90代の父が介護用おむつを外せた 自宅入浴までできるようになった介助の秘訣 福辺流介助術
文:福辺 節子 理学療法士・介護支援専門員。厚生労働省非常勤参与
笑顔で説明する義足の理学療法士、厚生労働省非常勤参与 福辺節子さん(左)
前回ご紹介した山形のT田さんのケース、いかがだったでしょうか。
私はあまりにも嬉しくて、いろんなところでT田さんのお話をしています。なぜなら、福辺流「力と意欲を引き出す介助」が、ハードな練習を重ねなければならない難しい介助ではないとうことを、T田さんが証明してくださったからです。これまでご自宅でお父様を診られてきたとはいえ、専門職でもなく介助経験もないT田さんが、私の本とDVDを見ただけで、寝たきりだったお父様をここまで変えたのですから。
もともと、T田さんのお父様の介護レベルがよかったから、と思われた方もいらっしゃるもしれません。
でも、退院されてからT田さんが私の介助に出会うまでの1ヶ月間、様々な専門職が関わっていたにもかかわらず、お父様の機能や生活を改善することはできていないのです。そのままの状況が続いていたとすれば、T田さんが書かれていたように、お父様は寝たきりで、最悪の場合は認知レベルも低下していたかもしれません。
さて、T田さんとお父様の挑戦はまだまだ続きます。
T田さんの介護記録日記を以下に抜粋しながら、福辺流介助術のポイントを解説していきます。
<T田さんとお父さんのプロフィール>
- T田さん(60代、男性) 東北地方でお父さんと暮らす。お父さん退院後は介護をすることに。
- お父さん(90代) 2020年6月に心不全で入院。退院後は要介護4だったが、訓練と工夫で起き上がれるようになった。
成功体験で、当事者のやる気を引き出す
8月29日
朝食後、片付けをしていたら親父のうめき声。そっと覗くと、ベッド端に座っていた。介助なしに座ることができたのだ。
その後、福辺さんのやり方で、立ち上がりの練習。俺の身体を支えにして親父が自力で立ち上がった。100cmのベッド幅と福辺さんの介助術が親父のやる気をいっそう引き出している。
人のやる気を引き出し自己肯定につなげていく要因の中で、大きな割合を占めるのは成功体験です。全面的な介護やお世話を受けている人に、やる気を出せと言うほうが無理な注文です。サポート側がすべきなのは全介助ではなく、たとえ介助されていても、介助される人が「自分でできた」と思えるような介助であり、そのための環境を整えることなのです。
8月30日
座るのもだいぶしっかりしてきてぐらつかなくなった。
わずかだが足踏みもできるようになった。ひょっとしたら車いすへの移乗もできるのではないかと思って試したら、少しずつ足を移動し、介助が有りながらも自力で歩いて移乗できた。
9月10日
今日は小刻みに10歩ほど歩いて移乗できた。もちろん介助ありだが。
車いすへの移乗の折、デイサービススタッフの従来のやり方を思い出すのか、一瞬躊躇するが、自分で立って歩くのだよと説明。怖い思いを払拭しながらやっている。
介助スタッフにも福辺さんのやり方を覚えてもらいたいのだが、なかなか難しい。
私がセミナーを始めたのは家族や介護・医療スタッフに、福辺流介助術を実践してほしいと思ったからです。セラピストがいくら訓練をしても生活の中でそれが使われなければ、ご利用者の生活に変化はありません。
T田さんだけでなく、デイサービスや訪問のスタッフに同じような介助をしてもらえるのなら、その効果は絶大になるはずなのです。
9月12日
片手は介助バーを持ってもらい、俺は親父の脇の下を片手で軽く支え移乗を始めた。
親父は立ち上がって少しずつ足を動かし無事に車いすに移ることができた。車いすに座れたとき、またまた感動の涙を流していた。またまたこちらももらい泣き。介助、介護には感動がある。

画像1:車いすから立ち上がる介助の様子
9月14日
デイサービスに行く前に車いすに移乗。
車いすの足かけに自分で足をかける方法を教えると苦労しながらも出来た。
ついでに車いすの動かし方も教え、茶の間まで自力で動かす。
茶の間に着いたとき、動くことが出来たとまたまた泣いていた。自分で出来ることが増えていくと自信とやる気が起きると言っていた。まさに尊厳の復活である。
適切な介助ができると、介助される人は必ず良いほうへと変化します。日々の介助のなかで、被介助者と介助者は、驚きや感動、成功感を味わうことができます。その体験は、自分への肯定感やプライド、意欲へとつながるのです。
介護用おむつを外して、リハビリテーション=人間の尊厳の復活だと実感
9月21日
そろそろオシメを外す準備が出来そうなので、ポータブルトイレをベッド脇に置いた。
9月26日
ポータブルトイレへの移乗を持ちかけた。ちょっとキツいかなとも思ったがすんなりと出来た。
親父に尿意や便意はあるか聞いたら、尿意はあるが大便が分からないとのことだった。大便は毎回少しずつ出ているので、括約筋が緩んでいるのだろう。
10月3日
朝食後、親父におしっこが出るとき分かるか?と聞いたら、分かるとの答え。市から昨日支給されたリハビリパンツの説明を親父にして、オシメを外す練習をするかどうか聞いたらやるとの答え。
ポータブルトイレの使い方の説明を身振り手振りで教えると、自分でベッドからトイレに移乗してズボンを下ろして座ってしまった。せっかく座ったのでオシメを外し、おしっこが出るんだったらしたらいいよと言ったら、ウンチが出るという。気張って十数センチのバナナのようないいウンチを2本と少しのおしっこをした!
フライング気味ではあったがポータブルトイレデビュー大成功である。座ると腹圧が掛かり、以前は無いといっていたウンチが出る感覚が戻ったのかもしれない。
10月4日
夜は心配だったのでオシメを着けて寝させた。
深夜12時頃、がたがたと音がする。ふと親父を見るとベッドから抜け出してポータブルトイレに座っていた。慌てて親父に駆け寄り、オシメを外した。
オシメ外しは逆戻りはきかないのだと思い知った。
考えるまでもなくオシメでおしっこやウンチをするのはとんでもなく嫌なことだ。どうしてもオシメでせざるを得ない羽目に陥った場合、脳は感覚を消し自我をかろうじて守るのだという。
排泄の感覚が戻ったからには再びオシメに戻りたくないのは当たり前のことなのだ。リハビリテーションとは尊厳の復活であるというのは真実なのだ。
10月6日
親父が今朝からブリーフになった。オシメ卒業である。朝食時、親父にオシメじゃなくブリーフを履いた気分を聞くと、気持ちがいいとにっこりしていた。
通常、オムツ外しは便から試していきます。便のほうが回数も少なく、通常は尿意が曖昧でも便意は比較的わかる人のほうが多いからです。T田さんのお父様は便のほうがわかりにくいとのことだったのですが、実際にやってみると、ポータブルに座った途端に便意が甦ったのです。
人間の脳は、本当に不思議ですね。
デイサービスから自宅での入浴を目指して
10月8日
朝なにげに、デイサービスの風呂の話になった。機械式の風呂で横になって入れられるんだそうだ。家の風呂で肩までゆっくりつかれたらいいね、と言ったらにっこりとうなずいていた。
今はやりのバリアフリーとは真逆の昔の作りのままのバリアだらけの家で、どうやったら父を風呂に入れてあげることが出来るか、頭の中でいろいろとシミュレーションをしてみた。少しの工夫と少しの歩行でなんとかなりそうな感じだ。
車いすに移乗する様子を見ていたらもう歩けるんじゃないかと思い、試しに前方から両肘を支えて試してみた。1メートルほど歩いてバックして車いすに。足の運びも出来、練習すればベッドから茶の間までならそんなに日数もかからず歩けるようになりそうだ。
念願の家の風呂に入れそうだ。

画像2:歩行の練習をしている様子
入浴目的でデイサービスに通ってもらう家族が多い中で、T田さんはお父様に家でお風呂に入ってもらえないかと考え始めます。オムツ外しも、家での入浴も、確かに私の本で説明しています。入浴介助の方法と環境さえ整えれば自宅でお風呂に入ることもそれほど難しくはありません。
自宅での入浴に成功した秘訣は、介助者のアセスメントと挑戦心
10月12日
デイサービスに行くまでに時間があったので歩行練習をした。足の運び、方向転換して椅子に座るなど、前回よりもだいぶしっかりしてきた。
10月15日
買ったばかりだが長さを調整した杖を渡し、脇を支える介助で歩いてもらう。思った通り、約4メートルを歩ききった。この様子だともうしばらく練習すれば一人で杖を使って歩けるようになるだろう。

画像3: 杖を使って歩く練習の様子
10月16日
脇を支えていたのだが昨日と違ってほとんど手に重さが掛からない。
車いすから2メートルほど離れたところに椅子を置き、ここまで杖をついて一人で歩いてみないかと誘った。親父は杖をついて車いすから立ち上がり一歩一歩慎重に歩き始め、見事に椅子まで歩ききった。ふうっと一息ついて、
今度は椅子から車いすまで杖をついて戻った。退院後、初めて一人で歩いた。ほんとうにすごい!

画像4: 杖を使って立ち上がるT田さんのお父さん
T田さん父子の展開の早さには驚かされます。これだけ早く回復しているのは、T田さんが注意深くお父様を観察し、アセスメントをしっかり行っているからです。
アセスメントというと難しいものと思われがちですが、相手の訴えをよく聞き、よく見るところから始まります。また、杖歩行では介助の方法だけでなく、杖の高さや持ち方、足と杖を出す順番なども大切です。これも本に紹介しているのですが、在宅でも施設でも正しくできているところは非常に少ないのが現状です。
10月23日
「家のお風呂に入る」計画を実行した。
脱衣場で椅子に座って服を脱ぐことから始まって、洗い場のシャワーチェアに座り、湯を掛け、お尻をずらして浴槽の縁に移り風呂に入る動作までやってみせて、風呂に入る流れを覚えてもらった。
その後、指示だけで一切手出しはしないで、親父を見守った。何度かはらはらする場面があったがじっと我慢。やっと一人で湯船に浸かった親父は感無量で「風呂に入れた~。ありがとう」といってくれた。ちょっと目頭が熱くなった。
「俺の家の風呂だもんなぁ......。何ヶ月振りだろう」などとしみじみと言いながら満足のいくまでゆっくりと温まっていた。
退院後の風呂デビュー、大成功。
どれほどT田さん親子が嬉しかったことか、介護日誌を読むだけで伝わってきました。
T田さんの介護者として素晴らしいところは、まずご自分で試してみるところです。
前回のベッドの場面でもそうですが、先に自分でやってみる。そこで気づくことも非常に多いのです。シーティングやポジショニングでも自分が座ったり寝てみるところから始まります。
自分で試して上手にできれば、介助も上手くできるようになります。
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