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仕事・スキル 介護士の常識 2025/02/18

介護施設での申し送りとは?例文・スムーズに行うコツを紹介

文/佐藤恵美(介護福祉士・社会福祉士) thumb_2502_8.jpg

介護の現場で重要な役割を持つ「申し送り」は、新人の介護職員にとって不安要素の1つかもしれません。なかには、「どうすればきちんと伝わるだろう」「専門用語が多くて、申し送りを全部理解できない」といった悩みを持つ人もいることでしょう。

本記事では、介護の現場に10年勤めていた筆者が、申し送りの基本やコツについて解説します。申し送りの目的や実施する場面、具体的な例文についても紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

1.介護現場での申し送りとは?

申し送りは、介護現場での情報共有に欠かせない業務です。ここでは、次の3点について解説していきます。

  • 申し送りの目的
  • 申し送りをする場面
  • 申し送りの方法

では、順番に見ていきましょう。

申し送りの目的

介護施設での申し送りは、職員間でさまざまな情報を共有するために行われます。

高齢の利用者さんは、持病や認知症などの影響で、身体や精神のバランスを崩す場合があります。そのため、介護職員には常に利用者さんの状態に注意を払い、小さな変化も見逃さない姿勢が求められます。

しかし、24時間稼働する介護施設にはさまざまなシフトがあり、それぞれに勤務時間も異なるため、介護職員が利用者さんの動向のすべてを把握するのは難しいでしょう。そうした点をカバーし、介護職員同士が利用者さんの情報を漏れなく共有するための業務が、申し送りというわけです。

以下は、申し送りの目的と共有の例です。

申し送りの目的 共有事項の例
ケアの見直しや改善のため
  • 利用者さんの心と身体の状態を共有し、よりよいケアの提供につなげる
  • 現在のケアプランが利用者さんに合っているかを検討する
  • 事故やトラブルを予防するため
  • 足の筋力低下により、転倒のリスクがある利用者さんについて情報を共有する
  • 利用者さん同士の関係性について把握する
  • 業務内容の見直しのため
  • 夜勤帯の業務が多く利用者さんのケアが不十分な場合、日勤帯でフォローできるかを検討する
  • 効率化できる業務を洗い出す
  • スタッフや施設を守るため
  • 利用者さんからの暴言暴力について共有する
  • 転倒リスクのある利用者さんへの対策を共有する

  • 申し送りでは、健康状態はもとより、利用者さん同士の関係性(仲のよしあし)や事故リスクの対策、ハラスメントに関する報告もしっかり行いましょう。正しい情報共有は、利用者さんだけでなく、施設や介護職員を守ることにもつながります。

    申し送りをする場面

    介護施設での申し送りは、以下の場面で行われます。

    • 朝礼や終礼
    • 夜勤から日勤への交代時
    • 日勤から夜勤への交代時

    1つずつ解説していきます。

    朝礼・終礼

    朝礼や終礼では、その日の業務の流れや注意点を確認し、全スタッフが同じ認識を持てるように努めます。入所や退所に関する情報も伝えられるので、出勤している介護職員は申し送りをよく聞き、スムーズに業務をこなさなければなりません。

    特に、入浴介助や外出イベントなどがある日は、業務の流れがあわただしくなります。そうしたときは、全員が業務の進め方を工夫し、効率を上げる必要があるでしょう。

    夜勤から日勤への交代時

    夜勤の職員から日勤の職員に向けて、夜間に起こった出来事や利用者の状況を詳細に伝えます。

    高齢の利用者さんのなかには、日中と夜間で様子が変わる方がいます。特に認知症の方は、夕方になると帰宅願望が現れたり、夜に目が冴えて眠れなくなったりすることが少なくありません。そうした状況を共有することで、隠れた病気や認知症の進行が明らかになるケースもあるため、情報は漏れなく伝える必要があります。

    介護職員だけでなく、医師や看護師とも情報を共有しておけば、利用者さんの状態の変化に対応しやすくなるでしょう。

    日勤から夜勤への交代時

    日勤から夜勤への交代時の申し送りも大切です。日中は入浴介助や食事介助、レクリエーションなどさまざまな業務があり、そのときに利用者さんがどのような様子だったかを伝えておけば、夜勤帯で注意すべきことが見えてきます。

    例えば、医師から投薬量の変更について指示があった場合、日勤の職員が夜勤の職員に正しい投薬量を伝えれば、利用者さんの健康維持につながるでしょう。

    申し送りの方法

    申し送りの方法には、「口頭」「書面」「デジタルツール」の3つがあります。

    口頭での申し送りは直接顔を合わせて行うため、細かなニュアンスを伝えやすく、その場でコミュニケーションを図ることも可能です。ただし、伝達漏れや聞き間違いのリスクもあるので、常時メモを取り、不明点はその都度確認しましょう。

    書面での申し送りは、申し送り用のノートに情報を残せるため、後から確認できるというメリットがあります。一方で、記録に時間がかかることがデメリットになる場合もあるでしょう。

    デジタルツールを用いた申し送りでは、クラウド上で情報が管理されるため、離れた場所にいても双方向のやりとりが可能です。最近は、施設職員がタブレットやスマートフォンを使って、リアルタイムで情報共有を行っている施設もあります。

    私は長い間、病院で介護の仕事に従事していました。その際、連絡ツールとして使っていたのがタブレットと専用アプリです。別室にいる職員からの連絡をリアルタイムでキャッチできるので、スムーズなケアや連携ができ、大いに役立っていました。

    2.申し送りで伝える内容

    申し送りで伝えるべきことはさまざまですが、主なポイントは以下のとおりです。

    • 利用者さんの心身の状態
    • 利用者さんからの希望
    • ご家族からの希望や連絡
    • 事故やトラブルの内容
    • 医療職からの指示・伝達事項
    • 今日の予定・連絡事項
    • 業務に関する報告
    • 業務を通して気付いたこと

    1つずつ、詳しく解説していきます。

    利用者さんの心身の状態

    利用者さんの心身の状態は、申し送りで最も重要な情報です。日々の体調や気分の変化、食事や睡眠、排泄の状況などは、次のシフトの介護職員がケアを行うときにもきちんと考慮すべき点だからです。

    特に、体調の変化やいつもとは違う様子が見られた場合は、具体的な日時、状況、そのときの対策などを詳細に伝えましょう。

    また、気分の落ち込みや不安そうな様子が見られたら、考えられる要因、声かけの方法などを共有するのがおすすめです。それによって、別の介護職員が対応したときも、一貫したケアを提供できるでしょう。

    利用者さんからの希望

    利用者さんから何かしらの希望が聞かれたときは、漏らさず申し送りで伝えましょう。例えば、食事の好みや入浴の時間に関する希望、日中の活動に対する要望などです。利用者さんのニーズを把握し、可能な範囲でかなえていけば、利用者さんの満足度や生活の質の向上が期待できます。

    利用者さんが自分の思いを表現することが難しい場合でも、日々の観察やちょっとした雑談から、ニーズを引き出すことは可能です。引き出した利用者さんの希望は、申し送りで共有していきましょう。

    ご家族からの希望や連絡

    ご家族からの希望や連絡も、申し送りで必ず伝えるべき項目です。ご家族のなかには、「施設でどのように過ごしているか?」を心配している方もいます。利用者さんに少しでも穏やかに生活してもらえるようにと、ご家族なりの要望が寄せられるケースもあるでしょう。また、状況によっては、施設で管理している書類上の変更や、利用期間に関する連絡がくる場合もあります。

    以下は、私が介護施設にいたときに受けた、ご家族からの希望や連絡の一例です。

    【ご家族からの希望・連絡の例】

    • 面会に行きたい
    • 家族で外出したい
    • 食事形態を食べやすいものに変えてほしい
    • 緊急連絡先を変更したい
    • (デイサービスの場合)次回の利用日だけ半日のみの利用にしたい

    ご家族の希望を利用者さんの生活に反映させれば、より個別的なケアが可能となります。誠実に対応し、ご家族との信頼関係を築けば、施設への満足度も高まるでしょう。

    事故やトラブルの内容

    施設内で発生した事故やトラブルは、職員全員が知っておく必要があります。同様の事故やトラブルの再発を防ぎ、施設内の安全を確保するためです。

    事故やトラブルの際は以下の点を明確にし、申し送りで伝えてください。

    【事故やトラブルに関する申し送り事項】

    • 発生日時
    • 場所
    • 当事者の状況
    • 事故の原因
    • 対処方法
    • 今後の対応策

    介助中の事故や利用者さんの間に起こるトラブルは、できる限り回避したいものです。再発を防ぐためにも、職員全員で対策しましょう。

    医療職からの指示・伝達事項

    医師や看護師からの指示や伝達事項は、利用者さんの健康管理に直結するため、正確な申し送りが求められます。主な指示として挙げられるのは、薬の変更や投与時間、状態観察の頻度、治療方針の変更などです。特に薬に関する指示は、誤解や伝達漏れが生じないよう、薬名や用量、投与方法を正しく伝えなければなりません。

    もし誤った情報を伝えれば、投薬の効果が得にくいだけでなく、健康を損なう恐れがあります。医療職から指示・伝達以外の連絡があったときも、申し送りで必ず伝えるようにしましょう。

    今日の予定・連絡事項

    当日の予定や連絡事項は、日々の業務を円滑に進めるのに欠かせない情報です。申し送りでは、抜け漏れがないように伝えましょう。

    主な予定・連絡事項として挙げられるのは、利用者さんのスケジュール、施設内のイベント、医師の往診予定、ご家族の来所予定などです。詳細に伝えれば、次の担当職員はとまどうことなく業務を進められるでしょう。また、緊急の連絡や予定の変更がある場合には、迅速に情報を共有し、すべての職員が対応できるよう態勢を整える必要があります。

    業務に関する報告

    チーム全体が一丸となり、利用者さんに質の高いケアを提供するためには、職員間の細かな報告も大事です。担当した業務の進捗状況や業務中に生じた問題点、考えられる改善点など、日々の業務に関する報告も、必ず申し送りに含めてください。

    具体定な事例としては、新しいケアプランに関するフィードバック、業務の効率化に向けた提案などが挙げられます。それらを申し送りで協議すれば、チーム全体の業務遂行能力が向上し、利用者さんへのサービスの質が高まるでしょう。また、職員間のコミュニケーションが活性化されて、お互いへの理解も深まるはずです。

    業務を通して気付いたこと

    業務を通じて気付いたことも、積極的に申し送りで伝えましょう。具体的には、日々の業務で発見した利用者さんの新たなニーズや、業務効率化のためのアイデアなどです。

    業務を進めるなかでの気付きは、新たな問題の発見や、潜在的なリスクの把握にもつながります。介護職員が気付きを伝え合うことで、利用者さんに安心して過ごせる環境を提供できるでしょう。ひいては、施設全体のレベルアップにもつながります。

    3.申し送りに使用する用語

    ここでは、申し送りによく使われる専門用語の一部を表にまとめました。最初は理解しにくいかもしれませんが、業務に慣れてくると次第にわかるようになります。焦らずゆっくり覚えていきましょう。

    用語 説明
    ADL 日常生活動作。食事、移動、排泄、入浴、着替えなど、日常生活を送るために必要な基本的な動作
    IADL 手段的日常生活動作 。買い物、料理、洗濯、掃除など、生活をより豊かにするための活動
    バイタルサイン 血圧、脈拍、体温、呼吸数など、利用者の健康状態を把握するための指標
    移乗 ベッドから車椅子、車椅子からトイレなどに、場所を移動すること
    拘縮 関節が固まって動かしにくくなること
    浮腫 皮下に余分な水分がたまっている状態のこと
    褥瘡 床ずれのこと
    経管栄養 チューブを用いて胃や腸に直接栄養を送ること
    誤嚥 食べ物や飲み物が気管に入ってしまうこと
    BPSD 認知症に伴う行動・心理症状。攻撃性、興奮、不安、抑うつ、不眠など
    ヒヤリハット 危ないと感じたが、事故には至らなかった出来事
    インシデント 転倒や転落など、実際に起こった事象

    4.【内容別】申し送りの例文

    ここからは、実際の申し送りの例文を紹介します。よくあるシーンについての申し送り例なので、ぜひ日々の業務の参考にしてください。

    利用者さん同士のトラブルがあったときの申し送り

    今日の午後3時頃、A様とB様の間でトラブルがありました。リビングで椅子の使用について口論となり、A様がB様に対して声を荒らげる場面が見られました。
    すぐに私と○○さんが仲裁に入り、お2人をそれぞれ別の場所に誘導しました。A様には○○さんが付き、しばらくお話をしてくださり、B様には私が付き、一緒に近くを散歩しました。
    お2人とも現在は落ち着いていますが、しばらくはお2人が接触しないよう注意していきたいと考えています。ご協力をお願いいたします。

    夜勤中に利用者さんが転倒したときの申し送り

    昨晩、C様が転倒しました。午前2時頃、ベッド近くでのことです。
    すぐに駆けつけて確認したところ、C様は左の腕と腰に痛みを訴えられ、打撲痕が見られました。応急処置として冷却を行い、様子を観察しましたが、幸い大きな外傷や意識障害は認められませんでした。
    日勤のみなさんには、引き続きC様の状態観察をお願いしたいです。医師や看護師には報告済みで、ご家族にも連絡しています。
    併せて、歩行時のサポートも強化してもらえたらと思います。

    ご家族から差し入れに関する希望があったときの申し送り

    本日、D様のご家族より、差し入れに関するご希望がありました。来週、D様が好きな果物を差し入れしたいとのことです。
    ただし、D様は糖尿病のため、果物の種類や量については、医師と栄養士の指示を仰ぐことになりました。指示が出たら、ご家族へのご連絡をお願いします。

    5.申し送りを行う際のコツ

    申し送りをスムーズに行うためには、4つのコツがあります。

    • 簡潔に伝える
    • 話す順序を決める
    • 情報を正確に伝える
    • 事実と意見を分けて話す

    申し送りにさける時間は、決して長くありません。限られた時間でいかに情報を伝えるかを考えながら、申し送りに臨みましょう。

    簡潔に伝える

    多くの情報をそのまま一気に伝えようとすると、相手が混乱してしまいます。申し送りを行う際は、情報を簡潔に伝えましょう。要点を絞り、必要な情報をピックアップして整理するのがおすすめです。

    「いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように」といった5W1Hを意識して情報をまとめると、より理解しやすくなります。

    話す順序を決める

    話す順序を事前に決めておくことも大切です。相手が必要な情報をすぐに把握できるように、伝える内容の優先順位を考え、重要な情報から話しましょう。

    情報の概要を先に伝えたり、詳細を説明する順序を意識したりするのも有効です。「今から何の話をするのか」が聞き手に伝わり、話を聞く心構えができるからです。

    情報を正確に伝える

    自分が得た情報を、正しく伝える意識を持ちましょう。必要な内容を漏れなく伝えるためには、メモを取るのがおすすめです。業務中はポケットに小さなメモ帳を入れておき、気付いたことや伝えたいことが頭に浮かんだら、すぐメモしていきましょう。申し送りの際に、「あの件はどうなっていたんだっけ?」とあわてることも減るはずです。

    申し送りでは、実際の数値・数量を示すことも大切です。「体温が38度だった」「食事を半分残した」など、具体的な事実を添えれば情報の正確性が上がるでしょう。

    事実と意見を分けて話す

    事実と自分の意見をはっきり分けて話すように心がけましょう。ここでいう事実とは「客観的に確認できる情報」であり、意見とは「個人の考えや感じ方」を指します。これらを混同して伝えると、相手に誤解を与える可能性があるので注意してください。

    【事実と意見の例】
    事実:Aさんは今日で便秘3日目です。
    意見:私の意見ですが、おそらく水分が足りていないのではないかと思います。

    意見を述べるときは「推測ですが」「個人的な考えですが」と前置きするのもよいでしょう。そうすることで、誤解が生じにくくなります。

    まとめ:申し送りは正しくわかりやすい話し方が大切

    この記事では、新人介護職員が申し送りをスムーズに行うための基本とコツを紹介しました。申し送りは介護現場において不可欠な業務です。正確な情報をわかりやすく共有することを心がけましょう。

    申し送りを行う際には、正しい情報を簡潔に伝える意識が大切です。事実と意見を分けて伝えたり、話の順序を考えたりすることで、情報共有はよりスムーズになるでしょう。こまめにメモを取り、情報の抜け漏れを防ぐのもおすすめです。

    初めのうちは、専門用語に混乱したり、申し送りのスピードについていけないと感じたりするかもしれません。しかし、申し送りで大切なのは、利用者さんが安心して過ごすためにどう対応するかを話し合う姿勢です。日頃の気付きやアイデアなどがあるときは、遠慮せずにほかの介護職員に伝えてみてください。それがきっと、利用者さんに寄り添ったケアにつながるはずです。

    ●関連記事:介護記録で避けるべき禁止用語は?避けるべき理由と言い換え例も解説

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