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ニュース 医療介護最新ニュース 2021/07/14

#介護サービス#介護事業#骨折#骨盤

骨盤骨折[私の治療]福島県立医科大学外傷学講座 澤口 毅 教授

介護のみらいラボ編集部コメント

骨盤は仙骨と左右の寛骨が前方と後方で結合し、骨盤輪を形成しています。
骨盤骨折にはその骨盤輪の断裂を伴わないものと伴うもの(骨盤輪骨折)とがありますが、断裂を伴う場合は大きな力が加わった時が多く、大出血を伴うことも少なくありません。

骨盤は仙骨と左右の寛骨が前方では恥骨結合,後方では左右の仙腸関節において靱帯性に強固に結合して安定した骨盤輪を形成している。骨盤骨折には骨盤輪の断裂を伴わないものと伴うもの(骨盤輪骨折)とがある。前者には筋付着部の裂離骨折,腸骨翼骨折,仙骨横骨折などがある。後者は大きい外力が加わって発生し,多発外傷に伴いやすく,大量出血による出血性ショックを伴うことも少なくない。発生機序は前後方向,側方,垂直剪断,もしくは側方+垂直剪断によって生じる。骨盤輪骨折の約60%は多発外傷に伴って発生し,また多発外傷中約20%に骨盤輪骨折を伴っている。

▶診断のポイント

骨盤輪の断裂の有無,断裂の部位をX線骨盤前後,inlet,outlet撮影およびCT像にて診断する。診断にはYoung-Burgess分類が有用である。また,大量出血を伴うことが少なくないため,循環動態の評価は不可欠である。神経損傷の有無を評価することも重要である。

▶私の治療方針

【保存療法】

骨盤輪の断裂を伴わない骨折は,疼痛が軽減するまで床上安静をとった後(1~2週),徐々に荷重歩行を行う。通常2~4週を要する。

【手術療法】

骨盤輪骨折では,受傷初期には出血対策を中心とした救命治療を行い,全身状態が安定した後は,骨盤輪の安定性を獲得することが必要である。

〈受傷初期〉

骨盤輪骨折では,出血のコントロールと骨盤輪の安定性獲得が重要である。出血対策としては十分な輸液,輸血以外にシーツラッピング,骨盤ベルト,創外固定や動脈塞栓術が用いられる。シーツラッピング,骨盤ベルトともに骨盤輪を締めることにより出血抑制効果がある。創外固定は,骨折部を整復固定することにより骨折部からの出血を抑制し,骨盤輪を安定させる。動脈性出血には動脈塞栓術を行う。しかし,出血の多くは静脈由来であり,血行動態が安定しないときには,小骨盤腔内にガーゼパッキングを行う。その際には,創外固定により骨盤を安定させておくことが重要である。

〈回復期〉

骨盤輪骨折では,早期離床を図り,変形のない安定した骨盤輪を再建する必要がある。固定法は,受傷機転と損傷部位により選択する。

前後方向の圧迫により生じる恥骨結合離開は,転位が大きい場合には創外固定かプレート固定を行う。側方よりの圧迫によるものは多くの場合,骨盤後方部分が噛み込んで安定しており,通常は固定を必要としないが,回旋不安定性がある場合には,プレートとスクリューによる固定を行う。垂直剪断による骨折は不安定で,骨盤前方のみの固定では十分な固定性を得ることはできず,骨盤後方部の内固定が不可欠である。

▶治療の実際

【部位別の治療】

〈恥骨結合離開〉

恥骨結合の離開が大きい場合には,創外固定または恥骨結合のプレート固定を行う。恥骨結合のプレート固定は,恥骨結合よりやや近位の横皮切にて,プレートを腹直筋後方で恥骨の上面に当てて固定する。

〈恥骨骨折〉

恥骨単独の骨折は,内固定を必要としない。骨盤後方の骨折に合併する恥骨骨折は,内固定を行うことにより骨盤輪の安定性が向上する。固定は恥骨結合よりやや近位の横皮切にて,プレートを恥骨上枝の上面に当てて固定するか,恥骨結合のやや遠位より経皮的に恥骨上枝内でスクリュー固定する。

〈腸骨骨折〉

腸骨骨折は垂直剪断骨折に伴うことが多く,骨折線は坐骨切痕から腸骨稜に向かって走行している。手術は腸骨稜に沿う皮切で,腸骨内面から腸腰筋を剝離して内側からプレートによる固定を行う。あるいは腸骨稜の内板と外板の間および下前腸骨棘やや外側より下後腸骨棘に向けてスクリューで固定する。

〈仙腸関節脱臼〉

牽引により整復が得られれば,X線透視下に腸骨外板より第1もしくは第2仙椎椎体に向けてスクリュー(iliosacral screw)で固定する。この方法は,仰臥位で経皮的に行えば少ない侵襲で固定できるので,多発外傷や胸腹部損傷を合併している場合に有用な方法である。しかし,スクリューの刺入できる安全領域が狭いので,良好な整復が得られており,かつ透視下に骨の形態がよく確認できることが不可欠である。牽引で整復が得られない仙腸関節脱臼や脱臼骨折には,腸骨稜に沿う皮切で腸腰筋を剝離し,前方より仙腸関節を整復してプレートで仙骨翼側と腸骨側をまたいで固定する。骨盤前方の固定が同時に可能なことが利点である。

〈仙骨骨折〉

仙骨孔およびその外側の骨折では,上述のiliosacral screwを椎体もしくは椎体を越えて仙骨対側まで挿入し固定するか,腹臥位にて後下腸骨棘レベルでの横皮切または後上腸骨棘外側両側の縦切開にて,プレートを両側腸骨後方に橋渡しして固定する。骨盤輪骨折では後方部の損傷が強く,皮膚が皮下で剝離して血行が不良になっている場合がある(Morel-Lavallee lesion)。その際には,後方の大きい切開は皮膚壊死をきたす恐れがあるので,この方法は選択できない。仙骨両側骨折に対しては,脊椎インストラメンテーションを用いて,下位腰椎と腸骨後方にペディクルスクリューを刺入し,これをロッドで連結して固定する。

【後療法】

術後の体位交換は自由とし徐々に起坐を行う。患側の荷重は骨折型と内固定法により決める。安定型では約1~2週,不安定型では約4~6週より開始する。両側例ではさらに遅くする。

▶偶発症・合併症への対応

骨盤輪骨折では内臓損傷,尿道断裂や膀胱破裂,神経損傷を伴うことが少なくない。また,DlC,脂肪塞栓を併発することも少なくなく,厳重な全身管理が必要である。臥床期間が長くなると,深部静脈血栓を伴いやすい。

予後は,骨盤輪の転位が少ない場合は良好である。転位のある骨盤輪骨折では,後遺障害として変形治癒に伴う疼痛,下肢短縮,回旋変形,坐位での姿勢異常,排尿障害,性交障害や神経損傷による知覚・運動障害などの後遺症が少なくない。解剖学的整復を得ることにより,疼痛や機能障害を少なくすることができる。

【参考資料】

▶ Tile M:Fractures of the Pelvis and Acetabulum. 3rd ed. Tile M, Helfet D, et al, ed. Lippincott Williams & Wilkins, 2003, p130-67.

▶ Tile M, et al:Fractures of the Pelvis and Acetabulum:Principles and Methods of Management. Vol.1. 4th ed. Georg Thieme Verlag, 2015, p1-423.

澤口 毅(福島県立医科大学外傷学講座教授,新百合ヶ丘総合病院外傷再建センター骨盤・関節再建部長)

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出典:Web医事新報

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