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仕事・スキル 介護職のスキルアップ 2024/05/30

#心理学ベースのコミュニケーション技術

クレームに上手に対応できていますか?|人間関係をガラリと変えるコミュニケーション技術(9)

文/大谷佳子 com_thumbnail.jpg

利用者や家族からのクレームには、よりよい介護を提供するヒントが隠れています。クレームに適切に対応することができれば、利用者や家族との信頼関係を深める機会にもなります。
とはいえ、思いがけずクレームを受けてしまったら、どうしたらよいのか戸惑ってしまう介護職も少なくないでしょう。クレームは、いつ、何に対して発生するかわかりません。日頃から、クレーム対応の基本的な知識を身につけておくことが大切です。

今回は、クレームに上手に対応するためのコミュニケーションを紹介します。

1.クレーム対応でやってはいけないこと

まずは、クレーム対応でやってはいけないことから確認しましょう。
対応する介護職に誠実さが感じられないと、相手の怒りを増幅させてしまいます。その結果、「なんだ、その態度は!」などと次のクレームにつながりかねません。
クレーム対応でNGなコミュニケーションには、次のようなものがあります。

笑顔で対応する

クレームを訴えている相手に、絶対にしてはいけないことがあります。それは、笑顔で対応することです。その場の雰囲気を和ませようとする意図があったとしても、相手は介護職の笑っている表情を見て「人をばかにしている」と誤解したり、「何がおかしいんだ!」と怒り出したりする可能性があります。

相手に合わせて大きな声を出す

相手が必要以上に大きな声で話すときは、気持ちが高ぶっている状態と考えられます。相手の話し方につられて介護職も大きな声を出したり、声を荒げたりすると、相手をますます興奮させてしまい、火に油を注ぐことになりかねません。

「そんなに怒らないで」となだめる

クレームを訴えている相手が怒りをあらわにしていると、つい「そんなに怒らないでください」などと声をかけてしまいがちですが、相手の感情を抑え込もうとするのはNGです。相手の心情に理解を示さず、ただ「怒らないで」となだめるだけでは、相手の怒りは収まりません。

「でも」「だけど」と言い返す

相手の発言のなかに事実と異なっていることや誤解があっても、すぐに反論することはやめましょう。相手が話し終わらないうちに、「でも」「だけど」と相手の言葉を遮ることは絶対に避けるべきです。特に、自分を正当化するような言葉は、それが事実であったとしても、相手には言い訳と受け取られてしまうでしょう。

黙っている

介護職が黙ったまま無反応で話を聴くと、相手は「ちゃんと話を聴いているのだろうか」という不安や不満を感じてしまいます。話に熱心に耳を傾けているときほど、話し手への反応が止まりがちになるので注意しましょう。

2.クレーム対応のポイント

では、クレーム対応をするとき、どのようなコミュニケーションを心がけたらよいのでしょうか。覚えておきたいポイントを5つ紹介します。

ポイント1:真剣な表情で対応する

顔の表情は、言葉以上に強いメッセージとなって、相手の感情に働きかけます。クレーム対応するときは、笑顔は控えて、相手と真摯に向き合っていることがわかるように真剣な表情で対応しましょう。

ポイント2:落ち着いた声のトーンで話す

同じ言葉でも、伝えるときの言い方や声のトーンによって相手に与える印象は変ります。
例えば、謝罪するときは、「すみませんでした」と声のトーンを落として控え目に伝えると、申し訳ない気持ちや反省する気持ちを言葉に込めることができます。「すみませんでしたぁ~」などの軽い口調や、ボソボソと抑揚のない単調な言い方では、心から謝っている印象にはなりません。

ポイント3:目の高さを合わせる

対面でクレームを受けたときには、「お話をお伺いしますので、こちらにどうぞ」とイスを勧めます。座ってもらうことで、相手も落ち着いて話をすることができます。このとき、介護職が立ったまま話を聴くと"上から目線"になり、相手は見下されているように感じてしまうので注意しましょう。相手と同じ目の高さになるように、介護職もイスに座るか、あるいは座っている相手のそばにしゃがんで話を聴くようにします。

ポイント4:「はい」とあいづちを打つ

相手の話をしっかりとうなずきながら聴きましょう。うなずきは、「あなたの話を聴いています」というサインになります。うなずきを基本にして、話の区切りに「はい」とはっきりとあいづちを打つと、相手の怒りを真摯に受け止めている印象になります。

ポイント5:相手の感情を否定しない

相手の怒りを鎮静化させるためには、その感情をきちんと受け止めることが大切です。「そんなに怒らないでください」と怒りを抑え込もうとしたり、「そんなに怒らなくてもいいじゃないですか」と相手の感情を否定したりすることは避けましょう。

3.クレーム対応の基本ステップ

クレーム対応の基本ステップは、謝罪、事態の把握、解決策の提示です。

ステップ1:謝罪

まず、相手の心情に理解を示して、謝罪の言葉をかけます。
怒っている理由が、明らかに介護職のミスによるものであれば、「ご指摘の通りです。申し訳ございません」と謝罪します。
責任の所在が未確認であっても、不快な思いをさせてしまった事実に対して、「不快な気持ちにさせてしまい、申し訳ございません」と謝ります。ただ「申し訳ございません」とだけ伝えると、ミスを認めたと解釈されかねませんので注意しましょう。

謝罪の言葉例
ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません。
ご不便をおかけいたしまして申し訳ございません。
お時間をとらせてしまい申し訳ございません。


ステップ2:事態の把握

次に、相手の言うことに真剣に耳を傾けます。
話を傾聴することで、相手に対して誠意を示すと同時に、事態の把握に努めましょう。このとき、起きた出来事だけでなく、怒りの背景にある事情にも耳を傾けることが大切です。
クレームの内容だけでなく、相手の感情にも意識を向けて共感的に傾聴すると、相手は「親身になって聴いてくれた」という印象を抱きます。

ステップ3:解決策の提示

事態が正確に把握できたら、解決策を考えて相手に提示します。
介護職が一人で対応できることであれば、その場で解決策を提示します。最後に、「ご指摘くださってありがとうございました」などと感謝の言葉を伝えると、好印象で会話を終えることができます。

感謝の言葉例
ご指摘くださってありがとうございました。
貴重なご意見をありがとうございました。
業務を見直す機会をいただき、感謝いたします。


クレームの内容によっては、職場で話し合ったり、責任者の対応が必要になったりすることもあります。対応困難なケースや理不尽なクレームは自分ひとりで解決しようとせずに、すぐに上司に報告して指示を仰ぐことが大切です。

まとめ

●クレーム対応では、笑顔と大きな声はNGです。「そんなに怒らないで」となだめたり、「でも」「だけど」と言い返したりすることも避けましょう。
●クレーム対応では、真剣な表情と落ち着いた声のトーンを意識すること、相手と目の高さを合わせること、相手の感情を否定しないこと、「はい」とあいづちを打つことを心がけましょう。
●クレーム対応の基本ステップは、謝罪、事態の把握、解決策の提示です。
●対応困難なケースや理不尽なクレームは、すぐに上司に報告して指示を仰ぎましょう。

参考文献
『対人援助の現場で使える 聴く・伝える・共感する技術便利帖』大谷佳子(翔泳社)
『マンガとイラストでユル~く学ぶ介護 利用者・家族の心をひらく「聴き方」「声かけ」のコツ』大谷佳子、大塚紗瑛(中央法規出版)

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大谷佳子(Yoshiko Ohya)

Eastern Illinois University、Honors Program心理学科卒業、Columbia University、 Teachers College教育心理学修士課程修了。昭和大学保健医療学部講師などを経て、2023年4月よりNHK学園社会福祉士養成課程講師。

大谷佳子の執筆・監修記事

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