「トイレブラシを持たされ...」介護職パワハラ裁判の結末【弁護士とやさしく学ぶ介護の法律ー第10回】
文:中沢信介 弁護士
こんにちは。
弁護士の中沢信介です。
今回は介護職のパワハラに関する判例をみていきたいと思います。
介護施設でのパワハラの裁判例
A奈美さん 今回はパワハラの裁判例を勉強するんですよね。
中沢弁護士
そうです。今回の裁判例は、令和元年9月10日福岡地方裁判所において判決となったものです。
この裁判例は前回勉強した未払割増賃金とそれに付随して退職金、さらにはパワハラに基づく損害賠償金を請求した事案です。
今回取り上げるのはこの裁判例のパワハラに基づく損害賠償請求の部分です。訴えを提起した原告は5人になります(この5人の内3人を取り上げます。それぞれをX1さん、X2さん、X3さんといいます)。
A奈美さん 5人全員がパワハラを訴えでたのですか。
中沢弁護士
そうなります。登場人物を見ていきましょう。
パワハラの被害者であるXさんたちはa施設で働いていた介護職の正社員と契約社員の方々です。a施設は社会福祉法人であるY1社が運営しているもので、特別養護老人ホーム、ショートステイサービス(短期入所生活介護事業所)、デイサービス(通所介護事業所)、ホームヘルプサービスとケアプランセンター(居宅介護支援事業所)の各部門がありました。
パワハラの加害者Y2さんは、a施設の施設長であり、Y1社の代表者の妻でした。
A奈美さん 加害者は女性の方なのですね。
「日常的にパワハラを受けています」という主張では不認定?
A奈美さん 実際にはどのようなパワハラが行われたのですか。
中沢弁護士 XさんたちはY2さんが指導的な立場に就任して以降深夜を含む所定労働時間の前後を問わず、叱責や業務と無関係の雑談のために頻繁に電話を架けたと主張していました。
A奈美さん 実際にそういうのって現場でもあったりしますよね。
中沢弁護士 しかしこれを裁判所はパワハラと認めませんでした。
A奈美さん なぜですか。
中沢弁護士
裁判所はXさんたちが主張する行為は時期・文言などが不明確であると認定したのです。
これはいろんな訴訟で問題となるのですが、よく言う5W1Hがしっかりと特定されていないと裁判所はその行為が違法という認定はできないのです。
A奈美さん こういうことになるからこそ日記とかメモ書きとかメールなど、なんらかの方法で記録に残しておくことが重要になるんですね。
中沢弁護士 そういうことです。
介護職の被害者が受けた具体的な罵詈雑言
中沢弁護士 先ほどの抽象的なこと以外にもXさんたちはY2さんの具体的なパワハラを主張しています。そのほとんどが暴言となります。
A奈美さん どんな中身ですか。
中沢弁護士 X1さんに対しては、平成23年頃、バザー担当になった際に、バザーの売上金を横領したと決めつけたり、施設の米を盗んだと決めつけたりして、退職するまで日常的に、「品がない」「ばか」「泥棒さん」などと言ったりしていました。
A奈美さん 勝手に決めつけてそんなことを言うのはひどいですね。
中沢弁護士 またX2さんに対しては平成26年頃、叱責する度に、「言語障害」などと発言したり、退職するまで、日常的に、X2さんの配偶者(妻)の方が高学歴であることを理由に「格差結婚」「身分が対等じゃない」となどと言ったりしています。
A奈美さん なんかちょっとひどいですね...
トイレブラシをなめることを強要
中沢弁護士 極めつけはX3さんに対するもので、施設長Y2さんはトイレブラシをなめるよう指示しました
A奈美さん えっ! どういうことですか??
中沢弁護士 a施設の職員Hさんが平成17年頃、利用者が手に便が付いたままであるのを見落とし、そのまま食事をさせたことがありました。
A奈美さん それは衛生上問題がありますね。
中沢弁護士 X3さんは当時生活相談員の職位にあり、この事故についてY2さんに報告する必要があったのですが、これをしませんでした。
A奈美さん それ自体は確かにX3さんにも問題がありそうですね。
中沢弁護士 それに対し、Y2さんは口頭で叱責し、さらに他の職員に命じて便器掃除用ブラシを持って来させて自らこれをなめた上で、X3さんに対し、同じようにブラシをなめるよう指示し実際になめさせました。
パワハラの結果
中沢弁護士 裁判所はY2さんは施設の責任者であるので叱責、指導がすべて違法になるわけでないとしました。
A奈美さん 確かに一切指導ができないというのは変ですからそうなんでしょうね。
中沢弁護士 ただ、Y2さんの暴言及び行動は職務における叱責、指導の範ちゅうに収まるものではなく(学歴等を非難するなど、そもそも職務とはおよそ関係のない発言も含まれている。)、名誉感情を害し、人格をおとしめる発言や行動でりパワハラに該当し違法だと判断をしました。
A奈美さん 当然ですよね。今回のはひどすぎます。
中沢弁護士
そうですね。度が過ぎているところがありますよね。
裁判所はパワハラの損害賠償金としてX1さんとX2さんに15万円ずつ、X3さんに30万円を支払うよう命じました。
A奈美さん 今回分かったことも記録をすることの重要性でした。
中沢弁護士 そのとおりです。日ごろからパワハラ被害などにあったときには日記やメモを残したり、誰かにメールで知らせておいたりするとよいと思います。
※当記事は公開時点の法律をもとに作成しています
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