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仕事・スキル 介護士の常識 2023/11/21

行動援護って何?利用できる人やサービスの種類、費用や資格について詳しく紹介

文/山本史子(介護福祉士) thumbnail.jpg

行動援護とは、障がい者が安心して社会生活を送るために必要な福祉サービスの1つです。障がい者の支援に携わるには、利用者さん個々の行動特性を理解したうえで、適切な対応を行わなければなりません。

本記事では、行動援護のサービス内容と対象者・行動援護のサービス提供に必要な資格を解説します。類似する障がい福祉サービスとの違いも理解し、適切な支援を提供できるようにしましょう。

1.行動援護とは



行動援護とは、知的障がいや精神障がいがある方が、障がいがあっても地域で自立した生活を送れるように支援する障がい福祉サービスの1つです。

行動援護は、自分一人で外出することが難しい方や、常時介護が必要な障がい者(児)が利用するもので、たとえば、外出の際の危険回避や外出前後の着替え・外出中の排せつや食事の介助など、個人のニーズに合わせたサービスが提供されます。障がいの特性を理解した専門の職員が支援することで、知的障がいや精神障がいのある方が、安心して社会参加でき、生活が維持できるようにするためのサービスといえます。

行動援護の利用対象者

行動援護の利用対象者は、「その障がい特性により、行動上著しい困難を有する障がい者(児)で、常時介護が必要な人」です。たとえば、行動援護の対象者となる方は、自分の思っていることを表現することが難しく、周囲に知らせることが難しいことがあります。また、相手のいっていることが理解できずに、自身の行動に不安を感じる方もいるでしょう。ほかにも、市町村が行う認定調査において「行動面で特別な注意を必要とすること」と認められた場合、行動援護のサービスが利用できます。

具体的には、次の3点が該当する方が対象となります。

  • 知的障がいまたは、精神障がいがあり、常時介護が必要
  • 障害支援区分3以上
  • 障害支援区分の認定調査項目のうち、行動関連項目(12項目)の合計点が10点以上 ※児童は、相当する支援の度合いによる

障がいの度合いは、介護度のように区分されており、障害支援区分とよばれます。障害支援区分は、区分1~区分6まであり、行動援護は区分3以上の方が対象となります。

行動援護のサービス内容

行動援護の主なサービス内容は、次の3点です。

予防的対応 ・行動の際に起きる危険を想定し、危険回避に必要な援助
・外出時の介助
制御的対応 ・パニックが起きた時や問題行動が出たときの対処
身体介護的対応 ・便意がない方の排せつの介助

予防的対応とは、たとえば、障がい特性のなかに行動の予定がわからないと強い不安を感じる場合に、精神的に不安定にならないよう外出のスケジュールや目的地での行動を先に伝えておくといった支援を行います。制御的対応は、たとえば、想定外の場所で苦手な音がしたなどの理由で、パニックや自傷行動につながるケースにおいて、本人や周囲の安全を確保しながらも、適切に心を落ち着けてもらうといった支援が該当します。身体介護的対応は、主に排せつ介助のほか、食事や着替えといった生活支援などが含まれます。

利用料はどれくらい?

行動援護のサービス費は「利用単位数×1単位あたりの単価」で計算し、30分ごとに単位が決められています。7時間30分を上限としてそれ以上単価が上昇しないような仕組みで、所要時間30分未満の場合は258単位、7時間30分以上の場合は、2,540単位となり、利用者は1割負担となります。

ただし、基本単位は国で定められていますが事業所の取り組みや規模、どの程度の支援体制があるか等によって事業所によって加算金額が異なるため具体的な金額を知りたい方は、事業所で確認しておきましょう。

サービス対象者が18歳以上の場合は、利用者と配偶者の所得、18歳未満の場合は、保護者の世帯の所得に応じた自己負担の上限があります。サービス上限より自己負担の方が少ない場合は、その金額を支払うことになります。また、利用できるサービス時間は、1日1回、最短30分未満から、最大7時間30分以上8時間未満です。(※令和5年8月時点)

2.行動援護と類似するサービス「移動支援」「同行援護」との違い



行動援護に似たサービスに、移動支援と同行援護があります。どちらも外出時に必要なサービスですが、どのサービスもよく似ているため、混同しないように注意が必要です。

それぞれのサービスの違いは、以下のとおりです。

サービス 内容
行動援護 ・知的障がいや精神障がいの方が対象。
・常時介護や見守りの必要な方の外出支援。
・危険回避の目的で使用することもある。
・外出時のみならず、外出前後や居宅内でも使用可能。
・障害支援区分3以上 ※児童は区分なし
・実施主体は国。
移動支援 ・障がい者等であって、市町村が外出時に移動支援が必要と認めたものが対象。
・社会参加が目的。ただし、通勤や通学など通年かつ長期にわたる外出は対象外。
・行動援護は障害支援区分3以上の方が対象であるのに対し、移動支援は区分なしから利用可能。
・実施主体は市区町村。そのため、市町村によって費用は異なる。
・一人のヘルパーで複数人数を見られる
・個別・グループ・車両移送などがある
同行援護 ・視覚障がいにより移動が困難な方が対象。※同行援護アセスメント票の調査項目において、移動障害以外で、1点以上かつ、移動障害で1点以上に該当している方。
・外出する際に必要な情報提供や食事や排せつの介護を行う。

ひとくちに、外出に関する支援といっても、障害支援区分や特性によって使えるサービスは異なります。行動援護と比較すると、移動支援は障害支援区分に関わりなく使用できるのが大きな違いです。常に介護が必要ではないものの、見守りや支援が必要な方が利用できます。また、1人の支援員で複数の利用者さんを見ることも可能です。

一方、同行援護は視覚障がい者(児)向けのサービスで、行動援護とは利用者が異なります。外出時の食事や排せつの介助のほか、外出時の代筆や代読などの支援を行います。

3.行動援護でできないこととは?注意点を解説



行動援護に従事する際には、以下の3点に留意しましょう。

  • 1日に使える回数が決まっている
  • 1回の利用時間が決められている
  • 移動支援との併用はできるのか

次から順に解説します。

1日に使える回数が決まっている

行動援護のサービスは1日1回のみの算定となっています。そのため、たとえば朝7時半〜8時までの30分間で行動援護を利用して食事の介助をしてもらい、12時から12時半の30分にもう一度行動援護を利用しておむつ交換をしてもらうといった利用はできません。

1回の利用時間が決められている

行動援護の1日の利用時間は原則30分未満から、7時間30分以上8時間未満となっています。行動援護サービスを提供する事業所は、30分ごとにサービス費を算出することが可能です。30分ごとの16項目に分かれており、それぞれ単位数が異なります。

移動支援との併用はできるのか

原則、行動援護と移動支援の併用はできません。移動支援は、障害支援区分認定がされていない、比較的軽度な知的障がい者(児)でも使用可能です。一方、行動援護は障害支援区分3以上でないと利用できないサービスです。
ただし、生活圏内で行動援護サービスを提供している事業所がないなどの理由で、併用できる事例もあります。移動支援とのサービスの併用については、市区町村によって異なるため、確認が必要です。

4.行動援護のサービス提供をするには、資格が必要



介護職として行動援護を提供するには、行動援護従業者養成研修課程修了または、強度行動障害支援者養成研修(実践研修)を修了し、サービス提供責任者として勤務するのであれば3年以上、ヘルパーとしての勤務であれば1年以上の直接支援業務(知的障がい・精神障がい等)の経験があることが条件です。なお、人員配置基準として、行動援護のサービス提供責任者は、常勤ヘルパーのうち1名以上・ヘルパーは常勤換算2.5人以上が必要です。

上記の条件は、平成27年の報酬改定以降の実施となりましたが、人材不足等の影響もあり、令和6年3月31日までの経過措置が取られています(介護福祉士や介護職員基礎研修修了者・居宅介護職員初任者研修修了者で、実務経験5年以上はサービス提供責任者として、実務経験が2年以上であればヘルパーとして対応可能)。

5.行動援護従業者養成研修の概要と、受講のメリット



行動援護従業者養成研修の概要は、次のとおりです。(2023年8月時点)

研修名 行動援護従業者養成研修
受講対象者 どなたでも受講可能
受講方法 ・各都道府県指定の研修事業所で受講可能
・講義と演習
受講料 2万円~4万5千円
※大阪府の場合(開催事業所による)

受講対象者
行動援護従業者養成研修は、どなたでも受講可能です。障がい者(児)と関わる仕事をしたい方や、家族や知り合いに障がいを持つ方がいるため知識を得たいなどの理由でも受講できます。前述したように、行動援護従業者養成研修は、行動援護のサービス提供をする際に必要となる資格です。障がい福祉サービス事業所に就労予定のある方は受講しておくと良いでしょう。ただし、研修事業所は各都道府県によって異なるため、問い合わせが必要です。

研修内容
行動援護従業者養成研修は、講義と演習があり、2日から5日間かけて受講します。障がいのある方の基礎的理解をはじめ、障がい特性の理解や危機対応・基本的な情報収集と記録の共有など、計24時間の研修となっています。ただし、行動援護従業者養成研修にかかる日程や1日あたりの受講時間は、開催事業所によって異なります。受講前に確認しておきましょう。

研修費用
行動援護従業者養成研修の研修費用は、開催事業所によって異なります。おおまかな目安として大阪府内にある事業所では20,000円から45,000円程度、東京都では24,000円から55,000円程度での開催が見られました。(2023年8月9日時点)

行動援護従業者養成研修を受けるメリット

行動援護従業者養成研修を受けると、次のようなメリットが得られます。

  • 専門知識が身につく
  • スキルアップできる
  • がい者福祉施設で働くときに有利になる
  • 就職や転職に役立つ

行動援護従業者養成研修では、知的障がい者(児)や精神障がい者(児)の外出や社会参加を助ける専門的な知識や技術を学びます。これにより、障がい特性の理解や不適切な行動の対処方法などの専門知識を身につけられます。地域共生社会の推進とともに介護・障がいに関わらず、専門的な知識が必要になることも考えられます。障がい福祉施設へ転職や就職しやすいだけでなく、介護のほかにも障がい福祉分野としても知識が深まるため、自身のスキルアップとしても役立つでしょう。

強度行動障がい支援者養成研修との違い

障がい福祉サービス従業者を対象にした研修に「強度行動障がい者支援者養成研修」があります。

資格名 強度行動障がい者支援者養成研修
対象者 ・障がいサービス事業所等で、知的障がい者(児)・精神障がい者(児)を支援する業務に従事している方
・今後、従事する予定のある方
・連携医療機関等において、治療にあたる医療従事者 など
研修内容 ・基礎研修と実践研修がある(実践者研修は基礎研修修了者対象)
・講義と演習

この研修は、強度行動障がいのある障がい者(児)の障がい特性を理解し、支援方法を習得する研修です。行動援護従業者養成研修との違いは、障がい支援業務に従事している方や従事予定している方を受講対象者として想定している点です。基礎研修では、強度行動障がいの理解や対応を、実践研修では、アセスメントの方法や支援手順書の作成などを行います。強度行動障がい者支援者養成研修を受けることで、適正な支援計画を作成できるようになることを目的の1つとしています。強度行動障がい者支援者養成研修は、都道府県が指定する施設や事業所で行われており、開催される日程や受講方法は異なります。研修費用についても、都道府県や実施機関によって違うため、受講前に都道府県のホームページなどで調べておくと良いでしょう。

まとめ:行動援護サービスを提供するには、まず研修を受講しておこう



行動援護は、外出時の介護や危険行為の回避・問題行動への対処など、障がい者(児)がより安全で安心して社会生活ができるように支援する仕事です。行動援護サービスを提供するためには、行動援護従業者養成研修を受ける必要があります。自身の活動の幅が広がり、より専門的な知識が身につくかもしれません。今後の地域共生社会の推進により、介護の分野でも活躍できるでしょう。

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山本史子(Fumiko Yamamoto)

介護福祉士

デイサービスで約20年現場職員として経験。2007年に介護福祉士の資格を取得。「この施設にいると楽しい、また行きたい」と笑顔で帰ってもらえるデイサービスにしたいという思いで20年間利用者様のケアをしている。知的障害のある自閉症の息子がいるため、介護現場で働きながら、母親の立場から障がい者福祉にも関わっている。

山本史子の執筆・監修記事

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