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仕事・スキル 介護職のスキルアップ 2025/06/03

#認知症ケアの現場から

仙骨座り(ずっこけ座り)を直さず楽に座れる!プロが教えるシーティングの工夫|認知症ケアの現場から(29)

文・写真/安藤祐介 care29_thumb.jpg

利用者さんのなかには、車椅子や椅子に座っているとお尻が座面の前に滑り、ずっこけ座りの状態になりやすい方がいると思います。ずっこけ座りは正式には「仙骨座り」と言われ、食事や立ち座りなどの生活動作が行いにくくなるほか、座面から転落する危険性が高まります。また、長時間この姿勢が続くと、お尻に褥瘡ができてしまうこともあります。

仙骨座りになる利用者さんに対して、現場でよく行われるのが座り直し介助です。職員が利用者さんのお尻を引き上げ、座面の奥まで座り直してもらえば、一時的に仙骨座りは直ります。しかし、時間が経過するにつれて、再びお尻が前に滑り出す利用者さんも多く、くりかえし座り直し介助を行うことに大変さを感じている職員もいることでしょう。

そこで本記事では、仙骨座りの悩みが解決するシーティングの工夫を紹介します。モジュール型の車椅子はもちろん、普通型車椅子や椅子でも行えるので、参考にしていただければ幸いです。

1.仙骨座りは悪いものではない?

最初に押さえておきたいのが、仙骨座りは必ずしも悪いものではないということです。みなさんも電車やバスで座っているときに、背もたれに寄りかかって、お尻を前にずらしながら座ることがないでしょうか。新幹線や飛行機などで、長時間座り続ける必要がある際はより顕著だと思います。デスクワークが続いたときも、体をリラックスさせるために背もたれに寄りかかり、仙骨座りの姿勢になることがあるかもしれません。

仙骨座りは悪いものではない?

このように、仙骨座りは利用者さん特有の座り方というわけではなく、私たちが日常のなかでより快適に座るために行っている工夫の1つなのです。特に長時間同じ椅子に座り続けたり、疲れた体を休めたりしたいときには、やりがちな座り方になります。座面に対して体を直角に保ち、骨盤を起こして座り続けるのは、見た目はきれいかもしれませんが、長く座り続けるには向いていないこともあるのです。

詳しくは、こちらの記事の【ポイント2/正しい座位を押し付けない】を参考にしてください。

ここで、あらためて介護現場を振り返ってみましょう。利用者さんは車椅子や椅子にどのくらいの時間座っているでしょうか。場合によっては、1~2時間同じ姿勢のまま座り続けることもあり、それは決して簡単なことではありません。

だからこそ、多くの利用者さんは背もたれに体をあずけ、お尻を前にずらしながらなるべく負担がかからないような座り方を選ぶのです。ましてや、介護現場にいる利用者さんは高齢の方が多く、座り続ける体力や座るための筋力が低下していたり、お尻の肉が薄くなっていて痛みを感じやすかったりします。つまり、整った姿勢で座り続けることが、私たち以上に難しいのです。

そのため、職員がくりかえし座り直し介助を行って座位を整えても、自らの意思で再びお尻を前にずらし、楽に座れる仙骨座りになりやすいのです。

姿勢

「仙骨座り=問題がある姿勢」と考えるのではなく、「仙骨座り=楽に座るための利用者さんの工夫」と考えてみてください。シーティングの方向性としては、仙骨座りを「直す」「ならないことを目指す」のではなく、利用者さんが「楽に座りたい」「仙骨座りになりたい」という気持ちを受け入れつつ、転落・褥瘡リスクが減らせる座位、生活動作が行いやすい座位を目指すのです。

2.姿勢を無理に直さず、楽に座れるシーティングの工夫

工夫①:座面を延長する

ここからは、実際の車椅子に行う工夫を紹介していきます。最初に行いたいのは、座面の延長です。利用者さんが仙骨座りになると、必然的にお尻が座面の前に出て、浅く座っているような状態になります。それだと、座りにくい上に座面から転落しやすくなり、好ましい状態とは言えません。

姿勢

しかし、ここで改善したいのは、利用者さんの姿勢ではなく座面の長さのほうです。仮に座面の長さを利用者さんの座り方に合わせて、通常よりも前に伸ばしたらどうなるでしょうか。仙骨座りになっていても、お尻と太ももが座面に支えられているため、座りやすさが増します。転落の危険も減るでしょう。

高機能のモジュール型車椅子であれば、座面の長さを変更できるものがありますが、普通型車椅子にそういった機能はありません。そこで、木の板を設置して座面を延長する工夫を行うわけです。

木の板は加工しやすいベニヤ板が適しています。利用者さんが仙骨座りになる分を見越して、必要な木の長さを決めて加工しましょう。木の板に穴を開け、丈夫なベルトなどで車椅子の座面に固定すると、座ってもずれることがありません。

一般的な普通型車椅子の座面の長さが40cmなので、木の板はそれを超える長さに設定します。ただし、50cmを超えると車椅子全体のバランスが崩れて、安全に使用できなくなることがあるので、42~45cm程度に留めましょう。詳しいサイズや加工の仕方が知りたい方は、

以下のPDFファイルを参考にしてください。
板の作り方
板の設計図

板

設置例

工夫②:クッションを設置する

木の板を固定したら、その上にクッションを設置します。木の板の上に直接利用者さんが座ると、お尻が痛くなるだけでなく褥瘡リスクも高まるので避けてください。

クッションは、ジェルやエアーが入ったものなどいろいろな種類がありますが、介護現場で最も使われるのはウレタンです。ウレタンは比較的安価で加工も容易な反面、薄いとお尻にかかる圧が高くなる傾向があるので、最低でも厚さが5cm以上あるものを選びましょう。

ウレタンが低反発タイプだと、座ったときにお尻が沈み込んで動きにくなるので、高反発タイプを選ぶのがおすすめです。また、介護現場では尿・便失禁や食べこぼしでクッションが汚れることが多いので、防水のカバーがついていると便利です。

クッション

クッションを設置する際は、位置にも工夫が必要です。仙骨座りになった利用者さんは、お尻が座面の奥や中央ではなく前方にきているので、クッションはお尻の位置に合わせて、木の板の前方に設置してください。

移乗介助や座り直し介助などを行った際に、クッションがずれてしまわないように、クッション後方の隙間を埋めておくことも大事です。基本的に、サポートがある位置には利用者さんのお尻がこないので、タオルなど簡易的なもので構いません。

クッション

工夫③/腰のサポートを設置する

木の板とクッションだけの状態で車椅子に座ると、仙骨座りになっている利用者さんの腰の後ろに三角形の隙間ができてしまいます。そして、その状態で座り続けると、腰の支えがないために座位が不安定になったり、腰の筋肉が硬くなり腰痛の原因になったりします。食事などの生活動作も行いにくくなるでしょう。

設置例

そこで、隙間を埋めるように、腰のサポート(骨盤後方サポートと言われます)を設置します。サポートは、柔らかすぎると支えとして機能しないので、タオルや硬めのウレタンが適しています。

なお、サポートのサイズは、利用者さんの体格やどの程度仙骨座りになるかによって変わります。一度で完璧なサポートを作ろうとせず、実際に利用者さんに座ってもらいながら、少しずつサイズを調整しましょう。

サポート

正式に形が決まったら、テープなどで車椅子に固定してください。腰に直接サポートが当たると、座ったときに違和感を訴える利用者さんもいるので、サポートを覆うように背中全体を支える薄手クッションを設置するのがおすすめです。そうすることで当たりが柔らかくなり、座りやすさも増します。

背もたれ

腰のサポートを作製・設置する際は、利用者さんと一緒に座りやすさや動きやすさを確認ながら進めましょう。職員が車椅子に座り、実際の座り心地を確認することも大切です。

詳しくはこちらの記事【ポイント3/利用者さんの車椅子に職員が座る】を参考にしてください。

工夫④/坐骨のサポートを設置する

座面に対して体を垂直にした座位をとると、「坐骨(骨盤の下方にある骨)」が座面につきます。座るときはこの坐骨で重さを受け止めたり、座面を感じ取たりして体の動きをコントロールしますが、仙骨座りになる利用者さんは、骨盤が寝た状態になるので坐骨が座面につきにくくなります。

坐骨位置

坐骨位置

そこで、クッションの前方に坐骨を支えるサポートを設置し、仙骨座りになっていても坐骨が座面につくような工夫を行います。クッションの前方が盛り上がることで、前屈みになったり立ち上がったりといった生活動作がしにくくなるように感じるかもしれませんが、実際は坐骨の支えがあったほうが動きやすくなります。また、坐骨サポートがあることで、太ももでも体を支えられるため、より安定して座れるはずです。

坐骨位置

坐骨サポートの素材は、型崩れせず加工も容易なバスマットや段ボールが適しています。坐骨サポートを厚くしすぎると、前屈みの体勢が取れず動きにくくなるので、0.5cm程度の薄めのサポートからはじめてみてください。坐骨に当たる部分をハサミやカッターなどで斜めに、かつ丸みを帯びた形に切り落としておくと、当たりが柔らかくなってより座りやすくなります。最終的に坐骨サポートは、クッションカバーに入れたり木の板に貼り付けたりして、動かないように固定しましょう。

クッション

クッション

まとめ

今回は、「何度座り直しても仙骨座りが直らない利用者さんへのシーティング」をお伝えしました。紹介した工夫①~④を行うことで、利用者さんが仙骨座りになっていても座位姿勢が安定し、なおかつ生活動作も行いやすい車椅子にできます。

くりかえしになりますが、仙骨座りは利用者さんが楽に座るために自ら行っている座り方の工夫なので、シーティングの際は「その姿勢をとりたい」という思いを尊重しながら行うことが大切です。現場に、何度座り直しても仙骨座りになる利用者さんがいる場合は、ぜひ参考になさってください。

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安藤祐介(Yusuke Ando)

作業療法士

2007年健康科学大学を卒業。作業療法士免許を取得し、介護老人保健施設ケアセンターゆうゆうに入職。施設内では認知症専門フロアで暮らす利用者47名の生活リハビリを担当し、施設外では介護に関する講演・執筆・動画配信を行っている。

安藤祐介の執筆・監修記事

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