嚥下食対応のレストランや 1500件以上の医療機関が掲載|摂食嚥下リハビリの専門家が作成した「摂食嚥下関連医療資源マップ」に注目
高齢化が進む現在、高齢者の摂食嚥下(えんげ)障がいが注目を集めています。しかし嚥下障がいに関する情報はまだ十分ではなく、「嚥下機能に問題のある家族がいるけれど、どこに相談したら良いかわからない」「外食がしたくても、嚥下食に対応しているレストランがない」などで悩む方々が存在するのが現状です。
このような悩みの解決のため、全国の嚥下食対応の飲食店や医療機関を一度に確認できるWebサイト「摂食嚥下関連医療資源マップ」が2015年に公開、現在も継続して運営されています。サイトの制作者であり、東京医科歯科大学 摂食嚥下リハビリテーション学分野教授の戸原玄先生に、マップの概要や制作背景について聞いてみました。
1.摂食嚥下関連医療資源マップとは?
――「摂食嚥下関連医療資源マップ」の概要を教えてください。
摂食嚥下に携わる全国の医療機関や、嚥下食に対応した飲食店などの情報が掲載されたWebサイトです。高齢者の摂食嚥下・栄養に関する地域包括的ケアについての研究の一環として、2015年に公開しました。情報の追加やアップデートを繰り返し、2024年現在は約1700の医療機関と、約100の飲食店が掲載されています。
なお、掲載医療機関は都道府県や住所で絞り込めるだけでなく、嚥下訓練や嚥下内視鏡検査、嚥下造影検査の対応可否などの情報も確認できます。また、登録飲食店はバリアフリーや個室の有無、吸引機の持ち込みの可否まで、詳細な情報を掲載しています。
2.マップの作成に至った経緯
――マップの作成に至った経緯をお聞かせください。
「摂食嚥下障がいの患者さんにとって、役立つ情報をまとめたい」と考えたことがきっかけです。そもそも、摂食嚥下に関する情報は他の疾患と比べて入手しづらいうえに、何科を受診すれば良いのかも分かりづらいと言えます。嚥下と聞くと耳鼻科を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、「普段花粉症で受診している病院に行って、本当に嚥下の相談ができるのだろうか」と悩んでしまう方もいらっしゃるでしょう。
このような理由から、患者さんやご家族が摂食嚥下に関する相談をしたいと思われた際に、自宅近くの病院をすぐに探せるサイトを作ろうとの考えに至ったのです。そして、ただ単に医療機関を検索できるだけでなく、外食を楽しめる場所も知って欲しいとの思いから、嚥下食に対応した飲食店も掲載することを決めました。
マップには医療機関や飲食店だけでなく、訪問診療(在宅・施設)にて、インプラントの問題に対応可能な医療機関の情報も掲載されている
3.登録者数増加に向けた活動
――マップには北海道から沖縄まで、日本全国の医療機関や飲食店が掲載されています。現在掲載されている医療機関や飲食店は、どのように見つけたのでしょうか。
徐々に口コミが広まっていって、現在は主に紹介によって登録医療機関や飲食店数が増えています。しかし、知名度が低かった頃は当然ながら登録者数が少なかったため、サイトの二次元コード入りの名刺を多方面に配布して、登録をお願いする作業を続けていました。
また、サイトがオープンしたばかりの頃は、700人ほどの医療関係者が集まるシンポジウムでマップの紹介をして、一度に数百件の医療機関の情報を登録していただいたこともありましたね。他にもメディアに掲載されたことをきっかけに、登録者数が増加したこともあります。摂食嚥下障がいをお持ちの方のために、今後もマップの知名度を高めていきたいと考えています。
4.運営面における苦労
――マップの制作にあたり、特に大変だったことを教えてください。
もちろん、ゼロから登録を増やしていくことは簡単ではありませんでしたが、それよりもサイトの運営面における苦労が多かったと感じています。当マップは厚生労働省からの研究費によって運営をスタートしたものの、研究費は継続的に受け取れるものではないため、公開から数年が経過した頃には自分たちで運営資金を捻出する必要が出てきました。
そこで、さまざまな企業に声をかけてスポンサーになっていただくことで、なんとか現在までサイトの公開を続けられています。自分たちの力だけでの継続は難しかったため、多くの方のご協力によって現在のサイトがあると感じています。
5.マップの活用により可能な限りの自由を探求していただけたら
――摂食嚥下障がいをお持ちの方や、ご家族からの反応はいかがでしょうか。
たくさんの方に情報を活用していただいているようで、本当に嬉しく思っています。特に飲食店についての感想が多く寄せられており、「今まで家から出られないと思っていたけれど、行きたいと思うところが見つかった」「また次に行くお店を探している」などの声もいただいています。
摂食嚥下障がいをお持ちの患者さんは、医師から安静を求められたり、十分に注意して食事をするように声をかけられたりすることが多いため、新しいことにチャレンジする気力を失っている方もいらっしゃいます。飲食時の制限がなくなる訳ではありませんが、マップの活用により可能な限りの自由を探求していただけたらと考えています。
6.今後の展望
――「摂食嚥下関連医療資源マップ」について、今後の展望をお聞かせください。
現在考えていることは大きく2つあります。1つ目は、デザイン面のリニューアルです。現在のマップはただ全国の情報を載せているだけなので、もう少しデザイン面を工夫して、より見やすいサイトにしたいと思っています。
2つ目は、海外の情報も掲載することです。摂食嚥下障がいをお持ちの方は海外にもいらっしゃるため、日本以外の国の情報を掲載することも検討していますが、日本以外の情報掲載は必ずしも自分が行う必要はないとの思いもあります。それぞれの国で同様のマップができれば、助かる方はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。より役立つサイトになるように、今後も情報の更新やアップデートを続けていく予定です。
戸原 玄(とはら はるか)
1997年東京医科歯科大学歯学部歯学科卒業。藤田保健衛生大学医学部およびジョンズホプキンス大学医学部に留学後、東京医科歯科大学大学院卒業(歯学博士)。
2008年日本大学歯学部准教授を経て、2020年より現職。日本老年歯科医学会理事、日本摂食嚥下リハビリテーション学会理事、Patient Doctor's Network理事などを務め、日本医療研究開発機構「高齢者の摂食嚥下・栄養に関する地域包括的ケアについての研究」、厚生労働科学研究費補助金「地域包括ケアシステムにおける効果的な訪問歯科診療の提供体制等の確立のための研究」、東京都と大学の共同事業「インクルーシブフードの開発と普及」,などを歴任。
摂食嚥下障害、在宅訪問診療などに力を入れている。著書に「食べることの意味を問い直す」、「老いることの意味を問い直す」(クリエイツかもがわ)。
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