足の爪ケアが転倒防止に繋がる理由は?高齢者のフットケアの重要性と実施時のコツを紹介|みんな知らない高齢者の世界
取材・文/タケウチノゾミ 編集/イージーゴー
普段は意識する機会が少ない「足の爪」。実は、足の爪は非常に重要な役割を担っており、爪が正常な状態ではないと、転倒率が大幅に上昇してしまうことをご存じでしょうか。高齢者の足の爪のケアを行うと、自分の足で踏ん張る力が強くなるため、介護者の負担軽減にも役立ちます。高齢者のフットケアをする重要性や実施時のポイントについて、看護師・フットヘルパーの堀友美氏に話を聞いてみました。
1.足の爪の状態が悪くなると、転倒率が2倍以上に
ーーなぜ、高齢者の足の爪をケアすると転倒防止に繋がるのでしょうか。
爪のケアをすると転倒防止に繋がる理由は、爪の役割にあります。爪の役割について日常的に考える機会は少ないかもしれませんが、実は足の爪は、「踏ん張る、指の力を増幅させる」などの重要な役割を果たしているのです。そのため、足の爪が正常な状態ではないと蹴り出したり、踏ん張ったりすることができず、うまくバランスを取れなくなってしまいます。
実際に爪が分厚い、巻き爪があるなどの爪が正常ではない状態の場合は、1年間の転倒率が46%に上昇するというデータがあります。爪が正常な状態での転倒率は20%のため、爪の状態が悪くなっただけで、2倍以上転倒しやすくなってしまうのです。高齢者が転倒すると、どうしても環境整備に目が行きがちですが、意外と爪が伸びすぎて踏ん張れないため転んでしまっているケースも多く存在します。そのため、環境整備だけでなく、高齢者の足を見ることも心がけてみてください。
2.足のトラブルの多くは生活習慣が影響している
ーー転倒率が2倍以上になるとは驚きです。高齢者には足のトラブルを抱えている方も多く見られますが、トラブルが発生する理由を教えてください。
足に関するトラブルの多くは、生活習慣が影響しています。例えば日常的に窮屈な靴を履いている人であれば、前に伸びたがっている爪を常に靴で圧迫することになるため、爪が根元から盛り上がってしまうことがあります。また、先の尖ったパンプスを履き続けると、靴の形の通りに爪が内側に向いてしまうケースも見られます。年齢を重ねるとこのような生活習慣による影響が蓄積されるため、癖が強く出てしまうのです。足のトラブルが発生した際に、何らかのケアをすれば良い状態に戻せることもありますが、放置すると、最悪の場合転倒に繋がります。
このように、足の状態には靴選びも影響しているため、施設で頻繁に転ぶ方がいた場合、もしかしたら靴が足の状態に合っていないのかもしれません。入居型の施設では特にサイズが合わないブカブカの靴や、ルームシューズを履いている方も多く見られますが、転倒を防ぐためにはもう少しホールド力の強い靴を履いていただくことがおすすめです。ご家族に靴の準備をお願いする際は、なるべくかかとの部分が硬い靴や、マジックテープなどで足全体をホールドできる靴、底に滑り止めがついている靴などを選ぶようにお願いすることが大切なのではと考えています。

別府市内の市営温泉にてフットケアサービスを提供する堀さんの様子
3.これだけでも変わる!介護者が日常的に行える足のケア
ーー介護施設のスタッフが日常的に行える足のケアがあれば教えてください。
施設のスタッフさんは皆さんとても忙しいため、足の爪を全て切っている時間はなかなかないと思います。そのため、まずは普段の介護業務のついでに、利用者さんの足を動かしてみてください。高齢者になって歩く機会がほとんどなくなったり、寝たきりになったりすることで、足の指が動きづらくなり、結果として踏ん張る力が減り転倒に繋がっている方は多く存在します。そのため、スタッフさんが足首を回す、足の指を動かすといった行為を続けるだけでも、今までふらついていた利用者さんが身体のバランスを取りやすくなることがあるのです。例えば車椅子を利用されている方も、トイレ誘導時の立位のタイミングで踏ん張りやすくなるなど、介護者の負担軽減が期待できます。入浴時に足を洗うタイミングで少し指をほぐすだけでも効果を感じられるため、ぜひ日常の介護に取り入れてみてはいかがでしょうか。
また、足の指を常に清潔に保つことも重要な点の一つです。爪が伸びすぎると隣の指に爪があたり、傷ができて感染症が発生してしまうことがあります。入浴時は足の指を泡で洗い、水気を拭き取ることを意識してみてください。足が清潔な状態であれば皮膚のバリア機能を保てるため、感染症が起きづらくなります。さらに、洗った後は乳液やワセリンなど、その方に適したもので保湿をすることも重要です。
ーーもし介護施設のスタッフが足の爪を短くする場合、注意すべきポイントはありますか。
とにかく安全面に気をつけて行うことです。爪切りやニッパーは刃物なので、使う自信がない場合は、やすりで削る方法がおすすめです。「やすりで削ると時間がかかるのでは」と感じるかもしれませんが、一気に全ての爪を削る必要はありません。例えば、「親指の爪が靴に当たって痛い」などの具体的なお悩みがある場合は、その一本を削るだけでも足の状態が大きく改善する可能性があります。特に入居型の施設では毎日のように利用者さんの様子を確認できるため、毎回の入浴後に一本ずつ削るなど、慌てずにゆっくりとケアを進めてみてください。

4.足をケアすることには多くのメリットが。難しい場合は専門家に依頼を
ーー全国の介護職員さんに向けて、メッセージをお願いします。
足は人間の身体を支えるものなので、足が正常な状態ではないと、バランスが取れなくなったり、踏ん張りがきかなくなったりしてしまいます。利用者さんの足をケアすることは一見遠回りにも思えますが、ご本人にとっては転倒による骨折を防止できる、介護者にとっては負担の軽減に繋がるなど、非常に多くのメリットが存在します。足をケアすることで歩行時のバランスが取りやすくなり、見守りのみで日常生活を送れるようになったり、足の痛みが軽減してリハビリに取り組みやすくなったりすることもあるためです。
もし施設内での利用者さんの足のケアが難しい場合は、ぜひそのお悩みについて施設内で共有してみてください。課題を明確化すれば、施設に足のケアの専門家をお招きすることになるなど、解決にグッと近づく可能性が高まります。スタッフの方々が利用者さんの介護に従事するためにも、専門家の力を借りることも視野に入れてみてください。
株式会社cheer town 代表取締役 堀友美
フットヘルパー協会認定講師。看護師・保健師免許保持。別府温泉×フットケア事業展開中。
1991年大分県別府市出身。大分大学医学部看護学科卒業。高齢者に関わる仕事をするのが夢で、看護師免許取得。皮膚科クリニックに6年間従事し、高齢者が足の爪切り、タコ・魚の目ケアに困っている現状を知る。足のトラブルで歩けなくなり介護が必要になったのではないかと考え、「人生最期まで歩き続ける足作り」をテーマに、別府温泉の一角を使って【爪切り屋さん】を展開。今後は高齢者介護施設への訪問フットケアサービスや巻き爪専門サロン、フットケアの教育事業も展開する。
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