション療法における5つの基本態度

バリデーション療法を行う際、5つの基本態度を押さえておくと、認知症の方の心に負担をかけずにコミュニケーションを図ることができます。認知症の方と接する際は、常に基本態度を意識した対話を心がけましょう。

5つの基本態度

傾聴する 傾聴とは、言葉の奥にある気持ちをくみ取りながら話を聞くことです。相手の訴えを聞き流したりせず、質問も交えながら積極的に理解に努めましょう。
共感する 相手の表情や姿勢、呼吸のペースなど、感情が表れている部分を観察し、同調させていきます。
誘導しない バリデーション療法では、行動を催促したり、矯正したりはしません。介護者の要望を押し付けるのではなく、介護者の側が認知症の方のペースに合わせましょう。
受容する 相手の言動を否定したり、無理に感情を抑え込もうとしたりせず、ありのままを受け入れます。
うそをつかない・ごまかさない うそをついたりごまかしたりせず、相手に真摯に向き合って信頼性を高めることが大切です。その場しのぎの言葉は逆効果になる可能性があるので注意しましょう。

(参考:「バリデーションへの誘い―認知症と共に生きるお年寄りから学ぶこと」都村尚子/全国コミュニティライフサポートセンター)

いずれの基本態度も、相手の言動や感情を否定せず、理解する姿勢を示すことがポイントです。

3.バリデーション療法を実践する14のテクニック

バリデーション療法を実践する時には、14のテクニックが使われます。各テクニックを利用した話し方や身振りができれば、認知症の方と円滑なコミュニケーションが図れるでしょう。

1 センタリング センタリングとは、介護者自身の精神を集中させることです。介護者の中に怒りなどのマイナスな気持ちがあると、相手に気を配る余裕がなくなるため、深呼吸などで自分の気持ちを静めるようにしましょう。
2 オープンクエスチョン 「はい」「いいえ」で答える質問ではなく、「いつ」「どこで」「何を」「誰が」「どのように」を尋ねる、オープンクエスチョンを多用するテクニックです。答えの自由度が高いため、相手の思いをより深く知ることができます。ただし、「なぜ」という質問は認知症の方にとって答えるのが難しいため、避けたほうが無難でしょう。
3 リフレージング リフレージングとは、相手が発した言葉の中でも特に重要な言葉を反復すること。反復する時は、声の大きさやトーン、話すスピードを相手に合わせることが大事です。正しく反復すれば、相手は自分の思いがきちんと伝わっていると認識し、安心感につながります。
4 極端な表現を使う 「最低」「最高」「これまでで一番」など、極端な表現で質問することで、認知症の方は感情を表しやすくなります。例えば、「食事がまずい」と言われた時は「今まで経験した中で最悪でしたか?」などと問いかけます。
5 反対のことを想像する 反対のことを想像させるような質問をすれば、過去の経験や思い出から対処法を導き出せるケースがあります。例えば、「誰かにものを盗まれた」と言われた時は、「盗まれていないものはありますか?」のような問いかけをしてみましょう。
6 レミニシング レミニシングとは、過去について質問して思い出話を引き出すことです。繰り返し語られる思い出話には、本人の価値観や心残りになっていることが隠れているケースが少なくありません。それを知ることで、未解決の課題を解決する手助けができるでしょう。
7 曖昧な表現を使う 「それはどのような感じですか?」「それは楽しいですか?」など曖昧な表現を使うと、相手が何を言っているのか分からなかった場合でも、会話を続けることができます。
8 好きな感覚を用いる 視覚や嗅覚、触覚など、相手が好きな感覚を見つけて、その感覚を連想する言葉で会話をします。「きれいな色ですね」「いい匂いですね」「ふわふわですね」などの表現がその一例です。
9 アイコンタクト アイコンタクトでは、相手の真正面に座り、同じ目の高さで見つめましょう。そうすることが、「あなたを受け止めます」というメッセージを送ることにつながります。
10 はっきりとした低い声で、優しく話す 高齢者は高音が聞き取りにくい傾向にあるため、低い声ではっきりと、優しく話をしましょう。落ち着いて話すことで、相手に安心感を与えられます。
11 タッチング タッチングとは、両手で頬を包み込んだり、肩に手を置いたりして、相手の感情に寄り添い、安心感を与える方法です。ただし、触られることに拒否反応を示す仕草が見られた場合は、すぐに中断しましょう。
12 音楽を使う 相手が好きな曲や思い出の曲を、一緒に歌ったり聴いたりすることでコミュニケーションを取るテクニックです。過去を思い出すことで、気持ちを落ち着かせる効果が期待できます。
13 ミラーリング 自分が鏡になったつもりで認知症の方と向き合い、相手の言葉や表情、声の大きさ、仕草などをまねる技法です。これを使うことで、感情を共有する効果が期待できます。ただし、認知症の初期段階の方にミラーリングを行うと、馬鹿にされていると思われる恐れがあるので注意しましょう。
14 満たされていない人間的欲求と言動を結びつける 認知症の方の問題行動には、「感情を発散したい」「人の役に立ちたい」「愛されたい」という人間的欲求が隠されていることがあります。どの欲求に当てはまるかを考えつつ、なぜその言動をしたかの理解に努めましょう。

(参考:「バリデーションへの誘い―認知症と共に生きるお年寄りから学ぶこと」都村尚子/全国コミュニティライフサポートセンター)

バリデーション療法では、正面から認知症の方と向き合い、相手の感情や欲求を理解して寄り添うことが大切です。場面ごとに最適なテクニックを使い分け、コミュニケーションに役立てましょう。

まとめ

バリデーション療法では、大きな喪失感を抱えた認知症の方の気持ちに寄り添い、支援することで、人生の意味や存在価値を確認できるように手助けします。また、バリデーション療法を行うことで、ストレスや不安の軽減や自尊心回復、他者との交流の促進といった、プラスの効果が期待できます。基本態度やテクニックを押さえながら、介護現場で役立ててください。

「介護のみらいラボ」では、バリデーション療法以外にも介護の現場で役立つ情報を多数掲載しています。介護の知識をもっと深めたい、スキルを磨きたいと考えている方は、ぜひ「介護のみらいラボ」を参考にしてください。

※当記事は2022年8月時点の情報をもとに作成しています

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渡辺有紀(Yuki Watanabe)

社会福祉士・精神保健福祉士/ライター

1978年生まれ。大学卒業後、アパレル、商業ライターを経験。結婚出産を経て資格取得後、福祉業界へと転身する。社会福祉協議会の地域包括支援センター社会福祉士、CSWを経て、現在はフリーランスソーシャルワーカーとして活動中。SSW、認定NPO法人相談員など複数の相談援助業務に携わる。

渡辺有紀の執筆・監修記事

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