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仕事・スキル 介護施設・職場 2023/03/23

#インタビュー#気になるあの介護施設

老後も犬や猫と一緒に生活できる!ペットと入居できる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」|気になるあの介護施設

取材・文/タケウチ ノゾミ(イージーゴー) thumbnail.jpg

神奈川県横須賀市にある特別養護老人ホーム「さくらの里山科」は、ペットと一緒に入居できる数少ない老人ホームです。施設内には犬や猫と生活できるユニットが用意されており、施設に入居した後も愛するペットと一緒に生活できます。では、なぜ犬や猫と生活できる特別養護老人ホームを作ったのでしょうか。「さくらの里山科」の施設長 若山三千彦氏に話を聞いてみました。

1.施設の概要

――「さくらの里山科」はどのような施設なのでしょうか。

ユニット型の特別養護老人ホームです。特養が100床、それからショートステイが20床あり、定員は合計120床です。10床ずつ10部屋で1ユニットとしており、全部で12ユニットあります。建物は4階建てで2階・3階・4階が居住フロアとなっているのですが、そのうち2階のフロアがペットと一緒に暮らせるユニットです。

2階にある2つのユニットが犬と一緒に生活できる場所で、2階のもう2つのユニットが猫と一緒に生活できる場所となっています。犬は犬の場所、猫は猫の場所で暮らしており、散歩などを除いて、基本的に自分達のユニットから出ることはありません。2023年2月現在は犬8匹、猫9匹が当施設で暮らしています。ペットと生活できる取り組みは2012年の施設のオープン当初から行っており、もうすぐ丸11年になります。

2.ペットと入居できる老人ホームを作ることになったきっかけ

――どのような経緯でペットと一緒に入居できる老人ホームを作られたのですか。

「ペットと一緒に入居できる老人ホームを作ろう」と思いついたことには、あるきっかけがありました。私達のデイサービスで10年近くケアしてきた、ある男性に関するエピソードです。ちょうど「さくらの里山科」を計画している頃のことでした。その男性は身寄りのない方でしたが、1匹のダックスフンドを飼っていて、犬と一心同体と言っていい程の絆を築かれている方でした。しかし段々とADLが低下してきて、ついに一人暮らしが難しくなってしまったのです。

そこである特別養護老人ホームに入居することになったのですが、その老人ホームに犬は連れていけませんでした。ご本人も一生懸命犬の飼い主を探したものの、犬が既に高齢だったこともあり、結局飼い主が見つからずにそのまま保健所行きになってしまったのです。その方がホームに入居した後、当施設のスタッフが何回か面会に行きました。

するとその方は泣きながら「俺は自分の家族を自分の手で殺したんだ」と、ご自身を責め続けていたそうです。結局、ホームに入居して半年も経たないうちに、生きる気力を失ったかのように亡くなってしまいました。それを見た当施設のスタッフが「今までの人生で嬉しいこともたくさんあっただろうに、こんなに辛い最後はないと思います。高齢者をこんな酷い最後に追い込んでしまうのが、私達のやっている福祉なのでしょうか」と言ったのです。この出来事がきっかけで、ちょうど計画中だった「さくらの里山科」を、ペットと入居できる老人ホームにしようと思い付きました。

また当法人は、「諦めない福祉」を理念として活動しています。コロナ前は旅行行事に力を入れ、車イスリフト付きの観光バスで、スカイツリーや富士サファリパークなどに出掛けたことも何度もあります。さらに食事の面でも力を入れており、松茸などの高級な食材を使用した料理からジャンクフードまで、さまざまなお食事を出しているのです。このように諦めない福祉を目指している私達にとって、ペットと一緒に入居できることはぴったり合っていると感じました。こうして、ペットと一緒に暮らせる老人ホームを作ることになりました。

入居者さんに抱っこされる保護犬の「ルイ」

入居者さんに抱っこされる保護犬の「ルイ」

3.立ち上げ時の苦労

――特殊な老人ホームですので、立ち上げの際には苦労もあったのではないでしょうか。

特別養護老人ホームは行政の許認可の元にあるため、最大の障壁は行政の許可でした。しかし幸いなことに、あまり苦労はありませんでした。と言いますのも、当施設がある横須賀市は動物福祉に対して非常に理解がある市で、11年前の時点で殺処分実質ゼロを実現していた自治体だったのです。またさらにラッキーだったのが、入居者さんが動物と一緒に暮らせる許可を貰える前提で、「ペットを飼っている生活保護の方を入居させて欲しい」と市の方から要請があったことです。

当施設がオープンする少し前、生活保護を受けている独居男性がいました。その方は認知症がかなり酷くなっており、このままでは凍死か餓死をしてしまうと、市のケースワーカーさんは非常に心配されていたのです。ただこの方は飼い犬のダルメシアンを非常に大切にしており、認知症の症状が酷くなっても、犬の世話だけはしっかりと行っていました。そのためケースワーカーさんが「もう一人暮らしは難しいから特別養護老人ホームに入った方が良い」と措置入居を勧めても、「この子を置いてはどこにも行かない」と絶対に納得しなかったのです。

そこで見かねた市のケースワーカーさんが、「すぐにこの方を施設に入れて欲しい」とちょうど施設がオープンする頃に言ってきました。市が動物と暮らすことを認める前提で「入居させて欲しい」との依頼があったので、私達にとっては本当にラッキーなことだったと感じています。なので、ペットと暮らせる老人ホームを作るにあたっては、あまり大きな障害はありませんでした。

4.保健所の犬や猫を引き取ることも

――保健所で殺処分寸前だった犬や猫を引き取ることもされているそうですね。

当施設の犬ユニット・猫ユニットに入居を希望される方には、2パターンあるだろうと考えていました。1つ目は、現時点で犬や猫を飼っている高齢者です。今飼っている愛犬や愛猫を連れて一緒に入居したいという方は当然多いだろうと考えました。2つ目は、今は犬や猫を飼っていないけれど、犬や猫が大好きな人達です。今までの人生の中で長い間犬や猫を飼ってきたけれども、高齢になって飼育を諦めた方もたくさんいるのではと考えました。そのような方々が「このホームに入ればもう一度犬や猫と一緒に暮らせる」と楽しみに入ってくることを考えれば、入居者さんの愛犬や愛猫ではなく、ホームの犬や猫が必要だと感じたのです。

そこで保護犬や保護猫を飼って、ホームの犬や猫としようと考えました。民間のNPO愛護団体「ちばわん」と提携して、何匹かの犬や猫を迎えることにしたのです。なので、ホームの犬や猫は動物愛護団体経由で来ている子ばかりです。2023年2月現在は犬8匹、猫9匹がいるのですが、今ではそのうち3匹が保護犬、4匹が保護猫です。ホームの犬や猫は保護犬、保護猫だから警戒心が強いという訳でもなく、比較的人懐っこい子が多いですね。

取材・文/タケウチ ノゾミ 編集/イージーゴー

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タケウチ ノゾミ(Nozomi Takeuchi)

ライター・編集者

福岡市在住のフリーライター・編集者。介護、医療、ビジネスを中心に幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は観劇と美術鑑賞、猫を揉むこと。

タケウチ ノゾミの執筆・監修記事

EGGO(イージーゴー)

イージーゴーは東京・九州を拠点にWEBコンテンツ、紙媒体、動画等の企画制作を行う編集制作事務所です。ライターコミュニティ「ライター研究所」も運営しています。

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