犬や猫と一緒に生活するメリットや効果は?ペットと入居できる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」|気になるあの介護施設
取材・文/タケウチ ノゾミ(イージーゴー)
神奈川県横須賀市にある特別養護老人ホーム「さくらの里山科」は、ペットと一緒に入居できる数少ない老人ホームです。施設内には犬や猫と生活できるユニットが用意されており、施設に入居した後も愛するペットと一緒に生活できます。ペットと一緒に生活することには、どのようなメリットや効果があるのでしょうか。「さくらの里山科」の施設長 若山三千彦氏に話を聞いてみました。
1.犬や猫と生活するメリット
――入居者さんが犬や猫と一緒に生活することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
最大のメリットは、やはり愛犬や愛猫と一緒に施設に入居できることです。ペットと離れたくないと必死で一人暮らしを続けてこられて、藁にもすがるような思いで当施設に入居された方もたくさんいらっしゃいました。「愛犬・愛猫と一緒に入居できるホームがあって本当に良かった」と心から喜ばれる方も多いですね。
また犬好きや猫好きな方にとっては、犬や猫と触れ合うことが良い刺激になっている様で、結果としてリハビリやADLの向上につながっている点もメリットの1つだと感じています。犬や猫と触れ合い、声をかけるだけで生き生きとした感情の動きが戻ってきて、一時的に認知症が改善された方も多数います。また犬や猫がいると、自分の気に入っている子がどこにいるのかと探すため、結果としてユニットの中を歩き回ることになり、運動量が増えて食事の量も増したり、よく眠れるようになったりして、体調が改善する方も多いです。
とは言っても、「犬や猫の世話が増えてしまうためスタッフは大変なのでは?」と思うかもしれません。確かに、犬や猫がいることで通常よりも業務は増えてしまいます。しかし犬ユニット・猫ユニットに配属するスタッフは犬好きや猫好きの職員に限定しているため、「犬や猫がいる職場で働けるのはとても嬉しい」と言ってくれることも多いです。なのでホームに犬や猫がいることは、スタッフのモチベーションアップにもつながっているのではと感じています。
2.犬や猫と触れ合う効果
――入居者さんが犬や猫と触れ合うことで感じられる効果について教えてください。
多いケースが、拘縮の改善です。入居者さんの中には、拘縮で手の関節が固まり動かなくなってしまう方も多いです。しかしその状況でも犬や猫を一生懸命なでたり、ブラッシングしたりすることで、リハビリとなり、拘縮がある程度改善されたケースは何例もありました。
また認知機能が改善するケースもとても多いです。これはあまりにも劇的な変化があったエピソードなのですが、1つご紹介したいと思います。ある日、非常に重度の認知症の方が犬ユニットに入居することになりました。もうご家族の名前や顔もわからなくなってしまっているうえに、感情の動きもほぼなく、自ら動くことや声を発することもない方でした。その方は大変な犬好きだったそうで、「犬がいるところに行けば、少しでも嬉しいと感じてくれるかもしれない」というごくわずかな期待から、ご家族が当施設を選んでくれたのだと思います。
その方が入居され、数週間経ったある日のこと。なんと当施設の文福という犬に、「ポチや」と呼びかけはじめたのです。ポチはきっと、その方が以前飼っていた犬の名前なのでしょう。自ら呼びかけるといった行為も長い間見られなかったので、ご家族はそれだけで大喜びされていました。しかしそこから数週間後に、今度はその犬に「文福や」と正しい名前で呼びかけるようになりました。そしてさらに数週間後、今度は面会に来た息子さんを認識できたのです。息子さんは大変嬉しそうで、嬉し泣きをしていました。ホームの提携医師によると、恐らくここまで劇的な変化が見られた理由は認知症ではなく、老人性うつ病による擬似認知症だったのだろうとのことでした。しかしそれでも、本当に素晴らしいことだと感じています。こちらは劇的な変化があった例ですが、無表情でほとんど感情が見られなかった方が、生き生きとした表情を取り戻した。ほとんど会話ができなかった方が、犬や猫に呼びかけることで会話ができるようになった、など認知症が改善するケースは多々見られています。

『看取り犬・文福 ~人の命に寄り添う奇跡のペット物語~』という本にもなった保護犬の文福と入居者さん
3.生活の中で注意していること
――犬や猫と高齢者が一緒に生活をするうえで、注意していることはありますか。
特に注意している点はなく、一般家庭と同じようなことしか気をつけていません。最初は衛生面の管理ができるか気にしていたのですが、実際にペットと暮らせる老人ホームを始めてみると、入居者さんに対する衛生管理と同じことをすれば良いのだと気が付きました。汚れたところを手早く掃除するのは日常的に行っているので、もしペットがトイレではない場所でおしっこをしてしまっても、素早く対応できます。なので特別なことはほとんどする必要はありませんでした。
あえて言えば、入居者さんと同様に、犬や猫も元気で健康に過ごせるように気をつけていることでしょうか。たとえば、高齢者は自分の食べ物を犬や猫にあげたがる方が多いので、その点はやめるように注意しています。当施設で暮らしている以上、犬や猫の健康を守る義務があると考えているので、犬や猫に人間の食べ物を与えることは認めていません。一般的に犬や猫を飼うにあたって守るべきことは、気をつけるようにしています。
4.1匹でも多くの犬や猫を救いたい
――今後の展望を教えてください。
当施設には、自立している方や要支援の高齢者からの入居の問い合わせが非常に多いです。現在犬や猫と暮らしていて、今後が心配なため入居したいと考える60代〜70代の方からの問い合わせです。しかし特別養護老人ホームは要介護3以上でなければ入居できないので、問い合わせがあってもお断りすることになってしまいます。そのため自立している方や要支援の方が入居できる、サービス付き高齢者住宅や有料老人ホームと連携できればと考えています。
まず愛犬や愛猫と一緒にサービス付き高齢者住宅や有料老人ホームに入り、そこで重症化して他の施設に入居する必要が出た際に、愛犬や愛猫と共に「さくらの里山科」へ入居する。そういった流れができると、救われる高齢者や犬猫が増えるのではないでしょうか。現在保健所で殺処分される犬や猫の過半数は、高齢者が飼っていた犬や猫なのだそうです。その理由はペットに飽きたからではなく、「身体が不自由になったり、認知症になったりしてお世話ができなくなった」、あるいは「入居する施設に一緒に連れていけなかった」などが大半ではないかと思います。もしペットを一緒に連れていける施設があれば、犬や猫を保健所に入れなくて済むのではないでしょうか。

入居者さんと愛猫の「祐介」
有料老人ホームの中には医療体制が整っているところもたくさんありますが、重度の介護は提供できない施設も多いです。そのためサービス付き高齢者住宅や有料老人ホームが犬や猫を受け入れてしまうと、その先が見つからないのではないかという不安があると思います。だからこそ「さくらの里山科」と提携し、当施設が受け皿になることで、安心してペットも一緒に受け入れられる施設が増えるのではないかと考えています。1匹でも多くの犬や猫を救うために、このような流れが当たり前の社会になって欲しいですね。
取材・文/タケウチ ノゾミ 編集/イージーゴー
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