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仕事・スキル 介護施設・職場 2025/03/13

#インタビュー

0〜3歳の赤ちゃんが働く老人ホームとは!?「銀杏庵 穴生倶楽部」における赤ちゃん職員の取り組み|気になるあの介護施設

取材・文/タケウチノゾミ 編集/イージーゴー iv2503_03thumb.jpg

福岡県北九州市にある特別養護老人ホーム「銀杏庵 穴生倶楽部」では、0〜3歳の赤ちゃんを赤ちゃん職員として採用しています。仕事内容は、施設内を保護者と一緒に散歩すること。赤ちゃんと入居者さんが交流することで、お互いに刺激を生む取り組みです。赤ちゃん職員の概要や採用条件について、社会福祉法人もやい聖友会の理事長 権頭喜美惠氏に話を聞いてみました。

1.銀杏庵 穴生倶楽部(いちょうあん あのおくらぶ)はどんな施設?

ーー「銀杏庵 穴生倶楽部(いちょうあん あのおくらぶ)」の施設紹介をお願いいたします。

福岡県北九州市に位置する広域型の特別養護老人ホームです。2024年現在は、60代後半から最高齢103歳まで、100名ほどの方が入居されています。ショートステイやカフェなどが集まる複合施設内に位置していることが特徴で、敷地内にて定期的にマルシェを開催するなど、建物全体が子どもから高齢者まで幅広い世代の方が集まるコミュニティの拠点となっています。今回ご紹介する「赤ちゃん職員」も、そのような多世代の交流の一環として実施しています。

2.赤ちゃん職員は、0歳から3歳までの赤ちゃん

ーー「赤ちゃん職員」とは、一体どのような職員なのでしょうか。

赤ちゃん職員は、0歳から3歳までの赤ちゃんを対象とした取り組みです。主な仕事は施設内のお散歩で、入居者さんが生活しているユニットや食堂などの場所にて、保護者の方と一緒に自由にお過ごしいただいています。給与は紙オムツまたは粉ミルクと保護者の飲み物券で、飲み物券は施設1階にあるカフェにて使用できます。また、福利厚生として、6回出勤すると「おひるねアート」と呼ばれる赤ちゃんの写真を撮影できるチケットが支給されるほか、施設内にはベビーベッドや休憩室、授乳室、オムツ替えコーナーなどを完備しています。

「おひるねアート」は季節の要素を取り入れた写真が撮れると人気

「おひるねアート」は季節の要素を取り入れた写真が撮れると人気

3.赤ちゃん職員の雇用条件は?

ーー給与や福利厚生も用意されているとは驚きです。出勤時間や応募条件に決まりはあるのでしょうか。

「職員」と言うと出勤時間等の決まりがあるように感じるかもしれませんが、出勤時間や休憩時間に関する規定は特になく、赤ちゃんの機嫌や保護者の都合が良ければ、出勤する曜日や時間は問いません。月・火・木・金曜日の10時から16時の間であればいつでも出勤できます。皆さん出勤されると、施設内でのお散歩やカフェなどでの休憩時間を含めて、1時間ほど滞在されることが多いですね。

ただし、赤ちゃん職員には雇用条件が定められており、応募できるのは3歳以下かつ日本語での会話がうまくできない赤ちゃんである必要があります。そのため、3歳に到達していなくても、上手にお話できるようになった場合は早期退職していただく仕組みとなっています。なお、赤ちゃん職員の雇用時は面接を行い、仕事の説明をしたうえで、雇用契約書をお渡しして契約を結んでいます。2024年現在は100名弱の赤ちゃんにご登録いただいていますが、3歳を過ぎた方も含まれているため、そのうち活動できるのは40名弱の状態です。

ーー赤ちゃん職員の皆さんは、出勤時はどのように過ごされているのですか。施設での様子をお聞かせください。

基本的には保護者に抱っこされたり、支えられたりしながら、入居者さんから見える場所に滞在してもらっています。もちろん入居者さんと触れ合うこともありますが、赤ちゃんや保護者の負担になってしまう可能性があるため、施設側から交流の強制はしません。ただ、赤ちゃんが施設に慣れてくると、自分から入居者さんに近寄っていくことも多いと感じています。基本的には、お互いが同じ場所で過ごすうちに段々仲良くなるといった、自然の流れの中での交流を重視していますね。

赤ちゃん職員の雇用条件を「会話がうまくできないこと」としている理由は、言語でのコミュニケーションではなく、非言語でのコミュニケーションを重視しているためです。入居者さんと赤ちゃんにはかなりな年齢差がありますが、生活のうえで必ず介護や介助が必要であることや、うまく話せないことを考えると、同じような状態と言えるのではないでしょうか。入居者さんに抱っこしてもらったり、おもちゃで遊んでもらったりしている赤ちゃんの様子を見ていると、会話はできなくても、心と心で通じるものがあるように感じています。

利用者さんと交流する赤ちゃん職員の様子

利用者さんと交流する赤ちゃん職員の様子

4.取り組みを続けるための工夫

ーー赤ちゃん職員の取り組みを続けるうえで、工夫していることがあれば教えてください。

2ヶ月に一度「赤ちゃん職員交流会」を実施することです。赤ちゃん職員の取り組みは、赤ちゃんと入居者さんがお互いに良い刺激を受けるだけでなく、保護者同士の交流の場にもなればとの考えから継続しています。しかし、赤ちゃん職員の出勤時間や曜日には明確な決まりがないため、出勤してもなかなか他の保護者に会えないケースも多いのが現状です。

そこで、「せっかく出勤していただくのであれば、保護者の横の繋がりも増えていって欲しい」との考えから、2ヶ月に一度交流会を実施することにしました。交流会では、保護者同士がお喋りをする機会を提供するだけでなく、ベビーマッサージ教室やリトミック教室などの赤ちゃん向けの教室も開催しています。同じ年頃の子どもを持つ保護者が集まることで、育児に関するお悩みの解決はもちろん、息抜きの場にもなればと考えています。

交流会には、毎回多くの保護者と赤ちゃん職員が参加している

交流会には、毎回多くの保護者と赤ちゃん職員が参加している

5.応募のきっかけは大きく2パターン

ーー赤ちゃん職員は珍しい取り組みだと思いますが、どのようなきっかけで応募する保護者が多いのでしょうか。

大きく2つのパターンがあると感じています。1つ目は、当施設と同じ建物内にあるレンタルスペースにて、赤ちゃん職員のポスターを見てご応募くださるパターンです。レンタルスペースでは、地域の方々によるリトミック教室や体操教室など様々なサークル活動が行われており、そのようなサークルの一環として「おひるねアート」も開催されています。おひるねアートとは、寝転がった赤ちゃんの周囲に小物を並べた状態で撮影するアート写真のことで、子どもの成長の様子をかわいく記録できると大変な人気を集めています。そこで、同サークルの開催場所に赤ちゃん職員のポスターを貼ってみたところ、たくさんの方にご応募いただけるようになりました。

2つ目は、テレビなどのメディアを見て、取り組みに興味を持っていただいたパターンです。数年前に地方版と全国版のテレビ番組で赤ちゃん職員について取り上げていただく機会があり、これらの放送は、当施設の取り組みについて全国の方に知っていただくきっかけとなりました。実際に赤ちゃん職員に応募してくださった保護者のなかには、「千葉に住んでいる母から『テレビで面白い取り組みをやっていたので、近そうだし応募してみてはどうか』と勧められたので来ました」とおっしゃる方もいて、メディアの影響力の大きさを実感しています。

6.入居者やご家族からの反応は?

ーー赤ちゃん職員について、入居者さんやご家族からの反応はいかがですか。

とても前向きな反応をいただくことが多く、嬉しく感じています。以前、ある入居者さんのご家族が面会に訪れた際に、赤ちゃん職員が側を通ったことがありました。すると、その入居者さんは満面の笑みを浮かべながら、とても優しく赤ちゃんに声をかけたのです。その一部始終を目撃したご家族は大変驚かれ、「こんなに穏やかな顔は見たことがない。おばあちゃんが別人に変身してしまったようだ」とおっしゃったことがありました。また、お散歩中に赤ちゃんがぐずってしまった際に、入居者さんが「赤ちゃんは泣いても何をしてもかわいいね」と声をかけたことで、赤ちゃんを連れていたお母さんがぽろっと涙をこぼされたこともあります。赤ちゃんと保護者、入居者さんの全てにおいて良い交流になればと考えています。

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タケウチ ノゾミ(Nozomi Takeuchi)

ライター・編集者

福岡市在住のフリーライター・編集者。介護、医療、ビジネスを中心に幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は観劇と美術鑑賞、猫を揉むこと。

タケウチ ノゾミの執筆・監修記事

EGGO(イージーゴー)

イージーゴーは東京・九州を拠点にWEBコンテンツ、紙媒体、動画等の企画制作を行う編集制作事務所です。ライターコミュニティ「ライター研究所」も運営しています。

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