認知症の利用者さんとの信頼関係が深まる接し方のポイント10選|認知症ケアの現場から23
文・写真/安藤祐介認知症の利用者さんとのコミュニケーションに自信がありますか?一口に認知症といっても、重症度やその他の疾患・障害、その方が持っている個性により症状はさまざまです。なかには声かけが通じにくい方や介護拒否がある方もおり、関係性が築けずに悩んでいる介護職の方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、筆者が認知症の利用者さんと接するなかで培ってきた、「信頼関係が深まる接し方のポイント10選」をお伝えします。みなさんがこれまで行ってきた接し方に、どれか一つを加えるだけでも効果がありますし、複数のポイントを組み合わせてもよいでしょう。きっと重症度が高い利用者さんとのコミュニケーションが取りやすくなるはずです。最後まで読んで、毎日の活動にお役立てください。
1.ポイント①:「視界に入ってから関わる」が大原則!
認知症がある利用者さんと関わるときは、まず相手の視界に入るのが大原則です。人は視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の五感でさまざまな物事を認識しており、視覚は前方と左右の広い範囲から情報を得られる感覚です。しかし、「広い範囲」といっても、自分の後方は見ることができません。そのため、職員が後ろから突然声をかけたら、多くの利用者さんは驚いたり戸惑ったりします。
特に認知症がある利用者さんのなかには、突発的な出来事に対応するのが難しくなっている方も多く、そうした職員の関わりが原因で介護拒否につながるケースもあります。だからこそ、利用者さんと関わるときには、相手の視界に全身をおさめることが大切なのです。職員の姿が見えている状況であれば、利用者さんは「この人(職員)は私に用事があるんだな」と関わりへの心の準備ができるので、安心感につながります。
<好ましい接し方>
×見えない位置・後ろから関わる
〇見える位置・前や左右から関わる
2.ポイント②:親密感がある表情でゆっくりと近づく
利用者さんの視界に入ってからの対応で気をつけたいのが、表情と足取りです。例えば、険しい表情をした職員が早足で近づいてきたら、利用者さんはどんな気持ちになるでしょう。人によっては、「怖そうな人がきた」と不安や恐怖心を抱いたり、職員の素早い動きを見てせかされているように感じたりするかもしれません。
特に認知症がある利用者さんは、記憶障害の影響で職員がどんな人物なのかわかりにくくなっていることもあるため、そのときどきに感じる印象は大切です。利用者さんの視界に入ったらゆっくりとした足取りで近づくことを意識しましょう。あわせて表情もにこやかにすると、親密感が湧きやすく、利用者さんを不安にさせることなく関われます。
<好ましい接し方>
×険しい表情+早足で近づく
〇穏やかな表情+ゆっくりと近づく
3.ポイント③:しゃがんで目線を合わせる
認知症がある利用者さんと関わるときは、誰と関わっているかがわかるように、目線を合わせることが大切です。高齢の利用者さんのなかには、まぶたが下がっていたり、首や背骨が硬くなっていたりして、上を向くのが難しい方もいます。もし、その方に対して身長の高い職員が立ったまま関わっていたら、どうなるでしょう。利用者さんからは、職員のおなかや胸あたりまでしか見えないはずです。また、利用者さんは職員を見上げる形に、職員は利用者さんを見下ろす形になるため、心理的な関係性も対等でなくなる(上下関係があるように感じてしまう)可能性もあります。
利用者さんに関わるときは、職員が可能な範囲で膝を曲げたり腰を落としたりして、姿勢を低くしましょう。その状態であれば、利用者さんが無理なく職員の顔を見ることができて関係を築きやすくなります。また、プライドが高い方や職員に高圧的な態度を取りがちな方には、あえて職員が姿勢を低くするのもよい方法です。利用者さんが職員を見下ろす形になるため、心理的な充足感が高まりやすくなります。
<好ましい接し方>
×職員が立った姿勢で関わる
〇職員がしゃがんだ姿勢で関わる
4.ポイント④:必要最小限の刺激で覚醒を促す
認知症がある利用者さんのなかには、傾眠傾向がある方もいます。そうした方に対しては、声をかけたり体に触れたりして、覚醒を促すことから関わりを開始しますが、そのときに配慮したいのが刺激の量を必要最小限にすることです。例えば、ベッドで寝ている利用者さんに対して、大きな声で「おはようございます!」と声をかけながら体を揺すったらどうなるでしょうか。大半の利用者さんは目覚めるでしょうが、突然の強い刺激に驚いたり恐怖心を感じたりして、起こしにきた職員に好印象を抱きにくいと思います。
逆に、必要最小限の声量で「おはようございます」と声をかけ、反応がないようなら「〇〇さん」と優しく体に触れて、ゆっくりと目覚めてもらう対応はどうでしょう。強い刺激のときよりも職員に対する抵抗感が減り、好印象につながりやすいはずです。
ただし、その日の利用者さんの状態や眠りの深さによっても、必要な刺激の量は変わります。最初は小さな声や優しい触れ方からはじめ、それでも覚醒されないようなら徐々に刺激の量を多くしていくという対応を心がけてください。
<好ましい接し方>
×大きな刺激で覚醒を促す
〇小さな刺激で覚醒を促す
5.ポイント⑤:見当識をサポートしながら関わる
見当識障害がある利用者さんの場合、「目の前にいる人が誰なのか?」「今は何時なのか?」「ここはどこなのか?」といったことがわかりにくくなっています。長年一緒に暮らしたご家族はもちろんのこと、日頃から顔を合わせている職員のこともわかりにくくなっているので、関わるときは見当識をサポートするような声かけを心がけてください。例えば、職員が「こんにちは、ごはんに行きましょうか」と声をかけたときに、「この人は誰だったかな」「見たことある気がするけど」と見当識の混乱が見られ、食事に応じてくれないことがあります。
そうしたときは、「こんにちは、職員の〇〇(名前)です。ごはんに行きましょうか」と名前を伝えるなどして、声かけを工夫しましょう。それが見当識を手助けするヒントになって、「そうだ、この人は〇〇さんだった」とわかってもらえれば、食事の促しが円滑になります。また、朝昼夜の認識が曖昧になっている方に対しては、「ごはんに行きましょうか」という声かけを「朝ごはんに行きましょうか」とすることで、今が朝であることが伝わります。
ただし、現実の時刻が朝だったとしても、利用者さん自身が「今は夕方だな」と認識していたとすれば、「朝ごはんに行きましょう」という声かけは混乱を招く可能性があります。あくまで、"その方が認識している見当識"を基準に関わっていくようにしてください。
<好ましい接し方>
×ごはんに行きましょうか
〇朝ごはんに行きましょうか
6.ポイント⑥:見当識に合わせて敬語とタメ語を使いわける
認知症がある利用者さんと関わるときに、敬語で話しかけている職員も多いと思いますが、場合によっては友人と話をするときのようなタメ語も必要です。なぜなら、認知症がある利用者さんには、人物の見当識に混乱が見られるケースが少なくないからです。仮に、利用者さんが職員のAさんを「自分の娘」と思っていたとします。その場合、娘ではないことを説明しても、そう認識している利用者さんにとっては修正が難しいものです。そのため、Aさんが「おはようございます。お食事ができましたよ」と毎回敬語で話しかけていたら、利用者さんは娘から敬語で話しかけられていることになり、混乱が深まる可能性があります。
そうしたときには、利用者さんの見当識に合わせて接し方を工夫する必要があります。Aさんを娘と認識しているのであれば、家庭内で会話しているかのように「おはよう。ごはんできたよ」とタメ語で話しかけたほうが、利用者さんは混乱なく生活できるでしょう。接遇の観点からいえば敬語での関わりが基本ですが、認知症ケアの場では"利用者さんの見当識"を基準とした接し方の工夫が、関係性を深めます。
<好ましい接し方>
職員を「職員」と認識している利用者さん→「調子はいかがですか?」敬語が基本
職員を「自分の家族」と認識している利用者さん→「調子はどう?」タメ語も必要
7.ポイント⑦:視界に入って一連の介護を終える
認知症がある利用者さんの介護は、終わり方も肝心です。例えば、職員が車椅子に乗った利用者さんを席まで誘導したとき、職員がそのまま立ち去ったらどうなるでしょう。利用者さんは職員に背を向けている状態なので、「誰が車椅子を押してくれたのか」がわからないまま、関わりが終了することになりかねません。そうならないためにも、利用者さんを席まで誘導したら、職員が一度利用者さんの前にまわり込み、「ありがとうございました」「ゆっくりお過ごしください」などと声をかけましょう。
利用者さんは、誰が介護してくれたのかを目で見て確認できるので、安心感につながるはずです。また、介護が終わるごとにそうした接し方をすれば、「この人はよい職員さんだな」という認識が少しずつ強まっていきます。ポイント①でもお伝えしましたが、認知症がある利用者さんへの関わりは「視覚」を中心に据えて、「視界に入ることからはじまり、視界に入って終わる」を心がけてみてください。
<好ましい接し方>
×席まで誘導してそのまま立ち去る
〇席まで誘導して視界に入ってから立ち去る
8.ポイント⑧:常に見られていることを意識する
介護施設において、働いている職員の姿は想像以上に利用者さんに見られています。備品を雑に扱ったり、ドアの開閉を乱暴に行ったりする職員がいた場合、利用者さんはどう感じるでしょうか。日々その姿を見ていたら、「あの人は怖そうな人だ」「できれば介護されたくない」と思ってしまうかもしれません。逆に、いつも備品を丁寧に扱っていたり、ドアの開閉を優しく行っていたりする職員は、利用者さんから好印象を抱かれやすいでしょう。こうした傾向は、利用者さんへの介護の場面で顕著に見られます。
例えば、職員が利用者Aさんにイライラしながら関わっていたとしましょう。その関わりは、Aさんに好ましくない影響を与えるだけではなく、その場面を見ていたBさんやCさん、Dさんにも影響します。つまり、介護する姿は直接関わっていない利用者さんにも見られているわけで、場合によってはいつのまにか不信感を抱かれてしまう可能性もあります。認知症がある利用者さんと関わったり備品を扱ったりする際は、その点を意識して丁寧な行動を心がけることが大切です。
<好ましい接し方>
×備品を乱雑に扱う、利用者さんにイライラしながら関わる
〇備品を丁寧に扱う、利用者さんに穏やかに関わる
9.ポイント⑨:「小さな好印象」をコツコツ積み上げる
信頼関係を築くにはある程度の時間が必要ですが、認知症がある利用者さんとじっくり関わる時間がない現場もあると思います。そんなときは、1日のなかの短時間であっても、好印象を積み重ねるようにつとめましょう。例えば、利用者さんの席の近くを通るとき、職員Aは無言で前だけを向いて通り過ぎていたとします。一方、職員Bはいつも利用者さんに軽く会釈をし、笑顔で通り過ぎています。これを1日に何度も繰り返したとして、1週間後、1か月後の印象はどうなるでしょうか。職員Bのほうが利用者さんから好印象を抱かれ、関係性がよくなっている可能性が高いと思います。
人の眼球には動くものを目で追う"追視"という機能があり、認知症がある利用者さんも職員が目の前を通り過ぎる際に、その動きを自然と目で追っていたりします。人と人との信頼関係は、「命の危機を救ってもらった」「トラブルの解決に協力してもらった」といった大きな出来事から生まれる場合もあれば、ささいなことの積み重ねで構築されるケースもあります。記憶障害がある認知症の利用者さんだからこそ、毎日の丁寧な関わりやさりげない優しさといった「小さな好印象」を積み重ねて、ポイントポイントと信頼関係を築いていきましょう。
<好ましい接し方>
×無言で利用者さんの前を通る
〇軽く会釈して利用者さんの前を通る
10.ポイント⑩:ときには職員も利用者さんを頼る
認知症がある利用者さんと職員は、サービスを受ける側と提供する側ですが、その関係は対等であるのが望ましいと考えます。しかし、事業所のなかには、職員側が決めた介護業務の流れに、利用者さんを当てはめていくスタイルのところも少なくありません。そうしたケースでは職員側が生活の主導権を握り、知らず知らずのうちに、職員が上で利用者さんが下という上下関係ができてしまっていることもあります。
そうならないように提案したいのが、「職員の側も利用者さんを頼りにする」という接し方です。例えば、職員が行っていた洗濯物たたみやコップ洗いといった仕事を利用者さんに依頼してみてください。きっと、快く引き受けてくれる方が多いと思います。それは人から頼りにされること、自分にも役割があることを喜ばしく思っている姿であり、職員も手伝ってもらったことで、利用者さんへの感謝の気持ちが湧くはずです。そして、そのやりとりをきっかけに、「持ちつ持たれつ」「お互いさま」という関係性に近づくことができるでしょう。
仕事の依頼だけでなく、人生の先輩である利用者さんにちょっとした悩みや愚痴を聞いてもらうのもおすすめです。認知症があったとしても社会の荒波を乗り越えてきた方たちからの励ましの一言やちょっとした助言は、心の支えになるもの。そうやって物理的にも精神的にも支え合えるような関係性がつくれれば、お互いの結びつきや信頼関係もぐんと深まるのではないでしょうか。
まとめ
「信頼関係が深まる接し方のポイント10選」をお伝えしました。ただし、今回の内容が「接し方の正解」というわけではなく、好ましい接し方は人それぞれに違うものです。また、認知症があったとしても、「一人の人間」であることに変わりはないので、認知症の症状にとらわれすぎないことも大事です。表情や反応などを都度確認しながら、お互いにとっての好ましい接し方を探っていただければ幸いです。
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