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学ぶ 介護国試過去問ドリル 2020/12/22

#国家試験#職場

障害者差別解消法とは?介護職ができる適切な支援【国試過去問ドリル第8回】

文:馬淵 敦士(まぶち あつし) 「ベストウェイケアアカデミー」学校長。介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員(ケアマネジャー)。 drill_20201222_1.jpg

2016年4月1日、障害者差別解消法(正式名称:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)が施行されました。この法律は、障害のあるなしに関わらず、お互いに人格と個性を尊重しあって暮らせる「共生社会」の実現を目指して制定されたものです。

対応指針では、福祉事業者は障害への理解や障害者の人権、権利擁護への認識を深め、差別を解消するために行動するよう求められています。ここでいう福祉事業者には、老人関係事業が含まれています。また、この法律では対象となる障害者は社会モデルの定義に基づき、障害者手帳の所持の有無は限定されていません。

障害者福祉の基本理念として、介護職が理解を深めておくべき法律といえるでしょう。

この法律の理解を深めることで、介護職とご利用者双方が尊重しあえる支援方法が見えてくるかもしれません。そこで、介護福祉士国家試験に実際に出題された問題の解説を通じて、適切な支援に向けた考え方について述べていきたいと思います。

過去問題

第32回 午後 問題88

問題 88 「障害者差別解消法」に関する次の記述のうち,適切なものを 1 つ選びなさい。

1 法の対象者は、身体障害者手帳を持っている人である。
2 合理的配慮とは、全ての障害者に同じ配慮をすることである。
3 共生社会の実現を目指している。
4 障害者は、合理的配慮の提供に努めなければならない。
5 障害者差別解消支援地域協議会は、民間事業者で組織される。

(注)「障害者差別解消法」とは,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」のことである

解答と解説

正解:3

障害者差別解消法とその考え方

障害者差別解消法は、「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進する」ことを目的として2013年6月に制定、2016年4月1日に施行されました。
この施策は、国連の「障害者の人権及び基本的自由の享有を確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進するための包括的かつ総合的な国際条約である障害者の権利に関する条約」がベースとなっており、障害者の尊厳を尊重することが求められています。

設問1 法の対象者は、身体障害者手帳を持っている人である。×

冒頭でも説明しましたが、対象者は身体障害者手帳を持っている人に限定されている訳ではありません。対象は、「身体障害、知的障害、精神障害、その他の心や体に障害があり、障害や社会のバリアによって日常生活や社会生活に相当な制限を受けている人すべて」です。

設問2 合理的配慮とは、全ての障害者に同じ配慮をすることである。×

障害やそれによる負担は人それぞれです。例えば、聴覚障害者にも視覚障害者にも手話で対応するといったように、すべての障害者に同じ対応を行うことは、適切とは言えません。

設問3 共生社会の実現を目指している。 〇

施策の目的に沿っています。正解です。

設問4 障害者は、合理的配慮の提供に努めなければならない。×

合理的配慮は、役所や事業者が障害者に提供することを求められています。ここでの「事業者」とは、「同じ行動を繰り返し継続して行う者」と定義付けられています。企業、個人、営利目的かどうか等は問わないので、ボランティアも対象です。

設問5 障害者差別解消支援地域協議会は、民間事業者で組織される。×

障害者差別解消支援地域協議会は、国及び地方公共団体により組織される機関です。民間では組織できません。

施策内容をしっかり頭に入れて、解くときに丁寧に問題文を読むことができれば、間違えることはありません。

実務での活かし方

障害者差別解消法のポイントは、「不当な差別的取り扱い」の禁止と、「合理的配慮」の提供です。

「合理的配慮」の提供に関する基本的な考え方

合理的配慮とは、障害者から何らかの助けを求める意思の表明があった場合、過度な負担になり過ぎない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要な便宜を図ることをいいます。
障害当事者から何らかの配慮の申し出があれば、事業者は障害者を尊重し、柔軟に対応する必要があります。注意すべき点としては、すべての申し出が叶えられるということではありません。あくまで、「過度な負担になりすぎない範囲」になります。例えば、介護施設等で、ご利用者から車で○○まで連れて行ってほしいと頼まれた場合、人員不足等で要望に応えられない場合は断っても構いません。ただし、単に断るだけでなく、タクシーを呼んで差し上げるなど、その要望にできるだけ添うような代替案を提示するのが望ましいでしょう。

「不当な差別的取扱い」の禁止とは

不当な差別的取扱いは、障害を理由に事業者がサービスの利用を拒否・制限したり、提供に条件や他の者とは異なる手順を課したりすることです。
例えば、視覚障害者に対して必要な情報提供を行わない、本人を無視して介護者にだけ話しかける、といった対応を指します。

過度な配慮による負担について

とはいえ、合理的配慮を提供するにあたり、事業者に負担が過度にかかることは避けるべきでしょう。
事務・事業への影響がないか、実現可能性か、費用・負担は重くないか、などを総合的に判断し、難しいと感じた場合は、断っても問題ありません。その際、障害者に理解を得られるよう、理由を説明するのがベストです。
例えば、小さなデイサービスが、1人の障害者のためにエレベーターを設置するよう求められた場合、その費用を負担することで事業の財務状況が圧迫する場合などは「過度な配慮による負担」となります。その場合は申し出てきた障害者に対してその理由を説明し、理解を得るように努めることとされています。

実務においては、「合理的配慮」と「過度な配慮による負担」の見極めを求められる場面もあるでしょう。ホームヘルパーの場合は、障害者からの求めがあった場合、一人で判断せず、上司などへ相談して回答をするようにしましょう。また、その回答は事業所全体で共有し、スタッフによって異なる回答にならないようにしておく必要があります。
この機会に事業者・施設で障害者差別解消法について改めて学び、より良い介護のために認識をすり合わせてみてはいかがでしょうか。

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白井孝子(Takako Shirai)

東京福祉専門学校副学校長/看護師・介護支援専門員(ケアマネジャー)

聖路加国際病院、労働省(現厚生労働省)診療所勤務。小児病棟での終末期看護のあり方から在宅看護に興味を持つ。訪問看護業務に携わる中で、生活支援には保健医療福祉の連携が重要であることを体験する。その思いを形にするため、平成2年から介護福祉士養成に関わるようになる。現在東京福祉専門学校副学校長。

白井孝子の執筆・監修記事

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