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仕事・スキル 介護士の常識 2024/12/26

実務者研修とは? 初任者研修との違いや研修の内容・難易度を解説!

文/長谷部宏依(介護福祉士・社会福祉士・ケアマネジャー) thumb_241226.jpg

実務者研修は、介護の基礎から応用まで幅広い知識と技術を学ぶ、450時間の本格的な研修プログラムです。医療的ケアや認知症ケア、コミュニケーション技術など、現場で役立つスキルを身につけられるため、介護職ならぜひ修了しておきたい研修といえるでしょう。

この記事では、実務者研修の基礎知識から受講のメリット、働きながら資格を取得する方法まで詳しく解説していきます。実務者研修について知りたいと思っている方は、ぜひ参考にしてください。

1.実務者研修とは

実務者研修は、介護職の専門性を高めるための教育プログラムです。介護職の入門資格である介護職員初任者研修の上位資格にあたり、介護福祉士国家試験の受験要件にもなっています。

介護職の知識と技術を向上させ、より質の高い介護サービスを提供できるようなカリキュラムになっているため、介護職のキャリアアップ支援にもつながるでしょう。受講者のニーズに合わせて、さまざまな種類(昼間・夜間・土日)の学習コースが用意されているほか、一部は通信講座での受講も可能です。

ここからは、実務者研修についてより詳しく解説していきます。

実務者研修の目的

実務者研修の主な目的は、以下の通りです。

  • 介護職の知識と技術の向上:介護の幅広い知識と技術を体系的に学ぶことができ、日々の業務における判断力や対応力が向上します。
  • 介護福祉士国家試験の受験資格取得:介護のプロフェッショナルとして認められる、介護福祉士国家試験の受験資格が得られます。
  • 介護サービスの質の向上:研修を通じて得た知識と技術を現場で生かすことで、提供するケアの質が向上します。
  • 介護職のキャリアアップ支援:より高度な知識と技術を身につけることで、キャリアアップの機会が広がります。
  • 医療的ケアができる:喀痰吸引や経管栄養を提供するための喀痰吸引等研修に含まれる、基本研修が免除されます。

実務者研修と初任者研修の違い

多くの方が最初に取得する初任者研修と、中級者以上に向けた実務者研修には大きな違いがあります。

初任者研修 実務者研修
受講科目 9科目 20科目
研修時間 130時間 450時間 (ただし、保有資格によって短縮される場合がある)
受講期間 約2か月 約6か月
内容の深さと範囲 介護の基本的な知識と技術を学ぶ より専門的で広範囲な内容を学習。医療的ケアも含まれる
対象者 介護職の入門レベル 中級~上級レベルの介護職を目指す方向け
キャリアパス 介護の仕事につくための基礎資格 介護福祉士を目指すための必須ステップ

初任者研修は介護職の入り口として、実務者研修は介護のプロフェッショナルを目指すためのステップとして位置づけられています。それぞれの研修の違いを理解した上で、自身のキャリアプランに合った研修を選びましょう。

2.実務者研修の受講条件

実務者研修の受講には制限がなく、年齢や学歴はもちろん、介護資格の有無も問われません。これは、幅広い人材に学習の機会を提供し、介護サービスの質を向上させるという目的に基づいているためです。

それでは、具体的な受講条件について詳しく説明していきます。

無資格でも受けられる?

結論からいえば無資格でも受講可能です。ただし、以下の点に注意が必要です。

  • 基礎的な介護の知識があると学習がスムーズに進む:実務者研修は、介護職を3年程度経験した方に向けた研修プログラムです。介護の専門的な内容を含むため、ある程度の基礎知識があるとより理解が深まります。無資格の方は、研修開始前に介護の基本を理解するなど、予習をしておくとよいでしょう。
  • 初任者研修(旧ホームヘルパー2級)修了者は一部科目が免除される:初任者研修を修了している場合、重複する科目が免除されるため、学習時間を大幅に短縮できます。具体的には、450時間の研修が320時間に短縮されます。
  • 介護の実務経験がある方は、より実践的に内容を理解できる:実務経験者は、研修で学ぶ理論と自身の経験が結びつきやすいため、より深く理解できます。例えば、認知症ケアの理論を学ぶ際には、実際の利用者さんとの関わりを思い出しながら学習できるでしょう。

現在、介護の仕事をしている方にとっては、実務経験を生かしながら学習を進められる点が大きなメリットになります。日々の業務で感じる疑問や、課題に対する理論的な裏づけも得られるでしょう。

無資格や未経験の方にとっても、実務者研修は介護の世界を知るよい機会となります。ただし、受講内容は中級以上のレベルになるため、事前に介護の基礎を学んでおくのがおすすめです。無資格で受講する場合は学習量が多くなるため、計画的に学習を進める必要があるでしょう。

3.カリキュラムの内容・難易度

実務者研修のカリキュラムは、中級~上級レベルの介護職に求められる、幅広い知識と技術を網羅しています。初任者研修よりも深い内容を学ぶため、難易度は比較的高くなっていますが、段階的に学習できるように設計されているのが特徴です。

研修は理論と実践の両面から学習し、介護技術だけでなく医療的ケアについても学びます。現場での経験を持つ方にとっては、これまでの知識を体系的に整理し、より深めるためのよい機会となるでしょう。

一方、介護の経験が浅い方や無資格の方も、基礎から段階的に学べるため、しっかりと知識を積み上げていくことができます。

以下では、具体的にどのような内容を学ぶのか、カリキュラムの概要を見ていきましょう。

学習内容の概要

実務者研修のカリキュラムは、以下の内容で構成されています。

領域 学習内容 時間数(時間)
人間と社会 人間の尊厳と自立 5
社会の理解Ⅰ 5
社会の理解Ⅱ 30
介護 介護の基本Ⅰ 10
介護の基本Ⅱ 20
コミュニケーション技術 20
生活支援技術Ⅰ 20
生活支援技術Ⅱ 30
介護過程Ⅰ 20
介護過程Ⅱ 25
介護過程Ⅲ(スクーリング) 45
こころとからだのしくみ 発達と老化の理解Ⅰ 10
発達と老化の理解Ⅱ 20
認知症の理解Ⅰ 10
認知症の理解Ⅱ 20
障害の理解Ⅰ 10
障害の理解Ⅱ 20
こころとからだのしくみⅠ 20
こころとからだのしくみⅡ 60
医療的ケア 50
合計 450

(出典:厚生労働省「介護福祉士の養成カリキュラム等について」

実務者研修では上記のように、介護の基礎から医療的ケアまで幅広く学習します。

カリキュラムの難易度

実務者研修は初任者研修よりも難易度が高く、以下のような特徴があります。

  • 医療的知識の充実:喀痰吸引や経管栄養の知識や技術を学びます。
  • 介護過程の充実:尊厳の保持や自立支援を重視した介護方法を学びます。
  • 認知症ケアの深掘り:認知症の種類や症状、適切なケア方法について詳しく学びます。
  • コミュニケーション技術の向上:より高度なコミュニケーション技術を学びます。

現場経験のある方にとっては、より高度な知識が身につくプログラムといえるでしょう。

4.実務者研修の取得費用を安くするには

実務者研修の費用は、受講する教育機関や受講形態によって異なりますが、おおよそ10万円から15万円程度です。

介護職員処遇改善加算の取得を目指す事業所では、介護職員の実務者研修の受講を支援している場合もあります。自身の勤務先で支援制度がないか、確認してみるのもよいでしょう。

ここからは、受講費用を軽減する方法について紹介します。

教育訓練給付制度

教育訓練給付制度は、働く方たちの主体的な能力開発やキャリア形成を支援し、雇用の安定と就職の促進を図るための公的支援制度です。対象となる講座は一般教育訓練、特定一般教育訓練、専門実践教育訓練の3つに分けられますが、ここでは特定一般教育訓練給付金について解説しましょう。

この制度を利用するには、1年以上の雇用保険加入歴があり、過去に教育訓練給付を受けたことがない、または前回の受講開始日から数えて雇用保険の加入期間が3年以上あることが条件です。また、利用者には受講費用の40%が訓練修了後に給付されます。ただし、上限額は20万円です。

このように教育訓練給付制度は、受講費用の一部を補助することで経済的な負担を軽減し、より多くの人が専門的な技能や知識を習得する機会を得られるようにつくられています。

介護労働講習

介護労働講習は、離職者で雇用保険受給資格がある方を対象とした職業訓練プログラムです。この講習は実務者研修の内容を含み、より実践的な技能習得を目指しています。

プログラムは講義450時間と105日間の通学講習(一部オンライン)で構成されており、講義では介護の基礎知識から専門的なスキルまでを学びます。一方、通学講習では現場実習や実践講習を通じて、実際の介護現場に必要な技能を身につけることが可能です。なお、プログラムには就職支援も含まれており、介護業界への就職もサポートしています。

講習の大きな特徴は、受講料が無料である点です。受講者の負担は、テキスト代(1万2,650円)、講習保険料(3,150円)、健康診断料、実習に必要なエプロンなどの実費のみとなります。そのため、経済的な負担を最小限に抑えながら、質の高い介護の教育を受けられるでしょう。

講習を利用できるのは、介護分野への就職を希望する雇用保険受給資格者です。また、ハローワークでの求職申し込みを行い、積極的に就職する意思があることも受給条件の1つです。

講習の募集期間や具体的な内容は地域によって異なる場合があるため、詳細は居住地のハローワークに確認しましょう。受講にあたっては、全日程への出席が必要となるので、自身のスケジュールと照らし合わせて慎重に検討してください。

求職者支援制度

求職者支援制度は、雇用保険の受給資格がない離職者や、一定額以下の収入の方を対象とした就労支援プログラムです。制度の主な目的として、「職業訓練を通じて求職者のスキルアップを図り、安定した雇用へつなげること」が挙げられます。

制度を利用すると、月10万円の生活支援の給付金を受給しながら、無料の職業訓練を受講できます。制度を利用するには、ハローワークで求職の申し込みを行った上で、職業訓練の必要性があると認められることが必要です。

また、本人の月収が8万円以下、世帯収入が月30万円以下、世帯の金融資産が300万円以下であることなどの条件もあります。

5.実務者研修を取得するまでの期間

標準的な受講期間は6か月、受講時間は450時間です。ただし、ほかの資格を取得している場合は一部の受講内容が免除されるため、受講期間が短くなります。介護職員初任者研修を取得している場合は、受講時間が320時間となり、約2か月で修了します。

6.働きながらでも取得できる?

実務者研修を受講する方の多くは、仕事を続けながら学習に取り組んでいます。研修は450時間という長期間にわたるため、効果的に学習を進めるためにも次のような工夫を心がけてください。

まず、無理のないスケジュールを立てることが大切です。仕事、プライベート、そして学習のバランスを取りながら、継続的に学習を進められるよう計画を立てましょう。例えば、週末や平日の夜間を利用して学習時間を確保するなど、自分のライフスタイルに合わせた時間配分を検討してみてください。

実務者研修では通信学習が可能な科目も多いので、自宅学習を上手に活用するのもよい方法です。通信であれば、時間や場所の制約を受けずに学習を進められるでしょう。

加えて、職場の理解と協力を得ることも重要です。上司や同僚に研修の受講を伝え、必要があればシフト調整などの協力を求めましょう。

7.実務者研修を受けるメリット

実務者研修には多くのメリットがあります。具体的にどんなメリットがあるのか、1つずつ見ていきましょう。

キャリアアップの可能性がある

実務者研修修了は、より高度な介護職へのステップアップの足がかりとなります。例えば、以下のような可能性が考えられます。

  • サービス提供責任者への昇進
  • ユニットリーダーやフロアリーダーへの登用
  • 介護福祉士国家資格の取得
  • 介護支援専門員(ケアマネジャー)資格の取得

実務者研修取得は、キャリアアップの可能性を広げる大事な第一歩となるはずです。

給与アップの可能性がある

多くの介護事業所で、実務者研修修了者に対する手当や昇給制度があります。

  • 資格手当の支給
  • 昇給や賞与査定での優遇
  • 介護職員処遇改善加算のランクアップによる給与増

実務者研修を取得した場合、無資格の介護職よりも給与や賞与が高くなるケースが多く見られます。詳しい金額は事業所によって異なるため、職場に確認してみましょう。

介護福祉士国家試験受験資格の取得につながる

介護福祉士国家試験の受験資格を得るためには、実務者研修の修了が必須条件となっています。実務者研修は450時間にわたるプログラムで、介護の基礎から応用まで幅広い知識と技術を学べます。また、医療的ケアを含めたより高度な介護技術も習得できるため、介護福祉士試験の準備として非常に有効な学習となるでしょう。

実務者研修の修了に加えて、3年以上の実務経験も受験資格を取得するための条件です。ここでの実務経験は、介護などの業務に従事した期間を指し、施設や在宅サービスでの勤務が該当します。複数の事業所での勤務期間を合算することも可能です。

専門知識と技術の向上が期待できる

高度な介護知識と技術を習得することで、以下のようなメリットが生まれます。

  • 利用者さんのニーズをより的確に把握し、適切なケアを提供できる
  • 緊急時や困難な状況での判断力が向上する
  • ほかの職員への指導や助言ができるようになる
  • 多職種連携において、より積極的な役割を果たせる
  • 喀痰吸引や経管栄養などの医療的知識や技術が身につく

実務者研修の学習と実践を通じて、専門職としての成長を続けることが、これからの介護現場には不可欠です。

就職や転職が有利になる

実務者研修を修了することで、次のようなメリットがあります。

  • 責任のある立場で採用される可能性が高まる
  • 転職時の選択肢が広がる
  • 将来的な介護福祉士資格取得への意欲をアピールできる

介護職の専門性は、就職や転職のときだけでなく、日々の業務においても大きな意味を持ちます。実務者研修で得た知識と技術は、利用者さんに質の高いケアを提供することにつながり、同僚や上司からの信頼も得やすくなるでしょう。

まとめ:実務者研修は介護のキャリアアップを目指せるカギになる

実務者研修は、介護福祉士国家資格の受験要件であり、介護職のキャリアアップにおいて欠かせない資格です。研修を通じて、現場での経験を理論的に深め、より高度な知識と技術を身につけられるので、日々の介護業務の質も向上するでしょう。

仕事をしながらの学習は大変な苦労を伴いますが、それを乗り越えることでより質の高いケアの提供が可能になり、キャリアの可能性も大きく広がります。介護職としてスキルアップ・キャリアアップを目指している方は、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。

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長谷部宏依(Hiroe Hasebe)

介護福祉士・社会福祉士・ケアマネジャー

介護職員として介護老人保健施設に入職。その後介護福祉士を取得し訪問介護や訪問入浴、デイサービスで働く。ケアマネジャーは20年の実績があり、100名以上の高齢者を担当。認認介護・老老介護・介護拒否など困難事例も多く経験。現在はWebライターとしてさまざまな記事を執筆している。福祉住環境コーディネーター2級も取得。

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