結城教授が見る、介護施設系 介護報酬改定の注目ポイント 令和3年度
文:結城康博(淑徳大学教授 介護福祉士 社会福祉士)2021年4月、介護報酬改定が行われました。今回はその中から、介護施設を中心に解説します。施設系の中でも、特別養護老人ホーム、老人保健施設、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)、認知症グループホームに注目。介護医療院、有料老人ホームも多くのご利用者がいらっしゃいますが、今回の改訂で特に大きな変更が発生したのは、先に申し上げた4施設です。以下の目次に分けてそれぞれの施設を解説していきます。
特別養護老人ホーム~個室ユニットの定員上限~
新制度においては、個室ユニット型施設の定員規定が変わりました。従来は、1ユニットにつき10人以下という規定でしたが、原則としておおむね10人以下とし、15人を超えないものとなりました。
また、ユニット型個室的多床室については、感染症やプライバシーへの配慮から、個室化を推進する動きが見られます。そのため、新たに設置することはできなくなりました。
個室ユニット型施設の設備・勤務体制の見直し内容は以下の通りです。
<改定前>
おおむね10人以下としなければならない。
<改定後>
・原則としておおむね10人以下とし、15人を超えないものとする。
・当分の間、現行の入居定員を超えるユニットを整備する場合は、ユニット型施設における夜間及び深夜を含めた介護職員及び看護職員の配置の実態を勘案して、職員を配置するよう努めるものとする。
特養に関しては、規定上は1ユニット15人以下と規定されました。しかし、介護職員が一定程度確保されていかないと、安定した介護サービスは難しいでしょう。そのため、今後1ユニットの人員基準が増えたとしても、それに応じた介護人材の確保といった課題が残ると考えられます。
老人保健施設~在宅復帰・在宅療養支援機能加算~
みなさんもご存じのように、老人保健施設は、在宅復帰を目指した介護施設です。在宅復帰率が高いほど、それに見合った介護報酬を取得できる必要があります。そのため、この「在宅復帰・在宅療養支援機能評価」の要件が、一部見直されています。
具体的には、今回の制度見直しで、リハ専門職の配置割合が厚くなり、以下に示すように算定要件が追加されました。なお、これら指標の1つである「喀痰吸引の実施割合」項目においては、現に喀痰吸引を実施している者及び過去1年間に喀痰吸引が実施されていた者と定められています。
表1:在宅復帰・在宅療養支援機能評価の充実
評価項目 | 算定要件 |
---|---|
退所時指導等 | a: 退所時指導 入所者の退所時に、当該入所者及びその家族等に対して、退所後の療養上の指導を行っていること。 |
b: 退所後の状況確認 入所者の退所後30日※以内に、その居宅を訪問し、又は指定居宅介護支援事業者から情報提供を受 けることにより、在宅における生活が1月※以上継続する見込みであることを確認し、記録していること。 | |
リハビリテーションマネジメント | a: 入所者の心身の諸機能の維持回復を図り、日常生活の自立を助けるため、理学療法、作業療法その他必要なリハビリテーションを計画的に行い、適宜その評価を行っていること。 |
b:医師は、リハビリテーションの実施にあたり、理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士に対し、リハビリテーションの目的に加えて、リハビリテーション開始前又は実施中の留意事項、中止基準、リハビリテーションにおける入所者に対する負荷量等のうちいずれか一つ以上の指示を行うこと。 | |
地域貢献活動 | 地域に貢献する活動を行っていること。 |
充実したリハ | 少なくとも週3回程度以上のリハビリテーションを実施していること。 |
サービス付き高齢者向け住宅~囲い込み防止への強化~
従来からサ高住においては、ご利用者に対する囲い込み(サ高住の系列介護事業所による過剰サービス提供)が問題視されていました。今回の制度改正でも、より適正な介護サービスの適性を促す施策が盛り込まれました。
具体的には、サ高住ご利用者のケアプランのうち、区分支給限度額に近いケースにおいて、そのサービス利用水準を点検・確認する自治体の指導権限を強化することになりました。
例えば、サ高住の家賃を相場よりも引き下げ、系列介護事業書によるサービスを区分支給限度額まで利用する事例などが指導の対象となります。今後、これらのケアプランの点検強化が実施されることになるでしょう。
グループホーム~ユニット数を弾力化~
認知症グループホームは、地域密着型サービス(定員29人以下)として多くの高齢者が利用しています。しかし、従来、原則、1もしくは2ユニットしか運営することしかできず、地域の実情により事業所の効率的運営に必要と認められる場合は3ユニットと条件が定められていました。
しかし、今回の改正で「共同生活住居(ユニット)」の数を1以上3以下とする」と規定されました。これにより、3ユニット開設のための条件がなくなったと理解してよいでしょう。
今回の改訂で20人以上の入居が可能となる認知症グループホームを開所しやすくなったため、経営の安定化が期待されます。当然、1ユニットもしくは2ユニットの認知症グループホームでは、介護報酬の収入も限定的で、介護職員の確保も苦慮している傾向にあります。
しかし、3ユニットの認知症グループホームを創設しやすくなれば、いわゆる「規模の経済」が働き、事業規模が拡大するに応じて、単位当たりのコストも減っていくのではないでしょうか。今回の改訂は、事業運営にプラスとなることが期待されるでしょう。
そのほか、認知症グループホームにおける中重度者や看取りへの対応の充実が図られています。具体的には「看取り介護加算」について、死亡日以前31~45日以下72単位/日が新設されました。
表2:認知症グループホームにおける看取り介護加算
改定前 | 改定後 | |||
---|---|---|---|---|
項目 | 単位/日 | 項目 | 単位/日 | ステータス |
― | ― | 死亡日以前31~45日以下 | 72 | 新設 |
死亡日以前4~30日以下 | 144 | 死亡日以前4~30日以下 | 144 | ― |
死亡日以前2日又は3日 | 680 | 死亡日以前2日又は3日 | 680 | ― |
死亡日 | 1,280 | 死亡日 | 1,280 | ― |
■まとめ
年々、介護職員の人材不足が深刻化しているため、施設経営も難しくなっているかと思いますが、今回の改定では法令基準が緩和されている側面が伺えます。しかし、基準が緩和されても介護職員の現場での負担が直接軽減される訳ではないので、その点は注視していくべきと考えます。
(関連記事 記事上部#タグでも関連記事の表示ができます)
令和3年度介護報酬改定(上)厳しい訪問介護、まあまあな施設介護
令和3年度介護報酬改定(下)科学的介護と本丸介護データベースLIFE
■参考文献
第199回社会保障審議会介護給付費分科会
「参考資料1:令和3年度介護報酬改定における改定事項について」2021年1月18日
厚生労働省「全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議 別冊資料(介護報酬改定)」2021年3月9日
厚生労働省「令和2年度 全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料」2021年3月9日
厚生労働省「令和3年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.2)令和3年3月23 日」
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