Produce by マイナビ介護職 マイナビ介護職

介護の未来ラボ -根を張って未来へ伸びる-

仕事・スキル 介護施設・職場 2023/07/07

買い物でリハビリ!スーパーマーケット内の介護予防デイサービス「さんえすPLUS」の取り組み|気になるあの介護施設

取材・文/タケウチ ノゾミ(イージーゴー) thumbnail.jpg

愛知県岩倉市にあるデイサービス「さんえすPLUS」は、買い物によるリハビリを行う介護予防デイサービスです。施設はスーパーマーケットの「ピアゴ八剱店」内にあり、利用者さんは施設で簡単な運動をした後に、スーパーで買い物をしてから帰宅します。その珍しい取り組みについて、「さんえすPLUS」の代表 野村由治氏に話を聞いてみました。

1.「さんえすPLUS」ってどんなところ?

――まずは、「さんえすPLUS」の施設紹介をお願いいたします。

愛知県岩倉市にある介護予防デイサービスです。"買い物リハビリデイサービス"という名前の通り、「買い物リハビリ」を行うことが特徴の、新しい形の介護予防デイサービスです。買い物という生活に欠かせない行為を、年齢を理由に諦めて欲しくないとの思いから運営しています。利用者さんが来所してから帰宅するまでの時間は、およそ2時間30分。来所後は理学療法士考案の体操や運動に取り組み、その後動きやすくなった身体で買い物を楽しんでいただいています。

1回の定員は午前と午後それぞれ5名ずつで、現在は女性の利用者さんのみが通われています。年代は60代から90代の方まで幅広く、平均年齢は84〜85歳くらいです。当施設は介護予防・日常生活支援総合事業のため比較的自立度の高い方が多い傾向にあり、2023年5月現在は、要支援1と要支援2の方が6割。事業対象の方(要介護・要支援となるリスクが高いと判定された高齢者)が4割いらっしゃいます。

2.来所後の流れ

――利用者さんはどのように買い物をするのでしょうか。来所後の流れを詳しく教えてください。

デイサービス到着後は、バイタルチェックをした後に、理学療法士が考案した体操や運動に取り組んでいただきます。全員で取り組む体操のほか、マシンを使った個別の運動もあります。歩行に必要な下肢筋力を鍛えるエアロバイクや、荷物を持って歩くために必要な上肢の動きを改善するプーリーなどのマシンを用意しており、転倒しづらい身体作りに力を入れています。その後は休憩をして、施設に直結しているスーパーへ買い物に行きます。お手伝いが必要な方の場合は、スタッフが付き添って買い物をサポートするようにしています。買い物が終わった後はまた休憩をして、買い物をした荷物と一緒にご自宅まで送迎車でお送りします。

ただ、必ずしもこの流れの通りに進む訳ではありません。買い物は全員一緒ではなくバラバラに行くケースも多いです。特にあまり運動が得意ではない方の場合は、どうしても運動が早く終わってしまい、他の方が運動している間にすることがなくなってしまいます。そういった場合は、先に買い物に行っていただき、しっかりと運動をしたい方と時間をずらすなどの工夫をしています。

買い物前に運動に取り組む利用者さん

買い物前に運動に取り組む利用者さん

3.買い物ができるデイサービスができたきっかけ

――なぜ買い物ができるデイサービスを作ろうと思われたのでしょうか。設立の経緯を教えてください。

同じ岩倉市にある系列の介護施設「デイサービスセンターさんえす」にて、デイサービスで必要な洗剤やティッシュなどの備品の買い出しに、利用者さんと一緒に行ったことがきっかけです。このデイサービスは自立支援に特化しているので、買い物に一緒に行ってもらえば良い効果が生まれるのではと思い、利用者さんを誘うことにしました。すると普段はリハビリや運動を嫌がる利用者さんが、スーパーではびっくりするほど歩いたのです。また「あそこに〇〇が売ってるよ」「あちらの商品の方が安いよ」など会話も弾み、普段では考えられないくらい活動的になる方が大変多く見られました。このような利用者さんにお話を聞くと、「家庭内で買い物にいくのはいつも自分だったけれど、身体が不自由になって行けなくなってしまった」「ヘルパーさんに買い物を頼むけれど、いつも同じ品しか頼めなくてつまらない。本当は自分の目で商品を見て買い物をしたい」といった意見が多く寄せられました。

この出来事から、自ら進んで歩いていただけるのであれば、買い物は最も理想的なリハビリなのではないかと考えたのです。また「高齢者の方が自分の目で商品を見て買い物ができるようにしたい」「買い物という活動だけをピックアップしたデイサービスを作りたい」という考えに至り、買い物リハビリデイサービスを作ることにしました。

4.立ち上げ時に大変だったこと

――特殊なデイサービスですので、立ち上げの際には苦労もあったのではないでしょうか。

確かに、買い物リハビリデイサービスを作ることは楽ではありませんでした。そもそも買い物は消費活動に当たるので、介護保険のサービス提供中に行うことが原則としてできないのです。ですが諦めたくなかったので、ただの消費活動ではなくてリハビリである点や、買い物にどのようなリハビリ効果があるのかといった点について、岩倉市の介護保険の担当者にプレゼンをすることにしました。こうして市の担当者とやり取りを重ねた結果、最終的に岩倉市からのOKが出て、開設に至りました。

――スーパーマーケットの中に施設があるのも珍しい点かと思いますが、テナント入居はすんなりと決まりましたか。

スーパーマーケットの敷地内に施設を作ることも、苦労した点の一つです。買い物リハビリデイサービスは他にもいくつかあるとは言え、誰もが知っている施設ではありません。そのため、利用者さんのご家族やケアマネジャーにとってインパクトが強く分かりやすい施設にしたいとの思いから、スーパーの中に施設を作りたいと考えていました。そこで岩倉市内で買い物ができるお店を探したところ、現在施設がある「ピアゴ八剱店」内に空きテナントを見つけたので、ぜひ借りたいと相談したのです。

ただここも簡単にはいきませんでした。介護施設がスーパーに入った前例がない点や、他のお客様に迷惑がかかりそうといった点を考えると、少し難しいというご意見だったのです。そこで担当者の方々に対し、「さんえすPLUS」は介護施設ではなく介護予防の施設である点や、利用者さんは普段買い物に来ている買い物客の方と同じであることを丁寧に説明した結果、テナントとして入居できることになりました。岩倉市もスーパーマーケットでも、買い物リハビリデイサービスの概要を分かっていただくまでには時間がかかりましたが、最終的には理解を示していただき、本当にありがたいなと感じています。

取材・文/タケウチ ノゾミ 編集/イージーゴー

【日本全国電話・メール・WEB相談OK】介護職の無料転職サポートに申し込む

最新コラムなどをいち早くお届け!
公式LINEを友だちに追加する

お役立ち情報を配信中!
X(旧Twitter)公式アカウントをフォローする

介護職向けニュースを日々配信中!
公式Facebookをチェックする

SNSシェア

タケウチ ノゾミ(Nozomi Takeuchi)

ライター・編集者

福岡市在住のフリーライター・編集者。介護、医療、ビジネスを中心に幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は観劇と美術鑑賞、猫を揉むこと。

タケウチ ノゾミの執筆・監修記事

EGGO(イージーゴー)

イージーゴーは東京・九州を拠点にWEBコンテンツ、紙媒体、動画等の企画制作を行う編集制作事務所です。ライターコミュニティ「ライター研究所」も運営しています。

EGGOの執筆・監修記事

介護の仕事・スキルの関連記事

  • 介護士の常識

    2024/04/17

  • 利用者さんが亡くなったときのご家族への言葉のかけ方の基本と実例

  • 文/中村 楓(介護支援専門員・介護福祉士・介護コラムニスト)
  • 介護士の常識

    2024/04/16

  • 2024(令和6)年度介護報酬改定|処遇改善・職場環境の改善など徹底解説!

  • 文/福田明(松本短期大学介護福祉学科教授)
  • 介護士の常識

    2024/04/14

  • 共感疲労とは?介護職におすすめの対策方法5選も

  • 構成・文/介護のみらいラボ編集部 監修/赤羽克子
もっと見る