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仕事・スキル 介護施設・職場 2023/04/24

#認知症#認知症カフェ

バスの来ないバス停があるカフェ|認知症カフェ「ぽかぽかの森アンキカフェ」の取り組み

取材・文/タケウチ ノゾミ(イージーゴー) thumbnail.jpg

「ぽかぽかの森アンキカフェ」は、愛知県豊橋市にある認知症カフェです。認知症の当事者やその家族だけでなく、子どもから高齢者まで、誰もが気軽に利用できるお店として地域の人々に親しまれています。当カフェでは、ほかにも「バスの来ないバス停がある」「子どもが店長をすることがある」など、さまざまな取り組みをおこなっています。その興味深い取り組みについて、NPO法人「ぽかぽかの森」の近藤裕美氏に話を聞いてみました。

>前編「ぽかぽかの森アンキカフェ」の概要と魅力はこちら

1.バスの来ないバス停とは?

――施設内にはバスの来ないバス停があるそうですね。このバス停にはどのような意味があるのですか。

このバス停は、ドイツの介護施設で実際にあったエピソードを再現したものです。認知症の方は徘徊してしまうことがありますが、その際無理に家に帰ろうと言うのではなく、「バス停にいればバスが来ますよ」と、バスの来ないバス停で一緒に待ってもらうのです。すると認知症の方は、バス停の前で座っているうちに、なぜ自分が外にいるのかも忘れてしまいます。実際にはバスは来ないため嘘をついていることにはなりますが、誰も傷つけない優しい嘘だと思いますね。

2.バス停の効果

――バス停の効果はいかがですか。

今のところ、このバス停の利用者はいらっしゃいませんが、このバス停の設置をきっかけに、さまざまなメディアに取り上げていただくことができました。また豊橋市内のグループホームでは、このバス停をモチーフとして、グループホーム協議会のなかで「バス停プロジェクト」を立ち上げ、バスの来ないバス停を施設に設置するという活動を予定しているそうです。なのでバス停を設置したことで、思わぬ効果が生まれていると感じています。

バス停は皆さんの憩いの場として親しまれていて、バーベキューをおこなったり、焼き芋を焼いたりすることも。ちょうどカフェにある丸窓からバス停が見えるので、いつも皆さんが楽しそうに交流する様子を眺めています。

3.子どもが店長を勤めることも

――小さいお子さんが店長を勤める「子ども店長」の取り組みは、どのような経緯で始めることになったのですか。

認知症カフェのオープンを決めたときに、ある小学校高学年の女の子が「私も何かできることはないですか」と話しかけてきたことがきっかけです。その子は自分のおばあさんを非常に大切にしている子で、自分のおじいさんやおばあさんだけではなく、世の中のお年寄りが元気になることをやりたいと言ったそうです。そこで、スタッフとしてお店を手伝ってもらえれば良いのではないかと考え、子どもが店員を勤める「子ども店長」の取り組みを始めることになりました。



4.「子ども店長」の仕事内容

――「子ども店長」は、どのようなお仕事を担当しているのでしょうか。

子どもたちには、「オーダを聞く」「飲み物を運ぶ」「店内の掃除をする」などの一通りの仕事を担当してもらっています。またいろいろな人とコミュニケーションをとって欲しいので、お客様とおしゃべりをしたり、遊んだりすることも仕事の一環です。見ていると、高齢のお客様にお手玉やメンコを教えてもらっていることもありますね。

子ども店長の取り組みをするうえで気をつけていることは、「これをしなさい。あれをしなさい」と指示しないことです。子どもの集中力にはムラがあるので、無理をせずに、辛いと思ったら休んで良いことになっています。また子どもたちには、「何がこの人に必要なのか、この人が楽しく過ごせるにはどうしたら良いかなどを、常に自分で考えることが重要だよ」と伝えるようにしています。次の行動に困っている子がいた場合は、大人がヒントを出しながら、自分で考えてもらうことを重視しているのです。

5.スタッフの傾向

――お店で働くスタッフさんは、どのような方が多いですか。

実は、スタッフは全員ボランティアです。なので、先程までお客様としてくつろいでいた方が、いきなりスタッフとしてお店を手伝うこともあります。急遽お客様がお掃除係になったりとか。お客様とスタッフとの間で線を引くのではなく、みんなで一つの空間を作り上げていっているイメージですね。

ボランティアとして活動してくださっている方は、30代から50代くらいの方が多く、さまざまな目的を持って当店に集まっています。福祉の仕事をしていて、現在の施設のあり方について疑問を持っている方。自分なりの居場所づくりをしたいので、ボランティアをすることでその参考にしたいという方。社会勉強をしたい大学生。精神疾患を抱えており、誰かと話をしながら心を整えて行きたい方。みなさん本当にさまざまなバックグラウンドがあり、個性豊かな人が集まっています。



6.お客様の声

――カフェについてお客様からの反応はいかがでしょうか。

「すごく楽しい!」や「予想外なことがたくさんあって面白い」と言われることも多いですね。また「認知症カフェの概念が変わった」と言われることもあります。やはり認知症カフェは当事者とそのご家族のみが行ける場所というイメージが強いですが、そうではなく、地域の方々が集まれる場所と思っていただけるのは非常にうれしいです。

また認知症の方のご家族は、介護の疲れや悩みを解決する場所として活用されている方も多いです。1対1だとだとかなり重苦しく感じられる話題も、みんなで聞くと空気が軽くなり、最後は笑い話になっていることもあります。当事者の方も、話すうちに段々と返事が明るくなっていくことも多いですね。複数人でコミュニケーションを取ることで、面白い反応がたくさん出てくるのも良い効果を生んでいるのではと感じています。

7.今後の展望

――今後、アンキカフェがどのような場所になって欲しいですか。

アンキカフェの"アンキ"は、三河地方の三河弁で「ホッとする」という意味なので、お客様にとって、ホッと一息つける場所であって欲しいですね。またお店を訪れることで、誰かとつながりを持つのは楽しいことだと伝わるといいなと思っています。やはり人間は一人では生きていけないですし、どうしても誰かの助けが必要になってくることがありますよね。

素直に「助けて」と言える社会になればいいですが、現実社会ではなかなか難しいことも多いと思います。なので「助けて」とか「誰か話を聞いて」とか、そういったことを言うための練習の場所になってくれたら。カフェを訪れることで、あなたは一人じゃないということが、多くの方に伝わって欲しいです。

取材・文/タケウチ ノゾミ 編集/イージーゴー

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タケウチ ノゾミ(Nozomi Takeuchi)

ライター・編集者

福岡市在住のフリーライター・編集者。介護、医療、ビジネスを中心に幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は観劇と美術鑑賞、猫を揉むこと。

タケウチ ノゾミの執筆・監修記事

EGGO(イージーゴー)

イージーゴーは東京・九州を拠点にWEBコンテンツ、紙媒体、動画等の企画制作を行う編集制作事務所です。ライターコミュニティ「ライター研究所」も運営しています。

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