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仕事・スキル 介護士の常識 2022/09/10

介護における「尊厳の保持」とは?利用者への適切な対応方法

構成・文/介護のみらいラボ編集部 4.jpg

すべての人は生まれながらにして1人の人間として尊重される権利、すなわち人としての「尊厳」を持っています。しかし、要介護状態になるなどして自由に活動しにくくなった高齢者の場合、尊厳が損なわれるような状況になることも少なくありません。

介護施設において利用者さんの尊厳を保持することは、介護のプロフェッショナルとして必ず身に付けたい考え方の一つです。当記事では、介護における「尊厳の保持」の意味と、利用者さんの尊厳を保持する介護のポイントについて解説します。

1.介護における「尊厳の保持」とは?

「尊厳」は「尊くおごそかなこと」を意味する言葉です。

(出典:精選版 日本国語大辞典「尊厳」

人の尊厳は「犯されてはならない人間としての根源的な価値」であり、人の尊厳を守ることはその人の自由と生存を尊重すること、つまり基本的人権の尊重につながっています。

尊厳は年齢や性別に関わらずすべての人が持つものであり、要介護者・要支援者も例外ではありません。日本国憲法第13条では、「すべて国民は、個人として尊重される」と述べており、介護保険法でも介護保険制度を「要介護者などが自らの尊厳を保ちつつできる限り自立して生活できるよう、医療および福祉サービスを提供するための制度」と定めています。

(出典:e-Gov「介護保険法 第一条」

また、高齢者介護研究会は「2015年の高齢者介護」において、高齢者が要介護状態となっても尊厳を持って暮らせる社会づくりを最重要課題としています。同会はそのなかで「高齢者の尊厳を支えるケア」を提唱し、方策として次の4点を挙げました。

介護予防およびリハビリテーションの充実
・生活の継続性の維持を目的とした介護サービス体系の確立
・認知症高齢者のケアを目的としたケアモデルの確立
・サービスの質の確保および向上

(出典:厚生労働省「2015年の高齢者介護~高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて~」

そうしたなか、政府も「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者となる2025年をメドに、地域包括ケアシステムの整備を進めています。地域包括ケアシステムというのは、要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしく暮らすために、地域内で助け合う体制のことで、そこでは地域の実情に合った医療、介護、生活支援サービスなどが一体的に提供されます。

この仕組みが実現することによって、医療機関の負担が軽減されるとともに、自宅や地域で自分らしく暮らしたい高齢者の尊厳の保持につながるでしょう。

2.利用者さんの尊厳を保持する介護の仕方とは?

介護者が、必要な作業をこなすことを優先しすぎたり、要介護であることを理由に何でもかんでも手助けしたりすると、利用者さんの尊厳を傷つける恐れがあります。

利用者さんの尊厳を保持するためには、1人ひとりのプライドを尊重する姿勢が欠かせません。利用者さんの尊厳を保持するために介護者が覚えておきたいポイントは、次の通りです。

基本的な視点を念頭に置く

利用者さんの尊厳を保持するには、それぞれのプライバシーを保護することが重要です。

プライバシーとは、普段の生活や行動を他人からむやみにのぞき見されたり干渉されたりせず安心して過ごす権利のこと。介護者は利用者さんやご家族の個人情報を漏えいしないことはもちろん、次のポイントにも配慮してください。

・利用者さんやご家族に対して必要以上に口出ししたり、干渉したりしない
・利用者さんの私物を本人の同意なしに見たり、触ったりしない
・利用者さんの悪口や愚痴などを周囲に話さない

プライバシーに加えて、ノーマライゼーションの視点を持つことも大切です。ノーマライゼーションとは、「心身の状態や年齢などを問わず、すべての人が同じように生活できる社会を目指すこと」を意味する言葉で、近年普及しているバリアフリーユニバーサルデザインなども、ノーマライゼーションの一環です。

介護現場において介護者は、利用者さんが安心して日常生活を送る権利や、自由に社会参加する権利を守れるように配慮しましょう。また、「住み慣れた家で過ごしたい」「病気の進行を抑えつつ地域の集まりに参加したい」といった利用者さんの要望に応えるケアプラン作りも重要なポイントとなります。

身体面や精神面において適切な対応をする

介護者には、利用者さんの身体的尊厳や精神的尊厳などを損なわないための適切な対応が求められます。次の表は、利用者さんの尊厳を傷つけかねない対応の一例です。

けが、事故、病気につながる要因を放置する ・暴力をふるう
・不必要な身体拘束を行う
誤嚥(ごえん)の恐れがある状況で、食事の介助や見守りをしない
褥瘡(じょくそう)のケアをしない
・転倒事故につながる段差や障害物などをそのままにしておく
・乱暴な身体介助をする
・居室の環境を整えない
・感染症予防をしない
不安、悲しみ、怒りを与える ・暴言を吐く
・1人きりにする
・長時間放置する
・怖がらせたり、驚かせたりする
・命令する
・無視、差別、決めつけなどによってプライドを傷つける
経済的損失を与える ・利用者さんのお金や持ち物を無駄に消費する、または無断で処分する
・利用者さんからお金や持ち物を取り上げる
・不必要なケアをする
機能低下防止に向けた配慮を行わない ・排せつなどの生理現象を放置する、または我慢させる
・本人の意思を無視して介助する
・過剰な介助を行う
・自己実現の機会を作らない
・外出させない

利用者さんのなかには、それまで自分でできていたことができなくなったことで、不安やもどかしさを感じている人が少なくありません。また、入浴や排せつなどのケアを必要とする利用者さんは、普段見せない部分の肌を露出する機会が多くなります。そうしたケースでの利用者さんの心情を踏まえながら、配慮と敬意を忘れずに対応しましょう。

介護者が大切にするべき「接遇マナー」を実践する

介護者は利用者さんに対して正しく対応するだけでなく、お互いに気持ち良く過ごすための接遇マナーや心構えを身につけることも大切です。次の表は、介護現場において求められる接遇マナーや心構えの一例です。

敬意を払う ・社会人としてのマナーを守り、身だしなみを整える
・話す時は目線の高さを合わせ、にこやかな表情を作る
・忙しい時でもきちんと相手の話を聞く
・利用者さんを1人の大人として敬う
・利用者さん1人ひとりの性格や状況に合わせて接遇する
安全を守る ・利用者さん1人ひとりの状況を確認し、転倒や誤嚥などのトラブル防止に向けて安全対策を行う
向上心を持つ ・より良い介護をするための方法や心構えを常に模索する
・介護や医療などについての新しい情報を得る
自分自身のストレスマネジメントを行う ・嫌なことがあっても早めに気持ちを切り替える
・物事を前向きにとらえる習慣を身に付ける

接遇マナーに「こうしなければならない」といった決まりはないため、利用者さんの性格や考え方、好みに合わせた対応を心がけることも大事です。元気な接し方を好む利用者さんにははきはきと対応し、大きい音を嫌う利用者さんには大声を出さず穏やかに対応するなどして、柔軟な介助を心がけましょう。

とはいえ、介護者も1人の人間であり、ストレスがたまると利用者さんに思いやりの気持ちを持ちにくくなることもあるでしょう。自らのメンタルケアのためにも、上手に気分転換を行い、ストレスをためないように工夫することをおすすめします。

不要な身体拘束をしない

介護現場における身体拘束とは、利用者さんの行動を抑制する目的で体を縛ったり、部屋に閉じ込めたりすることです。広義の身体拘束には、不適切な薬物投与による行動抑制や、「○○してはいけない」「ちょっと待って」といった言葉による行動制限も含まれます。

身体拘束が認められる条件は、「本人や周囲の安全確保のためにやむを得ないこと」「他に適切な方法がないこと」「あくまで一時的な措置であること」をすべて満たすことです。なお、やむを得ず身体拘束をする場合は、身体拘束に至った背景や拘束時間などを記録する必要があります。

不要な身体拘束は、利用者さんの尊厳を損なうだけでなく、心身機能低下や精神的苦痛などにもつながりかねません。また、本人だけでなくご家族の混乱や怒りを招く恐れもあります。

不要な身体拘束を防ぐためにも、「この人は認知症なので判断能力がない」などと決めつけず、利用者さん自身の視点から問題発生の理由を探ることが重要です。加えて、利用者さんが自分の気持ちや要望を伝えやすいような環境づくりも欠かせません。

3.尊厳を保持する介護の実践には「チームワーク」が欠かせない!

人手不足などで多忙になると、知らず知らずのうちに気持ちの余裕がなくなり、尊厳を損なう介護につながるケースもあります。しかし職員同士で連携が取れていれば、忙しい時でもお互いにフォローし合うことができ、余計なストレスを防げるはずです。

介護の現場でチームワークを意識することは、利用者さんだけでなく介護者自身のメリットにもつながります。介護者1人ひとりが自らの特技を発揮し助け合うことで、利用者さんは良質なケアを受けやすくなり、介護者の側も達成感や職場への愛着を得やすくなるでしょう。

チームワーク作りのポイントは、普段から職場内のコミュニケーションを密にして報連相(報告・連絡・相談)を心がけることと、仕事仲間の尊厳をきちんと守ることです。みんなが気持ち良く働ける職場環境を整えて、よりスムーズで安心感のある支援を提供しましょう。

まとめ

人の尊厳とは人間としての根源的な価値であり、本人の属性や心身の状態に関係なくすべての人が持つべきものです。介護現場においても、利用者さんの尊厳の保持を意識し、1人ひとりに合ったケアや自立支援を行うことが欠かせません。

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※当記事は2022年5月時点の情報をもとに作成しています

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