正しく理解してもらえる伝え方のコツ|人間関係をガラリと変えるコミュニケーション技術(3)
文/大谷佳子
ちゃんと伝えたはずのことが、相手に正しく伝わっていなかったとき、私たちは「コミュニケーションって難しい」と感じます。
でも、伝え方のちょっとしたコツを知っていれば、介護の現場でもありがちな「言った」「言わない」の行き違いや、「言いたいことが上手く伝わらない」という問題を解決することができます。
今回は、相手に正しく理解してもらえる伝え方についてです。
1.伝えるときは「相手本位」を意識する
伝えるときに重要なのは、自分が上手に話せたかどうかではなく、相手が正しく理解できたかどうかです。どのように伝えれば相手が理解できるのかを意識すると、相手本位の伝え方になります。
自分本位の伝え方とは
自分が言いたいことを、ただ思い浮かぶままに話すのは、自分本位の伝え方です。
特に、伝えたい内容を整理しないまま話すと、ダラダラとした長話にもなりがちです。このような伝え方では、聴き手から「何が言いたいかわからない」「何の話をしているの?」などと言われてしまうこともあるでしょう。
相手本位の伝え方とは
聴き手にストレスを感じさせることなく、わかりやすく話をするのが、相手本位の伝え方です。
相手本位に伝えるためには、聴き手の立場に立って、伝えるときの順序と表現を工夫することが必要になります。
2.伝えるときの順序
相手本位の伝え方になるように、ステップ1~3の順序を意識しましょう。
ステップ1:これから何を話すのかを宣言する
ステップ2:結論や大切なことを優先して伝える
ステップ3:最後に話を整理して、確認する
ステップ1:これから何を話すのかを宣言する
まず、これから何について話をするのかを、相手に"宣言"します。
例えば、「今から◯◯のことをお話します」「◯◯について報告します」などと伝えて、相手に話を聴く心の準備をしてもらいましょう。
この一言が、本のタイトルのような役割を担います。先にタイトルを見ることで、その本に何が書かれているのかを事前にイメージすることができるように、口頭で伝えるときにも、まず何について話をするのかを"宣言"するとよいでしょう。
「これから、〇〇についてお伝えします」などの一言から始めると、その後に続く話のわかりやすさがアップします。
ステップ2:結論や大切なことを優先して伝える
これから話す内容を"宣言"したら、次に、大切なことや結論を優先して伝えます。
心理学では「最初に提示された情報が最も強く相手の記憶に残る」と考えられており、これを初頭効果と呼びます。大切なことは最優先で伝えて、その後で、必要に応じて経緯や理由などの詳細を説明するとよいでしょう。
優先順位をつけずに細かくすべてを説明しようとすると、最も伝えたいことに到達するまでに時間がかかってしまい、聴き手から「結論から先に言って!」と注意されてしまうかもしれません。説明が長くなりやすい人は、話のゴール(大切なことや結論)を先に伝えることを意識してみましょう。
ステップ3:最後に話を整理して、確認する
一通り話し終えたら、最後に話を整理して、確認します。
例えば、ステップ2で「今回、〇〇をすることになりました。その理由は......」などと伝えたら、最後に「このような理由から、今回は〇〇になりました」と、もう一度大切なことを繰り返します。
自分ではちゃんと伝えたつもりでも、相手に強く印象づけることができないと、あとから「そんなことは聞いていない」などと言われてしまうかもしれません。心理学では「最後に提示された情報も強く記憶に残る」と考えられており、これを親近効果と呼びます。
初頭効果と親近効果、それぞれの効果が発揮されるように、大切なことは最初だけでなく、最後にもう一度伝えるとよいでしょう。
3.伝えるときの表現
相手本位に伝えるためには、聴き手が正しく理解できるような表現を使うことも大切です。
「誰が」「何を」するのかを明確に、具体的な表現を使って、短い文章で伝えることを心がけましょう。
・「誰」と「何」を明確に伝える
・具体的な表現を使って伝える
・短い文章で伝える
「誰」と「何」を明確に伝える
「誰」と「何」をはっきりさせると、伝えたいことが聴き手に正しく伝わります。
例えば、「今からやっておきます」「伝えておきました」などと、話し言葉では、「誰」や「何」が省略されがちです。「誰が」や「誰に」、そして「何を」が抜けた言葉足らずな伝え方では、相手はまったく違うことをイメージしてしまうかもしれません。
言葉を省略しても相手に伝わるだろうという思い込みは、誤解やトラブルの原因になることもあります。「今から、私がご家族に連絡します」「〇〇さんに、変更した日時を伝えておきました」などと、言葉を端折らずに言うことで、礼儀正しい、丁寧な印象にもなるでしょう。
記録や報告書などで情報を伝達するときは、5W1Hの6つを意識して書くと、わかりやすい文章になります。5W1Hとは、「いつ(when)」「どこで(where)」「誰が(who)」「何を(what)」「なぜ(why)」「どのように(how)」のことです。
しかし、口頭で伝えるときは、「誰が」や「誰に」、そして「何を」を明確にして、「いつ」「どこで」「なぜ」「どのように」は状況に応じて伝えるとよいでしょう。
Who | 誰が、誰に | 人、対象 |
---|---|---|
What | 何を、どんなことを | 内容、目的 |
+ 状況に応じて
When | いつ、いつまで | 時期、時間、期間 |
---|---|---|
Where | どこへ、どこで | 場所、位置 |
Why | なぜ、何のために | 目標、背景、理由 |
How | どのように、どうやって | 方法、手順 |
具体的な表現を使って伝える
聴き手に正しく伝えるためには、数字や数値、固有名詞で具体的に表現しましょう。
例えば、「しばらく、お待ちください」と言われたときに、「しばらく」という表現からイメージする時間の長さは人それぞれです。10分程度と思う人もいれば、もっと短い時間を思い浮かべる人もいるでしょう。このように、受け取る人によって解釈が異なる表現を"あいまいな表現"と呼びます。
あいまいな表現で伝えると、自分の意味する「しばらく」と、相手がイメージした「しばらく」が同じ長さの時間とは限らないため、トラブルを招く原因になります。
量の表現 「少し」「たくさん」「多め」「ちょっと」「多少」
サイズの表現 「大きめ」「小さめ」「長い」「短い」「高め」「低め」
時間の表現 「早く」「しばらく」「すぐに」「あとで」「ときどき」
程度の表現 「まあまあ」「そこそこ」「とても」「すごく」「かなり」
話のなかで、何かを示すときの「あれ」「これ」「それ」
そのほかにも「少し遅れます」「多めに準備してください」「早めにお願いします」などのあいまいな表現が口癖になっていると、正しく情報を伝えることができません。伝えたかったことと、理解されたこととの間にズレが生じないように、誰が聞いても共通に理解できる数字や数値、固有名詞を使った具体的な表現で伝えることが大切です。
あいまいな表現と具体的な表現(例)
あいまいな表現 | 具体的な表現 |
---|---|
「少し遅れます」 | 「5分ほど遅れます」 |
「多めに準備してください」 | 「20セット準備してください」 |
「早めにお願いします」 | 「本日15時までにお願いします」 |
「ときどき確認してください」 | 「30分おきに確認してください」 |
短い文章で伝える
聴き手に正しく理解してもらえるように、文章はなるべく短く区切り、簡潔に伝えましょう。
例えば、伝えたいことがいくつもあるときは、先に「お伝えしたいことは3つです」などとその数を示してから、「1つ目は......。そして、2つ目は......。」などと伝えます。
このように整理して話をすると、聴き手にとってわかりやすくなるだけでなく、話し手も伝えようとすることをもらさずに伝達することができます。
ただし、口頭のみで伝える場合、伝えることは3つまでに絞りましょう。4つ以上になる場合はメモなどを用意して、無理なく正確に伝わるように工夫するとよいでしょう。
まとめ