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仕事・スキル スキルアップ 2021/07/06

#ご利用者#音楽療法#認知症#認知症検査#太鼓#対応方法#介護施設

介護施設での認知症検査と和太鼓認知症ケアについて臨床心理士が解説

文:大久保ゆうこ(おおくぼゆうこ)臨床心理士 公認心理師 精神保健福祉士 米国NTI認定栄養コンサルタント ハートを手渡し認知症ケア.jpg

認知症を理解しよう

認知症になっても、元気で生き生きと暮らしてもらいたいけれど、どんな対応が望ましいのか悩むこともあるでしょう。そもそも本当に認知症なのか、どんな機能が残っていて、どこの能力が落ちているのかが判断できないケースもあります。認知症の介護施設を担当する臨床心理士として勤務した経験をもとに、認知症の検査方法とともに、具体的な認知症ケアや対応法をお伝えします。

認知症検査に使われる神経心理学検査の種類や方法例

まずは、認知症検査として使われる方法を7つ紹介します。これは、あくまでも私が在籍していた施設で行っていたものであり、ほかにもさまざまな方法があります。

簡易認知症スケール

長谷川式認知症スケール HDS-R

認知症かどうかを簡易的に調べる方法のひとつです。計算、数字の逆唱、物品記銘、言語流暢性といった9項目も検査を行います。身の回りの物を使えばだれでも簡単に実施することができるのが特長です。

ミニメンタルステート検査 MMSE

長谷川式と同様に、簡単に実施しやすい方法です。日本では長谷川式認知症スケールのほうがよく用いられますが、世界ではミニメンタルステート検査のほうが多く使われます。長谷川式と同じような計算や数字の逆唱などの検査項目のほか、読字や書字、図形描画などの課題があります。

文字を使わずに実施できる認知症検査

レーブン色彩マトリックス検査

パズルのピースのように、一カ所だけ図形がかけている図から、認知機能を確認する検査です。6つの項目からかけている部分に当てはまるものを選ぶ方法で、失語の検査としても使います。

コース立方体検査

積み木を並べて模様を作る検査です。軽度認知障害のスクリーニング検査として用います。

ベンダーゲシュタルト検査

9つの幾何図形を被験者に模写してもらうことで、一側性無視などの器質障害がわかるうえ性格面の特徴も分類できます。

ウエクスラー式知能検査

ウエクスラー式知能検査

言語理解や知覚推理など、幅広い項目で多面的な検査を行います。認知症のみならず発達障害などさまざまな精神科疾患で用いられています。

ウエクスラー式記憶検査WMS-R

提示される図形や物品、言葉を耳で聞き取ったものなど、記憶の側面で多面的に検査します。認知症をはじめ、さまざまな記憶障害を評価するのに用います。

拒否的な利用者さんも一変!和太鼓を使った認知症ケアの一例と応用術

和太鼓で認知症の音楽療法

私が在籍していた施設で実施した認知症ケアのなかから、和太鼓を使った音楽療法の例を紹介します。また、その事例から応用できるポイントをまとめました。

和太鼓ひとつの合奏で驚くべき変化が

ここで紹介するのは、身体障害のみで認知症のない人と、認知症を持っている人が混合している通所ケアでの実践事例です。
施設としては利用者全員に対応し、かつ安全に実施できるリハビリを提供したいと考えます。そのため、重度の認知症のように知的な機能が下がった人でもできるような簡単なものを選択することになります。というのも、そうしたリハビリ内容であれば、身体機能に問題がある人でも安全に実施できるケースが多いからです。しかし、利用者の立場からいえば、単純で簡単なものは子どもじみて感じられ、特に男性は抵抗感を持つ方も多くいます。また、認知症の人たちとそうでない人たちでグループが自然と別れ、差別的な雰囲気になる場合もありました。

そうした状況のなか、音楽療法を実施しました。前半は他の施設でも多く取り入れられているように、唱歌や昔の歌謡曲を利用者さんと一緒に歌います。後半には和太鼓のオリジナル曲を使った合奏を利用者全員と行うことにしました。
単純なリズムで太鼓を打ち、簡単ながら和太鼓っぽいフレーズや掛け声を入れ、西洋音楽のようにリズムを刻むのではなく、間を大切にすることを意識しての実施です。バチを振り上げて、「イヨ~~~......ッ!」と掛け声をかけるタイミングがとても大切で、息を合わせなければ演奏がうまくいきません。参加者全員が見えるところに和太鼓を置き、和太鼓を打つ人の身振りや間合いを注視してタイミングを覚えてもらいました。皆さん興味津々で、掛け声(聴覚)と打つ時の身振り(視覚)と合わせて行うことで障害に関係なく、全体が呼吸をひとつにし、演奏を完成させるようになりました。

この和太鼓の合奏をするようになってから驚くような変化が起こりました。今まで施設のリハビリに消極的で、参加せずに眺めていた男性利用者が、朝から積極的に参加するようになったのです。歌も大きな声で歌われるようになりました。さらに、認知症の方が作業を間違えていると、認知症ではない利用者さんが作業を教えてあげたりするなど、お互いの交流も生まれました。また、一部には、重度の認知症で音楽療法には参加しておらず、別室にいた利用者さんもいましたが、そうした方にも変化があったことに驚きました。日ごろ無表情・無反応だった方が表情豊かになったり、昼夜逆転していたような方が夜にぐっすり眠れるようになったりしたという報告を受けたのです。この通所ケア施設では、その後も施設のスタッフの方々で工夫しながら和太鼓合奏を取り入れたリハビリを続けているそうです。

この事例から応用できることとは

音楽療法として和太鼓を使ったことで、利用者さんにさまざまな変化が現れました。あくまでも一例ですが、この事例を参考に、応用される際のポイントをまとめました。

和太鼓があれば活用

秋祭りや納涼会用など、施設によっては太鼓が倉庫に眠っていることもあるでしょう。和太鼓はバチさえ持つことができれば誰にでも使える楽器です。障害があっても使いやすく、年齢を問わず演奏を楽しむことができるイメージがあるので、抵抗感を持つ方も少ないでしょう。

難しい曲ができなくとも、ワンフレーズ、「イヨ~~~......ッ!」というように、掛け声に合わせて1打叩くだけでも利用者さんは満足感を得られます。私が実施したように合奏を行う場合でも、和太鼓の数は人数分を用意する必要はありません。1台の太鼓を使って、和太鼓の曲(子どもじみてなくて魅力的と感じる曲)をやっているという雰囲気があれば、スズやタンバリンといった、幼稚に思われがちな楽器でも喜んで参加してもらえます。また、利用者本人が演奏をしなくとも音や振動を聞くだけでも認知症ケアになる可能性があるのではないかと考えています。地域のお祭りなどで太鼓の音が聞こえたら出かけてみるのもひとつの手です。

役割をつくる

利用者さんの多くは、それまで社会で活躍してきたというプライドがあります。障害があるからといって一方的にケアを受けることに抵抗を感じるのは、当然といえば当然のことでしょう。場の中心になるのが得意な方にはリーダーシップをとっていただく機会を作ったり、お世話好きな方には、リハビリの準備などで頼む機会を作ったりすることで、それぞれの役割を感じながら、助け合いの雰囲気が生まれます。
実際に、私が行っていた時には、ある車いすの男性利用者さんに、車いすのフレームを太鼓代わりにして、バチで2打叩いてもらうことにしました。この2打の音を聞いたら全員が気を付けの姿勢をとって、それから次のことを始めるという流れです。たった2打で、この利用者さんに注目が集まり、緊張感で包まれます。
こうした取り組みによって、車いすの男性利用者さんは積極的な姿勢で参加してくれるようになりました。お願いしたのは車いすのフレームを2回叩くだけという動作としては簡単なことです。それだけでも、人は役割があれば気持ちが変わるものだと学びました。

認知症の方への声かけで気をつけたいこと

改善やトラブル回避ではなく幸せになる方法を探そう

さまざまなリハビリの方法がありますが、実践するうえで、気になるのが認知症の方への声かけです。認知症の方は、声かけひとつで対応が変わることがあります。具体的な注意点をまとめました。

目上の人として大切に扱う

認知症ケアをしていると、お世話する側・される側とはっきりと役割が分かれてしまうものです。認知症であっても、常に「お世話される側」と自覚されていると、関わりが余計に難しくなることがあります。役に立っていないという罪悪感や馬鹿にされているような被害感が出てきたり、子ども返りしてしまってわがままをいいたくなったりするケースが見られます。
声かけにおいて大切なのは、尊厳を持った目上の人としてかかわることです。自宅においても、居間の座布団ひとつでも「ここはおばあちゃんの席だから座っちゃだめよ」と子どもに注意するなど、一人の大人として大切に扱うことで本人のこころにも響きます。

言葉を合わせるよりもトーンを合わせることが重要

認知症の方のなかには、ありもしないことをいう方もいます。ここで重要なのは、何をいうかよりも言葉のトーンや雰囲気を合わせることです。人は、どんなにいいことをいってもらっても、調子が合わないと嫌な気分になるものです。
例えば、利用者さんがのんびりした雰囲気で「気持ちいい天気ね~!」と声をかけてきても、冷たい声色、早口で無表情に「天気いいですね」と返してしまうと、相手はいい気持ちはしないものです。例え違った意見であっても、相手の雰囲気に合わせて、のんびりと「今日はねぇ~、曇りですね~~!」と、同じような調子で返すと、意外と心地よく受け取ってくれます。同じトーンや雰囲気を心がけて話すことで会話がスムーズになり、会話のキャッチボールが続けばケアの一環にもなるでしょう。

五感を使ったコミュニケーション

話す、聴くといったコミュニケーションだけでなく、五感を刺激することで心が通じることもあります。「今日はお花を買ってきましたよ。においをかいでみてください」というように、ちょっとした会話のなかで、聴覚以外の感覚を刺激できます。とくに温感は日常的なケアでも活用される優れものです。施設によっては、足浴や温感パックを取り入れるところもあります。トイレの温座が心地よくて出てこなくなる高齢者のことがニュースで流れたことがありますが、そのくらい温感は心地いいようです。

まとめ

認知症検査にもさまざまなものがあり、手法によって見える部分が異なります。検査を通してその人の、人となりも見えてくるでしょう。同様に、ケアにおいても人それぞれニーズが違い、かかわり方も個々への工夫が必要です。どのような方でも尊厳をもって生き生きと暮らしていただけるよう、認知症に対する理解を深めていきましょう。

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■参考URL

認知機能の評価法と認知症の診断|一社)日本老年医学会

もし、家族や自分が認知症になったら 知っておきたい認知症のキホン|暮らしに役立つ情報|政府広報オンライン

その他、経験による

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プロフィール

大久保 ゆうこ (おおくぼ ゆうこ)
臨床心理士 公認心理士 精神保健福祉士 米国NTI認定栄養コンサルタント

精神科にて認知症やその他精神疾患の方のケアを経験したのち、食事や体の面からの心理的影響を学ぶ。現在はクリニック、企業、更生保護施設などの現場で心理ケアの仕事に従事しつつ、研修や情報発信を行っている。
著書に『食べる順番健康法―好きなものはガマンしないでいい!』(こう書房)がある。

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