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仕事・スキル 介護士の常識 2023/04/10

介護施設の実地指導とは?事前準備や対策のポイントも解説!

構成・文/介護のみらいラボ編集部 監修/渡辺有紀 thumbnail.jpg

介護施設・事業所では、介護保険法にのっとった運営ができているかを確認する目的で、定期的に実地指導が行われます。法令違反が発覚すると、改善勧告がなされたり、介護報酬の返還に至ったりするケースもあるため、実地指導の通知が来ると緊張や不安を感じる施設管理者の方も多いのではないでしょうか。

ただし、実地指導はあくまでサービスの質の確保や、保険給付の適正化などを目的に行われるもの。施設や事業所の側は、「適切なサービスを継続させるための手続き」と前向きにとらえるのがよいでしょう。

当記事では、介護施設・事業所の管理者やスタッフに向けて、実地指導の概要や知っておくべきこと、監査や集団指導との違いなどを解説します。あわせて、実地指導に向けての対策も紹介するので、ぜひ参考にしてください。

1.実地指導とは?

実地指導とは、都道府県または市町村の担当者が介護施設・事業所を訪れ、適切な事業運営がなされているかの確認を行う行政指導です。

実地指導は、介護保険制度や介護保険サービスの健全な継続を目指して、行政から事業運営に関する指導・アドバイスを行うことであり、「運営指導」と「報酬請求指導」に分類されます。実地指導は、決して不正を暴くために行われるものではないので、その点に留意しましょう。

なお、実地指導と似たものに監査や集団指導がありますが、目的、対象はそれぞれに異なります。実地指導の詳細を説明する前に、まずは監査、集団指導との違いを解説していきましょう。

監査との違い

実地指導と監査は、「介護施設・事業所で個別に行われる」という点が共通しているため、同じような取り組みだと勘違いしている方がいるかもしれません。しかし、実地指導と監査には次のような違いがあります。

実地指導は、すべての介護施設・事業所が対象であり、実施の2週間前までに実施の旨が通知されます。一方の監査は、介護サービスや介護報酬請求について、不正が疑われる場合に行われる措置であり、実地指導の際に指定基準違反、不正請求の痕跡などが認められた施設・事業所が対象となります。事前通知もありません。

調査の位置付けにも違いがあります。実地指導が施設・事業所の任意協力を前提としているのに対して、監査は行政が立入検査の権限を行使して実施します。ただし、実地指導の途中で運営基準違反、不正請求などの問題が発覚した場合は、監査に切り替わる可能性があるため注意してください。

監査の結果、指定基準違反や不正請求が認められた場合は、改善勧告や改善命令、介護事業者としての指定取消、一部停止などの措置がとられる可能性があります。

(出典:厚生労働省「都道府県・市町村が実施する指導及び監査の流れ」

集団指導との違い

実地指導と集団指導は、どちらも介護施設・事業所を対象に行われる行政指導ですが、目的や実施方法が異なります。

集団指導の目的は、適切なサービスの実施や、不正防止のために正確な情報を周知することです。実施方法は、年に数回の頻度で、指導対象となるサービス種別の事業所を集め、介護報酬請求や制度改定の内容に関する説明、注意喚起が必要な事例紹介など、必要な指導内容を説明会方式で行います。

一方、実地指導の目的は、介護施設・事業所ごとに介護サービスの質や運営体制を確認することです。そのため、行政が介護施設・事業所を訪れ、実地にて運営基準や報酬請求等の確認を面談形式で行う方式を取っています。

対象となる介護サービス

実地指導は、訪問介護事業所、通所介護事業所、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)など、介護保険給付に関係するすべての介護サービスが対象です。

なお、保険医療機関や保険薬局についても、居宅サービスを提供し、介護報酬を請求している場合は実地指導の対象となります。

2.実地指導に備えて知っておくべきこと

実地指導は2週間前までに、実施する旨が通知されます。通知が届いてからあわてて準備することのないように、普段から適切な書類の作成・管理に努めましょう。

ここでは、実地指導に備えて知っておくべきことを、指導内容、準備物、実地指導の流れに分けて詳しく紹介します。

(出典:厚生労働省「介護保険施設等 運営指導マニュアル」

実地指導の内容

実地指導の内容は、以下の3つに分けられます。

【実地指導の内容】

介護サービスの実施状況指導 適切なケアマネジメント・プロセスに基づいてサービスが実施されているか、高齢者虐待や不適切な身体的拘束等が行われていないかなど確認し、サービスの適正化を図ります。なお、施設または設備についての規定があるサービス種別の場合は、それらについても確認を行います。
最低基準等運営体制指導 事業の運営体制が基準を満たしているかを確認し、サービスの質が確保されるために必要な指導を行います。
報酬請求指導 介護報酬や各種加算について、算定基準に適した体制が確保されているか、適切な運営がなされているかなどを確認し、不正請求の防止と制度管理の適正化を図ります。

いずれも、厚生労働省の「介護保険施設等運営指導マニュアル」に基づいて実施され、改善点があった場合は口頭あるいは文書で指摘を受けます。

用意しておくもの

実地指導の通知が届いたら、「事前に提出する資料」と「当日に提示する資料」の2種類を用意します。どのような資料が必要かは自治体によって異なるため、通知内容をもとに準備を進めましょう。

実地指導に必要な書類の例は以下の通りです。

【事前に提出する資料】

・自主点検表
・運営規定
・職員の勤務体制および勤務形態一覧表
・職員の資格一覧表 など


【当日に提示する資料】

・職員の勤務関係書類(勤務表など勤務状況が確認できるもの)
・資格証または資格証の写し
・研修に関する記録
・サービス提供記録や計画表
・事故発生や苦情処理の対応状況が分かる資料
・介護給付費明細書(国保連請求分) など


また、当日は管理者や相談員、ケアマネジャーなど、運営やサービス提供状況について説明できる人員に出席してもらう必要があります。

実地指導の流れ

実地指導の流れは以下の通りです。

1 施設・事業所への通知
運営指導の目的や日時、指導担当者、準備書類、当日の流れなどが記されたものが、実施日の1か月前(原則)までに書面で通知されます。

2 事前資料の準備
通知内容に基づき、事前提出書類の提出や当日提示書類の準備を進めましょう。

3 実地指導
サービスの質や運営体制、報酬請求に関する質疑応答、施設の巡回などを行います。実地指導当日は、指導担当者との質疑応答がメインになるため、会議室などを用意するとスムーズに進むでしょう。

4 結果通達
実地指導の結果、法令違反などがあり早急な対応が必要な場合は、当日に通達されます。なお、それ以外のケースにおける指導方法には、文書指導・口頭指導・助言の3種類があります。文書指導の場合は、改善報告が必要となるため注意してください。

(出典:厚生労働省「都道府県・市町村が実施する指導及び監査の流れ」

3.実地指導対策のポイント

過去に「自治体によって実地指導確認項目が違う」「指導にばらつきがある」などの課題が指摘されていたため、2019年5月に発出された「介護保険施設などに対する実地指導の標準化・効率化等の運用指針について」によって、実地指導の確認項目や必要書類が統一されました。

(出典:厚生労働省「介護保険最新情報」

前述したように、実地指導は「適切なサービスを継続させるための手続き」であり、ネガティブにとらえる必要はありません。日頃から実地指導に備えておくことで、サービスの質が維持できたり、コンプライアンス重視の意識が高まったりと、施設・事業所にとって多くのメリットがあるでしょう。

ここでは、実地指導を受ける上で、事前に知っておきたい対策のポイントを2つ紹介します。

介護サービスごとの確認項目を把握する

実地指導における確認項目は、提供する介護サービスごとに異なります。そのため、自分が働いている施設に、どのような確認項目が存在するかを把握しておくことも重要です。当記事では訪問介護と介護老人福祉施設を例に確認項目例を紹介します。

【訪問介護サービスの確認項目例】

・訪問介護計画の作成
・居宅サービス計画に沿ったサービスの提供 など


訪問介護サービスでは、居宅サービス計画に沿ってサービスが提供されているかが重要なポイントとなります。訪問介護計画やアセスメントシート、モニタリングシートに不備がないかを確認しておきましょう。

【介護老人福祉施設の確認項目例】

・指定介護福祉施設サービスの取扱方針
・栄養管理
・口腔衛生の管理 など


介護老人福祉施設においては、入所者さんに身体拘束がないか、口腔衛生管理がなされているかなどさまざまな確認がなされます。また、2021年から「LIFE加算」がスタートしたことで、こまめな介護記録がより重要度を増しています。業務として行ったことは必ず記録するようにしましょう。

自主点検表を整備する

実地指導では、運営規定や勤務表などと一緒に自主点検表の提出を求められます。自主点検表とは、介護保険法で定められた事項を遵守し適切な運営をできているかを確認するためのチェックリストで、介護給付費の加算・減算要件に該当する項目も記載されています。

定期的に自主点検を実施し、「施設運営が健全か」「適切なサービスを提供できているか」などについて、確認するようにしましょう。なお、自主点検表は、厚生労働省や自治体のホームページから取得可能です。定期的な確認が実地指導の対策にもつながるため、積極的に取り組むのがおすすめです。

(出典:厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル」

まとめ

実地指導は、介護施設・事業所を対象に、介護保険法にのっとって適切な運営がなされているかの確認を行うものです。実地指導では、「介護サービスの実施状況指導」「最低基準等運営体制指導」「報酬請求指導」という3つの視点から、ヒアリング、書類の確認などを実施します。

実地指導の対策としては、普段の業務における適切な書類の作成・管理や、自主点検表を用いた定期的な確認などが挙げられます。ただし、実地指導の確認項目は介護サービスごとに異なるため、自身の施設・事業所に当てはまる確認項目や必要書類について、事前に把握しておくとよいでしょう。

「介護のみらいラボ」では、実地指導に関する情報以外にも、介護の現場で活躍する方に向けた、有益な記事を多数掲載しています。ぜひ「介護のみらいラボ」を参考にしてください。

※当記事は2022年7月時点の情報をもとに作成しています

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渡辺有紀(Yuki Watanabe)

社会福祉士・精神保健福祉士/ライター

1978年生まれ。大学卒業後、アパレル、商業ライターを経験。結婚出産を経て資格取得後、福祉業界へと転身する。社会福祉協議会の地域包括支援センター社会福祉士、CSWを経て、現在はフリーランスソーシャルワーカーとして活動中。SSW、認定NPO法人相談員など複数の相談援助業務に携わる。

渡辺有紀の執筆・監修記事

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