介護保険の基礎知識ー介護福祉士試験問題から紐解く制度の仕組み【国試過去問ドリル第11回】
文:結城康博(淑徳大学教授 介護福祉士 社会福祉士)誰でも知っているが、わかっている人は少ない介護保険
私たちは、日々の生活の中で、災害や病気に備えて何かしらの保険を掛けているでしょう。「生命保険」「自動車保険(任意)」「火災保険」など、「保険」という名のつく商品は、テレビCMなどでよく目にするかもしれませんね。しかし、これらは「民間保険」で、個人が保険会社と契約(任意)することで加入します。一方、「社会保険」制度は、全ての人が、強制的に加入しなければならないものです。
「介護保険」は、5種類ある社会保険の1つ。残りの4つは、「医療保険」「年金制度」「雇用保険」「労災」です。全ての人が強制的に加入する社会保険制度を設けて、皆で助け合う仕組みが設けられれば、社会全体も安定するのです。
そもそも保険とは、万一の場合に備え、みんなで少しずつ保険料を出し合い、病気・怪我・介護等に備えて、お互い救済していこうという仕組みです。ただ、普段から保険料(義務)を支払っていないと、もし、自分が困った時にサービスが受けられないのが保険制度です。
介護保険の保険者は市町村
介護保険を理解するうえで重要なポイントとして、必ず「保険者」は何処なのかを認識しておく必要があります。ずばり正解は市区町村です。保険者とは運営主体であることを認識しておくべきでしょう。参考に医療保険などは、保険者がいくつもありますが、「介護保険」は市区町村なので覚えやすいです。
ただし、「町」「村」といった自治体では、いくつかが組合を作って「広域連合」という形で、介護保険の保険者として運営主体となることができます。小さな自治体では、事務運営なども非効率なので、いくつかの「町」「村」が共同で連合体を作って介護保険を運営しているのです。
一方「被保険者」は、それに加入している人たちです。つまり、毎月、保険料を支払って、もしもの時に介護サービスを受ける側を意味します。この対象者をしっかりと把握しておくことが重要です。なお、介護保険の保険料の仕組みはかなり複雑ですので、ここで簡単に解説しておきます。
毎月、保険者に支払う保険料額は被保険者の所得(収入)に応じて異なります。ただし、「課税世帯か、もしくは非課税世帯か?」で、その計算式が異なります。
第一号被保険者と第二号被保険者
介護保険の被保険者は、2種類に分かれています。1つは65歳以上の「第1号被保険者」といわれるものです。もう1つは40歳以上65歳未満の「第2号被保険者」といわれるものです。この2種類の被保険者の違いは、保険料徴収方法と、介護サービスの利用方法で大きく異なります。
第1号被保険者(65歳以上の方)の場合、保険料は保険者である市区町村が直に徴収することになっています。一方、第2号被保険者(40歳~65歳未満)の場合は、各自の職場で加入している医療保険者から医療保険料と併せて徴収されるのです。なお、自営業の方々は、自身が加入している医療保険である国民健康保険料に介護保険料が上乗せされ、徴収されています。
また、介護サービスの利用方法も、第一号被保険者の場合は、心身の状態が悪ければ、直に市区町村に要介護認定申請の申し込みが可能ですが第2号被保険者においては、特定疾病に該当しないと要介護認定の申請をすることはできません(図表1を参照)。
図表1:特定疾病の種類
①ガン末期、②関節リウマチ、③筋萎縮性側索硬化症、④後縦靭帯骨化症、⑤骨折を伴う骨粗鬆症、⑥初老期における認知症、⑦パーキンソン病関連疾患、⑧脊髄小脳変性症、⑨脊柱管狭窄症、⑩早老症、⑪多系統萎縮症、⑫糖尿病性神経障害、⑬脳血管疾患、⑭閉塞性動脈硬化症、⑮慢性閉塞性肺疾患、⑯両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
介護福祉士国家試験 過去問題
第32回 午前 問題 9
介護保険制度の被保険者に関する次の記述のうち、正しいものを 1 つ選びなさい。
1 加入は任意である。
2 第一号被保険者は、65 歳以上の者である。
3 第二号被保険者は、20 歳以上 65 歳未満の医療保険加入者である。
4 第一号被保険者の保険料は、都道府県が徴収する。
5 第二号被保険者の保険料は、国が徴収する。
解答と解説
正答:2
選択肢1「加入は任意である。」×
介護保険は「社会保険」の1つであり、必ず加入しなければならないものです。任意加入は「民間保険」です。ただし、被保険者は年齢によって分けられており、介護保険の被保険者は40歳以上となっています。
選択肢2「第一号被保険者は、65 歳以上の者である。」○
選択肢3「第二号被保険者は、20 歳以上 65 歳未満の医療保険加入者である。」×
第二号被保険者は,40 歳以上 65 歳未満の医療保険加入者です。つまり、40歳未満の者は、介護保険の被保険者ではありません。
選択肢4「第一号被保険者の保険料は、都道府県が徴収する。」×
第一号被保険者の保険料は、保険者である「市区町村」が徴収することになっています。しかし、第二号被保険者の保険料は、各自が加入している医療保険者が、医療保険料に介護保険料を上乗せして徴収しています。なお、都道府県は保険者ではないので、介護保険の保険料を徴収することはありません。
選択肢5「第二号被保険者の保険料は、国が徴収する。」×
国が保険料を徴収するのは、社会保険においては「雇用保険」「労災」です。
介護保険財政の仕組み
介護保険の財政構成は、利用者の自己負担を除けば、約50%が税金で、残り50%は介護保険料から賄われています。そのうち税金負担分は25%が国で、12.5%ずつが都道府県と市区町村の負担です(施設の場合は、都道府県負担分が17.5%)。
また、介護保険料の負担割合は、65歳以上である第1号被保険者分が23%、40歳以上65歳未満の第2号被保険者が27%となっています(図表2を参照)。
このように介護保険制度は、「保険制度」とはいえ、約半分は税金によって賄われており、純粋な保険制度とはいえないかもしれません。しかし、いずれにしても、年々、介護保険の財政負担は増え続けており、国や自治体においては大きな負担となっています。今後の保険料や公費の行方に注目する必要があります。
図表2:介護保険財政の仕組み
(施設20%)
12.5%
(施設17.5%)
12.5%
実務での活かし方
毎月徴収される介護保険料は、年金から天引きされているため、65歳以上の要介護者の方々は、その負担感について認識していない方が多いと思います。しかし、介護保険料は3年に一度見直しが行われており、少子高齢化の影響で毎回値上がりが続いています。改定後の介護保険料が天引きされた年金を見て、「金額が減っている」と疑問に思う高齢者も少なくありません。
このような疑問を感じているご利用者には、65歳以上の介護保険料は、基本的には自動的に年金から差し引かれている(天引きである)とお話しすれば、介護保険料が徴収されていることに気づくと思います。役所からは、郵送で通知されることですが、目を通さないご利用者もいるため、口頭で説明してみてはどうでしょう。
参考文献
結城康博『突然はじまる! 親の介護でパニックになる前に読む本』講談社2018年
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