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仕事・スキル 介護職のスキルアップ 2025/04/30

#インタビュー

認知症の利用者さんとコミュニケーションを取るコツは?「不思議な言動の理由」を把握する方法も紹介

取材・文/タケウチノゾミ 編集/イージーゴー iv250402_thumb.jpg

「認知症の利用者さんと、もっとスムーズにコミュニケーションを取る方法はないだろうか」と悩んでいませんか。認知症の方のなかには、毎日同じ時間にひとり歩きを始めるなど、理解しづらい行動を繰り返すケースも多く見られます。このような認知症の利用者さんの気持ちを汲み取るには、どのような点を意識すれば良いのでしょうか。2024年に『認知症の人、その本当の気持ち』を出版した、介護歴19年以上の介護部長たっつん氏に聞いてみました。

ーー認知症の利用者さんとコミュニケーションを取るために、意識すべきことを教えてください。

19年以上の介護職の経験から、認知症の利用者さんと接する際には、「ユマニチュード」という技法が効果的ではないかと考えています。ユマニチュードとは、フランス発祥の認知症のケア技法のことです。最近注目を集めているので、耳にしたことがある方も多いかもしれません。ぼく自身、ユマニチュードを書籍などで学び、日々の介護に取り入れてみたところ、認知症の方々と非常にコミュニケーションを取りやすくなったように感じています。簡単なものでは、まず以下のようなことを試してみるのがおすすめです。

<認知症の利用者さんと話す際に意識したいこと>

  • 用事がある時は笑顔で真正面から近づき、目線を合わせながらお名前を呼ぶ
  • 身体に触れるときは、できるだけ心臓や顔から遠い場所(手の甲や膝)から触る
  • 触る時や手を離す時は、飛行機の離着陸をイメージして、軽いタッチを心がける

認知症の方は、ずっと働いているスタッフの顔を認識できず、初めて会った人だと思っていることもあります。自分にとっては顔馴染みの利用者さんでも、相手がびっくりしないような対応を意識することがポイントです。

ーー確かに、利用者さんにとっては新たな出会いだと感じているかもしれませんよね。その他に、コミュニケーションのコツはありますか。

次の会話をスムーズにするために、ポジティブなイメージのまま離れることも重要な点の一つだと感じています。例えば、利用者さんから何かをお願いされたものの、忙しくて対応できないシーンを想像してみてください。この際に、笑いながら「ちょっと待っててくださいね」と言うと、利用者さんにポジティブなイメージを残すことができます。しかし、「さっきから待っててと言っていますよね!」などと怒鳴ると、マイナスなイメージだけが残ってしまうのです。

感情の記憶は死の直前まで消滅しないといわれているほど、その人が感じたことは記憶に残りやすいものです。マイナスなイメージのまま離れると、たとえ何を頼んだかは忘れても、利用者さんの心の中に怖いイメージが残ってしまいます。利用者さんがぼくの顔と名前を忘れても、「このお兄ちゃんを見たことがある気がする。なんだか優しい雰囲気の人だったような」と思ってもらえるように、常に明るく接するように気をつけていますね。

ーー認知症の利用者さんのなかには、よく理解できない言動を繰り返す方もいらっしゃいます。このような利用者さんには、どのように接するべきでしょうか。

とにかく時間をかけて寄り添うことが重要だと考えています。小手先の対応だけで、ひとり歩きや帰宅願望などの症状が治まることはほとんどありません。認知症の利用者さんのよく理解できない言動には必ず理由があるため、時間をかけて理由を解き明かすことが解決への近道です。「そんな時間はないよ」と思うかもしれませんが、もちろん現場で働いているスタッフだけでは手が回らないため、役職のあるスタッフが仕事を補佐する必要があります。なるべく時間を作って、その言動の背景を知るための情報収集に努めましょう。

一つ例を挙げて説明すると、ぼくが以前勤めていた介護施設では、毎日夜中の3時に起きてくる方(Aさん)がいらっしゃいました。Aさんにぐっすり寝ていただくために、寝る前の足浴や睡眠薬の服用など色々と試したものの、思ったような効果がなく、どの職員も原因が分からずに困っていたのです。そこで、入居前にAさんを担当していたケアマネジャーに話を聞くと、Aさんは長い間パン職人として働いており、毎日早朝に起きていたことが判明。それ以降は、Aさんが3時に起きても好きなように過ごしていただくようにしたところ、行動に落ち着きが見られるようになりました。

新しい方が入居される際は、なるべく生活歴をご家族やケアマネジャーから伺うようにしていますが、それだけでは十分な情報が揃わないことも多いものです。ぼく自身、「入居者さんがご自身の口で語った情報は宝物だ」と思いながら日々お話を伺い、出身地や若い頃の仕事内容などを把握した際は、些細なこともスタッフ間で共有するように心がけています。

介護士と老人

ーー利用者さんに昔のお話を伺いたいと思っても、話しかける方法が難しそうです。色々なことを聞くコツはありますか。

確かに、「いきなりお話を聞かせてください」と声をかけても、「なんでそんなことを言わなきゃいけないの?」となってしまいますよね。ぼくが利用者さんのお話を伺いたいと思った際は、なるべく自然な流れで会話するように心がけています。例えば利用者のBさんが暇そうにしていたら、「ちょっと疲れちゃったので一緒にお茶を飲んでいいですか?」などと言いながら隣に座ります。そして、「最近仕事が大変で......」と自分のことを話しつつ、「Bさんはどんなお仕事をされていたんですか?」と利用者さんに振ると、よろこんで話してくださる方が多いように感じています。話すのが得意ではない方もいらっしゃるとは思いますが、自分の話を聞いてもらったり、褒めてもらえたりするのは誰でも嬉しいものです。このような「人の話を聞くスキル」は様々な場面で役立つため、介護部の責任者になった時から強く意識しています。

ーー認知症の方は同じ話を何度もすることがありますが、その際はどのように会話を続けるようにしていますか。

認知症の方が以前と同じ話をした際は、次にお話されるであろうことを、ぼくが先回りして回答するようにしています。例えば、ある日Cさんから「私は香川県生まれで、金比羅さん(金刀比羅宮)の近くに住んでいたの」という話を聞いたとしましょう。そして、別の日にCさんがまた「私は香川県生まれで......」と話したら、「ひょっとして金比羅さんの近くですか?」とこちらから言ってしまうのです。すると、「なんで分かったの?金比羅さん行ったことあるの?」などと返ってくるので、「なんとなくそうかなと思って!ぼく、うどん食べに行ったことがあるんです」と会話を続けます。このように、以前聞いたことをあたかも知っているように言うと、会話がより盛り上がるように感じています。また、こちらの仕事が忙しい時に話しかけられても、話を早く切り上げられるというメリットもありますね。思いがけない話を聞けることもあるので、一度試してみてください。

ーー最後に、認知症介護に携わっている方にアドバイスをお願いします。

介護は一人だけで取り組める仕事ではありません。例えば、ある利用者さんがぼくだけに心を許してくれたとしても、自分が休んだら、他のスタッフはその方の対応ができずに困ってしまいますよね。そのため、ぼくが働いている施設では、利用者さんに関する情報は常にスタッフ全員に共有することで、誰もが同じ介護を提供できるように心がけています。スタッフ全員が同じ方向を向いて、利用者さんお一人おひとりに寄り添えるような環境を整えることが重要なのではないでしょうか。

「不安なことがあればすぐに相談できる」「体調が悪い際には無理せず休める」など、辛い時にお互いを支え合えるような関係を維持することは、認知症介護において欠かせないと考えています。認知症介護の現場ではイライラしてしまうこともあるかもしれませんが、入居者さんとコミュニケーションを取っていると、自然と笑顔になることも多いものです。また、利用者さんと話すことは、人生において大きな学びにもなるとも感じています。ぜひ、介護の仕事を一緒に楽しみましょう。

認知症の人、その本当の気持ち

認知症の人、その本当の気持ち
著:たっつん  出版社 : KADOKAWA 発売日 : 2024/2/21

プロフィール

たっつん氏

たっつん

介護の仕事を19年以上続けている現役の介護福祉士。主に特別養護老人ホームでの入居者の方々との印象深いエピソードをSNSにて発信し、多くの共感を得て人気となった。介護の仕事の面白さを伝えるために日々発信を続けている。
X アカウント:@tattsun_cw

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タケウチ ノゾミ(Nozomi Takeuchi)

ライター・編集者

福岡市在住のフリーライター・編集者。介護、医療、ビジネスを中心に幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は観劇と美術鑑賞、猫を揉むこと。

タケウチ ノゾミの執筆・監修記事

EGGO(イージーゴー)

イージーゴーは東京・九州を拠点にWEBコンテンツ、紙媒体、動画等の企画制作を行う編集制作事務所です。ライターコミュニティ「ライター研究所」も運営しています。

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