無口な人ともいい関係をつくれていますか?|人間関係をガラリと変えるコミュニケーション技術(6)
文/大谷佳子
会話でのコミュニケーション力を高めるためには、自分が話し手になる時間より、聴き手になる時間を増やすことが大切です。とはいっても、介護の現場では、自分から積極的に話をしてくださる利用者さんばかりではありません。
どちらかといえば無口で、いつも静かに過ごされている利用者さんに対しては、つい介護職が一方的に話しかけてしまいがちです。あるいは、どうにかして話をしてもらおうと、質問ばかりしてしまうこともあるでしょう。
今回は、無口な利用者さんとコミュニケーションをとるときのコツをご紹介します。
1.無口な人と接するときに大切なこと
口数の少ない利用者さんに対して、「どのように接していいのかわからない」と悩んでいませんか?まず、その利用者さんにとって、一緒にいて安心できる存在になりましょう。そして、相手のペースで少しずつ関係性を育んでいくことが大切です。
安心できる存在になる
利用者さんに限らず、私たちは見知らぬ人に対して警戒心を抱き、よく見かける人に対して安心感を覚えます。利用者さんにとって、一緒にいて安心できる存在になるためには、顔なじみになることから始めてみましょう。見慣れた介護職には親しみや好意を感じて、利用者さんも心を開きやすくなるのです。この現象を、心理学では単純接触効果といいます。
顔なじみになるために、口数の少ない利用者さんとの接触回数を増やしてみましょう。接触といっても、何か特別なことをする必要はありません。利用者さんに会釈したり、「今日は寒いですね」などと一言声をかけたりするだけでも十分効果があります。
ただし、たびたび顔を合わせることが、いつも肯定的な効果をもつとは限りません。会うたびに不愉快な気持ちにさせられる人に対しては、顔なじみになっても好意をもつことはないでしょう。利用者さんと顔を合わせたときは、明るい声と優しい表情で礼儀正しく接することで、よい印象を残すことが大切です。
プレッシャーをかけない
誰とでもすぐに会話を楽しめる利用者さんもいれば、打ち解けるまでに時間が必要な利用者さんもいるでしょう。介護職と会話をすることがプレッシャーにならないように、利用者さん1人ひとりのペースを尊重してかかわることが大切です。
口数の少ない利用者さんに、話すことを強引に促したり、次々に質問をして返事を求めたりするのは、利用者さんのペースではなく、介護職のペースを優先した接し方といえます。あるいは、なかなか話をしてくれないからといって、介護職が自分の話ばかりをしてしまうと、その話を聴き続けることが利用者さんの負担になるかもしれません。
口数の少ない利用者さんが、「無理に言葉を交わさなくても、この人とは安心して一緒にいることができる」と思えるような関係性を育んでいきましょう。
2.無口な人とのコミュニケーションのコツ
積極的に会話をすることだけが、コミュニケーションではありません。口数の少ない利用者さんには、余計なプレッシャーや負担を与えないように配慮しながら、寄り添うようなコミュニケーションを心がけましょう。
明るい声で挨拶を続ける
挨拶は、利用者さんと好意的にかかわろうとする介護職の気持ちを伝えます。「〇〇さん、おはようございます」と利用者さんの名前を呼んで、明るい声で挨拶しましょう。
挨拶が丁寧で、感じがいいと、それだけで「話しやすそうな人」という印象を抱いてもらうことができます。逆に、挨拶が雑だったり、おざなりだったりするだけで、「この人とは話をしたくない」という気持ちにさせてしまうこともあるので注意が必要です。
口数の少ない利用者さんの場合、挨拶をしても反応が返ってこないこともあるかもしれません。「無視されたのかな」と不安になっても、自分から明るく挨拶することを続けてみましょう。「いつも感じよく挨拶してくれる人だ」と認識してもらえるようになると、また一歩、心の距離が近づきます。
1対1の機会をつくる
口数の少ない利用者さんとは、1対1になる機会をつくりましょう。大人数での会話が苦手でも、介護職と2人でいるときなら話しやすくなるかもしれません。
複数の利用者さんと同時にコミュニケーションをとろうとすると、積極的に話をする人がその場の中心になり、無口な利用者さんはますます黙ってしまいがちです。そのような場面で話をすることを促すと、プレッシャーを与えてしまう可能性もあるので注意しましょう。
対面法より並行法で座る
口数の少ない利用者さんと1対1で話をするときは、向き合って座る対面法より、利用者さんの隣に座る並行法のほうが適しています。
対面法で座ると、常にお互いの顔が見える位置関係になります。口数の少ない利用者さんは、正面から介護職に見られている状態が続くと、視線のやり場に困ってしまい、緊張してしまうかもしれません。

並行法で座ると、利用者さんの視界に介護職が入らないため、すぐ隣にいてもプレッシャーを与えません。利用者さんと並んで座り、一緒にTVを見たり作業をしたりしながら、言葉を交わすのもよいでしょう。

※並行法は「並列法」「平行法」とも呼ばれています。
なお、利用者さんの斜め45度の位置に座る直角法は、一般的に、リラックスして話をするときに適した座り方です。対面法で座ったときと比べて、視線を合わせたり、自然にそらせたりしやすいので、お互いに緊張しないで話をすることができます。

話しやすい雰囲気をつくる
「無理に話さなくてもよい」と感じられる雰囲気こそが、口数の少ない利用者さんにとって話しやすい雰囲気といえます。どうにかして会話をしようとするのではなく、「話しても話さなくても、どちらでもいい」と感じてもらえるような接し方を心がけましょう。
利用者さんに声をかけたとき、すぐに返事がなくても焦らずに、相手の言葉を待ちます。待っている間、さりげなく利用者さんの様子を観察してみましょう。困ったような様子や警戒している素振りが見られたら、無理に会話を続けようとしないことも大切です。
クローズド・クエスチョンで話しかける
口数の少ない利用者さんに話しかけるときは、深く考えなくても答えられるクローズド・クエスチョンを使ってみましょう。
クローズド・クエスチョンとは、「飲み物をお持ちしましょうか?」のように「はい」か「いいえ」で答える質問のことです。回答する範囲が限定されているため、返事をすることが負担になりません。
ただし、クローズド・クエスチョンを連発すると、聞き取り調査のようなやりとりに終始しがちです。クローズド・クエスチョンで会話のきっかけをつかんだら、「飲み物は何がよろしいですか?」などと、自由に答えてもらうオープン・クエスチョンも使ってみましょう。
利用者さんが話を始めたら、どのような内容であっても少しだけ身を乗り出して耳を傾け、しっかりうなずきながら聴きましょう。それがひとこと、ふたことであっても、ちゃんと受けとめようとする介護職には、利用者さんも心を開き、「また話をしてみようかな」と思ってくれるはずです。
まとめ