認知症の利用者さんとの信頼関係が深まる声かけのコツ10選
文・写真/安藤祐介みなさんは、認知症の利用者さんとのコミュニケーションをスムーズにできていますか? 一口に認知症と言っても、重症度やその他の疾患・障害、その方が持っている個性などによって症状はさまざまです。なかには声かけが通じにくい方や、介護拒否がある方もいらっしゃるため、関係を築くのに苦労している介護職の方も少なからずいると思います。
そこで本記事では、筆者が認知症の利用者さんと関わるなかで培ってきた、「信頼関係が深まる声かけのコツ10選」をお伝えします。どれか1つを選んで、これまで行ってきた声かけにプラスしてみるのも良いですし、複数のコツを組み合わせてもOK。重症度が高い利用者さんとのコミュニケーションが取りやすくなると思いますので、ぜひ参考にしてください。
1.コツ①:『お名前+1秒待つ』で聞く準備を整えてもらう
認知症の利用者さんは、職員から突然声をかけられると、うまく聞き取れないことがあります。なぜかと言うと、"聞く準備"が整っていないからです。
例えば、職員が「お風呂に行きましょう」と声かけをしたとき、認知症の利用者さんは言い始めが聞き取れず、「呂に行きましょう」と聞こえてしまうことがあります。そうした状況を防ぐためにも、用件を伝える前に「お名前」を呼んで1秒待ちましょう。利用者さんは、自分の名前を呼ばれたことで職員の声かけに注意が向き、聞く準備が整います。その後に用件を伝えれば、言い始めからしっかり聞き取れるはずです。
<声かけの一例>
×「お手洗いに行きましょう」
〇「佐藤さん(1秒待つ)、お手洗いに行きましょう」
×「調子はいかがですか」
〇「鈴木さん(1秒待つ)、調子はいかがですか」
2.コツ②:声かけを短く区切って聞き取りやすくする
認知症の利用者さんは、長い文章の声かけを理解するのが苦手です。例えば、「手すりを持って立ってください」という声かけには、『手すりを持つ』『立つ』という2つの動きが含まれており、1つひとつの動きが理解できる方でも、混乱してしまうことがあります。
その場合のコツは、「手すりを持ってください」で一度声かけを区切ることです。すると利用者さんは、『手すりを持つ』という1つの動きに集中できるので、その後の「立ってください」という声かけにも混乱なく対応できます。
<声かけの一例>
×「お尻を拭いてズボンを上げてください」
〇「お尻を拭いてください。(その後に)ズボンを上げてください」
×「ブレーキをかけて立ってください」
〇「ブレーキをかけてください。(その後に)立ってください」
3.コツ③:声かけの最後に『か』をつけて提案口調にする
介護現場では、職員から認知症の利用者さんに、一方的な声かけをする場面があります。例えば、「体操に行きましょう」という声かけは丁寧な表現ですが、体操に行くことが前提となっており、利用者さんからすれば断りづらいものです。なかには、指示・命令されているように感じる方もいるでしょう。
こうした場面では、声かけの最後に『か』をつけて、提案口調にするのがおすすめです。「体操に行きましょう」を「体操に行きましょうか」とするだけで、利用者さんに参加するかどうかの決定を委ねる形になり、ご本人の意思の尊重につながります。
<声かけの一例>
×「トイレに行きましょう」
〇「トイレに行きましょうか」
×「立ってください」
〇「立ちましょうか」
4.コツ④:口調と表情を温和に保つ
声かけが通じにくい認知症の利用者さんがいると、強い口調で声かけしたくなる場面もあるかと思います。しかし、「どうしましたか?」という声かけが、きつく強い口調になったらどうでしょう。相手を気遣ったつもりでも、利用者さんは『この人(職員)は怒っているみたいだ』と思ったり、不安や恐怖を感じたりするはずです。
常に優しく声かけするためにも、口調と表情を温和に保つことを心がけましょう。口調と表情は連動しやすい関係にあるので、強い口調のときには表情が険しくなり、優しい口調のときはやわらかくなるものです。忙しさやストレスでつい口調が強くなりそうなときも、表情をやわらかく保つように意識すれば、自然に優しい口調になりますよ。
<声かけの一例>
×強い口調と険しい表情で「待っていてください」
〇優しい口調とやわらかい表情で「待っていてください」
5.コツ⑤:早口は避けて0.7倍速を心がける
介護現場では限られた時間内で業務を行う必要があるため、早足や早口になりがちな方もいると思います。しかし、「トイレに行きましょう」という声かけを早口で言われたら、利用者さんは『早く行かなければいけない』という気持ちになるかもしれません。
認知症の利用者にとって、早口の声かけは聞き取りづらく、せかされているように感じやすいものです。そのため、人によっては体が緊張して、余計に動きづらくなる場合もあります。そうならないためにも、認知症の利用者さんに対しては、日常会話の0.7倍速での声かけを心がけてください。それだけで聞き取りやすさが増し、ご本人のペースを尊重した声かけになるはずです。
<声かけの一例>
×早口での声かけ→利用者さんをせかしやすい
〇日常会話の0.7倍速での声かけ→利用者さんのペースを尊重しやすい
6.コツ⑥:抽象的ではなく具体的に伝える
認知症の利用者さんには、"してほしい動き"を具体的に伝える必要があります。例えば、いすに座っている利用者さんに対して、「こちらにきてください」と声かけをしたとしましょう。理解力が高くそのままきてくれる方は問題ありませんが、なかにはどう動けば良いかわからず、反応が出にくい方もいます。それは、「こちらにくる」という声かけが利用者さんの頭のなかで、『いすから立ち上がって介護者についていく』という動きに結びついていないからです。
ですから、認知症の利用者さんには、「こちらにきてください」という抽象的な声かけではなく、「立ち上がってから、こちらに歩いてきてください」という具体的な声かけをしましょう。そうすると利用者さんは、『まずは立ち上がれば良いのだな』と理解でき、動きやすくなります。
<声かけの一例>
×「お茶を飲んでください」
〇「コップを持って、口元に運んでください」
×「向こうのトイレに行きましょう」
〇「トイレにご案内しますので、私についてきてください」
7.コツ⑦:大声を控え、顔を近づけて話す
聴力が低下した利用者さんに対して、大きな声で話しかけている職員を見かけることがありますが、声が大きくなると口調まで強くなりがちです。そのため認知症の利用者さんのなかには、大声で声かけされることに不快感を覚える方もいらっしゃいます。
認知症の方に声かけをする際は、少しだけ利用者さん側に近づいて、物理的な距離を縮めてください。そうすれば、小さな声量でも声かけが通じやすくなります。また、職員が声かけをする際に自身の口元に手を添えたり、利用者さんの耳元に顔を近づけるしぐさをしたりするのも1つの手段です。声かけに対する利用者さんの意識が高まるため、聞き取りやすさが増すでしょう。
<声かけの一例>
×利用者さんとの距離がある位置からの声かけ→大きな声・強い口調になりやすい
〇職員が口元に手を添えて、少し顔を近づけての声かけ→小さな声量でも聞こえやすい
8.コツ⑧:利用者さんが理解しやすい声かけ、反応しやすい声かけを探す
認知症の利用者さんとのやりとりにおいて、どのような声かけが効果的かは人それぞれです。例えば、ベッド上にいる利用者さんに対して、「寝返ってください」と声かけをしたとします。『寝返る』という言葉が理解できる利用者さんは、問題なく動けますが、理解できない利用者さんは何度声かけをしても動けないでしょう。
そんなときは、『寝返る』を別の言葉に言い換えてみてください。「こちら側を向いてください」「横向きになってください」「ゴロリンしてください」など、いろいろな声かけのなかからその方が理解できる言葉を見つけられれば、混乱なく寝返ってもらえます。
なお、声かけの仕方によっても、利用者さんの反応しやすさは変わるものです。例えば、立ち上がりを促すときは、「せーの」「いちにのさん」「よいしょ」「さんはい」など、かけ声の種類によって力の入れやすさや動きへの意欲が変わります。利用者さんがより反応しやすい声かけを探して、しっかりと意思統一をはかりましょう。
<声かけの一例>
●起き上がり介助
「起き上がりましょうか」「体を起こしてください」「ベッドに腰かけてください」
●車いすでの座り直し介助
「まっすぐ座りましょうか」「お尻を奥にやってください」「一杯まで深く座ってください」
9.コツ⑨:声かけにジェスチャーを交える
認知症の利用者さんに声かけする際、身ぶり手ぶりのジェスチャーを交えると、相手はより理解しやすくなるでしょう。例えば、「お風呂に行きましょうか」という声かけをしながら体を洗うしぐさをしたり、「ごはんですよ」という声かけをしながら食事をするしぐさをしたりといった具合です。声かけは聴覚刺激ですが、ジェスチャーを交えることで視覚も刺激できるので、感覚機能が低下している利用者さんの理解の助けになります。同じ理由で、入浴の声かけの際にタオルを持参したり、トイレの声かけの際にトイレットペーパーをさりげなく見せたりするのも効果的です。
また、視覚刺激には場所や方向をわかりやすく伝える力もあります。例えば、「手すりにつかまってください」という声かけへの反応が鈍かった場合、『手すり』が何を指すのか、どの手すりを持てば良いのかがわからず、混乱している可能性があります。その場合は、職員がつかまってほしい手すりを指し示しながら、「ここにつかまってください」と言うことで、わかりやすい声かけになるでしょう。
<声かけの一例>
タオルでジェスチャー「お風呂に行きましょうか」
手すりを指し示す「ここにつかまってください」
10.コツ⑩:触覚を生かしてよりわかりやすく声かけする
認知症の利用者さんは、物事への注意力が低下している場合があり、声かけによる聴覚刺激だけだと反応が鈍いこともあります。先に視覚刺激の話をしましたが、声かけ中に職員が利用者さんの体に触れるのも良い方法です。
触れることは触覚刺激であり、直接身体に触れることで職員の存在に強い関心を向けてもらうことができるため、注意力が低下している利用者さんでも声かけへの反応が良くなることがあります。また、触覚刺激には体の部位をわかりやすく伝える力もあります。例えば、「右手を上げてください」という声かけをする場合、『右手』を理解できない利用者さんは反応するのが難しいですが、職員が利用者さんの右手に触れながら「こちらの手を上げてください」と声かけすれば、言葉の理解が難しい利用者さんの助けになるでしょう。
<声かけの一例>
「右側を向いてください」
→利用者さんの右肩に触れながら、「こちら側を向いてください」
「膝の痛みはどうですか?」
→利用者さんの膝に触れながら、「ここの痛みはどうですか?」
まとめ
今回は、「信頼関係が深まる声かけのコツ10選」をお伝えしました。ただし、記事の内容が声かけの正解というわけではなく、どのような声かけがより適切かは、認知症の症状やこれまでその方が歩んできた背景、職員やご家族と築いてきた関係性などによって違います。相手の表情や反応などを都度確認しながら、お互いにとって好ましい声かけを探っていただければ幸いです。
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