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仕事・スキル 介護士の常識 2022/06/18

【作業療法士監修】移乗介助の正しい方法―コツや注意点も

構成・文/介護のみらいラボ編集部 監修/安藤祐介 5.jpg

移乗介助は身体介護の基本であり、介護職だけでなく、自宅で家族の介護をする人にとっても重要な介助スキルです。力任せに行うと身体に負荷がかかり、事故につながる恐れもあるため、移乗介助は正しい方法で実施しましょう。

当記事では、移乗介助の概要や注意点を述べた上で、移乗介助の正しい方法をシーン別に詳しく解説します。移乗介助を安全に行うコツも紹介するため、これから介護を行う人はぜひ参考にしてください。

1.移乗介助とは?

移乗介助とは、車椅子からベッド、車椅子からトイレの便座など、座る場所を乗り換える際の介助のことです。主に足腰が弱い高齢者やけがをした人など、車椅子で生活を送る人に対して行われます。

移乗介助は介助者への負担が大きく、失敗すると転落や骨折といった介護事故につながる可能性があります。介助する側もされる側も、お互いに安心して移乗介助が行えるように、正しい方法で実施しましょう。

移乗介助と移動介助の違い

移動介助とは、リビングからトイレ、自室から浴室など、移動を手伝う介助技術です。歩く、座る、起き上がるといった動作が難しい人に対して行い、移乗介助と同様に日常生活の中で頻繁に行われます。

移乗介助と移動介助は、介助を受ける人の自立を促すためにも、必要最低限の範囲で行うことが大切です。移乗・移動の介助方法は、お互いの運動能力や、福祉用具の有無によって異なることにも注意しましょう。

移乗介助を行う際の労災に注意!

移乗介助を行う際に、介助する側がけがを負うことは少なくありません。社会福祉施設における労働災害のうち、最も多いものは「反動や無理な動作による腰痛(34%)」と「転倒(31%)」であり、移乗介助ではどちらにも気を付ける必要があります。移乗介助の際に前かがみになり腰を痛めた、抱えきれずに利用者とともに転落したなどの事例が挙げられます。

特に、介護に慣れていない人は注意が必要です。移乗介助を安全かつ無理なく行うためにも、正しい手順で丁寧に行いましょう。

(出典:厚生労働省「高齢者介護施設における雇入れ時の安全衛生教育マニュアル」

2.【シーン別】移乗介助の方法・正しい手順

移乗介助時は、双方が動きやすいように十分なスペースを確保した上で、利用者にこれから移乗介助を行う旨を説明してから始めましょう。一つひとつの動作を勝手に進めず、利用者の表情や声かけの理解度を確認しながら進めることが大切です。

厚生労働省では、社会福祉施設の労働災害防止を目的として、正しい移乗介助の方法を紹介しています。ここでは、移乗介助方法をシーン別に詳しく解説します。

(出典:厚生労働省「社会福祉施設の労働災害防止」

ベッド⇔車椅子間

ベッドと車椅子間における、スライディングボードを利用した移乗方法を紹介します。スライディングボードとは、一方の端に利用者のお尻を乗せて、反対側を移乗先に渡し、スライドするように移乗を行うための福祉用具です。

(1)移乗方向にある車椅子のフットサポートを上げ、ベッドに近づけてブレーキをかける。移乗先のほうが数cm低くなるようにベッドの高さを調整し、車椅子のアームサポートを上げる。

(2)利用者に向かい合い、移乗方向側のお尻の下に、ボードの端を坐骨結節(座面に接するお尻の骨)が乗るまで差し込む。ボードの反対側は、移乗先に15cm程度かかるように置く。

(3)介助者はボードに向き合う位置で低い姿勢をとり、利用者の身体を前傾させて支える。移乗先と反対側の手で、利用者のお尻を進行方向へ軽く押し、移乗先に移らせる。

(4)利用者が移乗できたことを確認し、ボードを外して姿勢を整える。移乗先が車椅子の場合は、アームサポートを下げて座位を整える。

ボード上をスムーズに滑らせるコツは、利用者の身体を前傾させて重心を前側かけ、お尻が軽く動きやすい状態にすることです。自分で座ることが困難な利用者には、リフトを用いて移動する介助方法もあります。

(出典:厚生労働省「社会福祉施設の労働災害防止」

ベッド⇔ストレッチャー間

ベッドとストレッチャー間の移乗には移乗用ボードを使用し、基本的に2人の介助者によって行います。

(1)ベッドとストレッチャーを平行に置ける空間を確保し、ベッド(ストレッチャー)のストッパーをかける。介助者が立った状態で手のひらがベッド面につくように、ベッド(ストレッチャー)の高さを調節する。

(2)利用者に移乗先と反対側を向いてもらい、身体の下にボードを敷く。

(3)移乗先側の介助者は、肩甲骨部と大転子部(腰部分の張り出している骨)の位置にある取っ手を、手のひらを下に向けて握り、水平に引っ張る。移乗元側の介助者は、利用者の肩と骨盤部分を押して、ベッドの端までゆっくり移動する。

(4)ストレッチャーとベッドを平行に置き、ストッパーをかける。ストレッチャーとベッドの高さを同じ、または移乗先が2~3cmほど低くなるように調整する。 介助者の1人は移乗側に行き、(3)と同様にゆっくり移乗させる。移乗できたら利用者に移乗側を向いてもらい、背中側から移動用ボードを外す。

取っ手がないボードを使う場合は、(2)でバスタオルを身体の下に敷き、バスタオルを引く方法もあります。

(出典:厚生労働省「社会福祉施設の労働災害防止」

自動車⇔車椅子間

ここでは、脊髄損傷のC6レベル(足・胴体・手の麻痺、肩と肘は動く)を対象とした、自動車と車椅子間の移乗方法を紹介します。

(1)運転席のドアを最大に開き、車椅子のフロントパイプを自動車に近づける。足をフットサポートから下ろし、お尻を車椅子の前方へ移動させる。

(2)右手は車椅子のフロントパイプ、左手は運転席の座席に置き、プッシュアップ(手のひらをついて座面を押し、腰を押し上げる動作)で運転席へ移乗する。一度で移乗できない場合は、右手の位置をずらしながらプッシュアップを繰り返す。

(3)お尻が半分以上運転席に乗ったら、頭をハンドルにもたれかけて安定させ、右手を使って左足を車内へ入れる。プッシュアップで前方へ移動し、お尻が3分の2程度乗ったら右手で右足を入れる。

自動車から車椅子へ移乗する際は、逆の手順で行ってください。

(出典:別府重度障害者センター「「 在宅生活ハンドブック No.31」移乗動作・移乗介助の方法」

床⇔車椅子間

床へ移動する場面はあまりありませんが、畳に布団を敷いて寝起きしている人にとっては必要性が高く、リハビリテーションの一環として取り組むことで、筋肉やバランス能力の向上にもつながります。

・車椅子から床へ下りる方法

(1)フットサポートから足を下ろし、車椅子の前方へ移動する。

(2)片手をフロントパイプに固定し、足を斜めに寄せる。もう一方の手を、足を伝うようにして床へ下ろした後、着地するスペースを確保できる位置へずらす。

(3)床についた手に体重をかけて、お尻を下ろして床に座る。

・床から車椅子へ下りる方法

(1)車椅子の前に座り、車椅子に対して前方または斜めに足を向ける。

(2)車椅子側の手をフロントパイプに置き、反対の手は車椅子に近い位置で床をつく。

(3)床についた手でプッシュアップを行いお尻を浮かせる。お尻が車椅子のパイプに当たらないよう注意する。

(4)車椅子のシートにお尻が乗ったら、座席後方へ移動する。床についた手は足を伝いながら引き上げて体勢を整える。

腕の筋肉が弱い場合は、足を曲げながら床から車椅子へ乗る方法もあります。

(出典:別府重度障害者センター「「 在宅生活ハンドブック No.31」移乗動作・移乗介助の方法」

3.移乗介助をする際には「ボディメカニクス」の理解も大切!

移乗介助で安定性を保ち、身体的負担を軽減するためには、「ボディメカニクス」の活用も有効といわれています。ボディメカニクスとは、骨や関節、筋肉といった身体機能の相互作用を活用し、最小限の力で介助を行う介護技術のことです。腰痛や転倒を予防できるため、ぜひボディメカニクスを理解した上で移乗介助を行いましょう。

下記は、ボディメカニクスの一例です。

・介助者の重心を低くし、姿勢を安定させる。
・利用者に対して足を前後に開き、支持基底面(体重を支える面積)を広くする。
・介助者は身体をねじらず、足先を動作の方向に向ける。
・利用者を持ち上げずに、水平移動を行う。
・利用者を持ち上げる際などに、てこの原理を利用する。

(出典:厚生労働省「介護キャリアアップ応援プログラム 介護基礎知識・介護技術テキスト」

まとめ

移乗介助とは、車椅子から車の座席など、座る場所を移す際の介助のことです。車椅子からベッド、車椅子からストレッチャーなど、シーンに応じて適切な介助方法があります。移乗介助による労災や事故防止のためにも、正しい方法で行いましょう。

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※当記事は2022年3月時点の情報をもとに作成しています

▼監修者からのアドバイス

移乗介助に対して「腰が痛くて大変」「転ばせないか不安」と感じている方も少なくないのではないでしょうか。特に中・重度者が多い介護事業所では1人でどんな利用者さんも移乗できないと業務がはじまらないという側面もあり、小柄な女性職員さんや足腰に痛みを抱えながら介助している方にとっては「どうにか楽に移乗したい」というのは切実な願いだと思います。

私が知る限り、移乗介助は『いかに腰を痛めず安全に介助できるか』に重きが置かれた教育がされてきましたが、昨今では介助を動きの学習の機会と捉える考え方があったり、認知症ケアの一環として移乗場面を関係性作りに役立てていたり、福祉用具を積極的に活用している事業所があったりと、介護技術は日々着実に進歩をしています。

記事の最後で紹介されているボディメカニクスも考え方の1つに過ぎず、実際の現場ではかえって利用者さんの動きの支援が行いにくくなることもあります。様々な知識を学ぶことが移乗時の双方の負担の軽減につながっていきますので、これをきっかけに見聞を広げていただければ幸いです。

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安藤祐介(Yusuke Ando)

作業療法士

2007年健康科学大学を卒業。作業療法士免許を取得し、介護老人保健施設ケアセンターゆうゆうに入職。施設内では認知症専門フロアで暮らす利用者47名の生活リハビリを担当し、施設外では介護に関する講演・執筆・動画配信を行っている。

安藤祐介の執筆・監修記事

介護のみらいラボ編集部(kaigonomirailab)

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