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仕事・スキル 介護職のスキルアップ 2025/04/17

#認知症ケアの現場から

介護現場で座位が左右に傾く利用者さんに試したい、効果的なシーティング2選|認知症ケアの現場から(28)

文・写真/安藤祐介 care28_thumbnail.jpg

座位が左右に傾く利用者さんがいる場合、どのように対応するのが良いでしょう。職員の中には傾きを直すために座り直し介助を行ったり、傾く側にクッションを入れたりしている方もいるかもしれません。しかし、その方法だと、時間がたつにつれてまた傾いてしまったり、日に日に傾きが強くなってしまったりすることがあります。

そこで本記事では、座位の左右への傾きを整えるために効果的なシーティングを、厳選して2つご紹介します。いずれも筆者が勤務する介護老人保健施設内で頻繁に行っている工夫で、実施後すぐに傾きが整う方も少なくないので、参考にしていただけると幸いです。

1.工夫①:寄りかかりやすい背もたれを作る

最初にお伝えしたいのは、「人にとって傾きは必要なもの」だということです。試しに、左右前後どの方向にも傾かずに真っすぐ座ってみてください。

工夫①:寄りかかりやすい背もたれを作る

傾きのないきれいな座位ですが、そのまま生活するのはとても難しいと思います。食事や勉強をする時には、体を前に傾けます。ソファーでテレビを見たり、スマホをいじったりする時は、体を後ろに傾けます。椅子の肘掛けを使ったり、隣の人と話をしたりする時には、体を左右に傾けます。それらのことを、体を傾けずに行うのは、大変な苦労ではないでしょうか。私たちは体を傾けられるからこそ、楽に生活できているのです。

しかし、介護現場では傾きが問題になることがあります。傾いたまま動けない利用者さんの存在もその一例です。

傾きは前後左右だけでなく、360度どの方向にも必要なものですが、1つの方向だけに傾き、その状態で体が固まってしまうと暮らしの幅が狭まります。特に左右に上半身が傾くと、見える視界が常に歪むことになり、水分がうまく飲めなくて誤嚥につながったり、肘掛けが体を圧迫して内出血のリスクが高まったりしかねません。座っているのがつらくなって、ご本人が「寝かせてほしい」と訴えることもあります。

そうした利用者さんに対して、傾きをなくそうとするのはナンセンスです。例えば、右に傾いている利用者さんの体の右側にクッションを入れれば、見た目は真っすぐになり、一見傾きが直ったかのように見えます。ただし、右に傾こうとする体の反応自体は変わっていません。それどころか、クッションに押されている分、利用者さんの傾きはより強まっているのです。

工夫①:寄りかかりやすい背もたれを作る

工夫①:寄りかかりやすい背もたれを作る

そのため、見た目がきれいになっても体は真っすぐな状態から固まって動けず、将来的にますます暮らしにくい体になる可能性があります。

※詳しくは、こちらの記事内の「正しい座位を押し付けない」を参考にしてください。

そこで提案したいのが、「傾く方向を変える」ことです。もし左右に傾いている利用者さんが、背もたれに寄りかかるように後ろに傾いていたらどうでしょう。左右に傾いた状態よりも視界が真っすぐになるはずです。それによって、体はリラックスでき、誤嚥や内出血のリスクも減るでしょう。体が楽になることで、筋肉の緊張・硬さもほぐれ、動きやすさも増します。

シーティングには傾きをなくそうとする考え方もありますが、傾きはより良く生きるために必要なものです。大切なのは、傾く方向を後ろに変えてもらうこと。つまり「背もたれへの寄りかかり」を作るという視点です。

工夫①:寄りかかりやすい背もたれを作る

背もたれに寄りかかった姿勢は、利用者さんだけでなく私たちにとってもなじみ深いものです。電車やバスで座っている時や、足を組んで椅子でくつろいでいる時などに、背もたれを使っている方も多いのではないでしょうか。背もたれは、長い時間楽に座れるように作られたものであり、「後ろに傾く=背もたれに寄りかかる」からこそ、左右に傾きにくい座位がとれるのです。

ところで、介護現場にはなぜ背もたれを使わずに、左右に傾いている利用者さんがいるのでしょうか。理由は簡単。車椅子の背もたれが寄りかかりにくい構造だからです。一般的な普通型車椅子の背もたれは、座面に対して垂直になっており、角度がついていないため寄りかかるのに適していません。

工夫①:寄りかかりやすい背もたれを作る

また、多くの利用者さんの背中が丸みを帯びているのに対し、車椅子の背もたれは平面です。そのため、寄りかかると背中がフィットせずに違和感が出たり、背骨を圧迫して痛みや褥瘡の原因になったりすることもあります。それが原因で、左右に傾いている利用者さんも少なくありません。

工夫①:寄りかかりやすい背もたれを作る

そうした状況をなくすには、利用者さんが寄りかかりやすくなるように、車椅子の背もたれを利用者さんに合わせる工夫をしましょう。必要なのは《ロープ1本》だけです。車椅子の持ち手である左右のハンドルを近づけるようにロープで結ぶと、背もたれに曲面ができるため、平面の時よりも寄りかかりやすくなります。

工夫①:寄りかかりやすい背もたれを作る

工夫①:寄りかかりやすい背もたれを作る

利用者さんの背中の丸みに応じてロープを結ぶ強さを調整すれば、よりフィットする背もたれを作れます。その際は、利用者さんが快適に寄りかかれるように、薄手のクッションを設置すると良いでしょう。ただし、ロープを強く締めすぎると、フレームの部分が利用者さんの肩に接触したり、車椅子が破損する原因になったりすることもあるので注意が必要です。

なお、車椅子の中には、背中の張り調整機能が付属したモジュール型車椅子と呼ばれるものもあります。フット・アームサポートが取り外せる車椅子は、背もたれの調整もベルトで行えることが多いので、ぜひ利用者さんに合わせて活用してみてください。

工夫①:寄りかかりやすい背もたれを作る

2.工夫②:お尻が安定する座面を作る

座位が左右に傾く原因となるのは、背もたれだけではありません。座面の座りにくさも傾きに影響します。一般的な普通型車椅子の座面は折り畳みができるように、スリングシートという薄手のシートで作られています。スリングシートは成人男性が座っても問題ない強度ですが、薄手なため座るとたわみが生じます。このたわみが、左右に傾く原因となっているのです。

工夫②:お尻が安定する座面を作る

たわんだシートは、いわばハンモックのようなもので、健康な私たちでもお尻を左右対称にして座るのは簡単ではありません。座る位置が中心から少しずれただけで、お尻が左右非対称になり、その影響で上半身が傾きやすくなります。

また、シートの上は不安定なため、座る時に欠かせない坐骨(=骨盤の骨)で十分に体を支えられないことも、傾きに影響しています。座面に厚手のクッションを敷けば問題ないというシーティングの考え方もありますが、シートの上に柔らかいクッションを敷くとますます座面が不安定になってしまいます。その結果、座っている利用者さんは体を安定させようとしてアームサポートにつかまったり、体全体の緊張を過度に高めたりすることになり、拘縮の進行につながりかねません。

工夫②:お尻が安定する座面を作る

そうした場合は、安定した座面を作れるように、《木の板》を敷くという工夫を行いましょう。シートの上に丈夫な木の板を敷くことで、車椅子の座面は家具の椅子と同じような状態になり、座面のどの位置に座ってもお尻が左右非対称になりません。座面が安定すれば坐骨で体を支えられるので、過度な筋肉の緊張もなくなり、動きやすい車椅子になるはずです。

※詳しくは、こちらの記事内の「動きやすい座位を目指す」を参考にしてください。

工夫②:お尻が安定する座面を作る

工夫②:お尻が安定する座面を作る

木の板は、ホームセンターなどで手軽に購入できるベニヤ板が適しています。ただし、直接木の板に座るとお尻が痛くなるので、必ずクッションを使用してください。板のサイズは横30cm×縦40cmが基本です。板の厚さは、クッションの性能や利用者さんの体格にもよりますが、0.5cmからはじめると良いでしょう。それ以上薄いと、座った時に割れやすくなりからです。一方、1.0cm以上の厚さになると、座面の安定感が増す反面、利用者さんによっては硬さを訴えることがあるため注意が必要です。

工夫②:お尻が安定する座面を作る

木の板の作製や設置が難しい場合は、複数のダンボールを座面のたわみに合わせて台形に重ねたり、クッション自体をたわみに合わせて船底型に切り取ったりする工夫も有効です。また、福祉用具の車椅子クッションの中には、もともとの形状が船底型になったものもあります。

いずれの場合も利用者さんに座ってもらう前に職員が座り、座り心地や動きやすさはどうか、お尻が左右対称になりやすくなったかなどを確認してください。

工夫②:お尻が安定する座面を作る

工夫②:お尻が安定する座面を作る

※詳しくは、こちらの記事内の「利用者さんの車椅子に職員が座る」を参考にしてください。

まとめ

今回は、「座位が左右に傾く利用者さんに効果的なシーティング2選」をご紹介しました。2つの工夫を行うことで体の傾きを改善しやすくなりますが、利用者さんの中には体調が悪い、夜よく眠れていない、長く座りすぎて疲れている、お尻に褥瘡があるなど、車椅子以外の原因で傾いている方もいます。離床・臥床時間のバランス、ベッド上の姿勢、お尻や背中の皮膚状態などにも配慮しながら、より良いシーティングを目指しましょう。

●関連記事
車いす座位の崩れはどうすれば整うの?プロが教える3つのポイント

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