相手が気持ちよく答えられる質問をしていますか?|人間関係をガラリと変えるコミュニケーション技術(4)
文/大谷佳子
質問は、情報を収集したり、わからないことを確認したりするための技法であるとともに、相手の話したいことを引き出して、会話をはずませる重要なコミュニケーション・ツールです。
介護の現場では、利用者さんに対して質問をする機会が多くあります。だからこそ、相手が気持ちよく答えられるような質問ができると、介護職としてのコミュニケーション力がグンっとアップします。
今回は、介護の現場で心がけたい質問の仕方についてです。
1.介護の現場で役立つ「質問のチカラ」
質問がもつチカラは、情報を収集するだけではありません。質問には、「あなたのことをもっと知りたい」「あなたの話に関心をもっている」というメッセージを相手に伝えて、人間関係を良好にする効果もあります。
ここでは、介護の現場で役立つ「質問のチカラ」を5つ紹介します。
引き出すチカラ
質問することで、利用者さんに関する情報を得ることができます。 例えば、「朝食は残さずに召し上がりましたか?」と質問すれば、その日の利用者さんの食欲や体調について知ることができます。
日々の生活の様子だけでなく、利用者さんがしたい(あるいは、してほしい)ことや、したくない(あるいは、してほしくない)ことなども質問してみましょう。利用者さん本人から引き出した情報は、「その人らしさ」を大切にした介護を提供するために欠かせません。
確かめるチカラ
質問は、何かを確認したいときも有効な手段です。
例えば、身体に痛みがあるか否かは、「痛いところはありますか?」などと利用者さん本人に質問することではじめて知ることができます。
人間関係をつくるチカラ
質問は、利用者さんとの良好な関係づくりにも力を発揮します。
なぜなら、質問すること自体に、その人に対する関心と好意を伝える効果があるからです。
例えば、朝の挨拶とともに「今日の体調はいかがですか?」と尋ねることで、利用者さんに関心をもち、利用者さんのことを大切に思う介護職の気持ちを伝えることができます。
会話を豊かにするチカラ
質問は、「あなたの話をもっと聴きたい」という介護職の意思表示にもなります。
利用者さんの話に「そうですか」とあいづちを打つだけでなく、「その後、どうなったのですか?」などと質問をしてみましょう。
話すことに消極的な利用者さんには、「ご出身は〇〇市なのですね。どの辺りですか?」などと質問して話題を振ってみると、会話への参加を促すことができます。
考えてもらうチカラ
質問は、利用者さんに考える機会を提供します。
利用者さんに限らず、私たちには誰かから質問をされると、その質問に答えようとして頭のなかで考え始める傾向があります。
例えば、「今日はどのように過ごしたいですか?」「今、どのようなお気持ちですか?」などと質問をすると、利用者さんは頭の中で考えながら、あるいは自分の気持ちを振り返りながら回答することになります。利用者さんに自身の考えや気持ちを自由に話してもらいたいときは、「どのように」「どのような」を使った質問が効果的です。
2.2つの基本的な質問
質問の基本的な形式として、クローズド・クエスチョンとオープン・クエスチョンの2つがあることを知っておきましょう。
質問の基本的な形式
①クローズド・クエスチョン:「はい」「いいえ」で答えてもらう質問
②オープン・クエスチョン:自由に答えてもらう質問
クローズド・クエスチョン
相手に「はい」「いいえ」のいずれかで答えてもらう質問のことです。クローズド・クエスチョンには、AかBかを選択してもらう質問や、「お名前は?」のように回答する内容が定まっている質問も含まれます。
例えば、クローズド・クエスチョンで「リンゴはお好きですか?」と質問された利用者さんは、「はい」か「いいえ」で返事をすることになります。利用者さんにとっては答えやすい質問の形式ですが、だからといってクローズド・クエスチョンばかりでは聞き取り調査をしているような会話になりがちです。
クローズド・クエスチョンは、以下のような場面で使うとよいでしょう。
クローズド・クエスチョンが適している場面
・会話のきっかけをつかむとき
例 「今日のレクリエーション、楽しかったですか?」
・「はい」「いいえ」を特定するとき
例 「痛いのはここですか?」
・意思を確認するとき
例 「もう少し召し上がりますか?」
特に、口の重たい利用者さん、コミュニケーション障害のある利用者さん、認知症などでコミュニケーションが難しい利用者さんへの意思確認では、回答するときの負担を減らすためにクローズド・クエスチョンを使います。
オープン・クエスチョン
相手に自由に答えてもらう質問のことです。オープン・クエスチョンは、回答の仕方も、答える内容も限定しません。そのため、何をどのように回答するのかは相手次第です。
例えば、「どのような食べ物が好きですか?」と質問された利用者さんは、「う~ん、そうだな......」などと考えたり振り返ったりしながら答えることになります。答え方が限定されていないため、「魚料理が好き」と具体的に回答する人もいれば、「子どもの頃、よく食べたものかな」と懐かしそうに回答する人もいるかもしれません。
オープン・クエスチョンを使うと、答える内容に広がりがあり、利用者さんとの会話を深めることができます。
介護の現場では、クローズド・クエスチョンもオープン・クエスチョンも必要です。
利用者さんの状態や場面に応じて適切に使い分けることができるように、それぞれの質問の特徴を理解しておきましょう。
3.上手に質問するコツ
利用者さんに質問をするときは、3つのポイントを意識してみましょう。ちょっとした心がけで、質問力がグンっと高まります。
上手に質問するコツ
・質問は、一度に1つ!
・質問は短く、シンプルに
・答えたくなる一言をプラス
質問は一度に1つ!
限られた時間内に必要な情報を収集しなければならない状況では、介護職も焦ってしまい、つい矢継ぎ早な質問になりがちです。そのようなときこそ、順を追って1つずつ質問し、利用者さんの回答が終わってから次の質問をするようにしましょう。
また、「質問は一度に1つ!」とは、質問の回数を意味しているだけではありません。質問は一度に1つだけでも、その質問のなかに2つの事柄が含まれている場合があります。
例えば、「朝食や昼食は残さずに食べましたか?」のような質問をすると、利用者さんが「はい」と返事をしても、それが何に対する「はい」なのかが明確になりません。
一度にあれもこれも尋ねようと欲張らずに、1つの質問のなかで尋ねる事柄は1つだけにしましょう。
質問は短く、シンプルに
長い説明とともに質問をすると、利用者さんは何を問われているのかが理解できず、適切に回答することができません。利用者さんに回答してほしいことを、短く、シンプルに質問しましょう。
答えたくなる一言をプラス
唐突に質問されるのは、誰にとっても気持ちのよいものではありません。介護を提供するうえで必要な質問であっても、利用者さんが気持ちよく答えたくなるように一言プラスすることを心がけましょう。
質問にプラスしたい一言
・挨拶
例)「おはようございます。朝食は全部召し上がりましたか?」
・褒める言葉
例)「××の経験があるなんて、すごいですね。それは何歳頃だったのですか?」
・感謝の言葉
例)「お話しくださり、ありがとうございます。そのときの状況を詳しく教えていただけますか?」
・共感の言葉
例)「突然のことで大変でしたね。今は、具合はいかがですか?」
まとめ