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仕事・スキル 介護士の常識 2022/06/20

【作業療法士監修】服薬介助の流れと注意点―認知症の利用者への工夫も

構成・文/介護のみらいラボ編集部 監修/安藤祐介 6.jpg

介護現場で働いていると、利用者の服薬の手助けや薬の管理をすることが多くあります。高齢者は、複数の種類の薬を併用している人も多く、時間ごとの薬の管理や利用者に拒否されたときのケアに困る介護職も少なくありません。

当記事では、服薬介助の基本的な流れや服薬介助を行う際のポイントを解説します。また、認知症がある方に行う際の工夫も紹介するため、服薬介助の方法に悩みや疑問を感じたときは、ぜひ参考にしてください。

1.服薬介助とは?

服薬介助とは、利用者が処方された薬の服薬支援をすることです。高齢者は複数の薬を併用する人も多く、薬の飲み忘れや飲んだことを忘れて同じ薬を飲んでしまうことが少なくありません。介助者は一人ひとりの服薬状況を把握し、薬の量や飲むタイミングを管理したり、他の利用者の処方薬と取り違えていないか注意したりする必要があります。
自分で薬を飲める人でも気を抜かず、毎回正しく服薬できているかチェックすることが大切です。

服薬介助は医療行為ではない?介護職が行ってよい範囲は?

医療行為は、医師や看護師などの免許を持つ医療者だけが行えるものであり、介護職介護士は基本的に対応することができません。そのため、介護職は医療行為に当たらない範囲内で服薬介助を行う必要があります。

事前に介護職が服薬を介助することを本人や家族に伝えた上で、下記の条件を満たしている場合に服薬介助を行えます。

・入院して治療するなどがなく、容態が安定していること
・医師や看護師が副作用や投薬量の調整などの経過観察を行う必要がないこと
・服薬する医薬品の使用方法について専門的な配慮が必要ではないこと

上記3点を満たしている場合、皮膚へ軟膏の塗布や湿布の貼り付け、点眼薬の点眼、一包化された薬の服薬、坐薬挿入、鼻腔粘膜への薬剤噴霧の介助が可能です。服薬介助を行うときは、医師や薬剤師の服薬指導、看護師の保健指導を遵守して適切に対応しましょう。

(出典:厚生労働省「○医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」

2.服薬介助の基本的な流れ

厚生労働省は服薬介助について、基本の流れを具体的に定めています。

まず薬を流すための水を準備します。次に薬をテーブルの上に配薬し、飲み忘れがないよう薬の種類や個数を確認します。利用者が薬を飲む手助けをした後、服薬した薬が合っているか確認しながら後片付けを行ってください。

(出典:厚生労働省「「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」の一部改正について」

服薬介助を行う際に意識すべきこと4つ

利用者の服薬介助を行うときは、以下の4つを意識して行いましょう。

・服薬する際の姿勢に注意する
誤嚥を防ぐために、服薬する際の姿勢に注意しましょう。椅子に座るなど体を起こした状態での服薬がベストです。両足の足底を床につけ、顎を少し引いた状態で薬を飲むと、体が安定し飲み込みやすくなります。薬を飲むときに上を向く人もいますが、気管に水が入りやすく誤嚥のリスクが高まります。

体を起こすことが難しい場合は、横向きに姿勢を変えたり、ベッドのリクライニング機能を使用して角度をつけたりするとよいでしょう。

・飲み間違いがないように工夫を行う
薬を飲む時間や個数の間違い、他の利用者の薬との取り違えなど、飲み間違えがないよう工夫して服薬を介助します。一度に複数の薬を服薬する利用者には、同じタイミングで飲む薬をあらかじめ一包化してもらうと分かりやすいです。ただし、一包化の作業は看護師や薬剤師などしか行えないため、介護職は利用者や家族への提案にとどめましょう。

お薬カレンダーやお薬ボックスなどで薬を管理する方法もあります。お薬カレンダーはウォールポケット形式のカレンダーで、お薬ボックスは仕切りのついたボックスで、日付や時間ごとに飲む薬を分けておきます。薬を飲まない時間帯には「なし」などのカードを入れると、より分かりやすく安心です。

・基本的には水・ぬるま湯で飲んでもらう
利用者の服薬介助を行うときは、水かぬるま湯を用意して薬を飲んでもらいましょう。苦い薬は飲みにくく、お茶やコーヒー、ジュースなど水以外のもので流したいと利用者から言われることがあるかもしれません。しかし、水以外の飲み物は、薬の効果を弱めたり反対に吸収をよくしたりする成分が入っている可能性があるため、注意が必要です。

どうしても水・ぬるま湯で飲むことに抵抗がある場合は、かかりつけの医師や看護師、薬剤師に相談しましょう。薬の種類によっては、水・ぬるま湯以外の飲み物で対応できることもあります。

・飲み込み確認や服薬後の変化の確認を行う
利用者が薬を口に入れた後、しっかり飲み込めているか確認することが大切です。薬が口の中に残っていたり、うまく飲み込めず誤嚥したりする人も少なくありません。介護職は利用者が薬を飲み込んだ後、口を開けてもらうなどして飲み込み確認を行いましょう。

また、薬の副作用で体調を崩すこともあるため、利用者の変化には注意してください。体調の変化に気づいたときは、家族へ報告しかかりつけの医師や看護師、薬剤師に相談してもらいましょう。

多くの利用者が集まる介護事業所では、一人ひとり異なる服薬介助に苦労する介護職も少なくありません。できる範囲で、丁寧に利用者の服薬をサポートしましょう。

3.認知症がある人に服薬介助をする際のポイント

認知症とは、脳の病気や障害などにより認知機能が低下することです。もの忘れが増える、時間・場所・人物が分からない、身の回りの世話ができないなど、日常生活に支障をきたす症状が代表例です。認知症がある人に薬を飲んでもらうことに難しさを感じている介護職・介護者もいるでしょう。

(出典:厚生労働省「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」

ここでは、認知症がある人の服薬介助をする際のポイントを紹介します。

服薬管理を適切に行う

認知症がある人は知的機能の低下によって、薬の種類が多くなったり、飲む時間がバラバラだったりすると、指示通り服薬するのが難しくなります。認知症がある人の服薬介助をするときは、以下の2点を取り入れるとスムーズな支援につながります。

・服薬時間管理ツールを使う
お薬ボックスやお薬カレンダーなど、飲む薬の種類と時間を管理支援できるツールを使用するとよいでしょう。利用者の目に見える形で薬を仕分けておくと、認知症がある人でも該当時刻に自分が薬を飲んだのかが分かりやすくなります。

また、アラーム機能のついたスマホアプリを使用するのもおすすめです。服薬時間にアラーム通知を設定することで、利用者と一緒に服薬のタイミングを共有できます。

・薬を一包化してもらう
同じタイミングで飲む薬を1つにまとめる「一包化」を行うことで、複数の種類の薬を飲む人でも分かりやすくなります。

ただし、薬の袋を開けてひとまとめにすることは医療行為に当たるため、介護職が行ってはなりません。医師の指示のもと、調剤薬局などで一包化することができます。利用者の認知症の状況を踏まえて、必要であれば家族に一包化すすめるとよいでしょう。

服薬を嫌がってしまう際の対応法を知っておく

認知症がある人の中には、医師に診断されたことを忘れてしまい、薬を飲む必要性が分からない人もいます。また、被害妄想によって「毒を盛られた」と思い込み、服薬を拒否する場合もあります。その他、錠剤やカプセルが飲み込みづらい、薬に対して負の感情を抱いているなどの理由から、服薬拒否をする利用者もいるでしょう。

利用者が服薬を嫌がる理由や状況に合わせて、以下のように対応します。

・薬の種類を変更してもらう
嚥下機能の低下から、錠剤やカプセルの薬が飲みづらい利用者には、薬の種類を変更できないか提案するのがおすすめです。医師の診察の際に、服薬を嫌がる状況を伝えると、粉薬や貼付薬、軟膏に内容変更してもらえる場合があります。薬の苦味が気になる場合は、オブラートや服薬ゼリー、シロップなどの使用を相談してもよいでしょう。

・信頼関係を築く
被害妄想から服薬を拒否されたときに、信頼できる介護職からの声かけで薬を飲んでくれるケースがあります。薬を飲んでもらえないときに叱ると、叱られた出来事は忘れたとしても自尊心を傷つけられた感情は残り、信頼関係を崩す恐れがあるため注意が必要です。日頃から利用者との関わり合いを大切にして、薬を飲む理由を丁寧に説明するとよいでしょう。

まとめ

今回は、服薬介助の流れや意識すべきポイントを紹介しました。嚥下機能の低下や認知症の症状などから、利用者の服薬介助に悩む介護職は少なくありません。服薬介助がうまくいかないときは、他職種や家族やかかりつけの医師などと相談して利用者をサポートしましょう。

「介護のみらいラボ」では、介護の現場で活躍する人に有益な情報を多数掲載しています。介護職員として働く中で悩みや不安を感じたときは、ぜひ「介護のみらいラボ」をご参考ください。

※当記事は2022年3月時点の情報をもとに作成しています

▼監修者からのアドバイス

介護現場で大勢の服薬介助をしていると、名前が似た利用者さんを取り違えそうになったり、突発的な用件が入り薬を飲ませ忘れそうになったりして、ヒヤリとした経験がある方もいるのではないでしょうか。

人のミスを一切無くすのは非常に難しいことですが、極力ミスを減らすために私の現場で心がけられているのが『声出し確認』をすることです。服薬介助時に「○○さん、お昼のお薬ですよ」といったように利用者の氏名(苗字と名前)を声に出して言うことで意識が高まり、同僚もその声を聞きながら介護することでお互いミスがないか確認し合うことができます。

服薬介助は時に利用者さんの命にかかわる薬を扱うこともあるプレッシャーのかかる業務であり、その分周囲の方とフォローし合いながら介護していただければ幸いです。

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安藤祐介(Yusuke Ando)

作業療法士

2007年健康科学大学を卒業。作業療法士免許を取得し、介護老人保健施設ケアセンターゆうゆうに入職。施設内では認知症専門フロアで暮らす利用者47名の生活リハビリを担当し、施設外では介護に関する講演・執筆・動画配信を行っている。

安藤祐介の執筆・監修記事

介護のみらいラボ編集部(kaigonomirailab)

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