看取り介護とは?ターミナルケアや緩和ケアとの違いや定義、内容などについて解説!
文/中村楓(介護支援専門員・介護福祉士)
介護の現場では、ときに利用者さんの人生の最期に支援者として関わる場面もあります。しかし、実際に看取り介護に携わることになったとき、どのように対応すればいいのか、不安になる人もいるのではないでしょうか。介護に携わる者は、看取り介護について知っておくことで、落ち着いて支援を行うことができます。
本記事では、看取り介護の概要やターミナルケア・緩和ケアの違いについて解説するとともに、看取り介護の流れやケア内容、施設について詳しくみていきましょう。
1.看取り介護とは?

看取りとは、もともとは患者さんを最期まで介護する行為そのものを表す言葉でした。最近では、人生の最期において、その死に寄り添うこと自体を「看取り」ということが多くなっています。
介護の現場で聞かれる「看取り介護」とは、本人の意向を尊重することを前提としたうえで、身体的・精神的・社会的苦痛をできるだけ緩和し、その人なりに充実した最期を迎えられるような介護や援助をすることです。看取り介護では、看取りを迎える人が残された時間を悔いなく過ごしてもらえるよう支援します。
看取り介護というと、特別な概念と思いがちですが、実際は日常の支援の延長上にあるものです。決して特別な介助や支援を行うものではありません。
看取り介護をめぐる状況をみてみると、これまで医療機関における死亡が増加する傾向にありましたが、近年、介護施設での死亡が少しずつ増えてきています。また、無理な延命治療を行わずに、自然な形で死を迎える尊厳死への関心も高まっていることから、看取り介護への重要性が高まっていることがわかります。
2.看取り介護とターミナルケア・緩和ケアとの違い

看取り介護と似たものに、ターミナルケアと緩和ケアがあります。それぞれの違いについて、詳しくみていきましょう。
看取り介護とターミナルケアとの違い
ターミナルケアとは、余命が残りわずかになった人に対し、残りの人生を穏やかに過ごせるように行うケアのことで、終末期医療とも呼ばれます。ターミナルケアの対象となるのは、老衰や疾病、障害などが進行したことで医療の効果が見込めない状態にあり、余命が数か月以内と判断された人です。ターミナルケアでは、苦痛を緩和するための点滴や吸入、投薬などの医療ケアを中心に実施します。
看取り介護は、日常的なケアや精神面のケアを中心としているのに対し、ターミナルケアは終末期における医療ケアが中心といった点に違いがあります。
看取り介護と緩和ケアとの違い
緩和ケアとは、患者さんや家族に対し、肉体や精神的な苦痛を緩和させながら、治療や支援を進めていくものです。WHO(世界保健機関)では、「緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである。」と定義されています。
つまり、緩和ケアは、その病を治すことはできなくても、可能な限り患者さんやその家族の苦しみを和らげる目的で行われます。
看取り介護は、具体的に死が避けられない状況にある人の日常生活のケアであることに対し、緩和ケアは苦痛を和らげる医療的アプローチが中心です。
3.看取り介護の流れ

看取り介護は、施設と在宅の両方で実施します。看取り介護はどのような流れで行うのでしょうか。施設と在宅での流れについて解説します。
施設における看取り介護の流れ
施設における看取り介護では、まず看取り介護を受け入れるための体制整備を行います。利用者さんを受け入れた場合には、利用者さんの状態や家族の気持ちなどを職員間で情報共有し、利用者さんの理想とする最期を迎えられるよう支援します。ここでは、施設における看取り介護の手順についてみていきましょう。
①看取り体制の準備
日頃から看取りについて、準備体制を整えておくことから、看取り介護は始まります。看取り期の対応方法や職種別の役割分担、職種間の連携や夜間対応について、職員間で共有しておきましょう。利用者さんや家族の看取りにおける意思確認ができるよう、家族と日頃から情報共有を行い、信頼関係を築くことも大切です。
②こまめな状態把握の実施
看取り期に入ると、食事や水分の摂取量が減り、状態も日々変わってきます。異変があった場合には、医師に状況を適切に伝える必要があるため、些細な変化もしっかりと記録に残すことが大切です。
③看取り介護計画の作成と同意
状態把握と並行して、看取り介護計画を作成し家族の同意を得ます。計画書の作成では、本人と家族の意向を踏まえる必要があるため、対応できる医療処置の範囲について、事前に伝えてあったとしても再度明確に伝え、意向を計画書に反映させましょう。また、看取りに立ち会えるよう、家族との連絡方法や連絡先についても、詳細に確認しておきます。
④カンファレンスによる情報共有
計画書が作成され同意が得られたら、関係する職種間でカンファレンスを行い、情報を共有してチームケアが行えるようにしましょう。本人の状況が変化していくにつれ、家族の気持ちは揺れ動き、計画書作成時とは意思が変化していくことも少なくありません。家族の発言を共有したり、気持ちを丁寧に聞き取ったりして、意思の変化にも寄り添いながら対応していきましょう。
3-2.在宅における看取り介護の流れ
住み慣れた自宅で人生の最期を迎える在宅での看取り介護では、親しい人々に見守られながら、自然に死を迎えるための支援を行います。精神的にも時間的にも主な介護者となる家族は、看取りの中で思いも錯綜、変化することも考えられます。そのため、在宅の看取り介護では、在宅における医療体制を家族に理解してもらう必要があります。そのうえで、看取りに関わる医師や訪問看護師、訪問介護員、介護支援専門員など、関係する職種間で情報共有を行いながら、看取り体制を整えていくことが大切です。
介護職は、訪問介護員として、以下のような支援をすることが多いでしょう。
- 食事や排泄、清潔保持の提供
- 身体的、精神的緩和ケアと安楽な体位の工夫
- 本人、家族とのコミュニケーション
- 看取りの状態観察、食事、水分摂取量の把握、浮腫や尿量、排泄量などのチェックおよびその経過の記録
その他、異変時に訪問看護師への連絡や、定期的カンファレンスへ参加して、本人や家族の意向に沿った看取り介護を実施します。
4.看取り介護のケア内容

看取り介護では、どんなケアを行うのでしょうか。ケア内容ごとに詳しくみていきましょう。
環境整備
看取り介護を行う際には、利用者さんや家族が安心して過ごせる環境を整備する必要があります。施設の場合は、家族が気兼ねなく付き添えるよう、多床室なら個室への移動を検討するなどしましょう。在宅の場合は、介護用ベッドや手すりなど、安楽に過ごせるための福祉用具の導入などを行います。また、過ごしやすい室温の調整や採光、換気にも気を配りましょう。
栄養・食事
看取り期に入ると、食事や水分の摂取量が低下します。食事量が低下してきたときには、本人が食べやすい形状にすることや、本人が食べやすいもの、本人の好きなものを提供します。高カロリー栄養食も活用し、水分補給や栄養補給を図るとよいでしょう。
嚥下機能が低下していくことも多いため、とろみ剤の活用やゼリーなど、誤嚥しにくい方法を検討することが大切です。
また、食事時間にこだわらず、食べられるときに食べられるものを食べれるだけ食べてもらうようにして、少しでも栄養が補給できるようにしてください。
清潔
看取り期には、体を動かすこともつらくなってくるため、清潔な状態を維持するための支援も必要です。常に清潔を保てるよう、負担がかからない程度に入浴や清拭、手浴や足浴などの部分浴を行いましょう。清潔の支援を行う際は、本人が「気持ちいい」と感じることを重視し、身体状況を確認しながら実施します。在宅の場合は、訪問入浴を利用することを検討してもよいでしょう。
排泄
看取り期には、体動や腸煽動が減り、消化や排泄に関する内臓機能が低下するため、食事や水分の摂取量と尿量・排便量の確認が重要となります。便秘や腹部の張りが強くなると、苦痛が増えるため、看護師による腹部マッサージや下剤の服用、浣腸の使用、ガス抜きなどを行い、少しでも苦痛を取り除くことが大切です。
疼痛緩和
看取り期には、病気に起因する痛みだけでなく、自分で体動が難しくなったことに対する痛みが発生します。看取り介護では、本人の状態に応じた安楽な体位にしたり、体位変換を行ったり、必要に応じてマッサージをするなどしましょう。
場合によっては、疼痛緩和の処置が必要となることもあります。その際は、普段の様子を主治医に伝えて相談して判断を仰ぎましょう。
精神的支援
看取り期に入った利用者さんは、不安や苦痛を感じやすくなっているため、可能な限り一人にしないことが大切です。施設の場合は、職員全員が気にかけて訪室回数を増やしたり、好きな音楽をかけたり、少しでも話をしたり、手を握ったりするなど、寄り添うことを重視した支援を行いましょう。
また、精神的な支援を必要とするのは、家族も同じです。施設でも付き添われる家族にやさしく声掛けしたり、傾聴したりすることも大切です。在宅の場合は、利用者さんに接する時間が最も多くなる家族に対し、介護のねぎらいをしつつ、家族の気持ちに寄り添えるような支援を心がけましょう。
5.看取り介護を行う施設

看取り介護を行う施設には、どのようなものがあるのでしょうか。看取り介護を行う施設について、詳しくみていきましょう。
病院・介護医療院
病院の場合、療養型病棟や緩和ケア病棟などでは、看取り介護を目的とした入院が可能なケースがあります。ただし、病院は治療を受けるための施設であるため、医療を受けずに看取り介護だけお願いしたいという希望は難しいでしょう。
主に医療法人が運営する介護保険施設である介護医療院の場合、看取りやターミナルケアなどの医療機能と、生活施設としての機能を兼ね備えた施設であることから、看取り介護が実施されています。
特別養護老人ホーム
特別養護老人ホームは、常に介護を必要とする人に対して、24時間体制の介護を提供する介護保険施設です。基本的に看取り介護が可能な施設であり、看取りのガイドラインやマニュアルを作成しているところも多くなっています。
特別養護老人ホームでの看取りでは、身体的ケアや精神的ケア、家族へのケアなどを実施しています。亡くなったときには、施設の看護師が提携している病院や診療所の医師に連絡し、医師の訪問により死亡確認が行われます。
認知症グループホーム
認知症グループホームでは、近年看取りまで行うところが増えてきています。ただし、認知症グループホームの場合、看護師が常駐しないところが多いため、医師と看護師、介護職がしっかりと連携した体制を整えていないと、看取り介護が難しくなってしまいます。そのため、自治体によっては、認知症グループホームでの看取り介護の増加に伴い、ガイドラインを制定しているところもあります。
サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホームなど
近年、サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームでも、看取りを行っているところが増えてきています。厚生労働省が公表している「高齢者向け住まいにおける認知症や看取り、医療ニーズ等の重度化対応へのあり方に関する調査研究報告書」によると、看取り率は介護付き有料老人ホームでは30%、住宅型有料老人ホームで27%、サービス付き高齢者向け住宅で17%となっています。
このような施設での看取り介護では、施設職員だけでなく往診医や訪問看護と連携を図りながら行うことも多いでしょう。
ただし、看取りを行っているかどうかは、運営主体によって方針が異なりますので、実際に看取り介護を希望する場合は、入居を検討した段階で施設に確認しておきましょう。
まとめ:看取り介護を理解して人生の最期に寄り添おう

看取り介護では、その人の思いや尊厳を大切にしながら、その人らしく最期を迎えるための支援を実施します。看取り介護のニーズは高まってきていることから、介護職として看取り介護への認識を深めておくことは、重要といえます。看取り介護を正しく理解し、利用者さんの人生の最期に寄り添った支援を行いましょう。
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