介護職員同士のコミュニケーションを円滑にする方法はある?関係性改善のコツも紹介
取材・文/タケウチノゾミ 編集/イージーゴー
介護職における悩みとして、上位にランクインしやすいのが職場での人間関係です。実際に「スタッフ同士のコミュニケーションがうまくいかない」「職場の雰囲気が悪い」とお悩みの方もいらっしゃるかもしれません。コミュニケーション術の専門家であり、2024年に『利用者・家族・スタッフに信頼される 介護のステキ言い換え術』を出版した大野萌子氏に、スタッフ間のコミュニケーションを円滑にする方法や、関係性改善のコツについて聞いてみました。
ーー介護職の現場では、スタッフ同士の関係性で悩んでいる職員も多く見られます。スタッフ同士のコミュニケーションで、特に気をつけるべきポイントを教えてください。
ぜひ、言葉に出して伝えることを意識してみてください。仕事が忙しくなると、「こんなことは言わなくてもわかるだろう」と勝手に判断して、コミュニケーションを省略する人は多く存在します。しかし、このような言葉足らずの状態が続くと、人間関係の悪化に繋がりやすくなるため注意が必要です。例えば、「『この前と同じようにやっておいて』と言われたけれど、"この前"がわからずに困った」「『もう少しちゃんとやって』と注意を受けたが、何をどう改善すれば良いのかわからなかった」といった経験がある方も多いのではないでしょうか。こうした相手に負担をかける発言は、トラブル発生の原因にもなりかねません。
このように言葉を省略してしまう理由の一つに、「発言者自身が自分の考えを把握しきれていないこと」が挙げられます。自分のなかで考えが明確になっていないため、うまく言語化できないのです。少し例を挙げて説明すると、「自分とは仕事のやり方が違う相手にイライラしているけれど、どのような部分に対して腹が立っているのか認識できていない」状態です。相手に行動を変えて欲しいとは思っているものの、具体的にどのような行動に対してそう感じているのかわからないため、「もっときちんとしてよ」といった曖昧な表現になってしまうのです。すると、いつまでも相手の行動が変わらないため、イライラし続けることになってしまいます。まずは、自分の気持ちを理解することが、コミュニケーションの第一段階なのではないでしょうか。
ーー「自分の考えを言語化できていないため、コミュニケーションに支障が出ることがある」とは思いもしませんでした。
介護職は、自分よりも利用者さんのことを見ている時間が多い仕事ですよね。そのため、自分のことが二の次になりやすく、段々と自分の気持ちがわからなくなってしまう方が多いように感じています。まずは、自分の気持ちを振り返るところから始めてみてください。身近な方法としては、日記を書くことが効果的です。日記と聞くと「行動を書くもの」というイメージがあるかもしれませんが、「〜をした」といった行動だけでなく、気持ちも書いてみてください。例えば「久しぶりに友達と会ったら、昔話をするのが楽しくてストレスを解消できた」など、なんでも構いません。こうして日記を書き続けていくと、それぞれの行動に対する自分の気持ちを把握できるため、感情を整理しやすくなります。
さらに、一人の時間を作ることも効果的です。一人の時間がないと、心の余裕がなくなり、自分の感情に目を向けづらくなってしまいます。カフェでお茶を飲むだけでも良いため、自分だけの時間を作ることを意識してみてください。

ーーコミュニケーションがうまくいっておらず、すでにスタッフ同士の関係性に問題がある場合、改善に向けてどのように取り組んでいけばよいでしょうか。
基本的なコミュニケーションができていないのに、いきなり関係性を改善することは難しいといえます。そのため、まずは挨拶から始めましょう。挨拶は、いつ誰としても問題ないコミュニケーションです。複数人が集まっている場所で挨拶をしても気付かれず、言いづらくなってしまったのであれば、近くの人に呼びかけてみましょう。「〇〇さん、おはようございます」と言えば、自分に対しての挨拶であることが分かるため、相手も返しやすくなります。
また、言葉遣いにも注意を払ってみてください。利用者さんに丁寧語で話すように、スタッフ同士も丁寧語で話すことを心がけましょう。もちろん退勤後にタメ口で話す分には問題ありませんが、仕事中なのにAさんにはタメ口、Bさんには丁寧語と人によって使い分けると、丁寧語で話しかけられている人が疎外感を覚えやすくなります。できるだけ、全員に対して同じ口調で話すことがポイントです。
ーー特定の人物との関係性がうまくいかなくないケースも多々ありますが、苦手な人と仕事をするうえで意識すべきことはありますか。
どうしても苦手な人と仕事をする際は、必要なことだけを伝えるのがおすすめです。「Cさんのことが苦手だから、話しかけるのは後でいいや」と思ってしまう方も多いと思いますが、情報共有を後回しにすると、思わぬトラブルに発展することもあります。そのため、必要最低限で良いので、伝えるべきことは先に言うようにしましょう。
また、事実のみを伝えることも効果的です。伝えたい内容に感情が加わると、言い訳や嫌味に聞こえやすくなり、さらなる関係性の悪化に繋がりがちです。例えば「そんなつもりはなかったのですが、〇〇というトラブルが起こってしまいました」と言うのではなく、「〇〇というトラブルが起こりました」と言うイメージです。発言者は良かれと思って付け加えた言葉でも、自分とは合わない相手からすると、「そんなつもりはなかったって、どういうこと?」と苛立ちを感じる原因になります。どんなに頑張っても相手を変えることはできないため、「なるべく早く事実のみを伝える」ことを意識してみてください。

ーー仕事の疲れやストレスがたまりやすいなかで、スタッフ同士がお互いをサポートし合えるようになるために、必要な姿勢や行動があれば教えてください。
ミスが発生した際は、ミスした人を必要以上に責めず、全員で改善案を考えることが重要です。ミスを責めることは、思いがけないトラブルに発展しやすくなるためです。例えばDさんがミスをした際に、「なんでそんなことをしたの?」と必要以上に責められている様子を見たら、自分もミスをしたことを言い出しづらくなってしまうのではないでしょうか。小さなミスであれば黙っていても問題ないかもしれませんが、利用者さんに関わることであれば、後で大きな問題に繋がる可能性があります。実際にとある介護施設にて、特定のミスに対して厳しいルールを設けたところ、全員がミスを言い出せなくなり、隠蔽するようになった事例がありました。あまり厳しくしすぎると、職場内の心理的安全性が失われることにも繋がります。ミスは仕方のないことなので、スタッフ全員がなるべく話しやすい環境を維持することを心がけてみてください。
ーースタッフ同士のコミュニケーションで悩んでいる方に向けて、アドバイスをお願いします。
人を変えることはできないため、まずは自分を守ることに注力して欲しいと思います。仕事でミスが続いたり、周囲の人とうまくいかなかったりすると「自分はダメなんだ」と落ち込むかもしれませんが、自己嫌悪が強すぎることも、周囲とのコミュニケーションがうまくいかなくなる原因の一つです。自分と同様に他人のマイナス面に目がいきがちになると、周囲の人を認めることができなくなり、人間関係がぎくしゃくしてしまうためです。「〇〇はできないけれど、この作業は得意かもしれない」といったように、自分の良いところに目を向けられるようになると、人の良いところも目に入ってきて、コミュニケーションがうまくいきやすくなります。
また、どうしても苦手な人がいるのであれば、その人と出勤が被らないようにすることも一つの方法です。シフト制であれば出勤日を調整しやすいと思うので、上司に事情を話して調整してもらうと良いでしょう。私自身、苦手な人とシフトが被らないようにしてもらったところ、体調が改善したことがあります。健康にまで影響が出ると仕事を続けることが難しくなってしまうため、まずは自分を守ることを意識してみてください。

『介護のステキ言い換え術: 利用者・家族・スタッフに信頼される』
大野萌子
一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャー資格認定機関)代表理事、公認心理師、産業カウンセラー、2級キャリアコサルティング技能士。法政大学卒。企業内カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで講演・研修を行う。
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