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ニュース 介護業界ニュース 2021/03/02

#インタビュー#介護福祉士

日本介護福祉士会会長 及川ゆりこさんに聞く(2)「忘れられないご利用者と介護福祉士のやりがい」

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日本介護福祉士会会長が語る、自分の中の介護のやりがい

介護のみらいラボ編集部コメント

感染者ゼロにはならないまま、長期化する "withコロナ"の時代。
「施設内に1~2人くらいは感染する方が出ても仕方ないという心構えでのぞんでほしい」 ―――大曲貴夫先生から第1回目にいただいたアドバイスです。どんなに感染対策にしっかり取り組んでいても、感染のリスクはゼロにはなりません。インタビュー最終回は「もしかしたらあのご利用者(職員)は新型コロナかも?」、そのとき介護職はどう対応すればよいのか、アドバイスをいただきました。

日本介護福祉士会会長が語る、自分の中の介護のやりがい

解説/公益社団法人日本介護福祉士会 及川ゆりこ会長(認定介護福祉士/介護支援専門員)
取材/中保裕子(医療ライター)

及川会長は介護現場の1職員から老健、訪問介護、サ責、ケアマネ、特養施設長・法人取締役まで歴任されています。これまで28年間わたって介護に携わる中で、一度も辞めたいと思ったことはなかったそうです。それほどまでに及川さんをのめりこませた介護の仕事の魅力について話を聞きました。

(2021年2月現在)

病院のケアワーカーとして介護の仕事に飛び込む

及川会長が介護の仕事に飛び込んだのは、今から28年前のこと。結婚・出産を機に医療界で仕事をしたいと思い、子育てと両立できる仕事を探して病院を訪れていたときに、たまたま目にとまったのが「ケアワーカー募集・託児所あり」というポスターでした。

「ケアワーカーの仕事もよくわからないまま介護の世界に入りました。現場では何も教わらないままいきなり陰洗ボトルを渡され、患者さんのおむつ交換をするよう指示されて驚きました。子どもの世話でおむつ交換には慣れていたとはいえ、小さな赤ちゃんと大人の患者さんとでは必要な力も全く違います。私は比較的体が大きい方で力もそれなりにあったので、単純にこうしたケアを"作業"として行うことは何とかできました」

目の前の患者さんのケアに必死に取り組みながら、及川会長には「これでいいのだろうか」という疑問が湧いてきました。

「たとえば、関節の拘縮や屈曲がある重症の方のケアをするときに力任せにするわけにいきません。こういう時にはどうすればいいのだろう、と悩んでいたときに、同室で働いていた師長さんが声をかけてくださったんです。
及川さん、もう少しケアの方法を専門的に学び、身につけるといいよ』。
そして、勉強する機会もいただきました。技術が向上しなければ、ケアを受ける方に痛い思いをさせてしまう。そう思って勉強を重ねてきました。チャンスを作ってくださった当時の師長さんには、今でも感謝し、尊敬しています」

以来、介護福祉士の国家試験や認定介護福祉士の試験と、数々の目標にチャレンジするたびに知識を増やし、自分の専門性を高めてきました。その中にはリハビリテーションや、看護の専門知識も含まれています。

専門的な知識を身につければ、リハ職や看護師など自分とは異なる専門性をもった他の職種とある程度の会話ができるようになります。看護師にも『こういうふうにしたいのだけど、何か良い方法はないでしょうか』と問いかけることができるようになりました。ヒューマンエラーは介護職員だけでなく、医療職にだってあります。ある程度の専門知識があれば、医療職にも『ここ、こうした方がいいんじゃありませんか?』と指摘して、事故を未然に防ぐことにもつながります。良質の知識をもつことで、質の高い介護が提供できるのです。介護職員の皆さんに、それを味わっていただきたいですね」

管理職を経て、再び現場の介護職員へ

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過去のご利用者を思い出し笑顔になる及川会長

介護の仕事を始める前は、常に「面白い!」と思える仕事を探していたという及川会長。意外なことにひとつの仕事を長く続けてはいませんでした。それが、介護の仕事を始めてからの28年、気づけば夢中で取り組んでいました。

「夫にも『やめたい、と言わなくなったね』とよく言われています(笑)。続けて来られた原動力はやはり利用者との関係性だと思います。自分たちがケアをしていくことで利用者の生活が変わっていくんですね。たとえば一人暮らしで体力が低下し体重が減少していた方に調理支援で入ると、だんだん体力がつき、薬も定期的にのめるようになり、ADLが向上するといった変化がありました。一方、終末期を迎えたとき、在宅で亡くなられた方は笑っているような安らかなお顔で、病院で亡くなる方とは全く違うと感じられた経験もあります。そうした経験をするたびに「すごい!介護ってすごい仕事だなあ」と思いました。訪問看護師などの専門職と連携をとりながらケアしていくと、ある程度その利用者が求めている生活に近づけることができます。それを体験するたびにやりがいを感じていました」

――管理職として介護施設を運営するお仕事ではいかがでしたか。

「実際、失敗も多かったのです。サ責(サービス提供責任者)時代は、うまく行っていると思っていた介護チームが実はバラバラだったこともありましたし、泣きながら職場を去っていく介護職員を目の前にしたこともありました。自分が管理職として何がいけなかったんだろうかと考え、改善できることを模索して、徐々にチームが上手く回り始めるということも経験しました。施設長を務めた10年間は、施設の立ち上げでもあったのでとても楽しかったのですが、反面、私自身は現場の介護が出来なくなってしまいました。管理職として数字のことばかり考えるのは性に合わないと思い、現在はまた実践する立場も手にしました。今はすごく楽しいです。私は本当に現場が好きなんです

介護しているはずの自分が、利用者に癒されていた

及川会長の仕事への原動力である「ご利用者」。なかでも今も忘れられない3人のご利用者がいらっしゃいます。
その一人は、一流企業を定年退職後要介護状態となった御夫君を奥様がご自宅でかいがいしく介護していたIさんご夫妻です。

「ある時、奥様に言われたのです。『定年後はゆっくり二人で旅行しようと主人と話していたのに、もうできなくなってしまった。及川さん、忙しいかもしれないけど、定年を待たず、行きたいと思ったときこそ旅行に行きなさい』。私を"訪問介護スタッフ"ではなく、一人の人間としてアドバイスしてくださったんです。それは、私が御夫君を単に"利用者"ではなく、人として敬意をもってお世話していたことが通じたからこそだと思います。うれしかったですね」

もう一人は、一人暮らしをしていた女性経営者Kさん。入浴は一人でされるのですが、認知症が進み、何着も着替えを用意してやっと入浴したかと思うと、洗髪と洗身を繰り返していました。及川会長は心配しながらもKさんの気分をこわさないよう「お湯加減はどうですか?」などと声をかけて安全を確認し、信頼関係を作っていきました。

「毎回お伺いするたびにKさんが『及川さん、お子さんは何人?』とお聞きになるんです。私が『中学と大学です』とお答えすると、必ず『そう、今は一番お金がかかる時期だけど、そこを過ぎれば明るい未来が待っているわよ』と励ましてくださるのです。ある時は『及川さん、介護職員も大変でしょう、私の会社に入ればいいじゃない』って。私はKさんの生活を本当に心配しているけれど、利用者であるKさんも私のことを心配してくれている。そのことに気づかされて、むしろ私の方が癒されながら支援をさせていただいていました」

3人目は、終末期の訪問介護を担当したRさん。誤嚥から呼吸困難を起こしチアノーゼとなったとき、及川会長の人工呼吸が奏功して意識が戻ったという経緯があります。いよいよ最期の時が近づき、及川会長がいつものように介助に伺うと、Rさんのお子さんたちが遠方からも駆けつけて揃っていました。

「最期かもしれない排泄介助をした後のことです。同居されている娘さんが居並ぶご兄弟に『及川さんにはとてもよくしていただいたのだから、あなたたちからも御礼を言いなさい!』とおっしゃったのです。そして、Rさんが静かに息を引き取られる瞬間まで、ご兄弟といっしょに同席しました

コロナ禍でもできるだけ質のよい介護を提供したい

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コロナ下の介護について真剣に語る及川会長

訪問介護の現場でケアに携わっていると、新たな問題に気づくことも。及川会長は「明らかに独居や高齢者夫婦のみのご家庭が増えている」と感じています。実際、 内閣府の「高齢社会白書(平成29年版) 」によると、65歳以上の高齢者のいる世帯のうち、約6割が独居か、高齢者のみの世帯です。及川会長が気になるのは、そうしたご家庭の食事の問題です。

「以前はヘルパーがご自宅で調理介助を行っていましたが、現在は配食サービスの利用が主。それがご利用者にとって食事の量が適量なのか、という検討が必要だと感じます。量が少なければ体力は低下してしまい、要介護状態を作り出してしまうことになりかねません。配食は3度の食事の代わりだけではなく、体力を維持できるだけの栄養マネジメントという発想が大切ではないでしょうか。今後、まず私の地元の静岡で管理栄養士さんと協力して実態を検証し、その上で行政にも考えてもらおうと思っています」

一方、施設介護の現場では、新型コロナウイルス感染症対策という新たな問題が生じています。 「コロナの収束にはまだ時間がかかりそうなのは、皆さんも感じておられることと思います。施設によっては、介護職員自身も地元の市町村から出てはいけない、県を越えるときには許可がいるなどの制約を受けていますが、何より負担が大きいのは、ご利用者にいろいろな制限を強いなければいけないことだと思います。
家族との面会禁止は、質の良い介護を行う観点からは断固拒否したいところです。しかし、コロナ下では利用者の命、健康を第一に考える上で、感染が広まっている地域でのオンラインやガラス越しでない対面面会の制限は採らざるを得ない施策です。
それでも孤立によって悪化が懸念される認知症の方や終末期に入った利用者に、家族という役割の人たちにどのようにして関わっていただくか、考えていかなければなりません」

次回はこれからの介護職員の働き方について、お話をうかがいます。

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