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すごい介護 介護スペシャルインタビュー 2020/05/28

#スタンフォード#睡眠#睡眠障害#西野精治#夜勤#業界リーダー#中澤仁美

スタンフォード大学睡眠研究所 西野精治名誉教授に聞く(1)介護職が知っておきたい「眠り」の仕組みと注意

文:中澤仁美 写真:和知明 interview_20200528_1_01.jpg

バタバタしっぱなしの日中業務に、残業や夜勤......。介護職は多忙で、なかなか十分な睡眠時間の確保が難しいこともあるでしょう。だからといってそのままにするのではなく、少しずつでも睡眠の量と質を改善していきたいものです。世界最高峰の睡眠研究機関と呼ばれるスタンフォード大学睡眠研究所で長年研究を続けてきた西野精治先生(同大学医学部精神科名誉教授)にご登場いただき、睡眠改善のためのヒントを伺いました。

夜勤が多い介護職のあなたも抱えている?「睡眠負債」の恐怖

皆さんは「睡眠負債」という言葉を聞いたことがありますか? 慢性の睡眠不足による心身への影響が蓄積されていくことを、このように呼ぶのだそうです。

「正式な医学用語ではありませんが、『マイナスの要因が積み重なっていき、いつか深刻な事態を引き起こす』というニュアンスを含んだ、おもしろい表現ですよね。残念ながら、私たち日本人の睡眠時間は年々短くなっており、睡眠負債を抱えている人は極めて多いと考えられています」(西野先生:以下、カッコ内の発言も同様)

毎日忙しいのだから多少の睡眠不足は仕方がない――。そう思っている人も多いでしょうが、睡眠負債を甘く見てはなりません。

「アメリカの学会誌『Sleep』で発表された研究では、タブレットに画像が現れたらボタンを押すという単純作業に20人の医師が取り組んだところ、夜勤明けの医師は明らかに反応が低下したと報告されています。画像が90回出現したうち、数秒間反応できなかったことが3~4回あったということです。つまり、このときは無意識のうちに脳が眠っていたわけですね」

睡眠負債を抱えている人は、本人も意識しないうちに、業務時間中でも瞬間的な眠りに陥ってしまいかねません。例えば、高齢者を車椅子へ移乗させている間に意識が遠のけば、重大な介護事故につながるかもしれないのです。

「睡眠不足による心身へのダメージは思った以上に大きいです。例えば、睡眠の働きの一つに、脳の老廃物を脳脊髄液を介して排出することがあります。この老廃物の中には毒性が強いものもあり、蓄積していくことでアルツハイマー型認知症などのリスクが高まると考えられています」

また、眠っている間にはホルモンバランスの調整も行われています。そのため、睡眠時間が短くなればホルモンバランスが崩れやすくなり、食欲を抑えることが難しくなるなどの影響が出てきます。西野先生によれば、特に女性は影響を受けやすく、睡眠時間が短い人ほど太りやすい傾向にあるそうです。

週末2時間以上の「寝だめ」は睡眠不足の危険信号

自身の心身に睡眠負債がたまっているかどうか、どうすれば判断できるのでしょうか。簡単な方法を教えてもらいました。

「週末など仕事がない日に、どのくらいの時間寝ているのか確認してみてください。普段より1日当たり2時間以上長く寝ているようであれば、すでに危険信号が点灯しています。日ごろの睡眠時間がまったく足りていない状態で、かなりの睡眠負債がたまっていると考えられるからです」

加えて、目覚めの良さも重要だといいます。

「そもそも睡眠には、深い眠りであるノンレム睡眠(脳も身体も眠っている)と、浅い眠りであるレム睡眠(脳は起きているが身体は眠っている)の2種類があり、1回の睡眠の中で交互に繰り返されています。健康な状態であれば、明け方になるにつれてレム睡眠が長くなってきて、自然と目覚められるはずなのです。ところが、睡眠のパターンが崩れているとノンレム睡眠の状態から無理に起きなければならず、とても不快な目覚めになります」

週末に寝だめをする。まだ眠い状態なのに無理やり起きなければならない......。どちらも多くの人にとって身に覚えがあることでしょう。しかし、寝だめをしたところで、たまってしまった睡眠負債は"返済"できていないかもしれません。

1日当たり40分の睡眠負債を抱えていた人に、寝たいだけ寝てもらったという実験があるのですが、睡眠不足が完全に解消するまでに3週間もかかったそうです。1~2日程度の休日に少しくらい多く寝たからといって、睡眠負債を"完済"するのは不可能だといえるでしょう」

中には極端に睡眠時間が短くても元気なショートスリーパーも存在しますが、普通の人がそれをめざそうとするのは危険だと西野先生は指摘します。

「ショートスリーパーは、短眠の遺伝子を持った例外的な存在であり、トレーニングで睡眠時間を短くすることはできません。ショートスリーパーを自認していても、実は無理をしているだけというケースもあるため注意が必要です」

インタビューを受ける西野精治名誉教授

30分でも睡眠時間を増やそう。無理ならノンレム睡眠を増やし「眠りの質」に目を向けて

それでは、睡眠負債を"返済"するためには、何から始めたらよいのでしょうか。

「十分な睡眠時間は人それぞれ違いますが、基本的には最低でも1日6時間以上は欲しいところです。それに満たない人は、30分でも長く眠るようにしてみてください。しばらくその生活を続け、どれほど体調が良くなるか身をもって知ってほしいですね」

睡眠には、質が悪化しているときには自覚できる症状が出にくいものの、質が改善すると良い影響を自覚しやすいという特徴があるそうです。そのため、少し長めに寝るだけでも、日中のパフォーマンス向上が実感できるはずです。しかし、どうしても毎日の睡眠時間を延ばすことが難しい場合は、どうしたらよいのでしょうか。

「時間が限られているのであれば、睡眠の質を向上させるしかありません。そのためには、『眠りのゴールデンタイム』といわれる寝始めの90分間を大切にしてください

人が眠りに入ると、まずはノンレム睡眠が訪れます。眠りの質を決定付けるカギとなるのが、この最初のノンレム睡眠です。

「ここで得られる眠りは、一晩のうちで最も深いもの。このときに睡眠圧(眠りたいという欲求)を放出し、安全安楽な環境に身を置くことで、理想的な睡眠パターンを実現することができます」

一晩のうちにノンレム睡眠とレム睡眠のサイクルを4回ほど繰り返すことが一般的ですが、2回目以降のノンレム睡眠が1回目よりも深くなることはありません。つまり、最初の90分間が崩れてしまえば、その後の睡眠にも悪影響を及ぼし続けるということです。そうなれば、どれだけ長く寝たとしても眠りの質は良くなりません。

インタビューを受ける西野精治名誉教授

自律神経を整える「寝始めの90分間」には黄金の価値あり!

「眠りのゴールデンタイム」を大切にすることには、単にぐっすり眠れるという以上のメリットがあります。

「人間の成長に大きく関わるグロウスホルモンは、ノンレム睡眠の質に応じて分泌量が増減する特殊なタイプのホルモンです。中でも最初のノンレム睡眠時には、全体量の70~80%が分泌されることが知られています」

グロウス(成長)という言葉から子どもに必要なホルモンと思われがちですが、細胞の成長や新陳代謝に関わることから成人にとっても重要です。「寝始めの90分間」で深いノンレム睡眠ができれば、全体の睡眠時間が短かったとしても、全体量の80%近いグロウスホルモンを確保することができるのです。

自律神経を整えるためにも、ゴールデンタイムの90分間はとても重要です。できれば毎日同じ時刻に寝起きすること、特に就寝時刻を決めることでゴールデンタイムを確保してください」

西野先生によれば、寝始めの90分の間、その人を起こそうとするならかなりの刺激が必要になるそうです。逆に言えば、それだけ深い眠りに就いている人を強引に目覚めさせたり、大きな刺激(寝ている人がいる部屋のドアを強く開け閉めするなど)で眠りを邪魔したりするのは避けなければなりません。自身の睡眠を大切にすることはもちろん、他者の睡眠に対しても配慮が必要なのです。

後編では、介護職の皆さんに実践してほしい、具体的な睡眠改善法について伺います)

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プロフィール

西野精治

スタンフォード大学医学部精神科名誉教授、同大学睡眠生体リズム研究所(SCN ラボ)所長。医学博士。精神保健指定医。日本睡眠学会専門医

西野精治さん

1955 年大阪府出身。1987 年、当時在籍していた大阪医科大学大学院からスタンフォード大学医学部精神科睡眠研究所へ留学。突然眠りに落ちてしまう過眠症「ナルコレプシー」の原因究明に全力を注ぐ。2005年、SCNラボの所長に就任。30年以上にわたり、睡眠・覚醒のメカニズムについて、分子・遺伝子レベルから個体レベルまでの幅広い視野で追究している。令和元年5月に睡眠に特化したサービスを行うブレインスリープ社を設立し、代表取締役に就任。著書に『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版、2017年)がある。『睡眠障害』(角川新書、2020年)等がある。 ※2020年4月現在

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