介護士の怒り実体験 カッとなった瞬間実例集とそのとき取った対処法
文:鹿賀大資 介護福祉士・ライター
介護を必要とする入居者の日常に関わるのが、介護職員のメイン業務。介護施設で働いていれば、思わずカッと怒ったり、イライラしてしまうことも少なくありません。原因は、業務中のささいなことから職員同士の人間関係までさまざま。施設介護で10年のキャリアを持つ現役介護福祉士の視点から介護士の怒りの事例と対応策を解説します。
昨今では、「アンガーマネジメント」や「ストレスマネジメント」といった、怒りやストレスと向き合い、コントロールするための考え方が広まりつつあります。
介護現場では、職員の「怒り」という感情について、どのような対策を取っているのでしょうか。
怒りでカッとなった瞬間(1)自分だけタバコ休憩する職員
介護施設で働くAさん(50代女性)は、食事誘導の時間帯を狙って、一人だけ抜け駆けでタバコ休憩をする同僚のBさん(30代女性)に憤る。
この施設では歩行介助の利用者が多く、食事誘導には職員総出で取りかからなくてはならない。この時間帯は、各階のエレベーター前や1階の食堂周辺は混雑し、各職員らもほかの職員の動きを確認する余裕はない。
この状況を利用し、ひそかに喫煙所でタバコ休憩をとっていたBさん。Aさんが気づいたきっかけは、タバコの残り香だったという。
「Bさんは、食事誘導の時間になるとこっそり喫煙所へ向かい、戻ってくると涼しい顔で食事介助を始めます。タバコの臭いをプンプンさせて。それを目の当たりにするたびに、イライラが止まりません」(以下Aさん)
Aさんはたまらず、ホーム長に相談した。
「ホーム長は気づいていなかったのか、最初はあぜんとしていましたが、すぐに動いてくれました」
ホーム長は解決のため、清掃職員の協力を得たという。清掃職員に、食事誘導の時間帯は喫煙所の掃除をするよう指示すると、すぐに効果がみられた。
「喫煙所で清掃職員に注意されたのか、Bさんはサボらずに食事誘導をするようになりました」
こういった事例の場合、介護施設によっては防犯カメラを活用するところも少なくないが、このホーム長のように知恵を使って職員を正す方法もあるようだ。
怒りでカッとなった瞬間(2)初めての夜勤で......
グループホームに勤務するCさん(30代男性)は、介護未経験で入社し、最近夜勤デビューを果たした。しかし経験不足は否めず、近ごろは夜勤帯における認知症の入居者の対応に手を焼いていた。
「就寝時間が過ぎても10分おきに居室から出てくる認知症のご入居者がいます。食堂で待機する私のもとに来られ、『寝てもいいんだよね』と毎回、同じことを言います。ご入居者は何も悪くないとわかってはいるのですが、夜勤は職員の人数も少ないため、他の方の介助や仕事もあり、その方を放置するわけにもいきません。そのうえ10分おきに同じことを聞かれるので、どのように返答したらいいのかわからなくなってきて、困り果ててしまいました」(以下Cさん)
気づくと他の仕事ができない焦りもあり、頭に血が上っていたというCさん。しかしそれではまずいと感じ、冷静になるためにさまざまな対策を取っているようだ。
「怒りを感じたら、冷たい水で手と顔をバシャバシャと洗い、気分転換をはかります。また、夜勤時には果物を多めに持参し、事あるごとにバナナやミカンなどを食べて気持ちを落ち着かせています」
どうしようもない怒りに直面してしまったときには、同僚と語り合ったり、気持ちを切り替えるのも有効だが、Cさんのように、すぐできる自分なりの策を見つけておくといいのかもしれない。
怒りでカッとなった瞬間(3)ナースコールに出ない先輩職員
Dさん(20代女性)は、高圧的な態度をとる先輩Eさん(30代男性)との憂鬱な夜勤が続いたときのことを明かす。Dさんは新人ということもあり、Eさんと夜勤に入る際には、指示に従いながら業務をこなしていた。
「初めは仕方ないと思っていました。『ナースコールに出て』と指示されるのは当たり前。さらに清拭タオルのセットだったり、リネン庫のオムツの補充だったり。なんでもかんでも指図されるのは嫌でしたが、ナースコールがあると休憩室から抜けられるので、2人きりになるよりはマシだと考えていました」(以下Dさん)
Eさんの態度に抵抗を感じながらも、前向きに業務をこなしていたDさん。しかし、それが裏目に出てしまった。Dさんのことを従順だと勘違いしたEさんは、さらに態度をエスカレートさせた。
「気づくと、私がすべてのナースコールに対応していました。私のことを『コイツ使える』とでも思ったのでしょう。そうなってからは、Eさんとの夜勤が嫌で嫌でたまりませんでした」
Dさんは、言い返せない自分にもいら立っていたという。Eさんとの夜勤は月に2回だったが、Dさんにとっては苦しい時間になった。そこで彼女は、ある行動に出た。
「とうとう我慢できず、夜勤終了間際の申し送り前にこっそり上司に現状を伝えました。すると上司は、『じゃあ、Dさんは申し送りに出ずに帰って大丈夫よ』と言ってくれました」
Dさんが帰宅後に申し送りが始まると、Eさんはうろたえる羽目になった。自分はナースコールに一切対応しなかっただけでなく、Dさんから経過内容も聞いていなかったからだ。伝えることがわからないほど仕事をしていなかったことが上司にばれ、それ以来、Eさんは態度を改めたという。
怒りでカッとなった瞬間(4)ご入居者の夜間せん妄
介護職員のFさん(40代女性)は、入居者の夜間せん妄の対処について、悩んでいた。入居者のGさん(男性)は、以前は精神科病院に入院していたが、病状が安定したことで市から紹介され、入所に至った。入所後1ヶ月程度は夜間せん妄の症状は見られなかったのだが、ある日を境に表れたようだ。
「とある夜勤の日、Gさんの居室の方から『ガガガ』と何かを引きずるような、大きな物音が聞こえました」(以下Fさん)
急いで居室へ向かうと、ベッドを動かしながら「こんなもん俺は使わない!」と大声で叫んでいるGさんの姿が。Fさんは驚きのあまり、思わず「ちょっとやめて!他の人が起きちゃうじゃない」と大声で言ってしまった。
朝になってからケアマネジャーが家族に連絡をとり、一時的な対策としてベッドを撤去した。しかし、それでもGさんが落ち着くことはなかった。
「落ち着いているように見えても、夜になると自室のテレビを外に投げ出そうとしたりしてしまいます」
Gさんは、家族ともしばらく疎遠だったらしく、現在は市のケアマネジャーや元入院先の病院から協力を得ている。家具一式は息子さんの独断で用意されたとのこと。
Fさんは、Gさんの症状を目の当たりにし、荒れ狂う男性の大きさや暴力的な行動にショックを受けるとともに、介護のプロにもかかわらずいわゆるタメ口で発作的に叫んでしまった自分に嫌気が差していた。
状況が落ち着いてから上司に相談したところ、社内の交流会への参加を提案された。他の介護施設の職員による認知症の体験談や、夜勤時の対応方法、日常の取り組みなど、意見交換を目的とした交流会だ。恐る恐る参加してみたところ、同じ悩みを抱えた職員に相談することができ、話すことによって自分の気持ちを経験者同士で分かち合ったり、だいたいどんなことが起こるのか予測がつくようになったことにより、不安やストレスが軽減したという。
怒りでカッとなった瞬間(5)ご入居者によるセクシャルハラスメント
有料老人ホームで働くHさん(30代女性)は、男性入居者Iさんから胸を触られるセクハラ被害に苦しんだ。Iさんの居室内を整理していた際に、背後から忍びよられて被害にあったようだ。とっさのことだったため、声を出すこともできず、すぐに居室から離れたという。
「近くに男性職員がいたので、事情を伝えると、すぐに作業を代わってくれました。その足で事務所に向かい、ホーム長にも一部始終を説明しました」(以下Hさん)
しかし、ホーム長からIさんが常習犯であることを聞かされ、Hさんは怒りがこみ上げてきたという。
「おとなしそうな人を選んでいるみたいで、被害者は何人かいたそうです。短気なところがある入居者だったので気を遣っていたのに、それを逆手に取られた感じがして許せなかったです。ホーム長にも腹が立ちました。知っていたのなら、事前に教えてくれてもいいのに」
その後、ホーム長に別席を設けてもらい、ケアマネジャーも含めて今後の働き方について話し合ったという。
「結果的に『ケアプランには反映できない』と言われました。泣き寝入りせざるを得ない現状に納得はいきませんでしたが、フロアの担当を変えることで一応収まりました。ケアマネジャーが『セクハラ被害は都度、その場で相談にのる』と言ってくれたのが唯一の希望です」
そのホームでは現在、次なる被害者を出さないために、居室対応は一時的に男性のみが担当することになっているそうだ。
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