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高齢者レクリエーション 高齢者レクリエーションのノウハウ 2023/02/15

#認知症ケアの現場から

認知症がある利用者さんに集団レクを行うポイント~司会進行編~|認知症ケアの現場から(4)

文・写真/安藤祐介 3.jpg

認知症ケア歴10年以上の作業療法士が自身の経験に基づき、認知症がある利用者さんに集団レクを行う時のポイントを、環境作り・司会進行の2回に分けて解説しています。

前回の『~環境作り編~』では、質の高いレクを行うには内容以上に環境作りと司会進行が大切であることを説明し、環境作りに関する10のポイントをお伝えしました。改めて環境作りのポイントをおさらいしましょう。

1.席の間隔を狭める...利用者同士の距離が近いほうが一体感が高まる
2.反応が良い利用者を前列へ...前列に活発な方がいると後列の方が模倣しやすい
3.利用者同士の相性を考える...好みの方と隣り合っていたほうが場を楽しめる
4.リスクがある利用者は一か所に...職員の目が行き届きやすくなり事故防止になる
5.尿意への対応...頻尿の方の席に配慮し全体の集中が途切れないようにする
6.周囲の音を消す...不要な音を消すことで職員の声が聞き取りやすくなる
7.誘導の順番...リスクが高い方は、開始時は最後に誘導、終了時は最初に誘導する
8.開始・終了時には音楽をかけておく...一斉に動き出すリスクが減る
9.司会進行を担当する職員は一名...周囲の職員はサポート役に徹する
10.馴染みがある職員が行う...レクはその場の楽しさ以上に日々の介護に役立つ

まだ読まれていない方は、先に環境作り編から目を通すとより学びが深まります

今回はこれを踏まえた上で、職員が集団レクを司会進行する時のポイントを10個解説します。

集団レクを司会進行する時のポイント

ポイント1:個人名を呼ぶ

認知症がある利用者さんは、レク中の刺激が少ないと覚醒レベルが下がりがちです。そこで司会進行の職員は、適宜利用者さんの個人名を呼びながらレクを司会進行しましょう。

例えば、「Aさん、手が良く上がっていますね」「Bさん、大きな声がここまで聞こえますよ」など個人名を交えながら声をかけることで、大勢の利用者さんが参加する場であっても、名前を呼ばれた利用者さんの『個』の意識が高まり、覚醒レベルの向上につながります。

また、まだ名前を呼ばれていない利用者さんも「あの職員さんは1人1人を見ているんだな」「私の名前も呼ばれるかもしれない」と思い、取り組みへの意欲が増すことがあります。個人へのアプローチは間接的に全体へのアプローチになるのです。

ポイント2:1秒の間を開ける

認知症がある利用者さんは長い文章の声かけを理解するのが苦手です。例えば、「こんにちは、調子はどうですか?」という声かけが、前半部分の「こんにちは」しか理解できず、後半の「調子はどうですか?」に対する返答が返ってこないケースもあります。

特に集団レクの場は"1対1"ではなく"1対多人数"なので、職員からの声かけに対する意識が高まりにくく、さらに内容を理解するのが難しくなります。

そこで司会進行の職員は、1秒の間を開けた声かけを心がけましょう。先ほどの「こんにちは、調子はどうですか?」という声かけであれば、
「こんにちは...(1秒)...調子はどうですか?」
とすると、文章全体が短くなることで理解しやすくなり、「こんにちは」に対する返答と、「調子はどうですか?」に対する返答がそれぞれ返ってきやすくなります。

ポイント1で解説した個人名も、「Aさん...(1秒)...足の動きが良いですね」とすると、より聞き取りやすい声かけになります。

ポイント3:見当識を試さない

認知症がある利用者さんは見当識障害があり、時間・場所・人物を正しく認識することが困難です。年号が令和となった現在も、昭和や平成だと思いながら過ごしている方も少なくありません。

それを修正し、現実を正しく認識してもらおうとする認知症ケアの考えもありますが、ご本人にとっての"現在"が否定されることで、不安や戸惑いにつながる方もいます。特に集団レクの場は1人ひとりに応じた声かけの配慮が難しく、プライドが高い方も恥をかきたくないと思っている方もいるため、見当識を試すような声かけは避けたほうが無難です。

例えば、「今日は何月何日でしょうか?」と全員に対して投げかけ、誤って出た答えを修正するよりも、「今日は1月7日ですね お正月もあっという間に過ぎましたね」といったように、あらかじめ職員が答えを伝えながら司会進行したほうが利用者さんの混乱を招きません。

ポイント4:適宜内容を切り替える

認知症がある利用者さんに限った話ではありませんが、レク中に同じ内容が続くと集中力が持続できずに飽きてしまう方がいます。

例えば、集団レクの内容として好まれることが多い風船バレーも、30分間風船を打ち続けるだけだったとすれば、最後まで楽しく参加するのは難しいのではないでしょうか。

そこで、司会進行の職員は利用者さんの集中力が途切れる前に適宜内容を切り替え、飽きさせないようにする工夫が必要です。

30分間の時間枠があったとすれば、
体操(5分)

風船バレー(5分)

歌(5分)

風船バレー(5分)

体操(5分)
といったように、メインの内容は風船バレーとしつつも、それを引き立てるように前後に体操や歌を交えることで、より楽しく風船バレーに取り組んでもらえます。

ポイント5:わかりやすく目的を説明する

集団レクを開始する際はもちろんですが、レク中の体操や歌に関しても、1つ1つ行う目的をわかりやすく説明すると利用者さんの反応が良くなります。

例えば、肩を回す体操を行う際に、「それでは肩を回しましょう せーの、いち!に!さん!...」と行うよりも、「肩がこっていませんか?この運動は肩こりにも効き目がありますよ。それでは肩を回してみましょう せーの...」といったように、体操の時間だから肩を回すのではなく、肩こりを楽にするために肩を回すといった動機付けをしたほうが体操への意欲が高まりやすくなります。

歌の際は「次の曲は名月赤城山です それでは参りましょう」と進行するより、「大きな声を出すと若々しい顔立ちになるそうです 小ジワも目立たなくなるかもしれませんよ それでは名月赤城山を歌っていきましょう」などと動機付けすると小さな笑いも起こり、より大きな歌声が聞けることがあります。

「説明する際に専門的な知識がないといけない」と思っている職員もいるかもしれませんが、一般教養レベルの知識で簡単に説明したほうが、利用者さんが理解しやすくなります。

例えば、
・ご飯が美味しく食べられる
・夜ぐっすり眠れる
・足の浮腫みが軽くなる
・喋る時にはっきりと声が出る
・血のめぐりが良くなる
・膝の痛みが楽になる
・歩く時につまづきにくくなる
・服を着るのが早くなる
・笑顔が素敵になる
・立つ時にスッと腰が上がる

といったように、少しでも利用者さんに「おっ!やってみるかな」「なんだか面白そうだな」と思ってもらえるような一言を意識してみてください。

ポイント6:重度者への配慮

集団レクは規模が大きいほど様々な状態の利用者さんが参加します。身体が健康であったり認知症が軽度であったりすれば幅広い内容が適応になりますが、介護度が高い重度者ほど適応して参加するのが難しくなります。

認知症がある利用者さんの中には、重度者の方に対して「もっと手を上げなきゃダメでしょ」「あんたしっかりやりなさい」といったように指導的にかかわる場合があります。そのため、司会進行の職員は重度者にも配慮した声かけの工夫を行いましょう。

例えば、体操を行う前に「両手が動かしにくい方は、得意なほうの手だけ動かしてください それも十分良い運動になっていますからね」「体が大変な方は見学で大丈夫です 見ていることも目の運動・脳の刺激になっていますよ」といったように、適応して参加することが難しい利用者さんもいることを見越した声かけを行うことでトラブルの防止につながります。

ポイント7:道具を使う

集団レク中に体操を行う際は、利用者さん全員に棒やセラバンドやボールといった道具を配付し、それを活用しながら体操を行うことで、より大きな動きを引き出せることがあります。

例えば、人はボールを手渡された時にどのような反応するでしょうか。自然と手をボールを保持しやすい形に変えたり、左右の手でボールに触れて感触を確かめたり、軽く上に投げて重さを確かめたりするかもしれません。

これは誰かに促されたから行うというより、道具に対する体の自然な反応です。認知症がある利用者さんも同様に、新聞紙などを丸めて作製した体操用の棒を手渡すだけで、手が自然と棒を握りやすい形になり、左右に振る、上げ下げする、肩を叩くといった自主的な動きが見られることがあります。

レクの定番として風船バレーが長年愛されているのも、『道具=風船』が用いられることで利用者さんの反応が得られやすいからかもしれません。司会進行を担当する職員はこういった道具の利点を生かして運動内容を組み立てると質の高いレクになります。

ポイント8:触覚を生かす

レク中は触覚刺激を用いると認知症がある利用者さんの反応が良くなります。人は五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)を通して外界を感じており、レク中は主に視覚・聴覚・触覚を活用する機会が多いです。

視覚や聴覚が自分から離れた所の景色を見たり音を聴いたりする感覚であるのに対して、触覚は直接肌に触れるものを感じます。心身への影響力が強い感覚であるため、認知症がある利用者さんの反応を引き出しやすいのです。

ポイント7で解説した『道具を使う』についても、手の平から感じる触覚刺激が心身を賦活することが道具を使うもう1つの長所でもあります。

また、道具以外に、レク中に職員が利用者さんの肩に触れたり握手をしたりすることでも感覚を刺激できます。道具では感じられなかった手の温かさや重みなど様々な情報を利用者さんが感じ取ることができるため、むしろ道具を使う以上に強い反応が引き出せます。

ポイント9:同じ内容を繰り返す

認知症がある利用者さんにレクを行う際は、毎回内容を変えるよりも、同じ内容を何度も繰り返したほうが効果的です。職員の中には同じ内容だと飽きられてしまうのではないかと思う方もいるかもしれませんが、認知症がある利用者さんは記憶障がいがあり、状態による差はあるものの、同じ内容でも新鮮に受け止めてくれる方が多いです。

そして、同じ内容を繰り返すほど「これはどこかでやって気がする」「確か前にやって楽しかったやつだ」と少しずつ記憶に定着し、レクが安全な場であり、安心して参加できるものだという認識が高まっていきます。

仮に毎回違う内容であったら、何が起きるかわからないドキドキ感はあるかもしれませんが、「次は何をやるのか」という不安感や、「できなかったらどうしよう」という焦燥感を感じる人もいるかもしれません。また、職員にとっても毎回新しいレクの内容を考えることは運営する上での負担になることがあります。

同じ内容であっても、回数を重ねる度に徐々に司会進行が上手くなり、利用者さんのウケが良い歌や言い回しなども把握できるようになり、今現場にいる利用者さんたちのためにより磨き抜かれたレクになっていきます。

ポイント10:司会進行の職員が楽しむ

利用者さんたちの前で司会進行をする職員は自分自身がレクを楽しむことを心がけましょう。仮に職員がつまらなそうな表情でやっていたら、それを見ている利用者さんも楽しみにくいと思います。

職員が誰よりも懸命に手足を動かしているから、利用者さんもその動きを見習い模倣しようとしてくれます。職員が楽しそうにやっている笑顔を見て、同じように笑顔になれることがあります。

特に認知症がある利用者さんは職員や環境からの影響を受けやすいため、目の前で司会進行をする職員のレクへの意欲や取り組む姿勢が大切になります。人前に立つことを恥ずかしく感じることもあるかもしれませんが、レク中は誰よりも場を楽しむ『演者』として振る舞うことが、結果的に利用者さんに喜ばれるレクになります。

環境作り編で紹介した10のポイントと、司会進行編でご紹介した10のポイントを参考に、質の高いレクを行っていただければ幸いです。

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安藤祐介(Yusuke Ando)

作業療法士

2007年健康科学大学を卒業。作業療法士免許を取得し、介護老人保健施設ケアセンターゆうゆうに入職。施設内では認知症専門フロアで暮らす利用者47名の生活リハビリを担当し、施設外では介護に関する講演・執筆・動画配信を行っている。

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