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仕事・スキル 介護士の常識 2021/12/27

ICF(国際生活機能分類)とは?構成要素・ICIDHの違いを説明

構成・文/介護のみらいラボ編集部 ICF.jpg

ICFは、ニーズに応じた介護サービスの実現に役立つ世界共通の分類法です。近年ではケアマネジャーの資格試験にもICFの問題が採用されており、介護業界での重要性が高まっています。ケアマネジャーを目指す人や、すでに介護現場で働いている人はICFの知識をしっかりと身につけておきましょう。

当記事では、ICFの概要から目的、適用範囲、構成要素、捉え方まで詳しく解説します。また、ICIDHとの違いなども解説するため、ぜひ参考にしてください。

ICFとは?

ICFとは、2001年5月にWHO(世界保健機関)によって採択された、人間の生活機能と障害の分類法です。ICFは「International Classification of Functioning,Disability and Health」の略であり、日本語では「国際生活機能分類」と呼ばれます。

ICFは、健康について多面的な捉え方ができるよう、幅広い概念を分類化したものです。ICFを用いると、一人ひとりの個性を考慮した上で、個人の全体像と健康状態における課題を客観的・構造的に理解できます。すべての人々に適用できるICFは、「生きることの全体像を示す共通言語」です。

(出典:厚生労働省「「国際生活機能分類ー国際障害分類改訂版ー」(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載について」

ICFの目的

ICFの目的は、異なる専門分野や領域において共通する生活機能モデルの認識を持ち、さまざまな人々の理解に役立つことです。ICFの具体的な目的は下記の通りです。

・健康に関する状況、健康に影響する因子を理解する
・健康に関する共通言語を確立し、関係者間のコミュニケーションを改善する
・国、専門分野、サービス分野、立場、時期などの違いを超えてデータを比較する

(出典:厚生労働省「ICF(国際生活機能分類)ー「生きることの全体像」についての「共通言語」ー」

上記の目的は互いに関連しており、相互に働きかけます。介護現場でICFを用いた場合、利用者の健康状況を正しく理解するとともに、共通認識を通して利用者との関係性を改善することが可能です。

ICFの適用範囲

ICFは、本来は健康に関する分類でしたが、現在はさまざまな分野で用いられています。下記はICFの用途例をまとめた表です。

用途 主な内容
統計 人口統計や実態調査、管理情報システムにおけるデータ収集・記録
研究 結果測定、生活の質(QOL)の測定
臨床 治療経過観察、職業評価、リハビリテーション上の評価
社会政策 社会保障計画、補償制度などの拡充
教育 カリキュラムの立案、教育相談

(出典:厚生労働省「「国際生活機能分類ー国際障害分類改訂版ー」(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載について」

介護現場だけに限っても、システム構築や利用者の健康状態の把握、施設の環境改善など、あらゆる用途でICFの特性を生かせます。

ICFを構成する要素

ICFは、「健康状態」「生活機能」「背景因子」の3つからなる生活機能モデルです。各構成要素はさまざまな領域から成り立っており、領域は約1,500項目のカテゴリーに分類されています。また、ICFでは各カテゴリーの状況を判断して評価点をつけます。評価点はアルファベットと数字でコード化でき、誰が見ても個人の状態を理解することが可能です。

(出典:厚生労働省「「国際生活機能分類ー国際障害分類改訂版ー」(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載について」

ここでは、ICFの構成要素を詳しく解説します。

3つの生活機能

生活機能はICFの中心概念であり、「心身機能」「活動」「参加」の3つに分けられます。また、生活機能は人が生きる上の段階である「生物(生命)」「個人(生活)」「社会(人生)」の3つのレベルに準じています。

以下は、各生活機能における概要です。

・心身機能(生物レベル)

生命維持に関わる身体・精神の機能や構造のことで、心身機能と身体構造に分けられます。心身機能とは、手足の動きや視覚・聴覚、精神の働きなど生理的機能のことです。身体構造とは、手足の一部や内臓の一部など、身体の解剖学的部分を指します。

・活動(個人レベル)

社会生活上で必要となる行為のことです。家事を含む日常生活から仕事、趣味まで、生活を送る際の行動がすべて含まれます。ICFでは、「できる活動(能力)」と「している活動(実行状況)」に分けて捉えます。

・参加(社会レベル)

家庭や社会への関わり、役割を果たすことです。家庭・職場・地域組織での役割のほか、趣味やスポーツサークルへの参加、宗教的・文化的・政治的な会合への参加など広範囲における活動を指します。

(出典:厚生労働省「ICF(国際生活機能分類)ー「生きることの全体像」についての「共通言語」ー」

「活動」と「参加」の区別や「個人」と「社会」の区別は難しいため、ICFでは単一のリストを用意して利用者が分類できるようになっています。

2つの背景因子

生活機能に影響を与える背景因子は、「環境因子」と「個人因子」の2つの構成要素から成り立ちます。

・環境因子

環境因子は、建物や交通機関などの「物的環境」、人との関わりから生まれる「人的環境」など、生活を送る上で個人を取り巻くあらゆる環境を指します。

また、環境因子は「個人的」「社会的」の2つの側面から観察することができます。個人的な環境因子とは、家庭・職場・学校などの個人が生活する上で直接的に関わる環境のことです。社会的な環境因子とは、就労環境や政府機関、規則や人々の態度など、個人に影響を与えるものを指します。

・個人因子

個人因子とは、健康状態や状況を除く個性や背景のことです。個人因子には、性別・人種・ライフスタイル・性格など、生まれながらの特徴から人生で築いてきた価値観までを広く含みます。個人因子はICFには分類として含まれませんが、生活機能に関与する事項として重要視されています。

(出典:厚生労働省「「国際生活機能分類ー国際障害分類改訂版ー」(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載について」

なお、環境因子が生活機能に対して肯定的な影響を与えている場合は「促進因子」と言い、否定的な影響を与えている場合は「阻害因子」と言います。

ICFの捉え方

ICFでは、すべての要素をバランスよく見ることが大切です。各項目を部分的に注目し、自分の専門分野だけで判断することは不適切であり、ICFの目的は果たせません。また、バランスだけでなく、各要素の関係性についても理解しておく必要があります。

ここでは、ICFの捉え方のポイントについて解説します。

相互依存性:各要素は影響し合う

ICFの生活機能モデルは、3つの生活機能と2つの背景因子、そして健康状態の6つの要素から成り立っています。6要素は互いに影響を与え合っており、1つの要素の動きが、複数の要素を変化させる可能性があります。

各要素からの影響の度合いや捉え方は、すべての人が同じではありません。たとえば、同じ温度の室内にいる場合でも、体温が高い人は暑いと感じ、風邪気味の人であれば寒いと感じるでしょう。

このように、1つの要素がプラスとマイナスのどちらに働くのかは、一人ひとりの状況や背景因子により異なります。ICFでは相互依存性があることを理解した上で、個人の立場に応じた考え方が必要です。

(出典:厚生労働省「ICF(国際生活機能分類)ー「生きることの全体像」についての「共通言語」ー」

相対的独立性:レベルには独立性がある

ICFの各要素は影響し合うものの、独立性を持っているため、影響によってすべてが決定することはありません。相対的独立性については、下記の例を参考にしてください。

(1)歩行困難な高齢者が、外出をせず内向的な状態が続いている 心身機能・健康状態の低下、参加制約、活動制限
(2)車いすの利用により、外出が可能になる 環境因子の変化、活動の向上
(3)介護施設でリハビリテーションを行い、利用者や職員とコミュニケーションを取る 心身機能・健康状態の向上、参加の向上

(出典:厚生労働省「ICF(国際生活機能分類)ー「生きることの全体像」についての「共通言語」ー」

上記のように、心身機能が十分に回復していない状態であっても、環境因子や活動などほかの要素に働きかけると、全体にプラスの変化を与えることができます。ICFでは、さまざまな可能性を視野に入れて関係性を重視することが大切です。

ICFとICIDHの違い

ICFは、WHOが1980年に「国際疾病分類(ICD)」の補助として発表した「WHO国際障害分類(ICIDH)」の改訂版です。ICIDHはマイナス面(疾病・障害)だけに着目していたのに対し、ICFではプラス面(生活機能)を基準とする考え方に変わりました。

下記は、ICFとICIDHの違いをまとめた表です。

ICF ICIDH
使用用語 「心身機能」「活動」「参加」など、中立的な用語を使用 「機能障害」「能力障害」「社会的不利」など、否定的な用語を使用
構成要素 ICIDHの観点に背景因子を新たに加え、外的な環境や影響も考慮する 「疾患・変調」「機能不全」「能力低下」「社会的不利」によって構成され、個人の中で完結している
因果関係 すべての要素に相互作用が起こる 構成要素が直線上にあり、マイナスへ進んでいく

(出典:厚生労働省「ICF(国際生活機能分類)ー「生きることの全体像」についての「共通言語」ー」

ICFでは背景因子が加えられたことにより、バリアフリーや保健福祉制度の評価ができるようになりました。介護従事者によるサポートも個人の生活機能に関わる要因となっており、ICFの視点を生かすことでより効果的・効率的な介護に取り組めるでしょう。

ICFと医学モデル・社会モデルの違い

ICFは、医学モデルと社会モデルを統合した考え方です。医学モデルと社会モデルの考え方は対立しており、各モデルの概要は以下の通りです。

・医学モデル

医学モデルとは、障害は病気や外傷によって直接的に生じ、個人の問題であるという考え方です。障害は、医師などの専門職による治療やリハビリテーションなどによって対処します。たとえば、階段を使えない人がいる場合、医学モデルでは「使えるようにリハビリや治療をするべきである」と考えます。

・社会モデル

社会モデルは、障害は社会によって作られた問題であり、障がい者が活躍するためには社会の変化が必要であるという考え方です。社会モデルでは、個人の身体能力を問題とせず、環境因子を重視する傾向にあります。たとえば、階段を使えない人がいる場合、社会モデルでは「使えるようにエレベーターを設置すべきである」と考えます。

(出典:厚生労働省「「国際生活機能分類ー国際障害分類改訂版ー」(日本語版)の厚生労働省ホームページ掲載について」

医学モデルと社会モデルは特定の要素を過大視していますが、ICFではすべての要素と関係性に注目し、あらゆる側面からアプローチを行うことが可能です。

介護現場にICFの視点を取り入れると、利用者の全体像が把握でき、効果的に自立支援を進められます。ICFを活用する際には、高齢者や利用者自身が望む将来像をヒアリングし、目標に向けたアプローチを行うことが大切です。

まとめ

ICFとは、人間の生活機能と障害の分類法のことです。ICFは包括的な視点から人間全体を捉え、人々の共通理解に役立つことを目的としています。ICFの構成要素は独立性を持ちながらも相互作用しており、すべての要素をバランスよく見ることが大切です。ICFを介護現場に用いると利用者の全体像を把握し、適切なケアプラン作成や情報共有などに生かすことができます。

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