妊娠した介護職員へのマタハラ発言!どこが違法か?【弁護士とやさしく学ぶ介護の法律ー第12回】
文:中沢信介 弁護士
こんにちは。
弁護士の中沢信介です。
今回は介護職員に対して行われたマタニティハラスメントに関する判例をみていきたいと思います。
所長から妊娠した女性介護職員へのマタハラ判例
中沢弁護士 今回は介護デイサービスの事業所の所長が妊娠した女性介護職員に対して行った発言が不法行為に該当すると判断された裁判例をみていきたいと思いいます。
A奈美さん いわゆるマタニティハラスメントですね。
中沢弁護士 そうです。平成28年4月19日に福岡地方裁判所小倉支部において判決となった裁判例です。
A奈美さん どういった事案なんでしょうか。
中沢弁護士
この事案は、1日25人から30人くらいの利用者が通所し、介護職員3人から4人と相談員や看護師が勤務する事業所で起きた事件です。
Xさんは平成21年から勤務を開始し、平成25年の夏ころ妊娠の報告をしています(当時妊娠4か月)。他方所長Yさんは平成24年6月に所長に就任しています。
マタハラ発言の実例
A奈美さん このYさんからXさんがマタハラを受けたということなんですね。
中沢弁護士 そうなんです。Xさんが夏に妊娠の報告をした少しあとYさんは法人の上司から、Xさんが今まで通りできることとそうでないことを聞くよう指示を受けました。
A奈美さん 妊娠すると普段通り働くというのは難しくなりますね。
中沢弁護士
そうですね。だからこそ労働基準法65条3項には「妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。」と使用者の義務を定めています。
これを受け、YさんはXさんと9月になって面談をするんです。その時に以下の発言をしました。今回は参考になればと思い実際に裁判所が認定した発言をそのまま引用しています。
「仕事は仕事やけえ、ほかの人だって、病気であろうと何であろうと、仕事っちなったら、年齢も関係ないし、資格がもちろんあるけど、もう、この空間、この時間を費やすちゅうことに対しての対価をもらいよるんやけえ、やっぱり、うん、特別扱いは特にするつもりはないんですよ」
「万が一何かあっても自分は働きますちゅう覚悟があるのか、最悪ね。だって働くちゅう以上、そのリスクが伴うんやけえ」
「妊娠がどうのとか、本当に関係なく、最近の自分の行動、言動、いつも、ずっとずっと注意されよったことを、もう一回思い出してもらって、取り組んでもらって、それが、改善が見えない限りは、本当にもう、全スタッフ一緒ですよね。更新はありませんよちゅうのは、そういうことですよね。」
「べつに私、妊婦として扱うつもりないんですよ。」
A奈美さん いいたい放題ですね。まるで軽易な業務に転換させる必要がないといわんばかりですね。
中沢弁護士 このようにしてみると本当に結構色々なことを言っているんですよね。
A奈美さん ここまで行くと当然違法と判断されそうな気もするのですが、どうなのでしょうか。
中沢弁護士 A奈美さんの言うとおりですね。
A奈美さん ポイントはどこなのでしょうか。
中沢弁護士
「妊婦として扱うつもりないんですよ。」とか「万が一何かあっても自分は働きますちゅう覚悟があるのか、最悪ね。だって働くちゅう以上、そのリスクが伴うんやけえ」とかです。
前者は妊娠を理由とした業務の軽減を申し出ることが許されないかのような印象を、後者は流産を覚悟せよとの印象をその場の状況を踏まえると少なくともXさんには与えるものであり、妊娠をしていることについての業務軽減の要望をすることが許されないと認識を与えかねないものであると認定しています。
A奈美さん まったくもってそうですね。こんなこと言われたらXさんこれ以上何もいえないですよね。
業務軽減をしなかったデイサービス運営会社にも責任が...
中沢弁護士 実は事業所を運営するZ社の行為も違法であるとされています。
A奈美さん Z社は何をやったのですか。
中沢弁護士
何もやらなかったことが問題となりました。
一度Yさんから相談を受け、できる仕事とできない仕事を聴取するように上司は指示をしました。
A奈美さん これを受け9月の面談が実施されることになるんですよね。
中沢弁護士 そうです。Xさんは医者等にどの作業が問題となるかをしっかり確認したものを伝えることができなかったんです。
A奈美さん それはYさんの発言があったからですよね。
中沢弁護士 そうですね。そして、裁判所は、このような状況下でZ社がそのまま放置していたことが就業環境を整備する義務に違反していると認定しました。
A奈美さん マタニティーハラスメントなどはあってはならないことですから、しっかりとした判断が出てよかったです。
中沢弁護士 本当にそうですね。
※当記事は公開時点の法律をもとに作成しています
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