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学ぶ 介護国試過去問ドリル 2021/05/26

#国家試験

介護施設で片麻痺がある利用者のための環境整備・福祉用具【国試過去問ドリル第12回】

文:白井孝子(東京福祉専門学校副学校長 看護師 介護支援専門員) 国試(白井先生).jpg

今回は片麻痺のあるご利用者の居住環境について、どのように助言をすれば良いかに焦点をあてました。
介護を必要とするご利用者は、介護施設等に入所され生活している方と、介護関連サービスを受けながら自宅で生活されている方に分かれます。

今回の事例のように、訪問介護員(ヘルパー)はご利用者やそのご家族の希望を知り、生活状況を把握できる立場にいます。具体的な支援には介護保険上の業務手順や、他職種との連携が必要です。訪問介護員には、介護職として、ご利用者とそのご家族の希望と現状を受けて、どのような助言が適切か考えながら業務を実施することが求められます。

2020(令和2)年版高齢社会白書(内閣府)の発表によると、65歳以上の高齢者がいる世帯数は、 2018(平成30)年時点で全世帯(5,099万 1千世帯)の 48.9%を 占めています。

1980(昭和 55)年では世帯構造の中で三世代世帯の割合が一番多く、全体の半数を占めていました。しかし、2018(平成30)年では夫婦のみの世帯が一番多く約 3割を占めており、単独世帯と 合わせると 6割近くに達すると報告されています。

要介護者等からみた主な介護者の続柄を見ると、配偶者が最も多く、高齢者が高齢者を介護する「老々介護」と呼ばれる状態が相当数存在していることがわかります。

過去問題


第26回 午前 問題43

Jさん(70歳)は、右片麻痺があり、妻と二人暮らしである。週1回の通所介護(デイサービス)と、週1回の自宅での訪問介護員(ホームヘルパー)による入浴介護をうけている。移動は四脚杖歩行で、排泄と入浴は一部介助が必要である。Jさんは居住環境を整備して、できるだけ今の生活を維持しながら妻の負担を減らしたいと望んでいる。
Jさんに対する介護職の助言として、最も適切なものを1つ選びなさい。

1 車いすで出入りできるようにトイレを広くする。
2 トイレでの排泄をやめて、寝室にポータブルトイレを置く。
3 浴槽の出入りをしやすくするために、リフトを設置する。
4 部屋の出入り口にある段差をスロープ(slope)にする。
5 トイレの中に手すりをつける。

解答と解説

正答:5

今回の問題を解答するにあたり、麻痺と片麻痺、福祉用具について確認しておきます。

麻痺の種類

麻痺とは、神経または筋肉組織の損傷、疾病により、筋肉の随意的な運動機能が低下もしくは消失した状態をいいます。麻痺は次の4つに分類されます。

・完全麻痺 ➡随意運動ができない状態。(随意的に動かすことができない)
・不完全麻痺➡麻痺はあるが、運動機能の一部は残った状態。(随意的に動かすことが可能)
・痙性麻痺➡筋緊張が亢進し、運動機能を失った状態。
・弛緩性麻痺➡筋緊張が緩んで、運動機能を失った状態。

さらに、部位別にみると次の4つに分類されます。

片麻痺イラスト

片麻痺:身体の左右どちらかの上下肢の麻痺
対麻痺:両側下肢の麻痺
四肢麻痺:左右、上下肢が麻痺した状態
単麻痺:四肢のうち一肢の麻痺

このうち片麻痺とは、身体の左右どちらかが麻痺した状態をいいます。原因となるのは、脳血管障害や脳腫瘍、外傷などです。また、片麻痺は病変の反対側に麻痺が生じます。伴いやすい症状として、右片麻痺では、失語症。左片麻痺では、失行・失認、半側空間無視などがみられます。

福祉用具

介護保険法で利用できる福祉用具は、福祉用具貸与と特定福祉用具販売とに分けることができます。ここでは主に問題文に関係ある用具について解説します。

名称 用具及び目的等
歩行補助つえ
(貸与)
四脚杖:歩行時に身体を支え、バランス維持に役立つ杖。
歩行補助つえ
車いす
(貸与)
歩行困難な方の移動を支援する。
主な車いすのタイプ
車いす 自走用 介助用 電動
スロープ
貸与
段差を解消して安全な歩行や外出を支援する。
(工事を伴わないもの)
移動用リフト
貸与
リフトつり具
特定福祉用具
ベッドから車いす、浴室等への移動をサポートする。
ポータブルトイレ
特定福祉用具
持ち運び可能な簡易トイレ
手すり
貸与
立ち上がり等を補助する。(工事を伴わないもの)



選択肢1 「車いすで出入りできるようにトイレを広くする。」× 

Jさんは現在、移動は四脚杖歩行を行っています。排泄には一部介助が必要ですが、移動に不都合はない状態であると考えられます。車いすの使用については、現状では考えなくても良い状態です。もし、車いすが必要な状態であれば、ドアやトイレ内に車いすが入るような状態であるかを確認し、住宅改修が必要になる場合もあります。

選択肢2 「トイレでの排泄をやめて、寝室にポータブルトイレを置く。」× 

ポータブルトイレとは、歩行が不安定である、又は夜間のトイレ回数が多くトイレまでの歩行が難しい場合に、ベッドの近くに置き使用する、持ち運びが可能な簡易トイレです。Jさんの現状からポータブルトイレの設置は不要と考えられます。また、安易にポータブルトイレを使用することは、Jさんの自立を妨げることになります。

選択肢3 「浴槽の出入りをしやすくするために、リフトを設置する。」×

 リフトとは、自力で移動できないご利用者の身体をつり上げて、ベッドから車いす、浴室など、移動を補助する用具です。
Jさんは片麻痺がありますが移動は四脚杖歩行が可能ですから、リフトを使用する状態ではないと考えられます。さらに、リフトを使用する場合には妻からの介護が必要になり、Jさんの「妻の負担を減らしたい」という思いと、Jさんの自立を妨げるものになります。片麻痺があるご利用者に対し、入浴時の動きを支援するためには、バスボードなどの利用が考えられます。

選択肢4「部屋の出入り口にある段差をスロープ(slope)にする。」×

スロープとは、段差の解消するために使用するものです。出入り口の段差解消は転倒防止のためには有効ですが、Jさんの自宅の段差がどの位のものであるかが不明瞭であり、またJさんが移動に不都合を感じているとの記載はありません。そのため、ここでは誤りと考えることができます。

選択肢5 「トイレの中に手すりをつける。」〇

Jさんの希望は「妻の負担を減らしたい」です。現在排泄には一部介助が必要であることから、手すりを設置することで、妻の負担を減らすことが可能であると考えられます。 手すりにはさまざまな形状のものがあるので、介護職として、Jさんの排泄時の動作をよく確認し、情報を収集しておくと、手すり設置に役立つでしょう。

片麻痺があるご利用者の居住環境整備の介護実務での生かし方

片麻痺があるご利用者が在宅で生活をすることを希望している場合、介護職は「ご利用者がどのような生活を望むのか」を確認する必要があります。施設と異なり、在宅では一人ひとりの生活環境があります。さらに、片麻痺といっても、症状は人それぞれで、できること、普段から行っている動作などは、ご利用者ごとに異なります。

本人が望まれる生活を実現するには、普段の生活環境から情報を把握し、そこから望んでいる生活を実現するために必要なことを考え、助言していくと良いでしょう。そのために介護職は、福祉用具や機器等についての知識とともに、ご利用者の身体状況や生活状況をよく知ることが必要です。

また、介護保険制度においては、訪問介護事業所にはサービス提供責任者がいますので、報告や相談を行うことで良い方向性を探ることができます。しかし、福祉の専門職として、基本的な知識は身に付けておくことが重要です。

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白井孝子(Takako Shirai)

東京福祉専門学校副学校長/看護師・介護支援専門員(ケアマネジャー)

聖路加国際病院、労働省(現厚生労働省)診療所勤務。小児病棟での終末期看護のあり方から在宅看護に興味を持つ。訪問看護業務に携わる中で、生活支援には保健医療福祉の連携が重要であることを体験する。その思いを形にするため、平成2年から介護福祉士養成に関わるようになる。現在東京福祉専門学校副学校長。

白井孝子の執筆・監修記事

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