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仕事・スキル 介護士の常識 2022/07/13

【作業療法士監修】水平移動・上方移動の手順とは?体位変換で大切なボディメカニクスも

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人間にとって「移動」は、着替えや食事、排泄、入浴などあらゆるシーンで必要となる動作です。しかし、体が不自由な状態になった利用者さんの場合、自力で移動することがままならないため、介護職が移動介助を行います。

介護職が行う移動介助で、ベッド上で行うものは「水平移動」と「上方移動」が基本です。当記事では、基本の介護技術としてベッド上での水平移動・上方移動の手順を紹介します。併せて、水平移動を正しく行うボディメカニクスの考え方や、ベッド上で体位変換を行う際の注意点も解説します。

1.ベッド上での「水平移動」の手順

水平移動とは、利用者さんの体をベッドの左右いずれかに寄せることを目的に行う移動介助です。利用者さんの体位変換を行う際は、体位変換後に利用者さんの体がベッドの中心にいくように、変換方向と逆側に寄せておく必要があります。また、利用者さんの起き上がりを介助する場合は、手や膝をついてもらうスペースを確保するため、起き上がる方向に体を寄せる必要があり、水平移動は日頃から頻繁に活用する介護技術といえます

水平移動は、「どのような体勢」で、「どちら側」に移動させたいかによって手順が異なります。下記は、さまざまなシーンにおける水平移動の手順です。

【仰臥位で介助者側に移動する場合】

(1)上半身を水平移動させる(全介助)
上半身から下半身まで体全体をいっぺんに移動させるのは、介助者・利用者さんともに負担がかかるので、まずは上半身から先に水平移動させましょう。腹部もしくは胸のあたりで両腕を組んでもらい、体がベッドに触れている面積を小さくすると、移動時の摩擦が減り小さな力で介助することができます。また、移動させる方向に顔を向けてもらうのもポイントです。利用者さんの頭部と肩甲骨を手で支えながら手前に水平移動しましょう。この時は、利用者さんの体を軽く前屈させて腹部の方向に上半身の重さを流すようにするとより円滑に介助ができます。

(2)下半身を水平移動させる(全介助)
上半身の水平移動が終わったら、次は下半身を水平移動させます。介助者は片手を腰の下に入れ、もう一方の手を大腿部に入れ、手前にゆっくりと引いて移動させます。足に少しでも力が入る利用者さんの場合は、膝をなるべく大きく曲げて足底をベッドに着いてもらうことで、利用者さんが臀部を引き上げやすくなりより円滑に介助ができます。

【仰臥位で介助者の反対側に移動する場合】

(1)上半身を水平移動させる(全介助)
仰臥位で介助者側に移動する場合と同様、まずは上半身から先に水平移動を行います。基本的な手順も同様で、利用者さんの頭部と肩甲骨を手で支えながら、奥にゆっくりと水平に移動させます。

奥側への移動は、手前に移動するときよりも多くの力が必要となり、腰痛のリスクも高まるため、介助者はベッドに片足を乗せ、利用者さんとの距離を近づけて移動させることを意識してください。
この介助が難しい時は、介助者がベッドの反対側にまわり込み【仰臥位で介助者側に移動する場合】と同様の手順で水平移動を行うことでも対応できます。(介助者側に移動する介助のほうが、介助者の反対側に移動する介助よりも難易度は低いです)

(2)下半身を水平移動させる(全介助)
上半身の移動が終わったら、次は下半身を水平移動させます。上半身を移動させるときと同様に、片足をベッドに乗せ体を近づけて、片方の手を腰の下に差し入れ、もう片方の手を大腿部に入れ、下半身をゆっくりと水平移動させます。この介助も、足に少しでも力が入る利用者さんの場合は、膝を曲げて足底をベッドに着いてもらったほうが円滑に介助できます。

【側臥位で介助者側に移動する場合】

(1)利用者さんの肩を支えながら上半身を移動させる
側臥位で移動する場合も、上半身から行います。利用者さんの肩や背中を両手で支えて、上半身をベッドの手前側に水平移動させます。ベッドの幅が広く、介助負担が大きい場合は、片足をベッドに乗せて行いましょう。利用者さんの上半身を引き上げて移動させようとするより、利用者さんの肩とベッドの間に入っている介助者の手を滑らせるように移動させたほうが利用者さんの体をベッドにこすることなく円滑に介助できます。

(2)利用者さんの足を支えながら下半身を移動させる
上半身の移動が終わったら、利用者さんの大腿部や臀部を両手で支え、ゆっくりと水平移動させます。この時は、すでに上半身の移動が済んでいる状態のため、下半身の移動は体のねじれをとる程度にして過度に移動させないようにしましょう。

(出典:厚生労働省「介護キャリアアップ応援プログラム」

2.ベッド上での「上方移動」の手順

上方移動とは、ベッドで寝ていた利用者さんが足元のほうにずり下がった際、利用者さんの頭を正しい位置(枕元)に戻すことを目的に行う移動介助です。放置すると転落などのリスクがあるため、介護職は定期的に正しい位置で休めているかをチェックし、適切に対応する必要があります。上方移動の主な手順は、下記の通りです。

(1)ベッドの上部に枕を置く
上方移動の時に、介助者が勢いよく介助しすぎて利用者さんの頭部がベッドと接触しないように、ベッドの上部に枕を置きましょう。

(2)利用者さんの両腕を組む
ベッドの上部に枕をセッティングしたら、利用者さんに両腕を胸郭や腹部の前でや組んでもらい、体がベッドに触れている面積を小さくしましょう。

(3)利用者さんの両ひざを立てて上方移動する
利用者さんに膝を曲げてもらい、足底をベッドに着けてもらいます。
膝その後、片方の腕で利用者さんの頭部から肩甲骨にかけて支え、もう片方の手で大腿部と臀部を支えながらゆっくりと上方移動を行います。この時、利用者さんに両足でベッドを蹴ってもらうなどして、息を合わせながら移動するのがポイントです。

(出典:厚生労働省「介護キャリアアップ応援プログラム」

3.水平移動を正しく行う「ボディメカニクス」の9つの考え方

水平移動や上方移動など、ベッド上での体位変換を行う際は、「ボディメカニクス」が役立つことがあります。

ボディメカニクスとは、人間本来の身体機能と、運動機能(筋肉、関節など)、骨が動作する力学的相互関係を活用したもので、介助者の負担を軽減できる技術の1つとされています。

厚生労働省が発表した「介護キャリアアップ応援プログラム」には、ボディメカニクスについて9つの基本的な考え方が記されています。

(1)介助者の支持基底面を広くする
支持基底面とは、体を支えるための基礎となる、床と接している部分を結んだ範囲のことです。介助者が足幅を前後左右に大きく開く(支持規定面を広くとる)ことで、立位姿勢の安定性が高まることがあります。。ただし、足を大きく開くことで介助中に利用者さんに合わせて動いたり、臨機応変に立ち位置を変えたりすることが難しくなるため、介助に有効でない場面もあります。

(2)介助者の重心を低くする
助者が重心を低くすることで、姿勢の安定性が高まり、腰への負担が軽減されることがあります。

(3)介助者と要介護者の体をなるべく近づける
介助者と利用者さんの重心を近づけることで、移動する方向がぶれずに一方向に大きな力が働きくため、少ない力で介助できることがあります。ただし、介助者が利用者さんに密着することで双方が自由に動くための空間がなくなり介助量が増える場合もあります。例えば、立ち上がり介助時には体を前傾させる必要があるので、介助者が前方から抱えるように介助すると利用者さんは前方の空間が塞がれて立ちにくくなります。そのため、密着しすぎず前傾できる空間を確保したり、前方ではなく後方から介助したりする方法を検討する必要があります。

(4)「てこの原理」を利用する
「てこの原理」を利用して、支点・力点・作用点を意識しながら介助すると負担の軽減につながることがあります。

(5)大きな筋肉(筋群)を用いる
腕や指先だけではなく、足腰の大きな筋肉を使って介助することを意識すると負担の軽減につながることがあります。

(6)体をねじらずに行う
体をねじって介助すると重心がぐらつき、腰痛の原因になることがあるので注意が必要です。
介助時は介助者の足先を動作の方向に向けるように意識すると、体をねじらずに介助ができます。

(7)水平に移動させる
ベッド上で利用者さんを移動介助する時は、上に持ち上げるより「水平移動」を意識すると、小さい力で介助でき、腰痛予防につながることがあります。

(8)利用者さんの体をコンパクトにまとめる
ベッド上で移動介助を行う際は、利用者さんの体をコンパクトにまとめると、摩擦面が少なくなり、介助しやすくなることがあります。ただし、少しでもご自身で動ける方は体をまとめることで手足が使いにくくなり、逆に介助者の負担が増えることもあるので、利用者さんの状態を見て対応を変更する必要があります。

(9)「ベクトルの法則」を用いる
利用者さんは立ち上がる時、まず前方へ傾き、その後上へ向かって立ち上がります。その時介護者は利用者さんの力を最大限に利用して、最小の力で利用者さんの立位を介助することができます

4.水平移動などベッド上での体位変換を行う際の注意点

ベッド上での体位変換では、介助者と利用者さんが連携することで双方に負担のない介助につながります。しかし、「お互いにとって最小限の労力で介助してもらう方法」を知っている利用者さんはほとんどいません。そのため、体位変換を行う際は、基本的に介護職が下記の点に注意する必要があります。

●常に利用者さんに声をかけながら行う
「介助者・利用者さんともに負担の少ない体位変換」を実施するには、介助者・利用者さんの息を合わせることが重要です。また、ベッドで休んでいる利用者さんは、何が行われるのかがわからないまま体に触れられると大きな不安を感じるでしょう。

そのため、介助者は常に「今から上半身を起こしていきます」「両腕を胸の上あたりで組んでもらえますか?」など、その時々の状況に応じた声かけをしながら体位変換を行うようにしてください。

●介助しすぎないように心がける
ベッド上での体位変換の際は、身体機能の低下が加速しないように「利用者さんが自分でできる部分は、自分で行ってもらう」ことも重要です。例えば、足の不自由な利用者さんの場合、腕を使って上半身を動かす部分は利用者さん本人に任せ、下半身の水平移動のみを介助するといったように、サポートしすぎないことを心がけましょう。

まとめ

介護職が行う「水平移動」は、利用者さんの体をベッドの左右いずれかに寄せることを目的とした移動介助です。体位変換や起き上がりのときなど、日常的に発生する動作をサポートする水平移動は、基本の介護技術といえるでしょう。

また、水平移動だけでなく上方移動も、基本的かつ大事な介護技術です。水平移動と上方移動のやり方をマスターすることで、利用者さんの安全を確保できるほか、介助者・利用者さんともに負担なく体位変換や起き上がりの動作を行うことができます。慣れていない人は、動画を見るなどして少しずつ学んでいきましょう。

「介護のみらいラボ」では、当記事のほかにも介護従事者に向けて、さまざまなお役立ち情報を豊富に掲載しています。現場に活かせる知識を得たい方は、ぜひ他記事もご覧ください。

※当記事は2022年4月時点の情報をもとに作成しています

▼監修者からのアドバイス

ベッド上の水平移動はこちらの記事で紹介されている方法以外にも、利用者さんの重さの移動を支援して動きにつなげる方法や、古武術を生かして介護度が高い方をより負担なく介助できる方法、スライディングシートなどの福祉用具を活用する方法もあります。ボディメカニクスは介護者の負担軽減に効果的な場面もありますが、利用者さんの動きを引き出すという視点では行わないほうが良い場面もあります。介護技術も日々進歩しており、1つの方法で対応できる利用者さんも限られていますので、私たちはより多くの方法を身につけ、それを利用者さんのその日の状態に応じて調整する応用力が求められているのだと思います。介護職が創造性豊かな職業である理由は、こういう所にもあるのかもしれません。

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監修者プロフィール

安藤祐介さん

作業療法士

安藤祐介さん

2007年健康科学大学を卒業。作業療法士免許を取得し、介護老人保健施設ケアセンターゆうゆうに入職。施設内では認知症専門フロアで暮らす利用者47名の生活リハビリを担当し、施設外では介護に関する講演・執筆・動画配信を行っている。
著書『利用者に心地よい介護技術/中央法規出版』
YouTube安藤祐介チャンネル(登録者2万名/総再生数400万回)

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