ノーマライゼーションとは?歴史や原理、事例を簡単に解説
構成・文/介護のみらいラボ編集部 監修/赤羽克子社会では障害や病気を持っていることから、ときに不当な扱いを受けてしまう方がいます。ノーマライゼーションは、そうした不当な扱いや不自由がないように、すべての人の生活や権利が保障された環境を作っていこうとするという考え方です。ノーマライゼーションの考え方は障害者福祉のみならず、高齢者の介護においてもとても重要視されています。
当記事では、「ノーマライゼーションとは何か?」や、ノーマライゼーションの歴史、今後の課題、実例などについて解説します。ノーマライゼーションについて、きちんと理解できていないという介護職の方は必読です。
1.ノーマライゼーションとは?
ノーマライゼーションとは、「障害の有無や年齢などに関係なく、どのような人にも生活や権利が保障された環境を作っていく」という考え方です。
知的障害者は「あたりまえの」「普通の」生活を送る権利があり,その生活を支える社会を構築するという意味がある。この考え方をノーマライゼーションといい,障害者福祉を支える理念となっている。
(引用:内閣府「ユースアドバイザー養成プログラム」_2022/09/02)
社会福祉の現場では、ノーマライゼーションが基本理念として掲げられており、人々が支え合いながら、明るく暮らせる地域社会の実現を目標としています。
介護におけるノーマライゼーションとは?
ノーマライゼーションの考え方は、介護の現場においても取り入れられています。
介護におけるノーマライゼーションとは、高齢者が自分らしく暮らすためになくてはならない理念であり、言葉を換えるなら「補助器具の使用や整備された施設の利用によって、自分のペースで自分らしく生活できる環境を作ること」だと言えます。
以前は、大型の施設に大人数の高齢者が入居し、タイムスケジュールに沿って生活するようなケースも多く見られました。しかし、現在の高齢者福祉施設では、介護が必要になった場合でも、一人ひとりがこれまでと変わらない暮らしや、生活環境を維持することが望ましいとされています。
ノーマライゼーションの歴史
ノーマライゼーションの理念は、1950年代にデンマークの行政官であったバンク・ミケルセンによって提唱されました。
当時の知的障害者は、一般の人から隔離された施設に入り、生涯を施設で生活することが当たり前となっていました。そして、そうした施設のなかには非人道的な扱いをするところも少なくありませんでした。
そうしたなか、知的障害者施策の行政官だったバンク・ミケルセンは、知的障害者施設のあり方に疑問を持ち、「障害のある人も、障害のない人と同じ生活と権利が保障されるべき」という考え方を打ち出したのです。
その後、ノーマライゼーションの概念はスウェーデンのベンクト・ニィリエによって体系化され、世界共通の考え方として浸透しました。
(出典:社会福祉法人眉山福祉会まゆやま学苑「ノーマライゼーションについて」)
(出典:内閣府「ユースアドバイザー養成プログラム」)
ノーマライゼーションとバリアフリー・ユニバーサルデザインの違い
ノーマライゼーションと混同されやすい言葉に、「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」などがあります。
バリアフリーとは、身体障害者・高齢者を含むすべての人が、地域生活を営む上で「バリア(障壁)」となるものを取り除き、安心・安全に生活しやすくすることを指す言葉です。具体的には、足が不自由な方のために段差にスロープを設置する、目が不自由な方のために音声案内や点字を導入するといった対策が挙げられます。
ハード面だけでなく人々の理解や協力などの心のバリアフリーも重要です。
一方のユニバーサルデザインは、年齢や性別、国籍、能力、言語、状況などに関係なく、多くの人が使いやすいように、製品や建物、環境などをデザインするという考え方です。バリアフリーのように「障壁を取り除く」のではなく、設計の段階から「誰もが使いやすいようデザインする」という点が大きな特徴と言えるでしょう。
(出典:国土交通省「バリアフリーとユニバーサルデザインの定義」)
以上のことから、バリアフリーとユニバーサルデザインは、ノーマライゼーションを具現化するための手段の1つだと考えて良いでしょう。
介護業界におけるノーマライゼーションの課題
福祉職や介護職に従事するスタッフ間では、ノーマライゼーションの考え方が共通の理念として認識されているものの、世間的にはいまだに認知度が低いのが実状です。
しかし、介護や援助を必要とする方が、地域社会でこれまで通りの生活を続けるには、社会全体にノーマライゼーションの理念を浸透させなければいけません。介護現場と地域社会とのギャップをなくすためにも、今後は「ノーマライゼーションの考え方を広める活動」にも力を入れていく必要があるでしょう。
また、企業や地域社会における障害者・高齢者サポートへの理解が不十分なために、具体的なノウハウが備えられていないことも課題の1つです。
2.ノーマライゼーションの8つの原理
ベンクト・ニィリエは、ノーマライゼーションの理念を整理し、基本的枠組みとして8つの原理に分類し、ノーマライゼーションの原則としました。
障害者ができる限りノーマルな日常生活を送るには、8つの原理のすべてを達成することが必要だとしています。
ノーマライゼーションの8つの原理は、以下の通りです。
1:1日のノーマルなリズム |
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朝ベッドから起きて、洋服を着替え、学校や仕事へ行く。帰宅したら、食事を取り、夜にはその日やり遂げたことを振り返る。そうやって、ごく普通の1日のリズムを保つ |
2:1週間のノーマルなリズム |
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平日は学校や仕事に行く。週末には、休みをとって好きな場所に遊びに行くなど、当たり前の1週間を過ごす |
3:1年間のノーマルなリズム |
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長期休暇ではスポーツや旅行など、余暇の活動を満喫する。また、季節によってさまざまな食べ物やイベントを楽しむなど、当たり前の1年間を過ごす |
4:ライフサイクルにおけるノーマルな発達経験 |
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幼い頃は遊びを楽しむ。青年期はおしゃれや音楽、恋愛に興味を持つ。成人したら仕事をしてその責任を背負う。老年期はそれまでに身につけた知恵を持ち、なつかしい思い出に浸って過ごすといったように、当たり前の成長過程をたどる |
5:ノーマルな個人の尊厳と自己決定権 |
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普通の人と同じように、自由と希望を持つ。周囲の人もそれを認め尊重する。大人になれば自分が望む地域に住み、仕事を見つけ、趣味にも時間を費やす |
6:ノーマルな性的関係 |
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子どもか大人かに関係なく、異性との良い関係を築く。青年期には異性との交際に興味を持ち、成人して適切な年齢になれば結婚を考える |
7:ノーマルな経済的水準 |
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誰もが公的財政支援や児童手当、老齢年金などの保障を受ける権利を持ち、そのための責任を果たす。また、自由に使えるお金があって、好きなものや必要なものを買うことができる |
8:ノーマルな環境形態 |
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望む家に住んで地域の人たちと交流しながら生活を送る。障害を理由に、複数の他人と大きな施設に住む必要はない |
8つの原理は、もともと知的障害者を対象にしたものですが、現代社会においては「知的障害者のみならず、社会福祉全体に共通した考え方」だと言って良いでしょう。
3.ノーマライゼーションの事例
近年では、日本においてもノーマライゼーション推進の取り組みが活発化しており、介護業界にもそうした活動が浸透し始めています。
また、厚生労働省では、障害者福祉施設サービスの利用に向けた新たな仕組み作りが進められており、今後さらに障害者の自立・社会参加が促進されるでしょう。
以下では、ノーマライゼーションの取り組みについて、具体的な事例を紹介します。
バリアフリー
ここで言うバリアフリーとは、障害者、高齢者などの活動を妨げる原因を取り除くことです。
具体例として、「車椅子の方など多様なニーズに対応できる(利用できる)多目的トイレを設置する」「段差をなくしスロープを設置する」「点字ブロックを設置する」などが挙げられます。
バリアフリー化が進むことは、身体の不自由な方でも安心して外出できる社会の実現につながるでしょう。
ユニバーサルデザイン
先に紹介したように、ユニバーサルデザインとは、設計の段階で誰もが使いやすいデザインを追求する考え方です。
具体例として、「自動ドアや段差のない歩道」「目の不自由な方が指先の感覚でシャンプー・リンスの区別をつけられるボトルの凹凸」「ピクトグラム(絵文字)」などが挙げられます。
地域にユニバーサルデザインの設備・システムが広がることで、年齢や障害に関係なく、誰もが暮らしやすい社会を実現できるでしょう。
障害者雇用促進法
障害者雇用促進法とは、障害を持つ方が差別を受けることなく安定して働き、自立した生活を送ることを目的とした法律です。
障害者雇用促進法は、時代の流れに合わせて改正が繰り返されています。現在の障害者雇用促進法は、「障害者の方だけでなく、すべての労働者が働きやすい場を作ることが重要である」という観点から、2019年〜2020年にかけて段階的に施行されました。
(出典:厚生労働省「令和元年障害者雇用促進法の改正について」)
こうした法律にもとづいて、障害者の労働環境改善を目指した障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどでは、職業リハビリテーションの推進が行われています。
また、事業主による障害者への差別を禁止するとともに、障害者手帳を持つ方や精神障害者の方への助成金支給事業も実施しています。
(出典:厚生労働省「障害者雇用促進法の概要(昭和35年法律第123号)」)
障害者雇用促進法は、「障害者の方が障害のない方と同じように生活する社会」を目指すもので、ノーマライゼーションの考え方を含んだ法律であると言えるでしょう。
障害者差別解消法
障害者差別解消法とは、「すべての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現」を目指した法律です。障害者差別解消法では「不当な差別的取り扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」の2点について定められています。
不当な差別的取り扱いとは、正当な理由がなく、障害を理由にサービス提供を拒否したり、制限したりすることです。正当な理由がある場合は、障害者の方に理由を説明し、理解を得るように努めることが求められます。
合理的配慮とは、障害のある方の人権を保障するとともに、教育や就業、その他の社会生活に平等に参加できるよう、それぞれの障害特性や困りごとに合わせておこなわれる配慮のことです。
障害者の方から何らかのサポートを求められたときは、負担が重すぎない範囲で対応することが求められます。なお、負担が重い場合は、理由を説明して別の方法を考えるなど、話し合って理解を得ることが大切だとされています。
まとめ
ノーマライゼーションとは、「障害の有無や年齢などに関係なく、どのような方にも生活や権利が保障された環境を作っていく」という考え方であり、障害者福祉や高齢者の介護においては、非常に重要視されています。ただし、世間一般での認知度はまだ低いため、ノーマライゼーションの考え方を広めることが、人格と個性を尊重し合える社会づくりの課題と言えるでしょう。
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※当記事は2022年10月時点の情報をもとに作成しています
▼監修者からのアドバイス
ノーマライゼーションとは、障害がある人を特別な人として見るのではなく、障害のあるなしにかかわらず、一人の人間として通常の生活を営むことができる社会を目指していくという理念です。そのことをしっかりと理解しておきましょう。
ノーマライゼーションという言葉は、1950年代にデンマークのバンク=ミケルセンによって提唱されました。起点となったのは、当時、知的障害者が大規模施設の中で不当な扱いを受けていることを知った「親の会」の「この状況を改善しよう」という運動でした。
バンク=ミケルセンはノーマライゼーションの父といわれています。バンク=ミケルセンが提唱したノーマライゼーションの理念は、スウェーデンのベンクト・ニィリエたちによって広められ、福祉の理念として世界に広がりました。
尊厳ある介護を支える重要な理念であるノーマライゼーションの考え方、その実現に向けた支援について、しっかりと理解しておきましょう。
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