作業療法士が開設したリハビリ・入浴専門の半日デイとは?「リハビリ・入浴専門デイサービス セラケア」の設立背景|気になるあの介護施設
取材・文/タケウチノゾミ 編集/イージーゴー
福井県坂井市にある「リハビリ・入浴専門デイサービス セラケア」は、半日型としては珍しい、リハビリと入浴の両方のサービスを提供しているデイサービスです。同施設の特徴は、利用者さん自身が通いたいと思う施設をコンセプトに、細部にまで工夫を凝らしていること。通所のハードルを徹底的に下げることで、これまでデイサービスに否定的だった利用者さんからも多くの人気を集めています。セラケア代表の西拓真氏に、設立背景や運営面で心がけていることについて聞いてみました。
ーー「リハビリ・入浴専門デイサービス セラケア」を開設しようと思ったきっかけを教えてください。
「介護の現場をどうにかして改善するには、自分が動くしかない」と強く思ったことがきっかけです。作業療法士としての10年以上の勤務経験のなかで、これまでに様々な医療・介護事業に携わってきました。そして、介護の現場を見続けたことで感じたのは、「このままでは以前のように、自宅での家族介護が当たり前の時代に戻ってしまうのではないか」ということです。高齢者のなかには、デイサービスに通いたくないため、訪問介護や家族の介護を受けながら生活している方も多くいらっしゃいます。また、近年は新型コロナウイルスの流行の影響もあり、デイサービスの利用者がさらに減ったことで、訪問介護員やご家族の負担が増加し続けているのが現状です。
このような現在の日本における介護の環境を変え、なるべく各所の負担を減少させるには、在宅ではなく通所の介護が主流となるように導いていく必要があるのではと考えました。そこで、「年齢や性別を問わず、誰もが行きたいと思うデイサービスが必要なのでは」との思いから、当施設の設立を決めたのです。まずは自分が生まれ育った地域に貢献したいとの気持ちや、家族からのサポートもあり、この福井の地にセラケアを作ることになりました。
ーー施設の開設にあたり、特に大変だったことはありますか。
立ち上げに関する全てのことが大変でした。私は作業療法士としての知識はあるものの、施設の立ち上げに関わったこともなければ、事業を運営した経験もありませんでした。また、資金的な側面から開業コンサルなどを活用することもできず、全てゼロから独学で立ち上げる必要があったのです。さらに建設時はウッドショックによる建材の価格高騰などもあり、想像以上に多くのお金がかかってしまいました。すでに化粧品事業を営んでいた双子の兄の美容科学者・かずのすけ(本名:西一総)をはじめ、両親や妻、友人など周囲の人々の助けがなければ、ここまで来ることはできなかったと感じています。

クリスマスのイベントを楽しむ利用者さんとスタッフ
ーー利用者さん自身が通いたくなる施設を追求したとのことですが、今までの作業療法士としての経験をどのように反映しているのでしょうか。特に工夫したことを教えてください。
私の今までの経験から、最も必要ではないかと考えていたのは「利用者さんが行きたいと思うだけでなく、介護職員が働きたいと思えるような施設」でした。介護保険法が適用された頃に建てられた施設は、老朽化が進み設備が古くなっていたり、施設内の寒暖差が大きかったりと、働きやすいとは言えないところも多いのが現状です。そのため、利用者さん・スタッフを含めた幅広い年齢層の方が来所した際に、居心地が良いと思えるような空間にすることを心がけました。施設内は木材をふんだんに使用したほか、天井を高くすることにより、開放感がありながらも温かみを感じさせる空間に。また、美しい田園と山々を眺めながら過ごせるように、大きな窓も設置しました。
ーーとにかく、「利用者さんにとっても、スタッフにとっても過ごしやすい施設」を意識されたのですね。
そうですね。施設内にある「セラカフェ」と呼ばれる飲食スペースも、利用者さんによる使用を第一には考えているものの、スタッフの休憩の場としても活用できればと思い設置しました。セラカフェにはカウンターや椅子だけでなく、自動販売機も設置しており、当施設のスタッフは無料で自由に飲み物を飲むことができます。働く場所を検討した際に、休憩スペースが過ごしやすそうな場所だったらうれしいですよね。「こんなおしゃれな場所でコーヒーを飲みながら休憩できるんだ」と思ってもらえれば、採用にも良い影響を与えられるのではと考えています。

「セラカフェ」は利用者さんだけでなく、スタッフにとっても気分転換の場となっている
ーーその他、施設の運営面で気をつけていることはありますか。
とにかく、利用者さん思いのスタッフを大切にすることです。当施設では、「利用者さんを第一に考えられる人材を育む」ことを事業理念としており、会社全体としては、そのような利用者さん思いのスタッフを守っていく必要があると考えています。そのためには、業務負担の軽減が欠かせません。セラケアではなるべく働きやすい環境を整えるだけでなく、アプリを活用した業務効率化にも注力しています。
同アプリはGoogleの「AppSheet」と呼ばれるプログラミング不要のツールを活用して、私自身が作成したものです。これまでに介護施設で働いた経験を全て反映させることで、申し送り・送迎・記録業務などの時間がかかる作業や、業務負担の大きい作業をデジタル化することに成功しました。スタッフ用のタブレットやスマートフォンにて簡単に操作できるため、利用者さんの記録はほぼ全て同アプリを活用することで、時間の短縮に繋げています。特に、子育て世代のパートさんなど、毎日の出勤が難しいスタッフからは、「利用者さんに関する情報共有を隙間時間で行えるため、時間を有効に活用できる」と喜ばれています。
ーーアプリの導入について、スタッフの皆さんからの反応はいかがでしたか。
実は、最初はあまり良い反応がありませんでした。「手書きする方が効率的なのでは?」と言うスタッフもいたほどです。ただ、使用方法を丁寧に説明し、まずは使ってみて欲しいと伝えると、しばらくして全員が使いこなせるようになりました。なかでも、日付や利用者名で過去の記録を抽出する機能は、他施設での勤務経験があるスタッフも唸るほど実用的で、今では「もう紙に戻れない」という声が多数挙がっています。
また、同アプリには、リハビリの記録をもとに自動でグラフを作成する機能も備わっており、利用者さん自身に歩行距離の推移を見ていただくことで、モチベーションアップに繋がるケースも増えてきたように感じています。さらに、送迎に関する情報や注意事項をアプリに入力しておけば、自動的にGoogleマップと連動して、簡単に道を確認することもできます。これにより、情報さえ入力しておけば、スタッフの誰もが送迎を担当できるようになりました。半日デイサービスの業務においては、送迎がかなりな負担となり、通常業務で多忙ななかで、利用者さん宅までの道を覚えることがネックになります。しかし、当施設ではそのような課題に悩まされることはありません。今後も職員の負担軽減を目指して、アプリの活用をさらに進めていきたいと考えています。

実際のアプリの画面。利用者さんのリハビリの記録を一目で確認できる
ーー今後の展望をお聞かせください。
現在は入浴へのニーズが高い状態にありますが、リハビリを目的に通ってくださる利用者さんを増やしていきたいと考えています。今後はリハビリのスタッフをさらに増やすことで、より多くの利用者さんに、心身共に元気になっていただきたいです。毎回入浴する必要のない方もいらっしゃるため、週3回の利用うち1回はリハビリをメインにするなどして、より機能訓練に力を入れていきたいですね。
最近では、当施設に通う以前は歩行器を使わないと歩けなかった方が、独歩で1km以上歩けるようになったケースもありました。利用者さんの運動能力の向上について、ケアマネジャーの方々からも、前向きなご意見をいただく機会が増えてきたと感じています。地域の方々をもっと元気にしていくためにも、これからもより良い形を模索していきたいです。
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