寝たきり90歳・要介護4が寝返り・起き上がり可能になった介助法を学ぶ
文:福辺 節子 理学療法士・介護支援専門員。厚生労働省非常勤参与。
自分の意志で抱きしめる
こんにちは。福辺節子です。
私は義足の理学療法士として、介護にも使える介助(寝返り・起き上がり・立ち上がり・移乗・歩行などの基本動作のサポート)に特化した活動を行ってきました。現在では介助にまつわるセミナーを開催したり、施設・病院・在宅などでのスタッフやご家族への指導・アドバイス、そのほか依頼による講習会や講演会などを行っています。
私が介助の際に気を付けているポイントは、対象者の「力と意欲を引き出すこと」です。ここでは「福辺流介助術」として、実際に試された方からの手紙を紹介しながら解説していきます。
寝たきりから起き上がり可能に回復した父についてのT田さんからの手紙
コロナの最中、私のもとに1通の手紙が届きました。
差出人はT田さん(60代、男性)。今年の6月に入院し、その後寝たきりになってしまったお父さんを、福辺流介助術で立ち上がらせることができたというお礼の手紙でした。1カ月も経たない間に寝たきりのお父さんを変えた、T田さんの魔法の介助とはどんなものだったのかをご紹介したいと思います。
今回の執筆にあたり、T田さんに掲載しても良いか確認したところ、介護記録も提供いただくことになりました。
T田さんの介護記録と手紙とでは少し日付がずれるところがありますが、原文のまま記載しています。
<T田さんとお父さんのプロフィール>
- T田さん(60代、男性) 東北地方でお父さんと暮らす。お父さん退院後は介護をすることに。
- お父さん(90代) 2020年6月に心不全で入院。退院後は要介護4。
突然始まった介護生活。T田さんが感じた違和感とは
6月18日
T田さんのお父さんが心不全のため入院。T田さんはコロナの影響でお見舞いもできなかったそうです。入院前は背中を丸めて杖をつきつつも、身の回りのことはすべて自分でやっていたお父さん。約1カ月後にT田さんと再開したときには、痩せて寝たきりの状態に。
7月19日
退院。介護タクシーを使ってストレッチャーで帰宅。お父さんの要介護度は4。
その後、T田さんは専門職に聞いたり、YouTubeを見たりして、お父さんの介護を勉強し始めました。しかし、退院から1カ月経ったころ、それまでお父さんに実践してきた介護に違和感を覚え始めたそうです。
被介助者人に動いてもらう介助の重要性
7月26日
「親父は相変わらず、ちょっと触っただけ位置を変えただけで痛い痛いを連発。すべてやってもらうのが当たり前になっており、やる気はほぼゼロ。それでも食欲だけは落ちないようでなんとも複雑な気分。」
(T田さんの介護記録より抜粋)
「どんなに私が父の身体の動かし方が上手くなっても、どんなに父に手足の運動をさせても、それが父の望む自力での起き上がりや立ち上がりに繋がるとはとうてい思えなかった。」
(T田さんの手紙からの抜粋)
介助者の介助方法がいくら上手になっても、被介助者に動いてもらう介助でなければ、被介助者の達成感は得られません。
これまで自分で動いていた動作と異なる介助だと、本人は怖い、痛い、意にそぐわない動きを強いられます。介助が助けにならず、反対に本人が動くのを邪魔してしまうのです。
また、手足の運動や立ち上がりの練習などのいわゆるリハビリを一生懸命やっても、それが直接本人のADLに繋がるとは限りません。
被介助者に動いてもらう介助の重要性をT田さんはお父さんの介助から感じ始めたのです。
介護開始から2カ月でベッドを交換した理由
8月27日
「ベッド幅を91 cmから100cmに替えてもらう」
(T田さんの手紙からの抜粋)
何故、T田さんはベッドを幅100cmのものに変えたのでしょう。
100cm幅のベッドと寝返り
画像のように90cm幅のベッドの真ん中に寝sている状態からそのまま寝返ると、体がベッドのギリギリで手足はベッドからはみ出してしまいます。私たちが寝返るときは無意識にお尻を後ろに引いて落ちないように調節していますが、それができないと寝返る人は怖いですよね。これでは、寝返る能力を持っている人でも寝返る気にはなりません。

90cmのベッドに仰向けに寝ている様子

90cmのベッドで仰向けから寝返りを打った様子
被介助者が怖さを感じずに、できるだけ自分の力で寝返ってもらうためには、幅の広いベッドが必要です。幅の広いベッドであれば、寝返りのたびに被介助者に動いてもらう手間が省けます。
柵はあえてつけなくて良い
また、柵はつけない方が良いでしょう。柵は一見寝返りを助けてくれるようですが、実は寝返りの邪魔になります。寝返った人が完全な90°側臥位になる邪魔をしてしまうのです。
90°側臥位にならなければ被介助者は元の仰臥位に戻ってしまうので、介助者は支え続けなければなりません。また、90°側臥位を寝返りのたびに確保できれば、被介助者の拘縮を防ぐことができます。
介護において、100cm幅のベッドの需要は少ない
100cm幅のベッドを導入している介護施設は非常に稀です。ただし、在宅ではレンタルが可能です。
家族、ヘルパー、ケアマネジャーなどがその知識を持っておくと、在宅での介護が決定した時点で幅広のベッドの導入を検討することができ、被介助者の可能性を広げることができるのです。
「介護用品のレンタル業者さんに聞いたら100cmの介護用ベッドの需要はほぼ無いとのことだった。
福辺節子さんの本に書いてあったのでベッドを交換したのだが、実際寝てみてその違いに驚き、なんで需要が無いのか不思議でならなかった。思うに91cm幅のベッドは介助される側にとっては不都合でも介助する側にとってはかなり楽だから、91cm幅がほとんどなのだろう。」
(T田さんの介護記録からの抜粋)
ついに起き上がり・立ち上がりに成功!介護で介助者が気を付けるポイントとは?
起き上がり成功
8月28日
「翌28日に手首を支える介助での起き上がりをやってみました。そしたらなんと2カ月以上も寝たままだった父がベッド端に座ることができたのです。しかも座ったあともぐらつかず自力で座っているのです。信じられませんでした。デイサービスに行くとき、車いすに乗るために介護スタッフさんが父を抱えベッド端に座らせるときにはうめき声を上げ、自力で座っていることができなかったのに、です。」
(T田さんの手紙からの抜粋)
「昼前、親父がベッドの柵をつかみ必死に起き上がろうとしていた。なんとか起き上がりたいと言う。福辺さんの本を思い出し、先ず柵を外し、手をさしのべ支点をつくった。介助者はけっして相手を動かしてはならないとの原則を守り、ひたすら動かない支点に徹した。
その支点をとっかかりにして親父が自力でベッドの端に座ることができた。親父が感動のあまり泣いていた。つられてこちらも涙がこみ上げた。
福辺さんの介助方法のもっとも大きな特徴は、この達成感を得られることと心から納得した。もっともっと勉強して親父のやる気と力を引き出していかねば......。」
(T田さんの介護記録からの抜粋)
現在の日本で通常おこなわれている起き上がりの介助は、被介助者の肩と膝を持って仰臥位から端坐位に一気に起こしてしまう介助です。自分が介助されてみるとよくわかるのですが、この介助では被介助者は自分の力を使うことができません。現在の介助が被介助者の邪魔をしている、被介助者の能力を奪っていることを示している典型的な例です。
たとえ介助されてでも、被介助者が自分の上肢と体幹の力を使いながら起きてくると端坐位が可能なのです。

被介助者の起き上がる能力を活かした介助例
立ち上がり成功
8月29日
「29日には体幹を支えてのベッドからの立ち上がりをやってみました。すると父が力を出して立ち上がり、その直後号泣していました。よほど嬉しかったのでしょう。こちらももらい泣きしてしまって、二人で立ったまましばらく動けませんでした。」
(T田さんの手紙からの抜粋)

被介助者の重心を意識した介助例
なぜこれまでの介助では立ち上がれず、福辺流介助では立ち上がれたのでしょう。
私たちが立ち上がるためには、体重を前方に掛けなければいけません。どこまで前方に移動するかというと、体の重心線が両足底の間にくるところまでです。
通常の介助では、前方への体重移動が不完全で、重心線が両足底の間にこないままで被介助者を上に持ち上げてしまうのです。
被介助者の重心線が両足底の間にくるところまで前方に誘導し、そこで介助者が支えの役割を果たせば、被介助者の立ち上がる動きが出てきます。介助者は動かないバーとして重心を支えるイメージです。
介助は裏切らない

T田さんのお父様。今では起き上がって食事も取れるようになった
セミナーでは、受講生がよく「介助は難しい」と言います。
T田さんにも、手紙の返答で「福辺流介助は難しいですか」とお聞きしてみました。T田さんは「どこが難しいのでしょう。本の通りにやれば、親父は勝手に動いてくれます」と答えてくださいました。
介助は裏切りません。力と意欲を引き出す介助をすれば、相手は応えてくれると感じています。
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