介護福祉士国家試験の「パート合格」制度とは?導入の背景と仕組み・ポイントをわかりやすく解説
文/福田明(松本短期大学介護福祉学科教授)2024(令和6)年9月24日、厚生労働省は現行の介護福祉士国家試験の仕組みを見直し、2026(令和8)年1月に実施予定の第38回試験から、「パート合格」制度を導入することを公表しました。
ここでは、「パート合格」とは何か、なぜ「パート合格」が導入されることになったのか、「パート合格」はどのように行われるのかなど、介護福祉士国家試験の「パート合格」制度のポイントについて解説していきます。
1.介護福祉士国家試験の「パート合格」制度とは?
介護福祉士国家試験の「パート合格」制度とは、試験科目である13科目をA~Cの3パートに分け、複数の試験科目ごとに合否を判定する仕組みです。つまり、ここでいう「パート」とは、複数科目単位のことを意味します。
「パート合格」制度では、国家試験が不合格となった場合でも、合格基準に達したパートの科目は翌年の国家試験で免除されます。そのため、翌年に必ずしも13科目すべてを受け直す必要はなく、合格基準に達しなかったパートの科目のみを再受験することが可能です。
■現行の介護福祉士国家試験と「パート合格」の違い(イメージ図)
では、なぜこのタイミングで、介護福祉士国家試験に「パート合格」が導入されることになったのでしょうか。その背景とねらいを見ていくことにしましょう。
2.「パート合格」導入の背景
介護人材の不足と受験者数の減少
「パート合格」が導入された背景として、介護人材の不足と介護福祉士国家試験の受験者数の減少が大きく影響しています。
現在、介護が必要な人が増え、介護に対するニーズは高まっていますが、一方で介護業界は深刻な人材不足となっています。厚生労働省の推計によれば、65歳以上の高齢者人口がピークに達する2040(令和22)年度には、約272万人の介護職員が必要になるとされています。しかし、2022(令和4)年度時点の介護職員数は約215万人にとどまっており、このままでは約57万人が不足する見通しです。この状況を回避するためには、毎年約3.2万人ずつ介護人材を増やしていかなければなりません。
介護現場で中核的な役割を担う介護福祉士への期待も当然大きくなっていますが、介護福祉士を取得するための国家試験の受験者数は、年々減少しているのが実情です。
例えば、2024(令和6)年の第36回試験では、合格率が8割を超えた一方で、受験者数は7万4,595人。2015(平成27)年の第27回試験の15万3,808人と比べて、約8万人も減少しています。これは、過去10年で1番少ない状況です。
■過去10年の介護福祉士国家試験の受験者数と合格率
(出典:厚生労働省「第36回介護福祉士国家試験の受験者・合格者の推移」
こうした状況を踏まえ、国家試験をより受験しやすい仕組みにし、一人でも多くの人が介護福祉士の資格取得にチャレンジできるようにするため、「パート合格」制度が導入されることになったのです。
現行の国家試験では、不合格の場合、試験科目である13科目を再度受験しなければなりません。その試験範囲の広さと負担の大きさから、翌年の受験を諦めてしまう人もいます。一方、「パート合格」制度であれば、合格パートの科目は翌年受験しなくてもよいため、再受験がしやすく、受験機会の拡大につながると考えられます。
多様な受験者の負担軽減
「パート合格」の導入にあたっては、受験者の状況も考慮されています。
介護福祉士国家試験の受験資格を得るルートは4つありますが、養成施設ルートから受験する人は、全体の約1割にとどまります。それに対して、3年以上の実務経験などの条件が必要な実務経験ルートや、経済連携協定(EPA)ルートから受験する人の割合は8割以上。つまり、受験者の多くが介護現場で働きながら介護福祉士の資格取得を目指しているのです。そのため、受験者からは「仕事と勉強の両立が難しい」という声も聞かれています。
■資格取得ルート(受験資格)別の受験者数とその割合
4つの資格取得ルート |
受験の主な条件 |
第36回国家試験 |
|
---|---|---|---|
受験者数 |
割合 |
||
実務経験ルート |
実務経験(3年以上介護等の業務に従事) + 実務者研修等の修了 |
64,844人 |
86.9% |
経済連携協定 (EPA:Economic Partnership Agreement)ルート |
実務経験(3年以上介護等の業務に従事) |
||
養成施設ルート |
介護福祉士を養成している大学、短期大学、専門学校等の介護福祉士養成施設の卒業 |
7,392人 |
9.9% |
福祉系高校ルート |
介護福祉士を養成している高等学校の卒業 |
2,359人 |
3.2% |
合 計 |
74,595人 |
100.0% |
特に外国人の場合は、仕事と勉強に加えて、日本語学習にも取り組む必要があるため、思うように受験勉強が進まない人もいます。事実、外国人の介護福祉士国家試験の合格率は低めで、過去5年間の合格率を見たとき、全受験者の平均が76.1%であるのに対し、EPAルートは47.4%にとどまっています。
■過去5年の介護福祉士国家試験における全受験者とEPAルートの合格率
回・実施年 |
第32回 |
第33回 |
第34回 |
第35回 |
第36回 |
平均 |
---|---|---|---|---|---|---|
全受験者の合格率(%) |
69.9 |
71.0 |
72.3 |
84.3 |
82.8 |
76.1 |
EPAルートの合格率(%) |
44.5 |
46.2 |
36.9 |
65.4 |
43.8 |
47.4 |
(出典:厚生労働省「第36回介護福祉士国家試験における経済連携協定(EPA)に基づく外国人介護福祉士候補者の試験結果」
こうした受験者が抱える課題に対して、「パート合格」は有効とされています。
例えば、「パート合格」では、翌年の再受験で不合格パートの科目のみを受験できるため、その分、受験にかかる負担を減らすことが可能です。試験範囲が狭くなることで、受験勉強も行いやすくなり、合格率のアップも期待できるでしょう。
3.「パート合格」の仕組みとスケジュール
3つのパートとその内容
「パート合格」では、科目同士の内容や関連性、学習の取り組みやすさなどを考慮し、国家試験の全13科目をA~Cの3つのパートに分けています。
具体的には、Aパートは介護の理念や考え方、制度に関する知識と具体的な技術を問う科目。Bパートは身体の構造や機能、介護の対象者が抱える疾病や障害の理解を問う科目。Cパートは知識、技術を具体的な支援場面や特定の事例に適用させる科目で構成されています。
ちなみに各科目を段階的に学習できるように、各パート内の科目の並び順は、「基本的な知識」から「実践としての知識・技術」という流れになっています。
■A~Cの各パートの内容等
パート |
内容 |
試験科目 |
領域 |
出題数 |
---|---|---|---|---|
Aパート |
介護の理念や考え方、制度に関する知識と具体的な技術を問う科目 |
人間の尊厳と自立※ |
人間と社会 |
2問 |
介護の基本※ |
介護 |
10問 |
||
社会の理解 |
人間と社会 |
12問 |
||
人間関係とコミュニケーション※※ |
人間と社会 |
4問 |
||
コミュニケーション技術※※ |
介護 |
6問 |
||
生活支援技術 |
介護 |
26問 |
||
計6科目 |
計60問 | |||
Bパート |
身体の構造や機能、介護の対象者が抱える疾病や障害の理解を問う科目 |
こころとからだのしくみ |
こころとからだのしくみ |
12問 |
発達と老化の理解 |
こころとからだのしくみ |
8問 |
||
認知症の理解 |
こころとからだのしくみ |
10問 |
||
障害の理解 |
こころとからだのしくみ |
10問 |
||
医療的ケア |
5問 |
|||
計5科目 |
計45問 |
|||
Cパート |
知識、技術を具体的な支援場面や特定の事例に適用させる科目/p> |
介護過程 |
介護 |
8問 |
総合問題 |
12問 |
|||
計2科目 |
計20問 |
※または※※の科目は同一科目群
(出典:厚生労働省「介護福祉士国家試験パート合格の導入の在り方について」
「パート合格」導入後の受験の流れ
「パート合格」導入後、初めて受験するときは、まずA~Cの全パートを受験します。その結果、不合格となり翌年に再受験する際は、合格したパートの受験が免除されます。一方、不合格となったパートについては再度受験する必要があります。ただし、受験者の選択によっては、合格したパートについても再び受験することが可能です。
合格パートが免除できる有効期間は、受験して不合格となった年の翌年と翌々年の2年間となります。合格パートの適用が「2回まで」ではなく、「翌年と翌々年の2年間」であることに注意しましょう。なお、有効期限が切れたパートについては、あらためて受験し直さなければなりません。
試験は1日で行われ(例年1月末の日曜日に実施)、午前中にAパートの試験、午後にBパートとCパートの試験(同一時刻開始)を実施します。B・Cパートの試験は連続して行われますが、BまたはCパートのみの受験者については、試験終了後すみやかに試験会場から退出しなければなりません。
■試験当日の実施イメージ
(出典:厚生労働省「介護福祉士国家試験パート合格の導入の在り方について」
合否の判断と合格基準
A~Cの全パートを受験した際は、まず全パートの総得点で合否を判断します。その結果、不合格だった場合には、パートごとに合否を判断していきます。一部のパートのみを受験したときには、パートごとに合否を判断します。
全科目の合格基準は、現行の国家試験と同様です。つまり、全125問(1問1点の計125点満点)の総得点の6割程度を基準とし、問題の難易度で補正した点数以上かつ各科目群すべてにおいて得点があった人が合格となります。ちなみに科目群は全部で11あり、そのうち「人間の尊厳と自立」と「介護の基本」、「人間関係とコミュニケーション」と「コミュニケーション技術」がそれぞれ同じ科目群であることに注意が必要です。
各パートについても、受験者の平均得点などからパートごとに合格基準を設けます。これに加えて、各パートを構成する科目群すべてにおいて得点があることも合格基準となります。
導入のスケジュール
「パート合格」制度は、2026(令和8)年1月に実施予定の第 38 回試験から導入されます。第38回試験で不合格となった場合、翌年の第39回試験では、合格したパートの試験が免除されることを覚えておきましょう。
■「パート合格」制度の導入スケジュール
2024(令和6)年度 |
2025(令和7)1月 |
2026(令和8)年1月 |
2027(令和9)年1月 |
---|---|---|---|
パート合格制度の 詳細を決定 |
第37回試験 |
第38回試験 |
第39回試験 |
現行のまま | 「パート合格」制度の導入 |
パート合格者の受験開始 |
(出典:厚生労働省「介護福祉士国家試験パート合格の導入の在り方について」
4.「パート合格」のメリットと懸念される点
「パート合格」のメリット
「パート合格」のいちばんの利点として、受験しやすさの向上と受験に伴う負担軽減が挙げられます。
「パート合格」の有効期限は2年間であるため、仮に毎年1パートずつ合格していけば、3年間で国家試験に合格できる計算です。もちろん、1回目で合格する「一発合格」が望ましいのですが、なかには「1回の受験で合格しなければならない」というプレッシャーに悩まされている受験者もいます。
その点、「パート合格」制度であれば、2年または3年という段階を踏んで介護福祉士の資格取得に挑戦できるため、自分のペースで無理なく受験勉強を進められるでしょう。また、不合格パートの学習のみに専念できることから、合格の可能性も高くなります。
特に特定技能(介護)や技能実習生の制度を活用している外国人は、5年間の在留期間のうち2回しか受験機会が確保されていないため、「パート合格」制度は限られた期間で介護福祉士を取得する際の有効な手段となるでしょう。
■「パート合格」を利用して3年計画で国家試験に合格するパターン(例)
「パート合格」で懸念される点
「パート合格」の導入にあたっては、さまざまな懸念点があるのも事実です。
例えば、資格に対する社会的評価の低下もその一つ。新たな仕組みの導入によって合格しやすくなるのはよいことですが、そのせいで「簡単に取得できる資格」という誤解が生まれれば、介護福祉士に対する信頼が揺るぎかねません。
また、3つのパートに分けて、不合格となったパートのみを受験する仕組みだと、介護福祉士に必要な広範な知識・技術を一体的に修得する機会が減り、専門性の低下につながるのではないかという点も心配されています。
まとめ
介護現場で働きながら介護福祉士の取得を目指す人や、外国人などの受験機会の拡大につなげるため、2026(令和8)年1月実施予定の第38回試験から、「パート合格」制度が導入されることになりました。
「パート合格」の導入によって、これまでよりも受験に伴う負担が軽減されるため、多様な受験者が国家試験に挑戦することが期待されています。
一方、「パート合格」には、国家試験のハードルを下げ、介護福祉士の社会的評価の低下につながるのではないかという懸念もあります。国は「パート合格の導入によって、介護福祉士の知識・技能の水準が維持できず、介護サービスの質が低下するものであってはならない」とした上で、「パート合格の導入が介護福祉士の質や国家試験の水準を落とすものでない」ことを強調していますが、その根拠を含めて「パート合格」について丁寧に説明する責任があるでしょう。
そのためには「パート合格」導入後の受験者数の変化だけでなく、「パート合格」が本当に介護福祉士の質の低下を招いていないかどうかについても、継続的に評価・確認することが必要です。
また、介護福祉士国家試験の受験者数の減少を抑えるためには、「パート合格」の導入といった受験環境の整備だけでは不十分です。介護福祉士の魅力向上やさらなる処遇改善に取り組み、介護福祉士資格を取得するメリットについて、より多くの人たちに実感してもらう必要があるでしょう。
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