上手に共感できていますか?|人間関係をガラリと変えるコミュニケーション技術(7)
文/大谷佳子話を聴いた後の反応が、「そうですか」などのあいづちだけになっていませんか?
利用者さんは、介護職が自分の話をどのように受けとめたのかが気になっています。介護職が「そうですか」とあいづちを打つだけでは、利用者さんは話を聞き流されたと感じるかもしれません。「ちゃんと聴いてもらえた」という満足感をもっと高めるためには、介護職の共感的な言葉や態度が必要です。
今回は、上手に共感を伝える方法をご紹介します。
1.情動的共感と認知的共感
共感とは、相手と共に感じることです。
具体的には、利用者さんの喜びや悲しみを感じとり、その気持ちに温かく寄り添うことを意味します。
一般的に、共感というと"情動的共感"をイメージする人が多いようです。
情動的共感とは、相手に感情移入して、自分自身も同じ感情を抱いている状態のことです。目の前にいる利用者さんが悲しんでいるとき、その感情を自分の心で感じて、介護職自身も悲しくなってしまうのは情動的共感の例といえるでしょう。
それに対して、自分が相手と同じ気持ちになる・ならないにかかわらず、その人の抱いている感情を「今、この人は悲しい気持ちなんだ」と理解することを"認知的共感"と呼びます。
情動的共感 ・相手の感情を感受する ・自分も相手と同じ気持ちになる ・非専門家に多い感情移入 |
認知的共感 ・相手の感情を認知する ・自分の感情は置いておく ・専門家に求められる共感 |
利用者さんやご家族に感情移入できないときは、情動的共感をするのは難しいかもしれません。そのような場合でも、介護職として認知的共感をすることはできます。
介護の現場における共感には、相手の感情を自分のことのように感受できる素直さや優しさとともに、相手の感情を認知して、介護職として自分に何ができるのかを思考する冷静さの両方が大切といえるでしょう。
2.感情を理解するためには、ここに注目!
共感は、利用者さんの気持ちを理解しようとすることから始まります。
話を聴くときは、利用者さんの言葉や表情、語調にも注意を向けてみましょう。
注目ポイント1:利用者さんの言葉
利用者さんが使う言葉のなかで、特に、感情語や擬態語に注目します。 例えば、強い怒りの感情を抱いたときに「私は怒っているんだ!」と感情語で表現する利用者さんもいれば、「ムカムカする!」とオノマトペ(擬声語)を使って感覚的に表現する利用者さんもいます。
感情語とは、心の状態を表現する単語のことです。ポジティブな心の状態をあらわす感情語と、ネガティブな心の状態をあらわす感情語に分けることができます。
<ポジティブな心の状態をあらわす感情語>
嬉しい、楽しい、いやされる、好き、幸せ、感謝する、感動、満足、安心
<ネガティブな心の状態をあらわす感情語>
悲しい、寂しい、つらい、つまらない、嫌い、怖い、頭にくる、悔しい、心配、不安
擬態語とは、心の状態を言葉で表現したオノマトペのことです。
<擬態語:心の状態を表現するオノマトペ>
喜び・期待 ホッとする、ウキウキする、ワクワクする、ニコニコする
驚き ドキッとする、ギョッとする、ハッとする
不安・恐れ ヒヤヒヤする、オロオロする、ドキドキする
悲しみ ションボリする、ガッカリする、メソメソする
心配・後悔 クヨクヨする、モヤモヤする、ハラハラする
怒り ムカムカする、イライラする、カッとなる、ムシャクシャする
※オノマトペ(擬声語):「ワンワン」「ブンブン」などの動物や物の音をあらわした擬音語と、「ホッとする」「ウキウキする」など心の状態を表現した擬態語の2つの総称を、オノマトペといいます。
注目ポイント2:利用者さんの表情
話をしているときの利用者さんの表情にも注目してみましょう。
特に、目や口元の動きなどに、そのときの感情が表現されています。
<例>
嬉しいとき 笑顔(イキイキした目の印象+口角が上がっている)
悲しいとき 暗い表情(伏目がち+口の開け方が小さい)
怒っているとき けげんな表情(にらむ/視線を合わせない+口角が下がっている)
注目ポイント3:利用者さんの語調
利用者さんの声のトーンや大きさ、話す速度などにも、意識を向けてみましょう。
普段から利用者さんの話し方を観察して知っておくと、ちょっとした変化にも気づきやすくなります。
<例>
嬉しいとき 声のトーンは高め、少し大きめの声、テンポよく話す
悲しいとき 声のトーンは低め、小さな声でゆっくり、ボソボソと話す
怒っているとき 声のトーンは低め、大きめの声、荒々しく話す
※興奮しているときは声のトーンは高くなる
3.言葉・表情・語調が一致しないときは?
利用者さんの感情を理解するためには、言葉・表情・語調の3つのポイントがすべて一致しているか確認しましょう。
例えば、利用者さんが「嬉しい」と、明るい笑顔で、少し高めの声のトーンで言っている場合は、言葉・表情・語調のすべてから、利用者さんの喜びの感情が伝わってきます。
ところが、利用者さんの言葉と、表情や語調が一致していないこともあります。
例えば、利用者さんが「嬉しい」と言っていても、そのときの表情が暗かったり、声のトーンがいつもより低かったりした場合には、本心から嬉しいと思っていない可能性があります。このようなときは、言葉より、表情や語調に本音があらわれることが多いようです。
言葉だけで感情を判断しようとすると、表面的な理解になりがちです。言葉・表情・語調のすべてに注意を向けることを心がけましょう。
4.「よくわかります」では共感は伝わらない
利用者さんの気持ちが感じとれたら、利用者さんに共感を示しましょう。
ただ心のなかだけで一緒に喜んだり、悲しんだりするだけでは、介護職が共感していることが利用者さんには伝わりません。
では、介護職の共感を伝えるためにはどのような方法があるのでしょうか。
一般的に、「お気持ちはよくわかります」などの言葉が使われがちですが、この表現だけでは不十分です。安易に「よくわかります」と言われると、利用者さんは「何をどのように理解してくれたのだろうか」と、かえって不安な気持ちになってしまうこともあるからです。
「よくわかります」と伝える前に、「◯◯な気持ちだったのですね」「◯◯と感じたのですね」などと、利用者さんの気持ちを介護職が言語化して伝えましょう。これはコミュニケーション技法としての共感であり、共感的応答とも呼ばれています。
簡単にわかったつもりにならず、言葉で確認しながら、丁寧に利用者さんの感情を理解しようとすることが大切です。上手に共感するためには、「とても嬉しかったのですね」と相手の抱いた感情を言語化してから、「その気持ち、よくわかります」と理解を示すとよいでしょう。
5.言葉<以外>の方法でも共感を伝える
共感は、言葉だけでなく、介護職の表情や手の動きからも伝わります。
例えば、利用者さんが喜んでいるときに、介護職が笑顔で話を聴いてくれたら、利用者さんの喜びは倍増するでしょう。拍手やガッツポーズのようなジェスチャーも、利用者さんの喜びに共感していることを伝える効果的な方法です。
利用者さんが悲しんでいるときであれば、その人の背中や手の甲に優しく触れながら話を聴くのもよいでしょう。元気づけるつもりで笑顔を向けたり、明るく振る舞って励ましたりする前に、その人の悲しみに寄り添う共感的な態度で話を聴くことが大切です。
利用者さんにとって、自分の気持ちを理解してくれる、あるいは理解しようとしてくれる介護職は心強い味方です。利用者さんの心の支えになれるように、共感上手な介護職を目指しましょう。
まとめ
●共感とは、相手と共に感じることです。利用者さんやご家族に感情移入できないときでも、認知的共感をすることが大切です。
●利用者さんの気持ちを感じとることから共感は始まります。そのためには、相手の言葉・表情・語調に注意を向けてみましょう。
●上手に共感を伝えるためには、まず相手の抱いた感情を「とても嬉しかったのですね」と言語化します。それから、「お気持ち、よくわかります」などと理解を示すと効果的です。
参考文献
『対人援助の現場で使える 傾聴する・受けとめる技術便利帖』大谷佳子(翔泳社)
『マンガとイラストでユル~く学ぶ介護 利用者・家族の心をひらく「聴き方」「声かけ」のコツ』大谷佳子、大塚紗瑛(中央法規出版)
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