現役介護福祉士の筆者がやる気になった 介護施設研修体験~介護のやりがい
文:鹿賀大資 介護福祉士・ライター
「介護研修でメモを取る」
介護職が、目の前のご利用者のためにできること。それは突き詰めてじっくり考えると、「1人の人として今、何ができるのか」という結論に達するのではないでしょうか。
介護の現場では、自身の純粋な「本当は今こうしてあげたいのに」という気持ちを打ち消すようにして、淡々と次の業務に移らなければならないことが多々あります。施設の構造や設備の問題、会社の方針などもあり、介護職として働いている以上は仕方のないことかもしれません。しかし、そのちょっとした気持ちの矛盾が積もり、モチベーションが下がってしまうこともあるでしょう。
ニューノーマルを迎え、社会は大きく変化しようとしています。今だからこそ「脱!画一的介護」を目指すべきではないでしょうか。コロナ禍の影響で、介護業界にもどこかどんよりとした空気が漂う中、筆者は何か介護職員のモチベーションアップに有効な手立てはないかと考えました。
そのヒントは、かつて筆者が体験したデイサービスでの研修にありました。今回は、その研修先での取り組みをご紹介します。
研修先のデイサービスと筆者が働く老人ホームで顕著だった3つの違い
一口に介護の仕事といっても、サービス提供の種類ごとに勝手が違うため、一括りにはできません。今回の件でいえば、筆者の勤務先は24時間態勢の介護有料老人ホーム、研修先は9~18時まで営業のデイサービスです。
ちなみに筆者は、デイサービスの研修に参加する前まで双方の違いを単純に「デイは入浴が大変そう。でも夜勤はないから楽なのかな」と思っていました。実際に日勤のみの勤務体系に「夜勤がなくて楽」とは感じたものの、研修先職員の意識の高さに驚かされます。それは業務内容云々の違いではなく、ご利用者に向き合おうとする職員陣の姿勢でした。
サービス利用前の実調に介護職員も同行
実調とは、介護施設やデイサービスの利用を検討している高齢者の状況・状態を把握するもので、いわゆる「実態調査」です。施設介護においては、介護サービスを希望する高齢者の自宅に伺い、現時点でのADL状態や集団生活の適応レベルなどを確認します。
実調は、ケアマネや施設責任者を実調の担当者とするのが一般的です。筆者の働く施設では、多くとも介護主任や看護主任を含めた4人で伺う決まりでした。
ところが研修先のデイサービスでは、そうした主任クラス以上といった枠組みはなく、一般の介護職員も同行していたのです。施設長に話を伺ったところ、
「パートさんも実調に行きますよ。ケアマネが都合で出られない時なんかは、介護職員がその代行を務めることもあります。基本はケアマネ・ナース・ケア職員の3人セットですが、その日の出勤状況で柔軟に対応しています。もっとも職員全員が自ら『行きたい』というカラーなので、誰が担当しても十分な情報を持ち帰ってきます。私は申し込みがあった段階で、相談員と一緒にご挨拶に訪れることが多いです。だからうちの施設では、結果的に2回は訪問することになりますね」
と述べており、顔をほころばせたのが印象的でした。
介護職員がケアマネ並みに利用者情報を把握している
前述した通り「皆がご利用者第一で協力的」だった研修先のデイサービス。筆者の介護施設とはまるで別空間と感じながらの毎日でしたが、もうひとつ感心したことがあります。それは、どの職員も利用者台帳をよく見ていたことです。
1週間という短い研修期間でしたが、その間にも、ほぼ全員の介護職員が事務所に保管されてある利用者台帳を、休み時間などを利用して見にきていました。筆者の介護施設では、特に用がない限り、利用者台帳を閲覧する職員はいません。だから余計に印象に残りました。
ご利用者のことを把握しているだけあって、ケアマネ不在時にご家族が訪れても、職員がご家族と話し合っていました。筆者は、「ご家族対応はケアマネが主で、不在の時には施設責任者や相談員が代行する」というのが普通と思っていたので、その光景を唖然と見つめていました。
ご利用者との接点を見つけるのが上手
私たち介護職は、介護サービスをご利用される高齢者の方と会話を通して信頼関係を築いていくのが仕事です。会話の中で接点を見つけ、それを次の場面に生かそうと考えている方は多いでしょう。研修先の介護職員は、ご利用者との接点を見つけるのが特に上手だと感じました。
前述した通り、すでに利用者台帳から把握した豊富な情報が、職員の頭に入っています。職員Aさんは「台帳にあった過去の居住歴から、土地柄や郷土料理を調べました」と言っていました。基本情報をそのまま会話に使うのではなく、アレンジを加えているのです。さらにその状態でも不用意に会話に持ち込まず、ご利用者の性格や当日の調子によって会話の内容を変えているそうなのです。
別の職員Bさんは、利用者台帳に記されていた「郷土民芸が趣味」という情報に「当初は戸惑った」と話していました。Bさんは「郷土民芸と聞いてもピンとこなかった」そうで、たまたまその時期に「ふるさと納税の返礼品サイトを見ていた」ことがきっかけとなり、郷土民芸の知識を深めていったとのことでした。
また、旅行好きの職員Cさんは、3週間前にサービスを始めたご利用者の地元が長野市だということで、プライベートでも訪れたそうです。「善光寺に行ってみたかったから、ついでに寄ってきました」と楽しそうに話してくれたのが印象的でした。中には「ご利用者のために旅行先を決めるなんで、それはやりすぎ」という意見もあるかと思います。しかしここのデイサービスの職員たちは、とにかくご利用者と接点を見つけ、コミュニケーションのきっかけにしようと、自らの意思で行動しているのです。
無理に接点を探そうとするのではなく、職員自身も興味を持てることから、会話をつなげていこうとする考え方は、研修で得た大きな収穫のひとつです。ご利用者たちの"家族さながらの笑顔"は、職員たちが積み上げてきた信頼関係によるものでしょう。
自身も楽しんでご利用者と仲良くしようとする姿勢がポイントなのかもしれません。なかなか他の介護施設にはない取り組みですが、可能な範囲で実践してみてはいかがでしょうか。
90代女性(Dさん)のご利用初日に密着してみた
研修先での3日目、その日が初めてのデイサービスという90代の女性利用者(Dさん)を担当させていただくことになりました。前日に目を通した実調報告書の一部を抜粋すると「要支援2。右大腿骨転子部骨折で3ヶ月の入院。現在は自宅療養中。外出時は杖を使い自宅では引きずり歩行」といった内容です。
まだ退院から間もないそうで、同居する息子さんによれば「日中は仕事で母がひとりになってしまう」という不安から、このデイサービスのご利用を決めたとのこと。ここでも筆者は、介護職員陣の新たな一面を目の当たりにすることとなりました。
身体介助以上に驚いた受け入れ態勢
やはり研修先での、Dさんの受け入れ態勢は万全でした。筆者の知る限り、当日出勤の職員は、その前日までに実調報告書の情報を把握。また各々には、すでに独自の考察も固まっていたようです。筆者はといえば、退院直後ということもあり、DさんのADL状態における歩行レベルに重きを置いていました。
しかし職員陣は当日の朝礼で、まるで「患側に立つのが当たり前」と言わんばかりに歩行レベルの注意点を早々と切り上げ、Dさんのご利用に至った経緯や、家族環境などについて各自が見解を述べていました。実調報告書の情報をベースに、キーパーソンである息子さんが寡黙な性格であることから「その妹さんに情報を聞いてみてはどうか」というように、サクサク話が進んでいきます。
実際に当日の介助もお手のもので、最初に担当した介護職員は、Dさんの患側である右側やや手前で間合いを取っていました。
その日に本人から知った情報を全職員に共有
歩行状態については、早くも昼休憩の時点で職員各自が観察状況を口にしていました。また見守り歩行時の距離感や一部介助を必要とするケースについて、ポスターサイズの大きな用紙に絵を描いて解説しており、とても分かりやすかったです。申し送りノートにありがちなA4ノートに言葉だけの情報を書き込むのではなく、壁紙の絵に注釈を付け足していく感覚なので、自然と皆が共有できているようでした。
ひとつ気になったのは、入浴やトイレの介助状況も方向状態に付け足されるように報告されていたことです。決して分かりにくいというほどではありませんが、面倒くさいからなのかと思い、その理由を職員に聞いたら「立位と歩行状態が主なので」と言っていました。要するに「一番肝心のポイントである歩行状態を掴むことで、いくらでも入浴やトイレ介助に応用が利く」ということです。確かに的を射ていますよね。
Dさんのご利用1週間後の様子
何もかもが斬新に思え、驚きの連続だった1週間のデイサービス研修。研修終了後、筆者は、Dさんへのその後が気になり、自身の休みを利用して再びデイサービスに足を運びました。それは、Dさんがデイサービスを利用してから、ちょうど1週間後。研修を終えて4日しか経っていませんでしたが、やはり目覚ましい進化を感じました。
たった1週間にしてADL拡大に必要な"真の目的"に到達
Dさんは、まだデイサービスに通い始めて1週間のため、歩行レベルは以前と代わり映えのない状態でした。でもその表情は当初より和らいだ印象を受け、デイサービスにも馴染んでいる印象。施設長も「職員が上手に接しているので、Dさんも『デイサービスに来るのが楽しい』と仰っていますよ」と言います。
当初の課題であったキーパーソンの妹さん(Dさん)とも話す機会を持てたそうで、「ご自宅での生活状況も把握できつつあります」と施設長。わずか1週間という短期間で双方の距離短縮を実現しており、今後の方向性も固まってきたのだとか。それについては、
「Dさんは『歩けるようになって前みたいな暮らしがしたい』と言っています。以前はひとりで買い物に行ったり、畑仕事をしたりするのが日課だったしたようです。やはりADLを拡大させるには、こうした目標があるとないとでは大きく違います。普段の何気ない会話の中には、ご利用者の自己実現に関わる内容もあります。それを選別し、ご家族とも相談しながら最終目標を決めていくのが私たち介護職員の役目だと思っています」
と述べていました。安全にデイサービスを利用してもらうと同時に、自宅での生活の質も向上させることを見据えた、核心ともいえる考え方です。
「甘味類が好きで持病の糖尿病が心配」という新たな壁も
Dさんの自宅での生活状況を把握した途端、新たな問題も出てきたそうです。キーパーソンのDさんによれば「甘味好きの母は、おはぎなどの餅系が好物で、家ではお菓子を食べることも多い」とのこと。さらにDさんには糖尿病の既往歴があり、現在もインシュリン注射を打つ生活を続けています。
こうしたことから職員間で、高血糖症状や喉に餅を詰まらせるといった危険性を指摘する声が上がったそうです。施設長は「現在は自宅での血糖コントロールを中心に考えたプラン検討が必要です」と言っていました。ADLおよびQOLの拡大には、心身面のサポートのみならず、食事管理をはじめとする介護分野以外の対応も視野に入れる必要があることを、改めて痛感しました。
日々のデイサービス通所が「今の生きがい」
研修中は指定されたカリキュラムなどがあり、なかなか腰を据えてDさんと会話できませんでした。そこで、一緒にデイサービスで用意された弁当を食べながらお話を伺うと、
「この間、女の子の職員さんにチロルチョコをあげたら、『美味しい』って笑顔で食べてくれてね。なんだか孫の若い頃を見ているようで。しかもその職員さんが、『あまり食べ過ぎはよくないですよ。息子さんも娘さんも私も、みんな元気なDさんでいて欲しいから』って心配してくれてね。だから今は、ここに来るのが毎日の生きがいなのよ」
と嬉しそうに話していました。
Dさんはこちらのデイサービスに移る前、新型コロナウイルスの影響で入院中の3ヶ月、同部屋の患者とも会話できなかったのだとか。でも現在は好きな畑仕事こそ叶わないものの、デイサービスに来て職員やご利用者と会話できるようになり「楽しみがひとつ増えたわ」と付け加えていました。
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