スタンフォード大学睡眠研究所 西野精治名誉教授に聞く(2)介護職におすすめ、医学的研究に基づいた睡眠改善法
文/中澤仁美 写真/和知明
世界最高峰の睡眠研究機関と呼ばれるスタンフォード大学睡眠研究所で長年研究を続けてきた西野精治先生(同大学医学部精神科名誉教授)にご登場いただき、介護職の睡眠を改善するヒントを伺う本企画。後編では、夜勤中の仮眠の取り方や、高齢者の眠りをサポートする方法について取り上げます。
夜勤で深い仮眠をとるカギは「光」と「体温」
介護職の皆さんの中には、2交代や3交代のシフト制勤務において夜勤に入る人も多いでしょう。勤務の前後や休憩中に仮眠を取るとき、どうすればより良い眠りを得ることができるのでしょうか。 「眠りの環境を整える上で重要なのは『光』の存在です。睡眠を促すホルモンであるメラトニンは、強い光により瞬間的に分泌が阻害されるという特徴があります。人間の場合、光を感知する器官は目だけですから、眠る前には視覚情報を意識的に制限する必要があります」(西野先生:以下、カッコ内の発言も同様) 具体的には波長470ナノメートルの光、つまりブルーライトが特に覚醒度を高めてしまうそう。暗い部屋でスマートフォンの画面を見続けると、なかなか眠りに就けないのはそのためだったのです。 「蛍光灯やLEDの青白い光よりも、赤っぽい暖色系の明かりのほうが寝室には適しています。できるなら職場の仮眠室の照明も、そうしたタイプに変更できるとよいですね。また、コンビニ店内の明るい照明は非常に強い光刺激となるため、夜間に仮眠する直前に訪れるのは望ましくありません」 照明を変えることが難しくても、タオルやアイマスクを上手に活用するなどして、少しでも目に入る光を少なくすることが大切です。また、深い睡眠を得るためには「体温」にも着目してほしいと西野先生は言います。 「夜間の就寝時には、手足から熱が放散し、深部体温がさがります。寝室環境や寝具などで、この変化を助長すれば良眠につながります。また、深部体温は上昇した以上に下降しようとする性質があるので、就寝90分前をめどに入浴して上昇させておくと、眠ろうとするころには大きく下降してきて、より入眠しやすい状態にすることができます」 また、「眠りのゴールデンタイム」と呼ばれる寝始めの90分間(前編参照)も、しっかりと深部体温を下げていくことで睡眠の質が上がるといいます。熱を放出しやすいゆったりした寝衣をまとい、靴下を履くことは避け、マットレスや枕も通気性の良いものを選びたいところです。

自分の行動パターンから安心できる「オリジナルの快眠術」を見つけよう
とはいえ、このような快眠の条件はあくまでも一般論。基本を押さえつつも、自分なりに快眠できる方法を見出していくことのほうが重要だと西野先生は言います。 「実験の結果だけを見れば就寝前後のブルーライトは避けるべきですが、『スマートフォンで動画を見ながらだと安心して眠れる』という人なら、デメリットよりメリットが上回るとも考えられます。また、眠る前には手を冷やしたほうが快適と感じるなら、必ずしもそれをやめる必要はないのです」 そもそも脳は、「いつも通りのパターン」を好む特徴があります。特に眠る前には、自分なりのルーティンを繰り返すことで脳を安心させてあげることが安眠につながるのです。 「ぜひ、自身の睡眠の記録を取ってみましょう。何時から何時まで寝たということに加えて、入浴や食事のタイミング、熟睡の度合いなどを記録していくのです。専用の記録用紙やスマートフォンアプリもありますが、手帳などに書き込むだけでもかまいません。どういう行動を取ったときによく眠れたのか、まずは自身の生活と睡眠のパターンをよく知ることが有効です」 一般化できない個別的な情報に基づいて、いわば「オリジナルの快眠術」を見出していくわけです。職場で仮眠を取ることが多い人は、「自宅版」と「職場版」の2パターンを持っておくとよいですね。 「ちなみに、『いつも通りのパターン』を脳が好むのは、就寝時刻についても同じです。これを前倒しすることは難しく、無理に眠ろうとするとかえってリズムが崩れてしまう場合もあります。一日というスパンの中でずらせるのは、せいぜい1時間が限度だと覚えておきましょう」 翌日の起床時間が早いからといって、その分だけ早く寝ようとすることがベストだとは限らないわけです。 「たとえ睡眠時間が減ったとしても、いつも通りの時間に寝たほうが睡眠の質を確保できる可能性もあります。どうしても就寝時刻を前倒ししたいときは、入浴で体温調整するなど、計画的に行うのがお勧めです」
夜間の熟眠は「体温変動」を整えることから
介護の現場で働いていると、高齢者の眠りに関して疑問を持つこともあるのではないでしょうか。「よく眠れない」と訴える高齢者は少なくありませんが、これにはどのようなメカニズムが関係しているのでしょうか。 「原因の一つとして、高齢者は体温調整がうまくできなくなることが挙げられます。日中は深部体温を高く、入眠時には低くする必要があるのですが、その機能が高齢者では働きにくい。つまり、体温にメリハリがないことで眠りづらくなくなるわけです」 睡眠を夜になってどうこうすれば解決する問題ととらえず、「一日を通しての体温の変動」を考えることが大切だと話す西野先生。例えば、日中に体温がしっかり上がるよう、可能な範囲でのレクリエーションや散歩などを促すことも、高齢者の眠りをサポートする方法の一つとなるでしょう。 「朝の目覚めが早すぎた人には、しばらく部屋の光量を弱めにしてあげることも一案です。起床のタイミングを前にずらしたくない場合は、午前中はあまり光を浴びすぎないほうがよいのです。逆に、朝になかなか起きられないという人は、起床後すぐに光に当たることで、生活リズムを前倒しすることができます」 このように高齢者の眠りを支援することは、介護職自身にとってもプラスになります。 「夜間によく眠れるようにすることは高齢者本人のためになる上、結果的に介護職の業務負担を減らすことにもつながるはずです。どうすればその人がよく眠れるのか、快眠のパターンを発見したいですね」 最近では、体動センサーなどを活用して、睡眠の状態を客観的に把握できる製品も開発されています。今後、その人の眠りの深さに合わせて、夜間のおむつ交換のタイミングを調整する......といったことも一般的になるかもしれません。

眠りに寛容な社会をめざして
長年、睡眠の研究を続けてきた西野先生ですが、眠りに必要なことは本来とてもシンプルだと言います。 「とにかく、眠たくなったときに眠ること。眠りたいという欲求は、身体的に眠りに就く条件が整ったというサインでもあります。心身を回復させるチャンスととらえ、20分程度でも仮眠することができれば、負担はまったく違ってくるはずです」 とはいえ、現代の日本社会において、昼寝や仮眠に寛容な職場は多くありません。西野先生は、社会全体の意識改革も欠かせないと指摘します。 「個人的な健康問題はもとより、医療や介護における業務上の事故を防ぐという観点からも睡眠を大切すべきではないでしょうか。まずはリクライニングできる椅子を用意することからでも、疲れたらひと眠りできるような職場環境を整えていってほしいです」 介護職ではシフト制による勤務や夜勤により、どうしても生活リズムが乱れがちになってしまいます。このことにどう向き合えばよいでしょうか。 「まったく同じ脳や身体を持った人間はいないわけですから、適した睡眠のリズムも千差万別です。身体に合わない働き方で無理をしたら健康上のリスクが避けられません。自身の睡眠の性質を見極めて、それにマッチする働き方を選択できればベストだと思います」 介護職には夜勤専従、日勤のみという働き方もあります。西野先生によれば、同じ生活パターンが続くという意味では、睡眠のリズムを整えやすいとのこと。家族の理解が得られるなどして支障がなければ、こうした働き方を選択肢に入れてもよいかもしれません。
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