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仕事・スキル 介護施設・職場 2025/03/19

#インタビュー

老人ホームに0〜3歳の赤ちゃんを採用している理由は?「銀杏庵 穴生倶楽部」における赤ちゃん職員の実施背景|気になるあの介護施設

取材・文/タケウチノゾミ 編集/イージーゴー iv2503_04thumb.jpg

福岡県北九州市にある特別養護老人ホーム「銀杏庵穴生倶楽部」では、0〜3歳の赤ちゃんを赤ちゃん職員として採用しています。仕事内容は、施設内を保護者と一緒に散歩すること。赤ちゃんと入居者さんが交流することで、お互いに刺激を生む取り組みです。赤ちゃん職員の採用を始めたきっかけや保護者からの反応について、社会福祉法人もやい聖友会の理事長、権頭喜美惠氏に話を聞いてみました。

1.赤ちゃん職員の採用を始めたきっかけ

ーー赤ちゃん職員の採用を始めたきっかけを教えてください。

大きなきっかけは、赤ちゃんを目にした利用者さんの反応がとても良かったことです。少し前の話になりますが、2020年の夏頃に私の娘が出産し、その赤ちゃんを当施設に連れてきたことがありました。すると、赤ちゃんを見た入居者さんは非常に喜び、離れた場所から車椅子を押して自ら赤ちゃんに近寄る方や、涙を流す方までいらっしゃったのです。そこで、入居者さんと赤ちゃんが継続して交流できる機会を設けられないかと考え、赤ちゃん職員の取り組みを思いつきました。また、この取り組みを検討し始めた2020年の夏頃はちょうど新型コロナウイルスが流行し始め、感染症対策により母親学級が閉鎖になるなど、親同士が繋がる場所がほとんどなくなってしまった時期でもありました。そこで、心細く感じている保護者が交流できる場所にもなればと感じ、赤ちゃん職員の取り組みをスタートさせることにしたのです。

さらに、訪問診療医である夫から、寝たきりのおばあさんと赤ちゃんについての話を聞いたこともきっかけの一つです。ある日、そのおばあさんの家にお孫さんが生まれ、寝たきりのおばあさんと赤ちゃんを同じ部屋に寝かせていたそうです。すると、赤ちゃんが泣く度に、認知症で話すことも難しいおばあさんが赤ちゃんをなだめるような優しい声を出すようになりました。そして、赤ちゃんが成長して部屋の中をハイハイするようになっても、赤ちゃんがおばあさんに近寄る度に、同じように優しい声を出してあやしていたのです。残念ながら、赤ちゃんが少し喋れるようになった頃におばあさんは亡くなられましたが、お孫さんの存在が良い刺激となり、長生きされたのではないかと感じています。赤ちゃん職員と入居者さんとの触れ合いが、このような良い刺激に繋がることを期待しています。

「利用者さんとは非言語の交流を大切にしている」と権頭氏

「利用者さんとは非言語の交流を大切にしている」と権頭氏

2.保護者にどう声をかけるべきかと頭を悩ませることも

ーー赤ちゃん職員の取り組みを続けるなかで、大変だったことはありますか。

保護者との関わり方については、少し難しい部分もあると感じています。赤ちゃん職員の保護者のなかには、子育てが初めての方や、ご家族の転勤によりお一人で子育てを頑張っている方もたくさんいらっしゃいます。子育てについてお悩みなのではと感じる方もお見かけしますが、助言を求められていないのに行き過ぎたアドバイスをするのも良くないと思い、どんな風に声をかけるべきかと頭を悩ませることもあります。2ヶ月に一度、保護者同士の交流促進のために開催している「赤ちゃん職員交流会」が不安の解消や情報共有の場になればと考え、最近はイライラしない子育てについての勉強会なども実施しています。

3.赤ちゃん職員の採用による効果は?

ーー赤ちゃん職員の採用による効果はいかがですか。保護者からの反応についてもお聞かせください。

保護者の方々からは、「転勤で誰も知り合いがいない北九州に来たので、友達ができてありがたかったです」といったご意見や、「自分の祖父母に会うことはなかなかできないけれど、こうして祖父母と同年代の方と仲良くなれたことをとても嬉しく感じています」などのお声をいただいています。また、保護者のなかには、施設の一階にあるカフェの利用を楽しみにしている方も多いようです。小さな赤ちゃんを連れて出入りできる飲食店や施設は限られてしまうため、ゆっくりランチをしたり、保護者同士でお喋りをしたりすることを目的として、遠方から通ってくる方も多い傾向にあります。赤ちゃん職員の取り組みが保護者にとっての息抜きにもなれば嬉しいです。

交流会は子育ての悩みを相談し合う場にもなっている

交流会は子育ての悩みを相談し合う場にもなっている

4.今後も次の世代を育てていける場を提供できれば

ーー赤ちゃん職員や多世代交流について、展望をお聞かせください。

高齢者施設では「その人らしい生活の維持・継続」を掲げているところが数多く見られる一方で、多くの施設では多世代との交流が欠落していると感じています。わざわざ交流の機会を設ける必要はないと思いますが、常に様々な世代の人の声が聞こえたり、目にしたりできることは、人間らしい生活を送るうえで重要な要素なのではないでしょうか。当施設では、入居者の方々に「生きていて良かった」という感覚を持っていただくためにも、幅広い世代を対象としたマルシェなどの、多世代が交わる取り組みを多数実施しています。赤ちゃん職員の勤務経験があるお子さんが、成長した後もずっと通い続けてくださる施設を目指して、今後も次の世代を育てていける場を提供できればと考えています。

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タケウチ ノゾミ(Nozomi Takeuchi)

ライター・編集者

福岡市在住のフリーライター・編集者。介護、医療、ビジネスを中心に幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は観劇と美術鑑賞、猫を揉むこと。

タケウチ ノゾミの執筆・監修記事

EGGO(イージーゴー)

イージーゴーは東京・九州を拠点にWEBコンテンツ、紙媒体、動画等の企画制作を行う編集制作事務所です。ライターコミュニティ「ライター研究所」も運営しています。

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